その1 「方向音痴でフリーズしたと思ったら」
「うわぁ、道間違えちゃった感じかなこれ」
大学を卒業し、社会人生活が始まってから早くも三ヶ月。
未だに慣れないスーツと大都会の街並み。オフィスビルに挟まれた道路を俺は心底焦りながら歩いていた。
「アプリだとこっちのはずなんだけどなぁ」
今日は先輩社員さんと取引先の方に挨拶へ行くため、外で待ち合わせをすることになっていた。
だがあろう事か俺は道に迷っていた。スマホに内蔵されている地図アプリを頼りに歩いていけば問題ないだろうと思い、事前の下調べを全くしていなかったのである。
方向音痴の俺が慣れない街でスマホという薄っぺらい板だけを信じて目的地に辿り着こうだなんて、よくそんな無謀な考えを思い付いたもんだな。自慢ではないが、今俺がどこにいるのかさっぱり分からない。会社を出て五分程度しか歩いていないが、通勤路ではないのでもう分からない。来た道もよく分からない。
「くそぉ、もう一度調べ直して……」
スマホのタスク画面を空にして地図アプリを開き直す。その間、約三十秒ほど俺は待たされる。
遅い…………。遅い……。遅いっ!
今使っている俺のスマホは買ってから一年ぐらいしか経っていないが、どうも動きが遅いのだ。
スマホには見た目は変わらずとも中身の性能に大きな幅があるらしく、新しいモノを買えば良いって訳でもないらしい。
当時金欠だった俺は価格の安さに惹かれて購入したのだが、それが仇となったのだ。アプリが開くのに三十秒とかイライラしてしょうがない。
「おっと…………まだか」
画面には現在地を示す地図が表示されたがまだ触れるわけにはいかない。今は謎の処理を実行しているためやたら触るとフリーズしてしまい、逆に時間がかかってしまうのだ。俺はもう騙されない。
そして十秒ほど待ってようやく使える状態となった。
目的地を入力して再検索。すると最短ルートで徒歩十分と表示された。因みに最初に検索した時は六分だった。遠くなってるじゃねーか。
「……このポンコツめ」
地図が読めない自分が悪いと分かっているのだが、ついスマホに当たってしまう。もっと高性能なモノを買えば良かったと思いながら……。