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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第21話:ミスターブラック現る




 蒼が魔法少女達のエネルギー、及びエネルギー場に対して何らかの影響を及ぼしていることは以前から確認されていた。

 彼と共に戦うとき、エネルギー場の輝きが増したように感じた。攻撃の威力が増した。肉体のダメージが急速に回復した。等の報告は魔法少女3人から上がっている。


 その現象が特に顕著に表れたのは、先日発生した香子と蒼の謎の結合だろう。

 発現した際は、香子の心を癒すに留まったが、先日のゼリカヅラスとの戦いでは、破壊されたエネルギーの回復、攻撃力の向上、そして、高密度のマイナスエネルギー下でも殆ど減退しないプラスエネルギーの放出など、複数の効果が確認された。


 この事象に対して、SSTある大胆な仮説を立てた。

 蒼は魔法少女を強化するエネルギーを常に体から放出しているというものである。

 蒼の体内には謎の高エネルギー反応があり、蒼はそのエネルギーを用いて装備を起動している。

 しかし、体内で生成されているエネルギー量に対して、武装に使用しているエネルギーはあまりにも少ないのだ。

 体内の反応から逆算した、常時生成されていると考えられるエネルギー量を10とするなら、武装に使用している量は1か、全武装使用時でも3程度。

 その上、蒼の体内にはそれを蓄積する器官はない。

 では、その余ったエネルギーはどこへ行くのか、と考えた時、外部に常時放出されていると考えるのは妥当である。

 魔法少女のエネルギーと結合し、増幅する性質を持った蒼のエネルギーが宙に放たれればどうなるか、近くにいる魔法少女を強化する力となるだろう。


 そして、そのエネルギーは対象が親しいほど収束し、ついには光線のような目視できるエネルギー塊となる。

 それこそが、香子との間に発現した結合現象というわけだ。

 香子とは恋愛という形で発現したが、今後、他の魔法少女とも信頼や友情、愛情などの関係が深くなれば、発現の可能性は十二分にあり得ると、SSTは考えている。

 この、蒼が持つエネルギーを、SSTでは「キズナエネルギー」と称し、また、エネルギーによる結合現象を「キズナリンク」と称することとした。

 ちなみに命名者は宮野である。


 この仮説が正しく、かつ、蒼がブレイブウィングの前身、ウィングユニットの試作中に確認した、「他の人間も蒼と同様のエネルギーを低出力ながら持っている」ということが事実ならば、魔法少女の力を持たざる者による、魔法少女の援護、支援に可能性が見いだせる。

 その実現のためには、キズナエネルギーの解明と、キズナリンクの発動条件を発見することが急務である。

 よってこの夏季休暇を利用し、彼らの絆を深める機会を設けたい。



 以上が、政府で開かれた極秘の会議、「ゼルロイド、魔法少女対応協議会」において宮野がプレゼンした内容を砕いたものである。

 まあ要は

「ひと夏の思い出! 魔法少女と蒼くんの絆を深めちゃおう大作戦!」

 というわけである。

 宮野は政府のお偉方の前で、この作戦名を堂々と言い放ち、悪い意味で周囲をざわつかせた。




■ ■ ■ ■ ■




 そんな大それた検証に付き合わされているとは露知らず、蒼は波打ち際にパラソルを立て、香子と日光浴に興じている。

 四方を緑に囲まれたこの保養所は、都市部に比べて気温が少し低いようで、脳を煮えたぎらせるような暴力的な暑さは感じない。

 寄せては返す波が体を冷やし、なんともいい心地だ。



「一昨日は大変だったのに、こんなにくつろいでていいのかしら?」



 昨日は皆勤賞を逃したと未練タラタラだった香子だが、今ではすっかり海を満喫している。

 海水で少し濡れた彼女は、なにやら色っぽい。

 サマーキャンプの時は何とも思わなかったが、香子は良い体をしている。

 スラリと伸びた四肢、美しい形の胸、細身な体に対してややボリューミーな腰回り。

 なにせあんな一夜を過ごしてしまった手前、蒼とて若干の劣情を覚えてしまう。


 蒼が珍しく下心丸出しで香子の体を隅々まで見ていると、なんと、彼女もこちらを凝視していた。

 女性は男性にいやらしい目つきで見られていることに気が付きやすいという話は聞いたことがあったが、まさかこれほどまでとは……

 いや、これは別にお前の体に見とれていたとかじゃなく……。等と、言い訳が蒼の口から飛び出るより早く、香子が不安そうに口を開いた。



「ねえ、その胸の痕……何ともない?」



 香子の意識は蒼の視線より、彼女が付けた(?)蒼の胸の紋様に向かっていたようだった。

 自分を心配してくれる彼女を、いやらしい目つきで見ていたことに蒼は少々罪悪感を覚えた。



「何ともないよ。いや、なんか模様がくっきりしてきたかな?」



 見れば、発生した直後はパっと見タトゥーの類にも見えるような浅い、痣のようだったそれは、いつの間にか明確な皮膚の窪みと化していた。

 大体1mm程度の深さだろうか。



「……ごめんね」


「何で謝るんだよ」


「アタシがもっと強かったら、アンタにそんなの付けなくて済んだのに……」


「そんなのとか言うなよ。俺とお前の絆の証みたいなもんだろ? 俺は気に入ってるよ」


「そっか……」



 頬を赤らめ、俯く香子。

 笑っているようにも、泣いているようにも見えた。

 「香子?」と、蒼が彼女の顔を覗き込もうとすると、バインという衝撃と共に、巨大なものが二人目がけて飛んできた。

 突然の出来事に体勢をして転げる二人。



「昼間から盛ってんじゃねー! このバカップル!」


「キャー! 香子さんの意識がピンク色です!」


「塩水でも被って反省してください!」



 3人の姦しい叫び声が響く。

 蒼が塩水でヒリヒリする目を擦りながら見上げると、やたら大きなビニールボールが浜に転がっていた。

 そういえば途中のサービスエリアで詩織があんなものを買っていた気がする。



「コノヤロー!やりやがったな!」


「もう!新里さんも響さんもお調子者なんだから!」



 そう言いながら、蒼も詩織もボールを担いで海へ入っていった。




■ ■ ■ ■ ■




「御崎先生どこ行ったんだろ」



 ひとしきり海水浴を楽しんだ後、シャワーで塩水を流し、施設のロビーに集合した魔法少女部。

 御崎に電話をかけようとするが、妙なことに電波が一本も立たない。

 施設内を見て回るが、他に人のいる気配はなかった。

 蒼達を送ってきた車はそのまま置かれており、どこかへ行ったふうでもなさそうである。



「ゼルロイド、ウボーム魔獣、カライン、全て反応なしだな……。敵に襲われたとかではないみたいだ……」



 万が一を考え、エネミースキャンを行ったが、微塵の反応も出ない。

 となると、残る可能性は、彼女がこの施設のどこかに隠れているということになるのだが、普通に考えて、そんなことをする必要性がない。

 まあ、普通に考えればだが。



『ハッハッハッハ! 魔法少女部の諸君!』



 突然、ロビーに置いてあったテレビの電源が入り、男の声が館内に響き渡った。



『御崎さ……くんは我が預かっている!』



 テレビには、黒いシルクハットを被った仮面の男が、縛られた御崎とツーショットで映っていた。



「何やってんすか宮野さん……」



 ……誰がどう見ても宮野であった。



『私は宮野ではない! 悪の帝王ミスターブラックである! ここから生きて帰りたければ、私の指示に従ってもらおうか!』


「あー……ハイ。僕ら何したらいいんでしょ」



 いい年をした大人の悪乗りに霹靂としつつ、とりあえず付き合う蒼。



「君たちには今日から3週間、共同生活を送ってもらう! そしてその間、私の出すお題全てをクリアしてもらおう!」


「3週間!? そんなん夏休み半分以上終わるじゃねーか!」


「ちょっとって言ってたじゃない! 横暴よ!」


「……補習の日と被るから……私は別に……」



 突然提示された強制長期合宿。

 口々に上がる非難。若干一名歓迎している者もいるようだが……。



『ええい! 騒ぐでない! 逆らうならこの案件を放置するぞ!』



 宮野がつい昨日見せてきた魔法少女達の身バレ画像集を画面に押し付ける。

 もはや正体隠す気ゼロである。



「うげっ! 汚ぇぞ!」


「くっ……! 職権乱用よ!」


 流石に響も、香子もグッと怯む。



『そういうことだ。高瀬蒼部長、最後は君に判断を委ねよう』



 蒼の視界の右側からは響と香子がジトっとした目で睨みつけてくる、一方、左側からは、詩織が目を輝かせながらしきりに「おーけー、おーけー」と口パクを送って来る。

 ティナはイマイチ状況を理解できていないのか、緊迫した目でこちらを見ている。

 よく見ると、宮野の肩がプルプルと震えていた。御崎もなにやら震えていた。



 左右からプラスマイナス双方の圧を感じるが、一任された以上、蒼は自分なりの考えを率直に言うこととした。



「うーん……。宮野さんがそんな妙な事してまで頼んで来るってことは、何か事情があるんだろうし……ここは3週間付き合おうよ」



 まあ、普段からお世話になっている身としては、無碍に断るのも忍びない。

 それに、日常的に御崎含むSSTの職員を試作武器の試用者にしてケガ人や意識不明者を多数出したりしているので、たまには自分が相手の企画に付き合わないと罰が当たるような気もした。



「……ちぇ~。お前がそう言うならウチも付き合うよ」


「もう……。変なところでお人好しなんだから」


「イェーイ! やったやった!」



 部内で若干の意思の相違はあったが、とりあえず蒼の判断に皆が従う形となった。

 やれやれという雰囲気の赤青、イケイケの黄、ほっと胸を撫でおろしている緑。

 思えば、部長として決断を下したのはこれが初めてではないだろうか。

 初部長命令で、それに皆が追従してくれたことは、少し嬉しい蒼だった。



『うっし!』

『やった!』



 画面の中の二人も何やら喜んでいた。



『ゴホン……。それでは今回のルールブックを手に取り、思う存分共同生活を楽しんでくれたまえ! フハハハハハハ!』



 高らかな笑い声と共に、テレビがブツンと切れ、施設に静寂が戻った。



「御崎先生縛られる意味あったのかな……」



 若干の疑問は残った。





 魔法少女部夏季合宿ルールブック。

 そう書かれた表紙には、詩織たちをデフォルメしたようなキャラクターのシールでデコレーションが為されていた。

 やたら堅苦しいフォントで書かれたタイトルとのギャップが激しい。

 大まかな内容としては、以下のとおりである。



・仲良く共同生活を行い、友情を深め合うこと。

・魔法少女諸君、及びティナは各々の名前が貼られた部屋を自室とし、生活すること。

・施設の設備、消耗品、食材は自由に使ってもよい。

・各部屋に置かれた個人課題を合宿終了までにクリアすること。

・夏季休暇課題もしっかりとこなすこと。



 ここまでは何もおかしくはない、むしろ合宿としてはかなり恵まれた条件と言える。

 だが、ここから妙な条件が並んでいた。



・蒼はカレンダーの記述に合わせて、各少女の部屋で就寝すること。この際、必ず対象の者と二人で過ごすこと。

・蒼は、各魔法少女の部屋に置かれた「シチュエーション課題」を必ずクリアすること。

・蒼は、施設の各所に貼られている「コミュニケーション課題」を、全てクリアすること。

・新里詩織には、補習の代わりに、相応の量の問題集を配布する。



 背後で崩れ落ちる詩織はさておき、あまりの意味不明さに呆然とする蒼。

 宮野は、というかSSTは組織ぐるみで自分に何をさせたいのか、訳が分からない。



「こんなこと書かれてるけど、君ら平気なのか?」


「アタシは今更相部屋くらいどうってことないけど……」



 香子はまんざらでもないようだ。

 「他の人に迷惑かけたら駄目だからね」と、圧はかけてきたが。



「別に蒼なら構わないぜ? 何かしてきても張り倒せばいいし」



 何やら物騒だが、彼女も別にどうということはないらしい。



「もう好きにしてください……」


「皆で一緒に生活できるなんて楽しみですね!」



 詩織は生きる希望を失い、ティナは素直に喜んでいる。

 拒絶はされたくはないが、ここまであっさりと受け入れられるのも男としてどうなのだろうか。



「まあ……君らが良いのなら問題ないか……」



 しかしそこはアッサリした男、蒼。

 このよく分からないイベントをさっさと進めるべく、ルールブックに添付されていた自分用資料に目を通す。


 3週間分のカレンダー表には、魔法少女達のデフォルメ顔アイコンが並んでいた。

 そのアイコンの並びと日付から見るに、詩織と5日間、響と7日間、ティナと5日間、香子と4日間という日程になっているようだ。

 「なんでアタシが一番短いのよ……」という呟きが背後から聞こえてきた。




■ ■ ■ ■ ■




「それじゃあ1時間後に食堂に集合しような」



 4人の部屋は施設の4隅に分かれていた。

 これだけ広いのに、4部屋しかないとは、なんとも贅沢な作りである。

 とりあえず、各人部屋に分かれ、身の回りの整理をしてから夕食を取ろうということとなり、一旦解散である。


 「いい? 新里さんに悪さしないようにね! 新里さんも、蒼に何かされたらすぐに言ってね!」と、別れ際の香子は妙に高圧的だった。



「いや~。先輩と相部屋だなんてラッキーですよ~」



 先ほどとは打って変わって、テンションの高い詩織。

 心なしか足音も弾んで聞こえる。



「言っておくが、補習課題はあくまでも自力で解くんだぞ? 質問には答えるし、解法も説明してあげるけど、俺にやらせようなんて考えるなよ?」


「うっ……。わ……分かってますよ」



 背中をビクンと震わせながら、部屋のロックを解除する詩織。

 どうやら磁気カード式のオートロック機構らしい。



「どうぞ私の部屋へ! お部屋代は補習課題でございます」


「へいへい……。課題は自力でやるから身につくんだぞ……。って……んなっ!?」



 詩織のジョークを華麗にスルーしながら部屋に入った蒼は、わが目を疑った。



「うわ~。綺麗ないいお部屋です……ね……」



 続いて入ってきた詩織は、目を点にして固まってしまった。

 日当たりのいい部屋、絶景を楽しめる大きな窓、真新しい壁紙、大きなテレビ、整った家具。

 いや、それはこの際どうでもよい。

 二人の視線の先にあったのは、キングサイズのカーテン付きお姫様ベッドと、並んだ二つの枕だった。



「SSTは俺に何を求めてんの……?」



 蒼は、自分の判断が間違いだったかもしれないと、今更になって思った。

 こうして、魔法少女部初の長期合宿が幕を開けたのだった。


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