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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第29話:脳筋生活




 響との生活は過酷を極めた。


 課題は殆どが激しい運動を伴うもので、体力のない蒼はたまったものではない。

 特に「二人で毎日筋トレをしよう」という課題が凶悪だった。

 何せ“筋トレ”の範囲が一切示されていないため、全てが響の裁量次第。

 毎朝5kmのランニング、昼食まではスポーツジムコーナーを使っての筋トレ、その後夕方まで皆で遊び、夕食後はまたしてもランニング&筋トレ、風呂の後は部屋のテレビで格闘技鑑賞。

 という脳筋生活を強要される羽目になってしまった。


 また、食事を一緒に作れば、スタミナだ体作りだとドカドカと肉を入れ、ニンニク、ニラ、キムチ、納豆等の精が付く食材を必ず付け合わせる。

 飯物は山盛りの玄米、汁物は小松菜とモロヘイヤ、間食に茹で卵と蒸し鶏むね肉。

 毎食ごとに胃にドッシリと横たわって来る量、質であった。

 以前も言っていたが、蒼の機械頼りの戦い方には納得がいかない響は、この1週間で蒼の肉体改造を目論んでいたのである。

 「男なら身一つでウチを張り倒せるくらいになってみろ!」とのことだが、無理な注文である。


 彼を苛んだのは運動や食生活だけではない。

 彼女とのシチュエーション課題の一つ、「添い寝」も相当のものだ。

 一日体を苛め抜き、胃袋を酷使して、ヘロヘロで寝ようすると、隣で眠る響が必ず絡んでくる。

 比喩ではなく、物理的にである。

 彼女は恐るべき寝相をしていたのだ。

 ある日は羽交い絞めにされ、またある時は4の字固めを食らい、酷いときには首にスリーパーホールドをかけられ、文字通り寝落ちしてしまった。

 何とかその状況に適応し、寝ようとしても、寝着いた頃に体位を変えて技をかけられ、その激痛と目覚ましイビキで強制的に起こされる。


 課題の進捗は上々で、響との7日中、3日目にしてシチュエーション課題は実質残り3つになっているし、コミュニケーション課題の方も花火をしたり、磯遊びしたり、山菜を取りに行ったりと、着々と消化できている。

 だが、蒼はかつての過労早退時に負けず劣らずの消耗っぷりであった。




■ ■ ■ ■ ■




「う……うぅ……」



 3日目の夜が明け、響との相部屋生活が4日目を迎える。

 真夏とはいえ、まだ薄暗い朝4時半。

 イビキではない方の目覚ましアラームと、顔面への強烈な圧迫感に目を覚ます蒼。



「う……ん!?」



 鼻に入って来る柔らかな香りと、少しの汗の臭い。

 視界の両側を塞ぐ肌色の壁と、眼前には黒い布。

 最初は何が起きているのか分からなかったが、脳の覚醒と共に、蒼はどうやら自分が見つめているのは響の股間であると理解した。



「んぐぐぐ……! ふんっ!!」



 手足に力を込めるが、腕も足も全く動かせない。

 打つ手が無いので一度抵抗を止め、体の感覚を確かめてみると、足がやけに温かくて湿っぽく、手首が痺れている。

 どうやら、足は腋に、腕は手で拘束されているらしい。

 その上で顔を太ももで挟み、蒼の上に背中から圧し掛かっているのだ。

 新手のフィニッシュホールドだろうか。



「うぉい! 響! 放せって!」



 足を小刻みに動かし、響の腋をくすぐりにかかる。



「んふふ……。ううん!」


「ぐぉぉぉ……」



 響は一瞬反応した後、蒼の足首を握る手を思い切り引っ張ってきた。 

 同時に足を捻り、蒼の首を右に捻る。

 捻じれ、引き伸ばされる首。

 完全に殺しにかかる動きである。



「響……! 首が……捥げる!!」



 足を動かせる範囲でバタつかせ、何とか響を起こそうとするが、彼女の剛力ホールドは全く揺るがない。



「これなら……どうだ!」



 蒼の胸から流れ出た小さな光が、彼の腕へと伸びていき……。

 パン!という快音と共に、響の背中あたりで炸裂した。



「痛ってぇ!!」


「んぶっ!!」



 突然の衝撃に飛び起きた響。

 蒼に圧し掛かっていた彼女が上半身を上げると、必然的にその股間が蒼の顔面にグイと押し当てられる。



「おい! 蒼! 無事か! 今のは……ひゃうん!!」



 まだ若干寝ぼけていた響だが、股間に伝わる生暖かい感触に驚き、飛び退いた。



「えっ……!? 蒼お前ウチのアソコに……えっ……!?」



 顔を真っ赤にし、頬に手を当て、お手本のような嬉し恥ずかし乙女アクションを始める響。

 「お前俺を殺す気か!」と、4日連続寝相ホールドの恨み言でも吐いてやろうと蒼は響の肩に勢いよく手を置く。

 その時、先ほど蒼が放った攻撃により肩紐が千切れたパジャマがハラリとずり落ちた。

 そして彼女の筋肉で出来た豊満な双丘が……。



「きゃあああああああ!! 蒼の変態ヤロー!!」


「ぐはぁ!?」



 顔面に飛んできた剛撃をモロに受け、蒼は強制的な二度寝に落ちていった。




■ ■ ■ ■ ■




「これは……。あまり芳しくないですね……」



 朝の響部屋の映像を眺めながら宮野が呟く。

 絆を深めさせるはずが、むしろ仲が悪化しているようにすら思える事態だ。



「そりゃ高瀬くんが嫌がる課題ばっかりだからね。添い寝だって普通は嫌がるわよ?」



 横から御崎の苦言が飛ぶ。

 詩織と蒼は元々お互いの好感度が高かったため、課題がプラスに働いたものの、まだ知り合ってから1月程度しか経っていない響と蒼では条件が全く異なるのだ。

 響から蒼への好感度は決して低くはないようだが、蒼が響に対して若干苦手意識を持っているのである。

 そんな状態でやれ筋トレをしろ、抱き合え、添い寝しろと強要すれば、嫌気も差すだろう。



「流石は教員免許を持っているだけのことはありますね。自分にはさっぱり分かりませんでしたよ」


「ちょっと見てたら分かるでしょ! 高瀬くんは筋トレや運動はあんまり好きじゃないわ。それを宮野くんってば課題にしちゃって……」



 御崎は伊達に顧問をやっているわけではない。

 二足の草鞋を履いているとはいえ、教員としての使命感は持っているのだ。

 部員同士のコミュニケーションから、仲良く円満な部活動を行えているかを毎日チェックし、より良い活動を行えるように支援しているのである。



「高瀬くんと笠原さんとは“愛情”、新里さんとは恐らく“信頼”ね。お互いがそれぞれに対して抱いてる感情が昂った時、リンクは発現する……。この考えが正しければ、高瀬くんと佐山さんがお互いを認め合えそうなネタで攻めればいいのよ」



 目から鱗とばかりに、驚きと感心が入り混じった表情で御崎の顔を見つめる宮野。

 むしろ何故それを思いつかなかったのかとため息をつき、御崎がモニター前の席に座る。



「高瀬くんは結構嘘をつく癖があって、佐山さん相手だと特にその傾向が強いわね。潜在的に距離感を掴みかねてて、どこまで本心を話せばいいのか分かってないみたい」



 蒼に平謝りする響が映るモニターを見つめながら、御崎は話を続ける。



「一方で佐山さんは嘘がつけない性格ね。まっすぐで、馬鹿正直で、喜怒哀楽に正直だわ。自分が悪いと思ったらすぐに謝るし、相手が良くないことをしたら怒る。良くも悪くも高瀬くんとは真逆よね」


「確かに高瀬くんは、謝る事態に陥る前に、相手を怒らせないよう嘘をついてしまうタイプですね。一方で自分が酷い目に遭っても滅多に怒らない。彼からすれば一番理解しがたい相手かもしれませんね」


「でも、案外こういうタイプが仲良くなれたりするのよ。この二人が目指す先は、何のしがらみも無く本心をぶつけ合って、喧嘩したり、楽しんだり、愚痴を言い合える“悪友”タイプね」



 そう言うと、御崎は響部屋のテレビへ繋がる画面を開くと、カタカタと文字列を入力し始めた。



「リンクまで持ち込めるかは分からないけど、課題ちょっと変えさせてもらうわよ」




■ ■ ■ ■ ■




「ごめん。マジでごめん」


「いや、そんな気にしてないって。まあアレだ。俗に言うラッキースケベってやつだ」


「ラッキーだったか?」


「それは全然だけどさぁ……」



 上半身丸出しで正座し、謝り倒す響と、その姿に居たたまれなくなっている蒼。

 とりあえず朝飯にしようと立ち上がり、響にもそれを促す。

 響は「これじゃウチの気が収まらねぇよ……」等とグズりながらも、ベッドから降り、服を着替える。


 そして、いざ二人が部屋から出ようとした時、ピーン!という携帯の通知音のような音とともにテレビが点いた。

 その画面に映るのは

「課題変更」

「お互いの良いとこ言い合い→お互いの悪いとこ言い合いプロレス」

 という、大胆過ぎる変更の通知であった。


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