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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第46話:二つの決意




 施設から20分ほど歩いたところにある廃墟群。

 かつて乱立したリゾートホテルの跡地らしい。

 来るときに車で通った道沿いに並んでいた不気味な廃墟もその一部である。

 その中を行く二つの光芒。



「ううう……蒼~」


「大丈夫だって。ていうかお前こういうとこよく見回ってただろ!」


「こんな落書きも無い廃墟来たことないわよ! それにここ車すら通らないじゃない! 絶対出るわよコレは……。落書き無いとこは出るって言われてるし……あ、あと出るときはお線香の匂いがするらしいわよ……」



 知っている限りの心霊知識を口走りながら、香子は蒼の左腕にがっしりと掴まり、離れようとしない。

 風の音、踏み鳴らすガラスの音、時折現れるネズミやイタチ。

 ありとあらゆるものに反応しては小さな悲鳴を上げて蒼にしがみ付く香子。



「うわぁ……結構デカいぞこの建物。半島丸々一個使ってるのか」



 ホラー感を出すためか、紅茶で古臭く着色された地図を頼りに、最終目的地である展望台を目指していく。

 増改築を繰り返したのか、建物内はまるで迷路のように入り組み、バリケードを避けて一度地下へ降りてから2階へ上がったり、宴会場の中を突っ切ったりとちょっとしたダンジョン探索気分だ。



「いやぁ~ いいなぁこういう所。俺廃墟フェチかもしれない」


「何がいいのよこんな……怖いとこ……。ひい! おっきいクモ!!」


「今はもう人が居なくなった、かつて多くの人で賑わっていたであろう場所って何か良くない? 退廃美っていうのかな? あと、それクモじゃなくてカマドウマな」


「どっちも分かんないわよ……」



 「ほら、よく見るとバッタみたいだろ」と落ちていた木の棒でカマドウマを突きつつ解説する蒼と、「ちょっと……! やめてよ気持ち悪い! でも……ちょっと面白い体してるかも」と彼の背後に身を隠しながらもその独特な形と動きに目が離せない。



「これがゼルロイド化したら飛び跳ねて組みついてくるだろうな」


「アタシなら遠距離からの光線で一方的に倒せるわね」


「いや~? 光線無力化するバリア張ったり、尻のトゲ発射してくるかもしれないぞ? もしくはめっちゃ素早いかも」


「バリア張ってくるなら佐山さんのパワーで打ち崩してくれるし、トゲを撃ってくるなら蒼がシールドとエナジーキャノンで対応できるわ。スピード勝負なら新里さんが切り刻んでくれるわね」


「ほう……お前随分丸くなったな。昔のお前は何とか屁理屈こねて自分が勝つって言い張ってたが」


「い……いつの話よ」


「お前の魔法少女ごっこにつき合ってた頃だから……。小2か3くらいかな? あの頃の香子は泣き虫なのに意地っ張りだったよなあ。 思えばあの妄想に近い能力なんだよな、今のお前」


「な……何で覚えてんのよ!?」



 香子の顔が茹でダコのように真っ赤に染まる。

 幼少期の行いは後になって思うと恥ずかしいものである。

 特にやたらこだわったヒーローごっこなどに興じていたタイプの傷跡は根深い。



「図鑑とか眺めて『このゼルロイドが出たらアタシはこうやって云々』みたいなこと言ってきたり、『蒼くん襲われてる人やってよ』とか『ゼルロイドやってよ』とか頼んできたよなぁ……」

「あ、あの頃は名前も魔法少女アクアで、技名もドイツ語じゃなくてアクアビームとかアクアバズーカとかだったよな」

「そのくせゼルロイドが出たって警戒情報出たら大泣きしてなぁ……。あの頃のお前結構ワガママだったよな」



 次々飛び出てくる黒い歴史のページたちに顔から火が出そうなくらいに体温の高まりを感じる香子。

 どうやら蒼は彼女の黒歴史だけで児童書一冊くらい作れる程度には過去のことを覚えているようである。

「もー! そんなの忘れなさいよー!」と叫びながら蒼の背中をポカポカと叩く香子。



「忘れませんよーだ! さあ来い! 魔法少女アクア!」


「ぐ……ぬぬぬぬ……! あ―――! もう!! 出たわねゼルロイド! 正義の魔法少女アクアが退治してやるんだから!」


「オラー! カマドウマゼルロイドの組み敷き攻撃だ!」


「きゃあ! 魔法少女アクアは負けないんだからぁ! アクアビーム!」



 誰もいない廃墟の中で跳ねまわる蒼と香子。

 初めは恥じらっていた香子だが、段々と興が乗って来たのか、演技に力が入って来る。

 真面目な優等生になっても尚、ヒーローに憧れる少女の心は健在だったようだ。

 「トドメよ! アクアバズーカ!」というお決まりの必殺技で決着がつく頃には、二人ともヘトヘトになっていた。



「はぁ……はぁ……。懐かしいなぁこの感じ。最後にこれで遊んだのは中学の入学式の朝だったかな?」



 息を整えながら比較的綺麗な瓦礫の上に腰かける蒼。

 香子もその横にそっと座る。



「……そうだったわね。あの日……よね」


「お前あの日から突然俺と距離置きだしたけど、俺何か悪いことしたか?」


「……ごめん」


「い……いや! 責めてるわけじゃねぇよ!? 俺が何かやらかしたんなら今のうちに謝っておきたいって思ってさ」



 蒼はちょっとした思い出話のつもりだったのだが、香子は深刻そうな表情で塞ぎこんでしまった。

 また無神経なことを言ってしまったかと思い、慌てて取り繕う蒼。



「蒼は悪くないよ。アタシが弱すぎただけ。今は……少し強くなれたと思うから、蒼から逃げないよ」


「……? よく分からんが、まあ俺が何かやらかしたんじゃなくて良かったよ」


「言っておくけど、アレは間違いなくやらかしだから! アンタあの頃から何も変わってないわよ? 今のアタシはもう蒼に守られるだけじゃないんだから、苦しいことや辛いことは相談しなさいよ? アンタの為なら何でも手伝うから」


「ああ」



 蒼が「さて! さっさとゴール目指そうか!」と勢いよく立ち上がると、香子もそれに従った。

 月明かりの差す長い廊下を歩き、果てしなく長い階段を上ると、地図に描かれた「展望台」に辿り着いた。

 周辺にはSST保養施設くらいしかない半島の天辺から眺める黒い海、チラホラと見える漁火、そして満月に照らされて浮かび上がった島々や半島の山並みは、貧相ながらそれなりに風流なものであった。



「綺麗だけど、なんか寂しげな夜景ね」


「そうだな。ゼルロイドの出現が激化するまではこの辺も賑わってたんだろうね」


「アタシ達って、この世界ちゃんと守れてるのかな? 戦っても戦ってもゼルロイドは減らない。小さな村や町はどんどん地図から消えていく。国がまるごと消えることもある……」


「アイツらの増殖力尋常じゃねぇからなぁ」


「……そうだよね。でもアタシ、小さい頃は魔法少女になったら世界を変えるくらい強い力が手に入るって思ってたんだ。ゼルロイドをこの地球から絶滅させて、世界を平和にできるんだって。でも……アタシにはそんな力は無い」



 展望台の縁にもたれかかり、寂しげな目で遠くを見る香子。

 そんな香子の頭にそっと手を置き、蒼が口を開いた。



「お前随分抱え込んでたんだなぁ……。時々主語がデカいとは思ってたけど」


「な……なによ。悪い?」


「いや? そうかぁ……。香子は世界を変えたかったのかぁ……」


「ばっ……バカにしてる!? アタシ結構本気だったのよ! 今だって……」



 顔を赤くしつつも、振り向いて蒼をムッと睨む香子。

 蒼だけは何があっても自分の味方でいてくれると信じていたのに、それを軽く裏切られたような気分になったのだ。

 だが、その視界に映ったのは、ニヤニヤと笑う顔ではなく、蒼の真剣な眼差しだった。



「今だって世界を変えたいと思ってる……か」



 月明かりに照らされた蒼の顔は、いつになく凛々しく見えた。

 真っ直ぐに見つめられ、香子は胸の高鳴りを覚える。



「うん……でもアタシ……」


「悪かった」


「え?」


「俺は路地裏のヒーロー目指すとか言ってさ、大城市一つ守って、武器とかシステムをSSTに提供するだけにしとこうとか考えてたんだよね。お前の志に全然沿えてなかったな……」


「蒼……」


「よし! 俺もお前の夢一緒に追うぞ! まあ具体案何も無いけどな!」



 そう言いながら蒼は笑う。

 昔から蒼はこうだった、自分のめんどくさいところや、弱いところを何もかも笑って受け入れてくれる。

 そんな温もりを感じながら、香子はある決心を固めた。



「ねえ蒼。私を見て……」



 そう言うと彼女は緊張で震える手を胸元に持っていき、同じように震える声で小さく叫んだ。



「メタモルフォーゼ……!」


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