第50話:埋まらぬ亀裂 埋まる溝
朝の食堂。
響と詩織、そしてティナが既に起きてきていた。
「おはよう」
「「「……」」」
無言でじっと蒼を見つめる3人。
「お……おはよう……」
その様子に若干たじろぐ蒼。
「……どうだったんですか?」
気まずい沈黙がしばらく続いた後、詩織が口を開いた。
「えっと……あー……」
「どうだったんですか?」
言葉を濁す蒼に、詩織がズイと迫る。
もはや隠せないと観念したのか、蒼は観念したようにため息をつく。
もとより隠し事をするような間柄ではないと思ってはいる蒼だが、流石に下世話なことを何もかもおっぴろげにするべきではないと思っていたのだ。
しかし求められたのなら致し方ないとばかりに、香子との一夜を洗いざらい話始めた。
それはもう具体的に、どこをどうした、どういう姿勢で何をした、どれくらいの回数、時間した……。
全て語り終えるのに小一時間かかる程度には洗いざらいである。
「いや……ウチらその……内容を話してほしかったんじゃねえんだけどな……」
「わたし達は……香子さんの宝玉が治ったのかが知りたかったんですけど……」
濃すぎる暴露話に、軽く引いている響とティナ。
そもそも、二人がヤったかヤらなかったかなど、昨晩施設中に響いていた声でバレバレだったのだ。
蒼達が気まずくないよう、香子の宝玉がどうだったのかだけを尋ねることになっていたはずだったのだが……。
「でへへへ……香子先輩と高瀬先輩がそんなことを……」
一人の確信犯のために台無しである。
「結果を言わせてもらうと、ダメだった。あいつの宝玉は今もヒビ入りだ」
「そんな……。わ……わたしのせいで……! ごめんなさい!! 戦巫女ティナ……責任を取って自害を!」
「わっ! 馬鹿! 早まんな!」
二人に望まぬ行為を推奨してしまったと思い、腹を切ろうとするティナを響が必死で止めにかかる。
「気にしないでくれ。遅かれ早かれ俺とアイツはああなってたさ。しかし……のぞき見したあの光景はなんだったんだろうなぁ……? あの俺と今の俺、何が違うんだ?」
「体の相性とかですかね……? 何なら私と一発……あ痛っ!!」
とんでもないことを言いだす詩織に響のチョップが炸裂した。
「冗談ですよぉ……」と涙ぐむ詩織。
「ただ、結論は出た。これからも、戦いには全員参加でいく。俺が香子を全力で守るし、火力不足も補う。もちろん、香子の火力が必要ないのなら極力あいつは休ませる……。いいか……?」
蒼は皆の方を向き、改めて自分の意思を語る。
それは自分自身に言い聞かせるようでもあった。
「はい!」
「……分かりました。蒼さんの決定に従います」
詩織は蒼の決定にすんなりと応じる。
ティナもまた、蒼の意思の固さを確認し、ゆっくりと頷く。
一人沈黙するのは響だ。
真剣な表情でじっと蒼の方を見つめている。
蒼もまた、彼女を見つめ返す。
その様子に、詩織とティナは冷や汗をかいている。
ふと、響の表情が緩んだ。
「いいぜ。もとよりお前の決定に任せたのはウチだしな」
「驚かすなよ! 怒るかと思ったろ!」
「ただし! 一つ付け加えさせろ」
響の声に、一瞬場に緊張が走った。
「蒼、お前が香子を守る、火力不足も補う、それをウチら全員が全力でフォローする。だ。お前はもう少し、人を頼ることを覚えろ。ウチらはいつだってお前の力になるからよ」
蒼はその言葉に少し戸惑った後「分かった。善処するよ」と応えた。
しばしの沈黙のあと、響は「んじゃ朝飯にすんぞ。蒼、お前散々騒いでウチらを寝不足にした罰だ。残りの毎日飯当番な」と言って朝のシャワーを浴びに温泉へ降りて行った。
「……寝不足になるほどではなかったよね?」
「響さん、頭の中ずっとピンク色してましたよ……。もしかしてお二人の声にちょっと興奮しちゃって……」
「「きゃー!」」
下ネタ好きの年下コンビを呆れ顔で眺めながら、蒼は朝食の支度を始めたのだった。





