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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第48話:響の想い




「本当はお前が『俺が香子の戦力を埋めてやる』くらいのこと言うべきなんだぜ?」


「そんな無責任なこと言えねぇって……」



 夜の砂浜に並んで座り、語らう蒼と響。

 香子はあれから部屋に閉じこもって出てこない。

 詩織は「私だって皆のこと考えてるんです……」と言い残して一人夜のランニングに行ってしまった。

 ティナは部屋で何やら怪しげな儀式に没頭し、何を言ってもうわの空だ。



「お前こそさぁ……」


「だぁー!! もう! 分かってるよ! 詩織には酷いこと言っちまったよ! どうしよう……」


「「はぁ~……」」



 魔法少女部始まって以来の部内喧嘩。

 それこそ悪意と悪意がぶつかり合うような喧嘩ならまだ良かった。

悪意を振りまいた者を隔離するなり、追い出せばいい話である。

だがある意味質の悪いことに、皆が皆互いのことを想って主張をぶつけ合った結果がこれなのだ。


 響とティナは香子の身を案じて、香子と詩織は香子不在の魔法少女部の危うさを不安視し、仲裁すべき蒼はその両方の合理性の狭間で板挟みである。



「詩織だって香子がどうなってもいいなんて思うわけないよな……」


「そりゃそうだ。俺達が香子抜きで戦って傷ついたり死ぬような事態を香子が望むはずもない。新里は香子の感情に沿った主張をしたまでだろうね」


「ウチだって香子の代わり丸々背負えるとは思っちゃいねぇけどよ……。そこは部のみんなの協力でなんとか出来ねえもんかね? 蒼だってブレイブウィング強化したんだろ?」


「無理言うなよ。俺はあくまでも君らの力を借りてサポートしてるだけなんだから、そんな決定的打撃力はない。SSTの車両だってそうだ。単独じゃ大型ゼルロイドの相手がやっと。巨大なキメラゼルロイドが相手となると香子が絶対必要なんだよ」


「ティナだって戦えるぜ? あいつデカくなったらめっちゃ強いだろ」


「ティナちゃんは現状ダークフィールドの中でしかパワーアップできないし、俺やSST車両にエネルギー供給するフィールドも展開できない。しかも戦闘中に受けたダメージが全部生身に反映されてる。頼もしい戦力だけど、あの子に押し付けるのは酷が過ぎると思うぞ」



 その言葉に響はハッとする。

 ティナが竜の姿で受けたダメージを戦闘後に引き継いでいるということに全く気付いていなかったのだ。

 自分が無意識のうちに、戦闘が終われば急速に回復し、生身への影響が薄い魔法少女の常識で話していたことに気付き、響は唇を噛んだ。



「ウチは……なんでこう身勝手なこと言っちまったんだ……!」



 膝を抱えて蹲る響。

 蒼は彼女の背中を優しくさすってやった。



「多少身勝手なくらいでいいさ。何なら俺達全員誰に命令されるでもなく戦ってるんだ。特に俺なんか完全に場外からの飛び入り参加だしな」


「蒼……」


「だから今回の問題は難しいんだよなぁ! 香子の想いを尊重するか、体を尊重するかの2択で、代償は香子にとって大切なものを危険に晒すかどうか……」



 蒼は髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回しつつ砂浜に寝そべる。



「俺だって時々思うさ。俺一人で皆を守って余りあるくらいの強さがあればって。そうすりゃ、魔法少女の皆は危険な目に遭わなくて済む」



 そんな蒼の呟きを、響は黙って聞いている。

 彼が理想論を語るのは珍しいことだった。



「でも、俺は力の特性的にも、出力的にもサポーターにしかなれない。まあサポーターになれるだけでも奇跡なのかもしれないけど……。そんな俺の話を真面目に聞いてくれて、決断に従ってくれる君らを俺は心から愛してるし、死んでも守りたいと思ってる。まあ、お前との約束がある手前、死ぬわけにはいかないけどな」



 蒼がこんなにも後ろ向きな話をするのは初めてだ。

 もうそれだけで、今回の一件に彼が相当苦心しているのが分かる。

 思い付きであの場をかき乱してしまった自分の不甲斐なさに、改めて落ち込みながら、響は蒼と同じように、寝転がって空を見上げた。



「俺は今回、皆が納得できないようなことを言いだすかもしれない。仮に響が望まないような決断をしても、それに従ってくれるかい?」


「……ああ。分かった。ただし、絶対に誰も死なない選択肢を選べよな。ウチの力と身体はいくらでも使い潰してくれて構わねぇからよ」


「分かった。そう言ってもらえると気が楽だ……。ありがとうな」


「どの道お前らに助けられなきゃあの胃袋の中で終わってた命だ。助けてくれた相手のために使われるなら本望だぜ」


「ああ、その感じめっちゃ分かるわ……」



お互い上体を起こして談笑した後、二人はそれぞれの部屋に帰っていった。




□ □ □ □ □




「香子~。開けてくれ~」



 部屋の前まで戻ってきたはいいが、蒼はキーを持っていなかった。

 香子がカギを開けないと入ることができないのだ。



「あいつ寝ちゃったかな……」



「しょうがない、今日は食堂のソファーで寝るかぁ……」と言いながら、蒼が回れ右して廊下を戻ろうとすると、バタバタという足音が廊下の反対側から聞こえてきた。



「蒼さーん!! 来てください! 早く!」


「んぶっ!!」



 凄い勢いで走ってきたティナが蒼の胸にダイブしてくる。

 胸を強打し、「痛てててて……」と顔を歪める蒼の手を引き、ティナが自室へ走る。

 蒼も胸を押さえながら、彼女に引かれるまま、小走りでついて行く。



「香子さんの力を復活させる方法……見つかったかもしれません!」


「なにぃ!?」



 蒼がティナの部屋に入ると、彼女の部屋は以前にもまして異様な雰囲気になっていた。

 床の魔法陣は紫色に光り、無数の草花が立てられ、天井からは何か人形のようなものがぶら下がり、甘いような、辛いようなお香の臭いが鼻を突き抜ける。



「蒼さん。ここに両手を置いて、目を閉じてください。繋がっている間に急いで!」



 言われるがまま、蒼は紫色に光る魔法陣の中心に手を置き、目を瞑る。

 真っ黒の視界が徐々に紫色に染まり、やがてその先に、白い光が見えてくる。

 意識的に前へ、前へと進もうとすると、視界もゆっくりと前進し始めた。

 同時に、何やら声が聞こえてきた。



「あっ! 蒼様! 蒼様!! そんな激しく……!!」


「えぇ!? 何!?」



 思わず叫び声を上げて目を開く蒼。

 眼前には、真剣な目で見つめるティナの瞳があった。



「よく見てください。隅々まで!!」


「お……おう……」



 完全に説明不足だが、ティナの気迫に押される形で蒼は再び目を閉じる。

 紫色のトンネルを抜け、再びあの白い光の下へ進んでいく。

 近づいてみると、その光のもとは白い壁紙の、窓のない6畳ほどの個室だった。


 激しい嬌声が聞こえる。

 ベッドの上で、男女が絡み合っている。



(あれ……俺……?)



 顔ははっきりと見えないが、男の方は「蒼様」と呼ばれていた。

 髪型も、体形も、時折聞こえる声も、蒼のそれによく似ている。

 女の方は明らかに魔法少女の風貌で、白とピンクのフリフリとしたコスチュームに身を包んでいた。

 よく目を凝らすと、コスチュームはスタボロで、その胸の宝玉には無数の亀裂が入り、砕ける寸前のように見えた。


 「俺は何を見せられているんだ……」と思いつつ、ティナの言いつけ通りその行為を眺めていると、蒼の胸から白い光が放たれ、魔法少女の胸に光る宝玉に照射された。

 それはまるで、3人との間で発現する結合現象だ。

 異なる点は、蒼の胸から伸びる光の量である。


 蒼の胸から放たれる光は、細く、揺らめく筋のような光だ。

 だが、白い部屋の「蒼様」のそれは、彼の腕よりも太い、エナジーキャノンのような光の奔流である。

 その光に包まれ、魔法少女の宝玉が見る見るうちに再生されていく。

 再生を受けている魔法少女は、恍惚とした表情で、手足をだらんと投げ出していた。



「俺にアレをやれってかい?」



 意識をゆっくり引き戻しながら蒼が呟くと、「やってみる価値はあると思います」と、ティナの声が聞こえてきた。



「その前に……」


「はい。今のが一体何なのかご説明いたします……その前に少し……眠らせて……ください」



 蒼が目を開けると、ティナが力なく横たわっていた。

 彼は彼女をベッドに寝かせると、食堂に歩いて行った。




□ □ □ □ □




 香子が目を覚ますと、深夜の3時半だった。

 自分のせいで皆が揉めているのが悲しくて、一人泣いているうちに眠ってしまったらしい。

 喉の渇きを覚え、食堂に向かう。


 そういえば、蒼はどうしたのだろうか。

 自分がカギを持っているので、彼は部屋に入ることが出来なかっただろう。

 誰か他の人の部屋で寝ているのだろうか。

 何も変わっていない情けない自分の姿に失望しただろうか。


 そんなことを考えながら廊下を歩いて行くと、暗い食堂にポツンと小さな明かりが点いているのに気が付いた。



「蒼……。起きてたの?」


「ああ、ちょっとブレイブウィングの追加アップデートプログラム組んでる」



 普段と変わらない態度の蒼に安心感を覚えながら、香子は麦茶を2杯淹れ、蒼の隣に腰かけた。



「ごめん」


「ん? 何が?」


「急に取り乱しちゃって」


「ああ、まあアレは誰だってビビる。俺も自分のことでお前らが喧嘩し始めたら逃げたくもなるさ」


「嘘ばっかり。アンタは逃げたりしないでしょ」


「さあ? その時にならないと分からないぞ」



 モニターと睨めっこしながら、香子には理解のできないプログラミング言語を入力している蒼。

 香子が麦茶を差し出すと、「おっ サンキュー」と言いながら飲み干した。



「ねえ、みんなは何て言ってた?」


「特にそれぞれ主張は変わってないさ。ただ、みんな自分なりにお前をフォローしようとしてるよ」


「そっか……」



 パチン!

 蒼が勢いよくエンターキーを押すと、カチカチと音を立てながら、PCに接続されたブレイブウィングのアクセスランプが点滅を始めた。



「寝るか?」


「うん。そうだね……。あ! アタシお風呂入ってない! ちょっとザっと入ってくる」


「あ~……そういえば俺もだな……。俺もお前の後から入るわ」



 蒼のその言葉に、香子がニヤリと笑った。

 そして、蒼の手を引きつつ言う。



「一緒に入ろうよ」


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