第44話:友情の詩は響く
「高瀬先輩! 香子先輩! 無事ですか!」
パワードディアトリマに乗って3人が帰ってくる。
蒼の姿が見えるや否や飛び降りて駆け寄ってくる詩織とティナは煤まみれだ。
そして、無傷の響がなぜか一番元気がない。
「こっちは何とか無事だ。香子は疲れたみたいだから部屋で寝かしておいた。君らこそ大丈夫なのか……?」
「なんとか……」
「響さんのパワー尋常じゃないです…ケホッ……」
その二人の様子に「ごめん。ウチもあんな威力出るとは思わなかったんだよ……」と項垂れている。
どうやら本気で落ち込んでいるようだ。
「まあとりあえず全員無事ってことでいいじゃないか。とりあえずお風呂入りなおしてきなよ」
「ああ……分かった。二人ともウチが綺麗にするよ……ごめん……」
そう言いながら変身を解除する響。
「あ! ちょっと先輩!」と詩織が止めようとしたが、時既に遅し。
「うお!?」と蒼が驚きの声を上げる。
赤と黒のコスチュームがサラサラと解け、響の健康的な褐色の裸体が露になっていた。
落ち込むあまり、入浴中に慌てて変身してきたことを忘れていたのだ。
「あ! い……いやああああああ!! 見るなあああ!!」
「うぼぉ!?」
響は胸と股間を手で押さえ、蒼を肩で跳ね飛ばして風呂場へ走っていった。
■ ■ ■ ■ ■
「お前が裸になったのってエネルギー切れが原因じゃなかったんだな」
響達の無事を確認した蒼は、香子の部屋で彼女の介抱をしていた。
香子は「見たの……?」と恥ずかしそうに布団で顔を隠す。
「そりゃもうばっちりと」と蒼が笑うと、「もう……」と彼女は頬を赤らめた。
「あと、汚れたとこ拭くくらいのことはしたぞ。お前いきなり倒れて体中土まみれだったからな」
「水飲むか?」とSSTロゴの入ったペットボトルを差し出す蒼。
「ありがとう……」とそれを受け取り一口飲んだ後、香子は蒼の顔を神妙な顔で見つめた。
「な……何だよ」
「聞かないの?」
「言ったろ。今話したくないなら香子のタイミングで良いって」
「……うん」
「んじゃ、今夜はしっかり休めよな」と言い残して部屋から去る蒼を、香子は不安そうな表情で見送った。
■ ■ ■ ■ ■
「お痒いところはねぇか~?」
その頃温泉では響がティナと詩織の背中を流していた。
煤に汚れた彼女達の肌を丁寧に洗っていく。
「な……なんか恥ずかしいんですけど……」
「まあそう言うなよ。ウチなりのお詫びだ。すまなかった。詩織お前傷がこんなに……」
コンバータースーツに守られていたとはいえ、詩織の背中には大小無数の傷がついていた。
「別に怒ってないですよ。先輩も私たちもあんな大爆発が起きるなんて思ってもなかったんですから。それに、戦士に傷は付き物ですから!」
そう言って響に笑って見せる詩織。
その笑顔に響は少し涙ぐみ、思わず詩織を洗う手に力が籠る。
詩織は「うっ……!!」と声を上げながらも笑顔を崩さない。
明らかに引きつった顔になっているが、涙のせいで響はそれに気づかないようだ。
「ありがとう……。グスッ……お前良い奴だな……。ティナも大丈夫か?」
「私は詩織さんが盾になってくれたので私は大丈夫です……。あの……詩織さんが……」
「詩織お前……!! いい奴過ぎるだろおおお!!」
思わず詩織に抱き着き、涙を流しながら思い切り背中をごしごしと擦る響。
「うぎいいいい!!」
数分後
「ごめん……ホントにごめん……ブクブクブク……」
湯船の中で土下座する響。
「も……もう大丈夫ですから……イテテ……」と、背中をゆっくりと湯船に浸しつつ、尚も気丈に笑って見せる詩織。
「ウチどうにも感情が昂ると自制効かなくなっちまって……」
「響さんって根は気弱ですよね。そういう心の色が時々見えます」
「……ちょっと否定できないかもしれねぇ」
角を光らせながらティナが響の内面を読み取る。
図星を突かれたのか、一瞬ムッとした顔を見せた後、きまり悪そうな顔で頭を掻く響。
「前にも蒼にみっともねぇ姿見せちまったしなぁ……」と詩織とティナの間に並んで肩まで浸かる。
「ダークフィールドにやられないよう気を付けないといけませんね」
「ああ……。まあお前らと一緒なら怖くはねぇさ。これからも一緒に頑張ろうぜ!」
そう言いながら響はティナと詩織と肩を組みにかかる。
詩織とティナは若干の痛みと暑苦しさを覚えた。
だが同時に、恐るべきメンタルと技術を持った蒼や、大火力と応用力の高さで様々なタイプの敵に対して有利に戦える香子とも違う、捻りのない真っ直ぐな力強さと頼もしさ、そして誤魔化しの利かない危うさをも感じたのだった。
「任せてください! 先輩をバッチリ支えますから!」
「響さんの超パワー、頼りにしてますよ!」
二人は肩に回された響の腕に自身の手を乗せ、微笑む。
その様子にまたしてもグッと来てしまった響が「お前ら―!」と二人を抱き寄せた。
温泉にはしばらく、女三人の姦しい声と水音が響き渡っていた。
■ ■ ■ ■ ■
皆が寝静まった後の食堂でキーボードの音が響いている。
そのモニターには「ブレイブウィングVer2.0」という文字と共に、無数のプログラムが走っていた。
ノートPCから伸びるケーブルが接続されたブレイブウィングのアクセスランプが点滅し、「カチカチカチカチ……」と内部データの書き換えが進行している。
「蒼さんまだ起きてたんですか?」
ティナが目を擦りながら現れる。
「ああ、ごめん。煩かったかな」
「いえ。全然大丈夫ですよ」
「何してるんですか?」と蒼のパソコンを覗き込むティナ。
「ああ、俺の翼をアップデートしてるんだ。やっぱり早いうちに実施しとかないとって思ってね」
「アップデート……ですか?」
「ああ、武器の精錬みたいな感じだよ。ティナちゃんに教えてもらった魔法陣のプログラムをいくつか組み込んで、ついでに俺のエネルギーを増幅するシステムを最適化して、エネルギー場の粒子を吸入するシステムの効率を上げてる。まあ、簡単に言うと俺がパワーアップするってわけ」
「すごく頼もしいですけど……。蒼さん、ちゃんと寝ないとお体に障りますよ?」
クイクイと蒼の服を引っ張るティナ。
今日は蒼とティナの相部屋生活最終日。
ティナは少し名残惜しさを感じているようだった。
普段からこの世界や敵に対する不安と寂しさを感じている彼女にしてみれば、警戒心を完全に解き、安心しきって眠ることができる蒼との添い寝はとても心地の良いものだったらしい。
「そうだね。後は自動で終わるから、もう寝るよ」
蒼はブレイブウィングアップデート作業継続のため、PCのスリープ機能を停止させ、ティナと共に部屋へと引っ込んでいった。
電気の消えた食堂に残されたノートPC。
その真下の床から白い一条の光が現れ、PCの中に吸い込まれ、ケーブルを通ってブレイブウィングの中に入っていったが、無論それに気づくものは誰もいなかった。





