第51話:合宿の終わりと次なる戦い
「よし! お前ら忘れ物無いな?」
「オッケーっす!」
「同じく」
「わたしも大丈夫ですよ」
「あ、ごめんもう一回見てくるわ」
あれよあれよの内に、早くも保養合宿の最終日の朝を迎える魔法少女部。
最終日の夜は、皆で海浜花火を楽しんだくらいで目立った事件もなく、特に羽目を外すことなく終わった。
この辺、彼らは真面目である。
使った設備の清掃や部屋の片づけを手分けして済ませ、玄関に集合した5人。
響は心配性なのか、何度も部屋に戻っては、忘れものが無いかチェックしているようだ。
心配したティナが彼女の後を追っていった。
「あいつ散らかし癖あるからな……」と、蒼は呆れ顔だ。
「あっという間でしたねー。合宿」
「そうね。楽しい時間はすぐ過ぎる……ね」
「戻ったら体育祭準備だ。まだまだ夏は終わらないぞ」
残された3人は、施設の窓越しに美しい入り江を眺めて時間を潰す。
光風高校は夏休み明け一発目のイベントが体育祭だ。
およそ1ヶ月半の準備期間を経て開催されるそれは、地域有数の大イベントである。
生徒たちの自主性に任せすぎる光風高校のこと、毎年、生徒会を中心とした準備委員会の組閣に始まり、日程決め、規模、予算、競技内容、出し物までほぼ全てが生徒の手で作り上げられるのである。
光風高校の教員は「体育祭準備期間は教員の夏休みだ」と言って憚らない。
それほどまでに、蒼らの高校は生徒主体なのだ。
体育祭では、4大グループに組み分けされた60クラス2400人がその一年の名誉をかけて3日3晩競い合う。
それは単純な体育競技の成績だけでなく、出し物、出店、自主製作映画発表会、挙句の果てには、体育祭直前の期首テストの成績までもが加味され、只の体育の祭典に留まらない多角的な技能が要求される超総合技能大会となっている。
「この高校……この部活に入ってから毎日毎月がめっちゃ楽しいです! 中学校まではこんな毎日想像もつかなかったなぁ……」
「そうね。アタシもこの部に入ってから、肩の荷が下りたような感じがする。一人で抱えこむものが無くなって、戦い以外のことに目を向ける余裕ができたからだと思うわ」
香子はそう言うと「蒼のおかげね」と、蒼に微笑む。
蒼は「おいおい、よせよ」と照れている。
詩織はそんな二人の様子に鼻息を荒らげていた。
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御崎の車が、3週間ぶりに始動する。
「よかった。バッテリー上がってないわ」と、安堵する御崎。
古い車は何日もエンジンをかけないでいるとバッテリーが放電してしまうことがある。
彼女の乗るミニバンは、新しい型なので、特に問題はなかったようだ。
ふと、御崎はある異変に気が付いた。
「あら? みんな後ろに乗るのね」
行きは助手席に乗っていた蒼が、後部座席に香子と並んで座っているのだ。
「え? ああ、そういえばそうですね。俺助手席行きますよ」
「いえ? どうぞどうぞ♪ いいわよその感じ」
「な……何なんすか……」
「作戦成功ってことよ」
そう言うと、御崎は施設の施錠の最終確認を行い、車を発進させた。
あの手の込んだ変形道路を抜け、廃ホテル群の横を抜けていく。
「みんな、今回のSSTの企画、楽しんでもらえたかしら?」
その問いに、詩織とティナが食い気味に「楽しかったです!」と答えた。
響、蒼、香子も微笑み合い、前のめりになって頷いている。
「んで、結局俺達に関するデータとかは十分集まったんですか?」
「うーん……。100点満点中130点くらいかな。本当はティナちゃんとのリンク現象が発現して、相互エネルギー譲渡みたいなのが発現したらいいなって思ってたんだけど。それ以上の現象が見られたからま、良いかなって」
「蒼のエネルギーと地球内部から発言した謎のエネルギー、それと白い女の人のこと……ですね。あれから何か分かったんですか?」
「いーえ。なーんも分からないわ。サッパリサッパリ」
「蒼が解明の鍵だとか言って謎の秘密組織に引き渡されたりしないだろうな? ウチそんなの許さねぇぞ」
「ああ、それは大丈夫よ! だって私たちが謎の秘密組織だったわけだし、ちゃんと正式に協力要請するわ。多少の人体実験は受けてもらうかもしれないけど」
最近忘れがちだが、SSTは元々政府の秘密機関である。
魔法少女の遺体を保管していたり、ガイアクリスタルを確保、観測していたり、人々の記憶操作なども行っている。
ドラマなんかでは絶対悪役側で出てくるタイプだ。
「まあ、俺でよければ好きに使ってくれていいですよ。魔法少女のみんなが、ゼルロイドやウボームみたいなのとの戦いで少しでも楽が出来るようになるのなら何でもするんで」
真顔でこんなセリフを吐く蒼も蒼であるが……。
日本の対ゼルロイド、魔法少女研究の最前線はこのダークでサイコな2者が突っ走っているのであった。
「ところで、みんなは今回、体育祭にはクラスから出るの? 部活から出るの?」
秘密機関の研究者から、教師の顔に戻った御崎が、蒼達にまともな話題を振る。
「え? どういうことですか?」
「あら? 知らないの? 部員5人以上の部活は、事前に申請すればクラスや学年の垣根を越えて、部活の枠でグループに参加できるのよ。せっかく仲良しなんだからそれで参加してみたらいいんじゃない? 確か優秀賞取った部は予算増えたりするはずよ」
その提案に、蒼達は顔を一瞬見合わせ、皆で大きく頷き合った。
蒼達の、ゼルロイド、ウボームに並ぶ、もう一つの戦いが幕を開けた瞬間だった。





