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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第52話:ウボーム大攻勢




「へ~。パッション・ビートの明音さん来週テレビの音楽番組出るんですって」


「ああ、俺も今そのメッセージ見た。あの人有名人なの?」


「どうだろ? アタシ結構流行に疎いから……。あ、でもみんなの反応は良好よ。結構名の知れたミュージシャンかもね」



 意味不明ながら楽しかった合宿も終わり、蒼の家のリビングで、朝のコーヒーを飲みつつくつろぐ蒼と香子。

 彼らの持つスマートフォンには、魔法少女パッション・ビートこと、眞木 明音からの告知メッセージが届いていた。

 よく見るとその端末、市販されているものとは形状も、ホーム画面も異なっている。

 これこそがSSTの設計開発した魔法少女サポートアイテム「マジフォン」である。


 魔法少女同士のコミュニケーションと、戦力拡充を目的に作られたマジフォンは、従来のスマホにはない多数の機能が備わっている。

 例えば、

 魔法少女限定の秘密回線でやり取りすることができるメッセンジャー機能。

 SSTの施設のセキュリティを通ることができるパス機能。

 敵の出現を精密に表示するナビ機能と、近辺にどの魔法少女がいるかの表示機能。

 等の、情報サポート機能。

 それに加えて、エネルギー弾発射機能、簡易レーザーシールドに加え、マジックコンバータースーツ装着機能も備えている。


 あくまでも実験装備なのだが、蒼とSSTが共同開発中の代替プラスエネルギー「G-プラズマコア」のエネルギーカートリッジを試験的に搭載することで、蒼謹製のサポートギアに迫るアシスト機能を備えることに成功したのだ。

 腕時計サイズまで小型化することは出来なかったが、スマートフォンサイズでも十分すぎる小型軽量である。



「氷華さん今日も5時から見回り報告してきてるよ。すごいよなぁこの人」


「あの人剣道場の師範らしいわよ。それで朝の鍛錬がてら見回りしてるって」


「ほえ~。剣術がキレキレだと思ったらそういう職業だったわけか。俺も一回鍛えてもらおうかな」


「あら? アンタが人に鍛えてもらおうだなんて珍しいわね? いつもならソフトのアップデートで何とかするって言うのに」


「お前を守るって大見得切った以上、責任もって強くならなきゃ駄目だろ。ソフト面も、ハード面もアップデートしたら一層強くなれるじゃん?」


「……もう。朝からドキドキさせないでよ……」



 朝からイチャイチャする幼馴染達。

 その二人のムードを引き裂くかのように、突然轟音が大地を揺らし、大城市の空が裂けた。



「あれは……ウボームか!」


「もう! 何もこんな時にぃ!」



 いい雰囲気をぶち壊されたことに、二人は一瞬顔をしかめたが、しかしそこは馬鹿真面目なこの二人のこと。

 すぐに気持ちを入れ替え、部屋から駆けだしていった。




////////////////////




 黒いドームが一つ、二つ、三つ……と次々に形成され、大城市中心部の全域を覆うかのような巨大ダークフィールドが展開される。

 空の裂け目の真下へと急ぐ二人もまた、その中に取り込まれた。

 一瞬、香子が苦しそうな声を上げたが、蒼がすかさずエネルギーを送り込んで中和する。

 ブレイブウィングは間に合ったが、他のサポートバードや攻撃車両はダークフィールドに突入できていない状況らしい。

 蒼はダークフィールドの書き換えを試みようと思ったが、規模が想定よりも巨大すぎるため、今回の試用は断念した。

 何せ未だに使ったことのない新機能だ。

 想定外の環境下で使うのは危険すぎる。



「響さんと新里さんがもう戦闘を開始してるわ! 急がなきゃ!」



 かつてないほどの広域で展開されたダークフィールド内の隅で、それぞれ詩織、響、ティナの反応が出ている。

 最新式のマイナスエネルギー対策が施されたマジフォンは、ダークフィールド内でも問題なく使用でき、通信網も局所的ではあるが使用可能だ。

 他の魔法少女の反応も出てはいるが、以前の経験から、ダークフィールド内での戦いにはみだりに参加しない取り決めになっているので、皆、一時待機しているようだ。


 蒼が空の裂け目を見上げると、いつか見たあの巨大蝙蝠バックイドラスがゆっくりと姿を現し、下界を静かに見下ろしていた。

 地上から緑色の閃光が走ったかと思うと、ティナが変身した飛竜がバックイドラス目がけて威嚇の咆哮をあげた。

 同時に、詩織と響から通信が入る。



『先輩……! これまでにない敵です……! コイツ……強い……!』


『蒼マズいぜ! 相性最悪だ! ぐっ! 敵が遠すぎる! ぐぁ!』



 どちらも切羽詰まった声で、身に迫る危険を知らせている。

 巨大キメラゼルロイド以外にも、強敵がこの空間の中に複数体存在しているらしい。

 一刻も早く助けにいなけばならない。

 一瞬、蒼は迷ったような表情を見せたが、先に響の救援に向かい、その後詩織の元へ行くという決断を下した。


 詩織は自前のスピードをもって逃げられるが、響はそうはいかない。

 遠距離型の敵相手だと一方的になぶり殺しの憂き目にあうピーキーなスペックなのだ。

 蒼が詩織に、極力逃げに徹して時間を稼いでほしいと連絡を飛ばすと、「了解です! 響先輩を早く助けてあげてください!」という応答があった。


 その返事に、蒼と香子は頷き合い、響の方向へと進路を取った。

 だが、敵もそう簡単に連携を許してはくれなかった。



「青の魔法少女……! 貴殿の命頂戴つかまつる!!」



 突然、背後から飛びかかってきたのは、ウボーム俊刃兵・キンメリーノスであった。

 香子目がけて振り下ろされた刃を、蒼がシールドで弾き返す。



「な……! 何コイツ!?」



 その異形の姿に、香子がたじろぐ。

 真っ赤な体色に、巨大な金色の目をもつ4足歩行の魚人、そしてその鼻先から伸びているのは、長大な刃であった。



「拙者、ウボーム俊刃兵・キンメリーノス。青の魔法少女。貴殿を殺す名を受け馳せ参じた次第。拙者貴殿に恨みはないが、この場で死んでいただく!」


「きゃあ!!」



 喋り終わるや否や、凄まじいスピードで突っ込んでくる敵を、間一髪回避する香子。

 敵はそのままの勢いで瞬く間に方向転換し、2度目の突進を仕掛けてきた。



「レーザーシールド!」



 香子の背後に回った蒼が、シールドを張って彼女を守る。

 だが、敵はその障壁を巧みに迂回し、香子の身体へと的確に体当たりした。



「あああああ!!」



 何とか直撃は避けた香子だが、激しい衝撃で体を揺さぶられ、跳ね飛ばされてしまう。



「拙者の突撃、最早そのような盾にて防ぐことは不可なり」



 その言葉と共に、三度目の突進が繰り出される。

 香子が必死で体制を立て直し、敵めがけて光線を放った。

 しかし、敵は巨大な目を左右に大きく展開。

 香子の光線を目の水晶体でそのまま反射し、打ち返してきたのだ。



「ぐあああ!!」


「きゃああ!!」



 大威力の光線を浴びせかけられ、吹き飛ばされる蒼と香子。



「新里や響のとこにもこんな奴らが来てんのか……!」


「早く……助けに行かないと……!」



 瓦礫の砂煙を利用して、二人は敵の目を避けつつ一端の離脱を試みる。



「あら? 貴方のお相手は私でしてよ?」



「なっ!? ぐっ!!」


「蒼! うああああ!!」



 だが、その逃げた先にも敵が待ち構えていた。

 フェルの爪が蒼の首を掴み上げ、同時に突っ込んできたキンメリーノスが香子を蒼の傍から弾き飛ばしていったのだ。

 魔法少女部の作戦はこの一瞬で完全に崩壊した。

 全員がそれぞれの強敵に釘付けにされてしまったのである。



「ぐ……お前はこの間の……!」


「あら? 覚えて下さっていたのね。光栄です……わ!!」


「うぐっ…ぼはぁっ!!」



 彼女の巨大な爪が蒼の腹に突き入れられた。

 体内のエネルギー流が激しく乱れ、ウィングの武装を使うこともできぬまま、成すすべなく持ち上げられる蒼。



「あっはっはっは!! さあバックイドラス! やっておしまい!!」



 高らかな笑い声と共にフェルが命じると、上空でティナと戦っていたバックイドラスが激しく吠えた。



「なん……だ?」


「あら。貴方は何ともないのね……。うふふ……まあいいですわ。バックイドラスの超音波音撃には、魔法少女の皆様のエネルギーを分解する効果がありまして……これを使うと、魔法少女の皆さまは立つこともままならなくなってしまうというわけですの。そんな状況下であんな強敵と戦わされたら、どうなってしまうのでしょうね?」



「なっ……!? く……させるか……!」



 体内でエネルギーの小爆発を起こさせ、その衝撃で爪から逃れる蒼。

 しかし、再生にはまだ時間がかかる。

 腕時計デバイスからは、詩織の、響の、香子の悲鳴が重なって聞こえてくる。

 ティナもまた、バックイドラスの攻撃で翼を穴だらけにされ、落下してきた。

 そこへ追い打ちとばかりに、ボディプレスを繰り出すバックイドラス。



「さあ。今度は皆さんを死のオブジェにして空に飾って差し上げますわ」



 フェルが爪で何度も蒼を突き刺す。

 その度に、蒼は苦痛の声を上げ、必死で防御を試みる。

 だが、体に大穴を開けられた状態では、満足に動くこともできない。



(くそ……香子を守るって言ったのに……。あいつの分まで皆を助けるって言ったのに……まるで守れてねえじゃねぇか……!!)



 蒼の視界に移るのは黒と紫に染まった空。

 この空が……この空間を何とかできれば……。

 こんな考え、普段の冷静な蒼なら思いもしなかっただろう。

 だが、自分が示した意志を全く履行できない自分への不甲斐なさが、部員たちを助けたいという想いが、彼に無茶を試みさせたのだ。



「フィールド……フォーマット……!!」


「なっ!? 何ですの!?」



 蒼の腕時計デバイスが一筋の光を放ち、上空のダークフィールドに接続した。

 そこから、空の色が変わっていく。

 暗い、闇の色から、輝く白色へと……。

 それはまるで分厚い雲が割れ、太陽が顔を出したようで……。



「くっ……げほっ……げほっ……」



 しかし、雲は厚かった。

 すぐにエネルギーのラインは消滅し、輝いていた空も、またすぐに暗い闇に覆いつくされてしまう。

 そして、蒼の体内のエネルギーは底をつき、戦闘の継続は不能となった。



「は……あははは!! 何をするかと思えばとんだこけおどしですわ!!」



 力なく横たわる蒼を何度も踏みつけるフェル。

 霞む視界と意識の中、蒼の脳裏に、いつか聞いた声が響いてきた。

 蒼がその声と一瞬の対話をしたのは、時間にしてものの1ミリ秒程度だっただろう。

 それが大量出血で狂った脳が魅せた幻覚、幻聴なのか、その時の蒼には分からなかったが、投げ出された蒼の腕に装着されているデバイスのエネルギー残量計は、バグような異常値を表示していた。


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