第17話:謎のあざ
「えーっと……笠原さんが高瀬くんにベッドで温かくて白いのを注がれて気持ちよくなる……と」
「変な表現やめてくださいよ……」
正午過ぎ、魔法少女部室。
昼休みを利用し、ちょっとした部内会議が開かれていた。
御崎が香子の証言をレポートに書き留める。
昨晩、蒼と白い光で繋がった香子は、体内に巣食った恐怖を克服し、無事普段の彼女を取り戻した。
彼女個人としては秘密にしておきたかったのだが、蒼のエネルギーの解明や、今後の戦いに有益な情報ということで、蒼と相談の上、皆に報告することにしたのだ。
「先輩! どこまで行ったんですか!?」
詩織が案の定鼻息を荒らげて食いついてきた。
Aか、Bか、Cかで答えてくださいと香子に迫る。
「何もしてないわよ……」
「らしいけど、ティナちゃんどう?」
「嘘ついてますね」
「うう……」
人の感情を読み取ることが出来るティナまでも、詩織と共に香子の尋問に参加する。
蒼なら上手く誤魔化せたのだろうが、香子は読心能力を防ぐ術など持ち合わせていない。
白熱球電気スタンド、カツ丼が並んだテーブルを挟み、ニヤニヤと笑う二人組。
その対面で真っ赤になり、モジモジと「え……A……とBの間くらい……」と答える香子。
分かっていたことではあるが、香子は報告したことを死ぬほど後悔していた。
ちなみに、合宿帰りの響は頬を赤らめ、部屋の隅で複雑そうな表情を浮かべている。
「新里の恋愛観古いな……」
一方、蒼はケロッとしていた。
彼も本能のままに香子にがっついたのだが
「愛おしくなったんだからしょうがない」
というのが彼の談である。
それを聞いてますます赤くなる香子と、ヒートアップする詩織達。
「それより気になるのがコレだよ」
そう言いながら、徐に脱ぎ始める蒼。
「えっ 蒼さん!?」
「まさかこの場で笠原先輩を……!?」
「きゃあ! お前なにやって……!?」
蒼の突然の奇行に、香子を除くその場の全員が驚愕する。
詩織は興奮のあまり意味不明な妄言を垂れ流し、響は悲鳴に近い声を上げ、顔を手で塞いだ。
「いや、なんか胸に模様がさ……」
蒼が躊躇いなく下着を脱ぐ。
彼の左胸には三角形を組み合わせた模様のような、痣のようなものが浮かび上がっていた。
「これって……!?」
「ええ、その通りよ。 メタモルフォーゼ!」
香子が腕のデバイスを操作し、マジックコンバータースーツを装着して見せる。
「ほら、この模様と一緒なのよ」
蒼の胸に現れた模様は、香子のコンバータースーツの下腹部に灯るエネルギーの紋様にそっくりだったのだ。
しばしの沈黙。
「「キャーーーー!!」」
それを破ったのは、詩織とティナの黄色い歓声だった。
「心と体だけに飽き足らず、一生残りそうな痕跡までつけるなんて……!」
「ロマンチックです! 素敵すぎます!」
「下世話な話は好きじゃないけどさ……。ウチもそれはちょっと良いなって思ったぜ……」
意外にも仲間たちの反応は良好であった。
想い合う二人が人知を超えた力で結びつきを得るというのは、確かにロマンチックな話ではある。
だが、香子の表情は晴れない。
「ゴメンね……。アタシが勢いに任せて変なことしちゃったばっかりに……。それ、温泉とか入れないよね……?」
彼女が何より気にしていたこと、それは蒼の模様が入れ墨の類と誤解され、公共施設への出入りが不自由になるかもしれないということであった。
生真面目な香子らしい感覚だが、蒼もギクッと肩を震わせた。
「あ、言われてみれば……」
実は温泉好きの蒼。
これから夏を越えれば、温泉巡りの楽しいシーズンがやってくるのだ。
各温泉地へのアクセスに優れる大城市のメリットを生かし、一人温泉旅行を楽しんでいた彼にとっては、結構ハードな運命だったのだ。
「しまったぁ……」
「ごめんなさいぃ……」
膝から崩れ落ちる蒼と、それに泣き縋る香子。
よく分からないシリアス展開に、詩織たちも茶化しづらくなってしまった。
と、ここまでレポートを纏めながら部員達を静観していた御崎がすくっと立ち上がった。
「大丈夫よ高瀬くん! 笠原さん! SSTは各温泉地にプライベート温泉を持ってるわ! 利用券なら好きなだけあげる!」
香子と蒼の肩をポンポンと叩く御崎。
それを聞いた二人の表情がパアっと明るくなり、希望に満ちた顔で御崎を見上げる。
見上げた先の御崎の顔は、この上ないほどの笑顔だったが、どこか邪悪な雰囲気を漂わせていた。
「その代わりなんだけど、その現象がどういう状況で起きるかの再現と、笠原さん以外とでも起きるか実験してほしいの」
笑顔をズイと近づけ、手をワキワキとさせながら二人に交渉を迫る御崎。
思えば、彼女もややマッド寄りの研究者であった。
「はい! 引き受け……」
「ダメー!!」
どうやら、この現象の謎の解明はまだ先になりそうである。





