第5話:放たれた光
突如二人を襲った少女の姿をした異形の化け物。
その得体の知れない力の前に敗れ、吹き飛ばされてしまった詩織はグッタリと瓦礫に身を預けていた。
(痛い……全身が……焼けるように熱い……)
何時間が経っただろうか。
ようやく意識が戻ってきた。
しかし、全身の痛みは未だ引かず、そのために彼女は身動きができずにいた。
(先輩……ごめんなさい……私が助けないといけなかったのに……)
意識を失う直前に見た、蒼を食い殺さんと開かれた化け物の大口を思い出す。
蒼はウィングユニットを装備しているとはいえ、その体はあくまでも一般的な高校生である。あの巨大な口に挟み込まれてはひとたまりもないだろう。
自らの危険も顧みず攻撃を放った蒼。
その無謀な一撃に彼女は救われたのだ。
(初めての仲間だったのに……)
魔法少女の力を得てから数年間、孤独を耐えながら凶悪なゼルロイドに立ち向かった日々が終わり、やっと仲間が現れたにも関わらず、自分の不覚でそれを失った。
その事実が詩織の心を蝕んでいく。
「うっ……ひぐっ……先輩……ごめんなさい……ごめんなさい……」
夜の帳が下りゆく暗がりで一人涙を流す詩織。
その目は今まさに迫りくる人影を捉えることが出来ずにいた。
その人影は詩織のすぐ傍まで来ると、彼女を見下ろしながら言った。
「おいおい……大丈夫か?」
「ぐすっ…… へ!?」
彼女を見下ろす影、それは他の誰でもない、蒼だった。
「先輩!!先輩!!うわあああああん!!」
蒼に縋り付き、泣き叫ぶ詩織。
「よしよし…俺は何とか無事だったよ」
詩織の頭を優しく撫でる蒼。
詩織もボロボロだが、蒼も相当手酷いダメージを受けていた。
まず衣服はボロ布のように焼けこげ、光線に貫かれた胸は痛々しい火傷が広がっている。
背中のウィングユニットも崩壊し、左半分がごっそり失われてしまったようだ。
「そうだ! 先輩どうやってあいつから逃れたんですか!? ていうか先輩完全に貫通されてませんでしたか!?」
「まあまあ落ち着いて。順序追って話すよ」
蒼は胸を赤い光線で貫かれ、致命傷を負った。
しかし不思議と意識ははっきりと残っていた。
痛めつけられる詩織を助けるべく力を振り絞ってエナジーキャノンを放ったが、外れ、激高した化け物は腕を巨大な口に変化させて蒼に噛みついてきた。
右腕で咄嗟にガードをしたが、そのまま大口に挟み込まれ、歯に腕を抉られ、あまりの痛みに危うく意識を失いかけたが、その直後、腕から白い光が迸り、敵の大口をドロドロと溶かし始めた。
同時に胸の傷からも白い光が溢れ出し、貫通された傷を見る見るうちに再生させていった。
それに怯んだのか、敵は蒼の腕を放し、逃げ去っていった。
「とまあこんな具合で何とかなったわけよ」
「先輩って…本当に普通の人間なんですか……?」
「俺は普通の人間だと思ってるんだけどね……。まあそれより今はアレが何だったのかだよ」
「そ……そうですね。人型のゼルロイドでしょうか?」
ゼルロイドが人型になった例は未だかつてない。
仮にあの異形の化け物が新型ゼルロイドだとするなら大事件である。
巨大サソリやトカゲ、ネズミ等のゼルロイドならば、一目で異常な生物だと分かるが、人型では一般人も、魔法少女も一見してそれが敵だとは気づかないだろう。
その姿のままひっそりと破壊活動をされてしまっては、一体あたりの被害は尋常ではないほど拡大していく。
それどころか、人間同士の魔女狩り的同士討ちが多発することも想像に難くないし、魔法少女が誤って一般人を攻撃してしまうことすら考えられる。
「それだったら大事だ……。何とかアレを捕まえて正体を暴かないと……。イテテテ」
「そうですね……。痛たた……。あの個体だけで終わりにしないと後々大変なことになりますよ…」
二人は肩を借り合いながら、廃ビルを後にした。
■ ■ ■ ■ ■
「先輩!先輩!大事件ですよ!!」
2日後。
放課後の魔法少女部室に詩織が血相を変えて飛び込んできた。
「うわっビックリした! うぎっ! イテテテテ!!」
魔法少女の特殊体質故、詩織は一晩で回復したが、蒼は未だに包帯と湿布にまみれた生活を送っている。少しの衝撃で胸と脇腹がズキズキと痛むようだ。
「これ!これ見てください!」
詩織の突き出したスマホの画面には
『数カ月前から行方不明の女児、河川敷で遺体で発見』
のニュース記事が躍っていた。
「あ~これか…痛ましい事件だよなぁ…イテテ。腐敗が凄くて頭部が抉れるように損壊されてたんだろ?」
「そうですけど!ほらここ!この子が行方不明になる直前の写真見てください!これ!!」
詩織がニュース記事の一部を拡大して見せる。
「この服…あの化け物が着てたのと同じですよ…」