表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/161

第26話:黄金の幻惑




「いや~。大好評だったなぁ! やっぱデカい魚は食卓に映えるもんだ」


「ティナちゃん大喜びでしたね~。まあちょっと大味ではありましたが……」




 やたら豪勢な夕食を終えた二人は、虫網片手に施設裏の雑木林へ赴いていた。

 詩織とのシチュエーション課題、残り3つのうちのひとつ、カブトムシ取りをクリアするためである。


 夜の林は暗く、月の明かりが微かに差してくる以外は、漆黒の闇に包まれている。

 夏の虫がジージーと鳴き、風の音に合わせてカサカサという木の葉の音があたりに響き渡る。

 真夏の夜の林というのは意外と騒がしいもので、蒼と詩織以外には誰もいないのだが、まるで雑踏の中にいるかのような錯覚を覚える。

 だがその喧騒の中に、突然一つの異質な音が混じってきた。




ピーピーピー!!

 ピーピーピー!!




 久々に聞いた警報音。

 二人は音のする方向、すなわち互いの腕に光るデバイスを見つめ合い、同時に叫んだ。




「「ゼルロイド!!」」




 すわ!

 咄嗟に詩織は後ろへ飛び退き、蒼はローリングで回避行動を取る。

 バババババ!という快音と共に、二人が立っていた位置を疾風が駆け抜けた。




「変身!」

「合体!」




 辺りを黄色く輝く粒子が包み込み、漆黒の林を照らし出す。

 そのエネルギー場の中、眩い光を纏いながら、黄金の物体が目にもとまらぬ速度で飛行している。




「エナジーキャノン!」




 蒼が間髪入れず、肩のキャノンを放つ。

 黄色いエネルギー弾が、その物体に次々と直撃する。

 だが……




「んな!? うおああああ!!」




 敵に命中したはずのエネルギー弾は、壁にぶつかったボールの如く跳ね返ってきたのだ。

 詩織のエネルギー場によるバフを受け、音速を優に超える速度で飛来する光弾を必死で回避する蒼。




「先輩! 大丈夫ですか!?」


「なんとか! それより気をつけろ! あいつデカくはないが、早くてビームが効かねぇ! うわぁ!!」




 おちおち話す間もないほど、間髪入れずに襲い掛かって来る敵。

 サブブースターにより、敵の体当たりを回避する。

 反応が遅ければ、今頃ミンチだっただろう。




「ライトニング・ミラージュ!!」




 高速戦に長ける詩織は、その敵の突進を悠々と回避しつつ、光の剣撃を乱射する。

 無数の刃が敵の体に当たり、カン!キン!と金属音の如き高音が鳴り響く。

 バランスを崩した敵は、もんどりうって地面に激突した。

 しかし、敵もさるもの、その程度では動じず、6本の足で地面を強く掴み、素早く立ち上がってきた。

 その身体は、黄金のごとき輝きと、鬼のような恐ろしい角を持つ、オニクワガタそのものであった。




「くらえっ! ライトニング・アンカー!」




 詩織の右腕に集まった光が、短剣となって結晶する。

 それを勢いよく敵めがけ、投げつける。

 オニクワゼルロイドの背に、刃が突き立ち、エネルギーの炸裂が体内を激しく破壊する。

 はずであった。




「ぐあああああああ!!」




 詩織が最初に認識したのは、蒼の絶叫だった。

 そして次に、オウゴンオニクワガタの姿フッと視界から消える。

 その影が消えた跡に残っていたのは、右胸から右肩にかけて、肉体を大きくえぐり取られた蒼であった。




「ぐっ……! ぐあぁ……!」




 蒼がもだえ苦しみ、体を捩る。

 その光景が一体何なのか、詩織はしばらく理解ができずにいた。

 蒼が何かを叫んでいるが、その内容も全く理解できなかった。




「新……! ……ろ!!」

「よけ……!!」


「うそ……私……せんぱ……」




 ガン!という衝撃が詩織を襲ったのは、蒼の叫んでいた内容と、自分がしでかしたことの重大さに気が付いた時であった。




「きゃああああああ!! ぐぁがっ!!」




 凄まじい衝撃が腹に直撃し、口に嫌な味が広がる。

 太い木に叩きつけられると同時に、腹を左右両側から挟み潰される。




「あああああああ!!」




 必死で大あごを手でつかみ、拘束から逃れようとする詩織だが、彼女の力では締め上げる力に全く対抗できない。

 獲物を逃がすまいとしたのか、ますます締め上げる力を強めるとともに、マイナスエネルギーを口から噴射するオニクワゼルロイド。




「ひぎゃあああああああああ!!」




 血の泡を吹きながら、断末魔の叫びをあげる詩織。

 白いインナーに赤い血が滲み、骨が軋む。

 同時にマイナスエネルギーが彼女のエネルギーを分解し、コスチュームが溶けていく。




「新……里! ブレードイジェクト!!」




 上半身に大穴を穿たれた蒼が、何とか動く左腕を突き出し、詩織を捉える大あご目がけてブレードの刀身を射出した。

 だが、異変を感知したオニクワゼルロイドは、詩織を離し、垂直に飛び上がってこれを回避。




「大……丈夫か!?」




 詩織の元に這ってきた蒼。

 大穴は白い光がゆっくりとではあるが、再生を始めている。




「先……輩……! ごめ……さい……! ゲホッゲホッ!!」




 血を吐きながら、蒼を誤射したことを謝る詩織。




「んなこと気にしなくていい! あいつ……光を捻じ曲げて簡易的な分身を相手に見せられるみたいだ……!」




 詩織を庇うように、蒼がしゃがんだ姿勢をとり、敵の突撃に備える。




「!! レーザー……ぐああ!!」


「きゃあ!!」




 だが、蒼の動体視力では満足に防御することが出来ない。

 一瞬、ピンポイントのシールドを展開し、衝撃を僅かに減退させるのが精いっぱいだ。

 それどころか、分身と共に襲い来る敵の攻撃を前に、徐々に被弾が増えてくる。

 蒼の足が、首が、腕が、肩が、次々に切り裂かれ、鮮血と共に白い閃光が噴き出す。




「くっ……ブレードホーク!」




 所詮中型ゼルロイドと侮り、これまで呼び出していなかったサポートバードに出撃指令を出す。

 超高速で飛来したそれは、オニクワゼルロイドに体当たりを仕掛け、見事、敵の猛攻を打ち払うことに成功した。




「ブレードホーク合体! ブレードフォーメーション!」




 すかさず、ブレードホークと合体する蒼。

 オニクワゼルロイドは、一旦二人から距離を取ったものの、今度は長い助走を加えての一撃必殺攻撃にシフトさせてきた。




「アームブレード!」




 その突撃を、居合の如く切り捨てた。

 ように思えた。

 だが、蒼の脇腹を鋭い痛みが襲った。




「ぐはっ……! 嘘だろ……!? ブレードフォーメーションでも駄目なのか!?」




 ブレードフォーメーションは蒼のスピード以外にも、動体視力も向上させる機能がある。

 だが、激しくエネルギーを消耗し、体の反応が鈍り切った蒼の動体視力を底上げしたとて、フルスペックの半分も発揮できていないだろう。

 さらに、分身により、敵の位置が正確に把握できないのでは、その機能も意味をなさない。

 見れば、敵は再び彼方へ飛び去り、助走距離を稼ぎ始めた。

 次、体当たりの直撃を受ければ、およそ無事とは思えない。




「新里……。あのサーチ能力で本体見破れねぇか?」


「出来る……かもしれません……」


「やってくれ。お前の指示した場所を思い切り突く」


「で……でも! もし失敗したら!」


「大丈夫だ、新里なら必ず見切れる。そして、俺も絶対外さない。俺はお前を信じてるから、お前も俺を信じてくれ」




 「でも!」と、詩織は続けようとしたが、オニクワゼルロイドは既に旋回を終えつつあった。

 もはや一刻の猶予もない。




「……先輩! 私やれます! 先輩を信じます!」


「おう! やるぞ!」




 詩織は蒼の手に自分の手を重ねる。

 そして、ゆっくりと持ち上げていく。




「先輩、位置は私が完璧に合わせます。 私の合図と一緒に、何も考えず、思い切り剣を突き出してください」


「分かった」




 緊張と共に高鳴る鼓動。

 冷たい汗が頬と背を流れる。

 だが、二人は何か温かいものが右手に集まって来るのを感じていた。


 遥か遠方で加速し始めたオニクワゼルロイドは、やがて音速の弾丸となって二人目がけて突進をかけてきた。

 同時に、その姿が幾重にも別れ、万華鏡の如く折り重なった影となって迫りくる。


 詩織が波紋を放つ。

 そのエコーが、突撃してくる敵の切っ先に当たり、ピン……という軽い音を立てた。




「そこです!!」




 クワっと目を見開き、蒼の手を思い切り右斜め前へ導く詩織。

 同時に、蒼も渾身の力で刃を突き出した。




「「はああああああ!!」」




 二人の声が重なり、ガキィィィン!!という快音が響き渡った。

 蒼のアームブレードV2は敵の顎の付け根、口元にざっくりと刺し通り、超高速振動するエネルギーが、敵を体内からグズグズと崩していった。

 やがて、敵は黒い粒子となって霧散し、後には元の、夜の林の不思議な喧騒だけが残った。




「新里……?」


「先輩……」




 唯一、先ほどまでと異なる点を挙げるならば、詩織の胸の宝玉と、蒼の右手の甲が、白い光線で結ばれていることであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ