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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第25話:釣りをしよう




「何があっても 君を守るよ」


 優しい声に呼び起され、詩織は目を開ける。

 気が付くと彼女は、360度すべてが銀色に光る空間に立っていた。


「何があっても 君を守るよ」


 蒼の声が聞こえる。

 彼が昨日、眠る前にかけてくれた言葉だ。

 



「先輩?」




 詩織は体を起こし、声の主を探す。

 すると、辺りに四角い光が点り、映像が流れ始めた。


「助太刀に来たぞ!」

 二人の初陣、サソリ型ゼルロイド戦。


「新里! 今助ける!」

 思わぬ伏兵に苦しめられたカニ型ゼルロイド戦。


「エナジー……キャノン!」

「助けに来たぞ!」

「新里!」

 詩織の中にある、蒼と共に戦った記憶が、次々と再生されている。




「先輩……」




 詩織はフッと心の奥が温かくなる感覚を覚える。

 様々な手段で自分を助けてくれる蒼。

 彼がいなければ、サソリ型ゼルロイドとの戦いで自分は命を落としていたかもしれない。

 どんな時も、彼は必ず手を貸してくれた。

 敵の手に落ちれば、どんな危険を冒してでも助けに来てくれた。

 だが、その度に彼はボロボロになり、時として命を失うほどの傷を受け、時には疲労に倒れた。

 それでも悪態の一つもつかず、笑いながら再び立ち上がって来る。


 優しくて、強くて、少しサイコな先輩。

 詩織はクスっと笑った。




「先輩。私も、先輩のこと全力で守りますよ」




 詩織の言葉に呼応するように、銀色の世界が眩い光を放ち始めた。

 彼女はそのまま、胸から暖かいものが溢れ出てくる感覚を覚えながら、ゆっくりと光の中へ溶けていった。




■ ■ ■ ■ ■




「おーい。起きろ~」




 心地よい夢から一転、詩織はカンカンという不快な高音で叩き起こされた。

 眩しさに霞む視界を擦ると、ジャージにエプロン姿の蒼が中華鍋とオタマを携え立っていた。




「先輩~。わたひも先輩を守りますよ~」




 まだ夢現なのか、幸せそうな顔で布団に潜っていく詩織。

 彼女のもっちりとした頬が這った後に、涎の帯ができている……。




「コラ! 起きろっての! みんな待ってるって!」




 このままでは埒が明かないと思った蒼は、詩織が被っている布団を引っぺがし、両腕を掴んで背負うと、そのまま洗面所へ連行していった。




■ ■ ■ ■ ■




「おあようごじゃいます~」


「おいおい詩織おせーぞ。せっかく蒼が作ってくれた朝飯が冷めちまったじゃねぇか」




 今だ夢現の詩織を響が咎める。

 しかし、朝に弱い詩織は、その言葉を殆ど理解できていないようだ。




「まあまあ、真夏なんだから多少ヌルくてもいいじゃない。それに、同じ部屋で異性が寝てるっていうのは結構気になるものでしょうし」




 詩織の態度にムッとする響を、香子が制する。

 そして今度は蒼の方を向き「変な長話に付き合わせたんじゃないでしょうね?」と疑惑の眼差しを向けた。




「いや、してねぇよ? むしろかなり早く寝着いたくらいだ。まあ慣れない寝具だから、眠りが浅くなっちまったのかもな」




 自身の非は否定しながらも、さりげなくフォローする蒼。

 響も、慣れない寝床に関しては思う所があったらしく、「それならまあ、しょうがねぇか」と引き下がった。

 その間にも、詩織は座ったままウトウトし始め、ティナが必死に支えていた。




「それじゃ、さっさと朝飯食っちゃおう。せーの」


「「「「いただきまーす」」」」

「いひゃじゃきまーしゅ……」




 蒼の作った朝食は、白米、味噌汁に加え、カマスの開き、ほうれん草のおひたしという極めてスタンダードな和食である。

 響はそれに卵と納豆を追加しつつ、旨い旨いと頬張っている。

 5人で朝昼兼用にと10合炊いたのだが、響一人で4合くらいは食べきってしまいそうな勢いだ。




「響さんよくそれだけ食べられるわね。それでいてそのスタイル……。羨ましいわ」


「旨けりゃ結構食う方だぜウチは。むしろ最低でもこれくらいは食わねぇと筋力落ちちまうよ」




 流石は乳まで筋肉で出来た女。

 最近腹と太腿に肉が乗ってきたのを気にしている香子は、白米をほんの少ししか食べないようだ。




「美味しいです……! 美味しいですよぉ!」




 相変わらず味覚に飢えているティナは、一口一口感動している。

 詩織はボーっとしながらチマチマと食べ進む。




「なんか……こういう賑やかな朝ごはんっていいな」




 そんな様子を満足そうに、やや寂しげに見つめる蒼。

 彼が皆の姿に、一家の団欒を重ねているのは明らかで、彼の生い立ちを知る香子が心配そうに見つめる。




「あと2週間以上みんな一緒だぜ! その間旨い飯いっぱい食わせてくれよな!」




 そんな心配をよそに、響が蒼に肩組みし、グリグリと額を擦り付ける。

 「痛たたた! 分かった!分かったからそれやめろ!」と叫びながら笑い合う蒼と響の様子に、香子は少し安心し、「これが終わっても、私は一緒に朝ご飯食べるよ」と、誰にも聞こえないような声でそっと呟いた。




「え! 先輩何か言いました!?」


「何も言ってませーん」




 ラブコメオーラを感じで完全覚醒した詩織が食いついてきたが、香子は笑って受け流して見せた。




■ ■ ■ ■ ■




「さて! 今日はコミュニケーション課題2個終わらせるぞ!」


「おー!」




 施設前に広がる砂浜へ、釣り竿片手にやって来た二人。

 今日は日中に釣り、夕方~夜中にかけてカブトムシ取りで課題2個消化を目指すようだ。

 経験者の蒼は、テキパキと二人分の仕掛けを作り、冷凍庫に入っていたエビを餌にして海へ投げ入れた。

 彼の仕掛けはウキを用いた「フカセ釣り」と呼ばれるものだ。

 細かな説明は省くが、マダイや、クロダイなどが期待できる仕掛けである。

 仕掛けを投げ入れた後は、のんびりとウキが沈むのを待つ。




「先輩! なんかいっぱい寄ってきましたよ!」


「う~ん。来てはいるけど……。ありゃ狙いの魚じゃなさそうだな」



 誰も来ない場所だけあって、魚の生息数はすこぶる多く、早くもウキの周辺に魚の群れが寄ってきている。

 だが、タイを狙う場合においては、そういった群れる魚は「外道」の場合が多い。




「あ! 来ましたよ! ガンガン来てます!」




 詩織が竿をグイっと立て、リールを巻いていく。

 蒼が「そのくらいなら強引に巻いてきちゃって大丈夫だぞ」と見守っている。

 「先輩ノリ悪い~」等と言いながら、詩織が釣りあげたのは、15㎝ほどの目の大きな魚であった。




「やった! なんでしょうこの子!」


「そりゃメバルだね。ちょっと小ぶりだけどお吸い物とか煮つけにしたら美味しいぞ」


「わーい! 夕食のおかず一品ゲット~!」




 やったやったと喜びながら、先輩針外してくださいと蒼の目の前にメバルを差し出してくる。

 「わ!危ねぇ!」と詩織に説教をした後、蒼はメバルにかかった針を外してやる。

それをバケツに入れると、バシャバシャと暴れている。




「なんか……こうやって見てると情が湧いちゃいますね……」




 詩織がバケツの中のメバルをツンツンと突きながら言う。

 蒼が「んじゃ食うのやめる?」と聞くと、「いえ、絶対食べます」と詩織は真顔で返してきた。


 その後、蒼と詩織合わせて7匹のメバルを釣り上げた頃、あれだけ仕掛けに群がってきていたメバルが、さっぱり食いついてこなくなった。

 日も高くなってきたので、パラソルを立て、詩織はその下に座って退屈そうにウキを眺めている。

 徐に、仕掛けを弄り始める蒼。




「先輩何弄ってるんですか?」


「うん。仕掛けのタナ……。言っても分からないか。エサが到達する深さを変えて、大物狙ってみようと思うんだ」


「ほへ~。よく分かりません」


「上手くハマればデカいの釣れるかもよ」




 よっという掛け声とともに、蒼は仕掛けを少しばかり遠投する。

 それは丁度、岩の周りに海藻が生い茂った深みに着水した。

 直後、蒼が大きく竿を煽った。




「よし! 来た! 結構デカいかも!」


「わっ! すごい曲がってる!」




 長い竿が満月のようにしなり、並大抵の大きさではないことが分かる。

 ギイイと糸が伸びる音が響き、魚の激しい抵抗が続く。

 蒼は竿の弾力と糸の伸びを生かし、その引きをコントロールし、徐々に砂浜へと寄せてくる。




「デカいですよ! なんか赤いです!」




 詩織がピョンピョンと跳ねる。

 やがて、海面に魚影が現れる。




「マダイか!? いや……にしては赤すぎるな……何だ?」


「ええ!? なんか変な魚ですよ!?」




 バシャバシャと激しく水面を沸かせつつ、寄ってきたそれは、異様な顔をした巨大魚であった。

 1mはあろうかという深紅の体、でっぷりとしたシルエット、額と顎の下には巨大なコブ。

 知る人ぞ知る磯の王者「コブダイ」であった。




「おお! すげぇ! 俺コブダイ釣ったのは初めてだ!」


「でっかい! ですけど……コレ食べられるんですか? 変な顔してて美味しそうには見えないんですけど」


「マダイほどではないけど旨いらしいよ。こりゃ良いオカズが釣れたぞ」


「マジですか! やったー!」




 この一匹でバケツがいっぱいになってしまったので、二人は竿をしまい、意気揚々と施設へ引き返していった。

 みんなを驚かせようということで、まるでスパイのようにこっそりとキッチンに入り、冷蔵庫に獲物を放り込んだ二人は、皆のお昼用におにぎりを10個ほど作っておいた。


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