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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第54話:それぞれの勝利




「でやあああ!!」


「あぐあっ!!」



 蒼の剣が横一閃を描く。

 超高速で振動するエネルギーの刃は、防御しようと構えられた爪をバターのように切り裂き、そのままフェルの胴体に深い太刀傷を刻む。


 両断失敗! 距離測定システムと動体予測システム要調節だな……。

 と、蒼が改良点を記憶している間にも、フェルを守るゼル・リザリオス軍団がワラワラと襲い掛かってくる。

 しかし、蒼は全く怯む様子も無く、ブレイブウィングの戦闘支援システムに身を任せる。


 Ver2.0アップデートで追加されたこのシステムは、蒼に視覚外の情報を伝えるだけでなく、敵の襲撃に対して最適な行動を行えるように、姿勢調整やエネルギー制御を自動で行ってくれる優れモノだ。

 言ってしまえば、戦闘のセンスが無くとも、ウィングからの指示通りに体を動かせば、誰でも敵に対して有効な立ち回りができるということである。


 飛びかかってきた個体にはエナジーキャノンを見舞い、同時に足元を狙って走り込んできた者には、足にエネルギーを送り込み、強烈なキックを叩き込む。

 左右から襲い掛かる2体には、身を捩って回転切り。

 背後を突いてきた敵は、ブースターの奔流で吹き飛ばす。

 丁度、敵が警戒と隙伺いのために蒼を円形に囲むような状態になったところで、エナジーキャノンを前後に向けて発射、そのまま高速で回転し、群がる敵を次々に消し飛ばす。



「あ……貴方は一体……!? コスモス様……どうして!!」



 片腕を失い、腹を切られてフラフラのフェルが、切り落とされた爪で蒼を指しながら叫ぶ。

 恐怖か、驚きか、両の目を見開いて震えている。



「戦いを止めなさい」


「ふ……ふざけるな!! あっ!!」



 蒼が発した声にフェルが一瞬動きを止めた瞬間、蒼い刃が彼女の肉体を切り裂き、彼女は物言わぬ肉塊になれ果てた。

 死の直前、フェルが見たのは、落ちていくバックイドラスと、ゆっくりと閉じていく空の裂け目であった。




/////////////////




 一方。

 上空では音と光のショーが繰り広げられている。



「あはは! どうだいボクのビートは! 今度は前みたいにはいかないぞぉ!」



 魔法少女パッション・ビートが楽器型の武器を手に、情熱的な旋律を奏でる。

 バックイドラスが放つマイナスエネルギー超音波を無力化しつつ、逆に敵めがけてプラスエネルギーの音撃を放つ。

 まるで電子戦を視覚化したような戦いだ。



「自分ええ能力持っとんな! ウチのレーザーで盛り上げたるわ!」



 緋色の魔法少女のレーザー網が、バックイドラスを幾重にも打ち抜く。

 空はちょっとしたドームライブの様相だ。



「わたしの真の力……お見せします!」



 そして、等身大に戻ったティナが、光弾を連射しつつ、輝く竜の爪を振りかざして空高く舞い上がっていく。

 シャイニングフィールドのエネルギーを吸収し、ティナは飛竜から、爪と翼をもつ竜人へと姿を変えたのだ。

 一見弱体化のように見えるが、実態は逆だ。

 彼女の本来の戦闘スタイルは、手足に竜のエネルギーを集中させた今の姿なのである。



「しっかし、体めっちゃ軽いわ! あいつは凄いやっちゃな!」



 いつもよりも遥かに強力な自分のレーザー掃射に惚れ惚れしながら、緋色の魔法少女が呟く。

 蒼のそれと同質のエネルギーで満たされたシャイニングフィールドの中では、魔法少女の戦闘力は数倍に跳ね上がり、マイナスエネルギーの浸食は阻害される。

 これまで蒼や、街の魔法少女を苦しめたダークフィールドの真逆の空間だ。



「はあああ!!」



 自身の数倍にもなるバックイドラス目がけ、突進するティナ。

 バックイドラスは白色の槍弾を放つが、彼女はそれを易々と回避し、爪で敵の片翼を切り落とした。

 対空力を失ったバックイドラスは地面に叩きつけられ、必死で飛び上がろうともがく。


 すかさず、ティナは大きく息を吸い込み、口から強烈なエネルギーブレスを噴射した。

 魔法少女二人もそれに加勢する。

 プラスエネルギーが奏でる美しく激しい三重奏は、バックイドラスの巨体を飲み込み、跡形もなく消し飛ばした。




/////////////////




 激しい衝撃と共に、詩織は宙へ投げ出された。

 詩織を捕えていた敵に、パワードディアトリマが体当たりを仕掛けたのだ。

 ブレードホークが詩織をキャッチし、エナジーシャワーで回復を図る。

 シャイニングフィールドのエネルギーを全身に浴びた詩織の身体は、見る見るうちに治癒されていく。

 体中に穿たれた痣も、コスチュームを染め上げた流血も、あらぬ方向に曲がった両腕もだ。



「はぁ……はぁ……」



 幾度も打ち付けられた拳の衝撃で肺を潰され、窒息寸前になっていた詩織が息を吹き返す。

 何とか起き上がろうとする彼女に、小学校の校舎から子供たちのエールが飛ぶ。

 目の前でくり広げられる恐ろしい暴力に怯え、泣いていた彼らの目に映る詩織の姿は、邪悪に決して屈しない正義のヒーローそのものだった。



「げげげ! てめぇ死んでなかったのか!」



 怪人シャコトタテリオスが、パワードディアトリマの噛みつきを必死で防ぎながら驚愕の声を上げた。



「私は……先輩は……魔法少女は……負けない……絶対に!」



 立ち上がる詩織に、ブレードホークが合体する。

 エネルギーコンバーターがフルパワーで駆動し、詩織のエネルギーと、シャイニングフィールドのエネルギーを結合させていく。

 6本の刃が、目も開けられぬほどに眩い輝きを放ち、ブレード表面の超高速振動が空間を揺らし、「キーーーーーン」という快音が辺りに響き渡った瞬間、詩織の姿が消えた。

 辺りを静寂が包む。



「なっ!? 何だ!? 逃げやがったか!?」



 困惑する怪人は、自分を襲っていたサポートバード達がその一瞬のうちに飛び退いたことも分からなかっただろう。

 直後、怪人を光の疾風が包み込んだ。



「シャイニング・ブレードゲイル!!」



 超音速で回転する6本の刃がソニックブームの竜巻を生み出し、敵はその中に巻き上げられていく。

 あまりにも高速だったため、怪人は自分の身体がどうなっているのかさえ分からなかっただろう。



「ぎゃ……!」



 悲鳴さえも満足に上げられぬまま、シャコトタテリオスの肉体は文字通り粉みじんとなって消え去った。




/////////////////




「ぐぎゃあああ!!」



 商店街に怪人の悲鳴が響き渡った。



「けっ! あんな攻撃でウチが倒せるとでも思ったのかテメェはよぉ!!」


「ぐげぁ!?」



 腕から生えた狙撃器官を食いちぎられた怪人に、響の裏拳が炸裂。

 接近戦を得意としない怪人テッポメレオスは、路面のタイルを粉砕しながら吹き飛ばされ、大城銀行の頑丈な外壁に叩きつけられて止まった。



「な……なぜです……。ワタシの銃弾を食らえば体が内側から破壊され……」


「はっ! あんなもん皮膚一枚で止めりゃ大したことはねぇ! ほらよ! よーく見てみな!」



 響が誇らしげに見せつける腕、足には、傷跡が点になって残されていた。

 だが、そのどれもが浅く、皮膚の表面が少し抉れた程度に過ぎない。

 響の肉体は、あの最悪のコンディションにおいて若干低下したものの、十分すぎる硬度を発揮していたのだ。



「ウチの名演技、どうだった? てめぇがノコノコトドメを刺しに来るのが楽しみだったぜ……! この間抜け野郎が!」


「ヒイイイイ!!」



 ボキボキと拳を鳴らし、響は怪人を軽々と摘まみ上げた。



「さて? 何の技でフィニッシュしてやろうか?」



 響が敵の顔面に自身の顔を近づけ、威圧する。

 怪人は脂汗を滲ませつつ、怯えた表情を浮かべていたが、不意にそれがあくどい笑みに変わる。



「間抜けはそっちですヨ!」



 怪人の口に隠されたもう一つの狙撃器官。

 そこから放たれた最大威力の水流弾が、響の眉間に炸裂した。

 響の身体が大きくのけ反る。

 同時に、怪人の下衆な笑い声が木魂した。



「何がおかしいんだ?」



 しかし、怪人が期待していたような結果にはならなかった。



「分かるんだよ……。あいつの力がウチを守ってんのが……。今のウチにゃ、ちょっとやそっとの攻撃なんざ痛くも痒くもねえんだ……よ!!」


「ばっ……ばっ……!?」



 のけ反った姿勢から繰り出されるヘッドバットが怪人の眉間に打ち付けられた。

 その一撃で、怪人の頭がかち割れる。



「シャイニング・ボルケーノアッパー!!」



 閃光を纏った灼熱の拳が怪人に炸裂し、その肉体は一瞬にして灰となり、風に散っていった。




/////////////////




「はっ! せや!」


「ふん! てや!」



 天色の魔法少女の一太刀を素早い横跳びで躱し、今度は自身の剣を突き出す。

 それを天色の魔法少女は、氷刀の側面で受け流す。

 異形の怪人とはいえ、その剣技は大したものだった。

 

 香子はそれを見ていることしか出来ない。

 皆を助けに行きたいが、迂闊に動くと、敵の突撃を食らう恐れがあるのだ。

 悔しいが、今の香子はただ守られる側である。



「貴殿、恐るべき剣術なり。拙者、人に生を受けたならば貴殿に剣を教わりとうござった」


「ほぅ……外道集団の割には筋の通った奴もいるのだな!」


「しかし今は敵同士の身! 容赦はせぬ! 刃をもってその女を守り通せるものか!?」


「ふっ……愚問だな」



 キンメリーノスが狙うは香子。

 天色の魔法少女が守るも香子。

 敵は香子をその剣先に捉え全身に力を込める。

 天色の魔法少女は香子に背を向けて刀を鞘に納める。



「君。絶対にそこを動くんじゃないぞ」



 背中越しに聞こえる声に、香子は「はい」と小さく呟く。

 その声を待っていたかのように、敵が最大速度の突進を始める。

 まさに目にもとまらぬ速さだ。

 直後、天色の魔法少女の肩が僅かに動いた。



「居合……雪桜……」



 彼女がその技を口にした時には、もう全てが終わっていた。

 敵の肉体は、中心線で見事に真二つに割れ、同時に絶対零度の冷気を浴びて凍り付き、ボロボロと崩れ、舞い散っていく。



「大丈夫だったか?」



 思わず尻もちをついてしまった香子をの手を取り、引き起こす天色の魔法少女。



「あ……ありがとうございます」


「何、例には及ばないよ。いつかの恩返しさ」



 そう言って彼女は、香子の肩をポンポンと叩いた。

「君の恋人は凄い人だよ全く……」と、見上げた空には、夏の青空が顔を覗かせつつある。

 2人は変身を解くと、一言、二言を交わし、お互いまた別々の方向へと駆けていった。


挿絵(By みてみん)

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