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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第14話:ダークフィールド




 異次元空間のウボーム前線基地。

 その地下には、捕えた戦巫女や、異次元の住民達が幽閉されている。


 その独房の一つに、紫の魔法少女、小森由梨花は幽閉されていた。

 アマトの地侵略に備え、送り込まれた斥候によって囚われていたのだ。

 今彼女は、キメラゼルロイド化したリザリオスと戦わされている。


「くっ……バイオレットランス!」

「ゲゲゲゲゲゲ!」


 ゼル・リザリオスは槍の乱舞を容易く回避し、口から粘液を噴射する。


「きゃあ!!」


 由梨花の全身に付着したそれは、マイナスエネルギーを放出し、彼女のエネルギーを破壊していく。

 ガクリと尻もちをつき、荒い息をする由梨花。


「体の自由が……効かない……! 私に何をしたの!?」


 彼女の実力をもってすれば、ゼルロイドと融合しているとはいえ、リザリオス1体程度なら容易に倒せるはずだ。

 だが、今日は全く様相が異なっていた。

 錘や枷を付けられているがごとく重い全身。威力が全く足りない光線、なまくらの槍撃。

 そして、敵はこれまでに無いほど俊敏で、攻撃力が格段に向上している。




「ホホホ……。いかがですかなザルド様。これこそが我が魔導院の研究の賜物。ダークフィールドですぞ」


 射影陣に投影された痛めつけられる由梨花の様子を見つめ、誇らしげに解説するバーザ。


「ダークフィールド内は絶望、悪意、嘆きのエネルギーで満たされ、奴らは力を半分も発揮できず、我らのキメラは倍以上の能力を発揮できるようになりますぞ。外部からの突入も不可能。忌々しい敵兵器の邪魔も入りませぬ。それから……」

「もうよい」 


 名一杯自身の発明を誇示しようとするバーザの言葉を遮るザルド。

 一瞬、悪い印象を持たれたかと思ったのか、バーザは肩を震わせる。


「御託はよい。実戦で効果のほどを示してみせよ」

「はっ! ははー!」


 バーザは急いで跪くと、慌てて攻撃指揮所まで走っていった。

 転送陣が眩く輝き、魔獣を一体アマトの地、すなわち大城市へと転送し始めた。




■ ■ ■ ■ ■




「うう……わたしには生きる価値なんてないんだ……。役立たずなんだ……」


 毎度おなじみ、学生街のカラオケ店で、ティナはヤケ食いヤケ飲みを敢行していた。

 パフェと牛乳で、だが。


 先日のSST攻撃車両の初陣において、蚊帳の外に置かれていたことを気に病んでいるティナ。

 ただでさえ戦闘で役立てていないのに、最近ではキメラゼルロイドの出現により、ウボーム魔獣に対する知識さえ生かせない。

 ウボーム魔獣からこの世界を守るため、国も、家族も、友も捨ててやって来たハズが、ベンチウォーマーにもなれないとなれば、ティナでなくとも落ち込むだろう。

 

「そう気を落とすなよ……。響や新里も留守番してたろ」

「物事には適材適所って言葉があるのよ。あの時はアタシが適材だったってだけだからね?」


 蒼と香子が彼女を慰める。

 詩織は補習、響は掛け持ちしている他部の夏前強化合宿とやらで他県へと出張っているため、今日の魔法少女部は臨時休部である。


「うぇぇえええええん!! 巫女長ぉぉぉ! ティナは使命を全う出来ません~!!」


 この店のパフェ全種類を食べ尽くし、牛乳2パック分を飲み切って尚、ミルクシェイクに手を伸ばすティナ。

 この量が小さな体のどこに入っているのだろう……。


「アンタのブレイブウィングとか、サポートバードみたいなの作ってあげられないの?」

「そりゃ作ってあげたいけど……。スキャン結果見るに、この子ウィングシステムと相性悪いんだよ。なんでか知らんけど」

「うーん……困ったわね……」


 途方に暮れる二人。

 その間にも、テーブルの上のスイーツが次々とティナの胃袋に吸い込まれていく。

 香子がそろそろ止めた方がいいかと思い始めた時、蒼の腕時計型デバイスがけたたましいアラームを響かせた。




■ ■ ■ ■ ■




「発進! ブレイブウィング!」


 フードを深くかぶりながら、退避する人込みを逆行し、走る蒼、香子、ティナ。

 ウボームのキメラゼルロイドが大城市の旧ベッドタウンエリアに出現。

 詩織と響は音信不通のため、急遽3人に出撃要請がかかったのだ。

 SSTからはガンスプリンターが急行中らしい。


「うえっ……気持ち悪くなってきました……」

「あんなに食べるからよ! もう! 戦いたいならちゃんと体調管理もしなさいよね!」


 やがて、人混みが途切れ、街並みが廃工場と建設途中の廃ビルが並ぶ景色へと姿を変える。

 その退廃美と無常の入り混じる風景の中に、10mほどの獣が静かに佇んでいた。


「メタモルフォーゼ!」

「合体!」


 素早く戦闘態勢に入り、身構える二人。

 香子の青い粒子が辺りを包み、蒼の翼が青く輝く。

 ティナはその後ろで腹を抑え、へたり込んでいる。


「キタナマホウショウジョドモ!」


 上から聞こえてきた声に、二人が見上げると、廃工場の煙突上でリザリオスが怪しげな球体を抱え、叫んでいた。


「ワレラノマジュツヲミヨ!」


 そう言うと、リザリオスはその球体を獣目がけて投げつけた。

 球体が獣に吸い込まれたかと思うと、その身体を紫色の光の帯がジワジワと下っていき、地面に奇怪な魔法陣を描き始めた。


「エナジーキャノン!」

「グワアアアアアア!!」


 蒼は一先ずそのリザリオスを射殺し、怪しげな事態が起きている獣にじりじりと近づいていく。

 香子もそれに続いた。


「蒼……! 迂闊に手を出さない方が良いかもしれないわよ」

「それは分かってるが、何か起きる前に倒した方が良い場合もあると思うぜ……」


 魔法陣は見る間に広がり、やがて蒼達の立っている地点まで迫ってきた。


「蒼さん! 香子さん! その魔法陣は!」


 腹痛の波を乗り切ったティナが何か言おうとした時には、既に全員がその陣の中に入ってしまっていた。


 突然、空が黒と紫の入り混じった色に染まり、辺りを照らす太陽の光が激減する。

 同時に、周囲を覆っていた青い光の粒子が掻き消え、黒や、紫の粒子がブクブクと泡立つように辺りから湧き上がってきた。


「うっ……!」


 香子がよろめき、蒼に寄り掛かる。

 息が荒くなり、足腰がおぼつかない様子だ。


「どうした!?」

「力が……入らない……!」


 以前、カラインのマイナスエネルギー場で起きたことと酷使した現象が香子の身に起きていた。

 だが、この消耗ぶりはその時の比ではない。

 そして、もう一つ異質な点があった。


「怖い……蒼……何か、凄い怖いものが……アタシの中に入ってきてる……!」


 香子が、異様なまでに恐れ、慄いているのだ。

 何をされるでもなく、ただこの空間にいるだけで、彼女の戦闘能力のほとんどが失われてしまっている。


「あ……ああ……!」


 香子だけではない、ティナもまた、地面に突っ伏し、プルプルと震えている。


「グギョオオオオオオオ!!」


 この空間が形成されるのを待っていたかのように、獣が咆哮し、3人に襲い掛かってきた。

 その姿は巨大なネズミだが、ウボーム魔獣とゼルロイド反応が出ていることから、何らかの生物と融合している可能性が高い。


「おっと!」


 震える香子とティナを抱え、一旦高台へ退避する蒼。


「これは参った。SSTの到着待つか……」


 エネルギー場が消滅したため、蒼もまた、戦闘力の大幅な減退は避けられない。

 幸いにも住民のいないエリア。ある程度待機する余裕はあるだろう。

 敵の動きを見定めながら、蒼は御崎に通信を送る。

 だが、通信が通じる気配はない。

 それもそのはず。

 ダークフィールドは一種の異次元空間であり、電波も通らなければ、物理的に侵入することも実質不可能なのだ。

 事実、黒紫色のドームを前に、ガンスプリンターは立ち往生してしまっていた。


「どうすりゃいいんだコレ……。あいつ倒したらこの空間解けるのかな?」


 震える香子とティナを交互に見つめ、香子に歩み寄る蒼。


「笠原。戦えそうか?」

「え……ええ。何とかやってみるわ。力は不十分だけど……」


 蒼は香子に肩を貸し、立たせると、彼女と共に宙へ舞い上がる。


「いくぞ! 笠原!」

「う……うん!!」


 香子は自分を奮起させるように、大声を出し、頬を叩き、気合を入れた。


「エナジーキャノン!!」

「シュトライフリヒト!」


 2人の閃光が敵めがけて伸びていく。

 だが、直撃を受けて尚、敵は全く動じていない。


「くっ……やっぱりエネルギー量が足りてなさすぎるか……!」

「ひっ……アタシの攻撃が効かない……!」


「ギュオオオオオオオオ!!」


 今度はこっちだとばかりに敵が咆哮し、こちら目がけて走って来る。

 そして、高い障害物を器用に上り、飛び、二人のいる高度まですさまじい速度で飛び上がって来たのだ。


「ひいっ!!」


 ダークフィールドの毒気に当てられてしまった香子は恐怖で動きが止まってしまう。


「危ねぇ!!」


 香子を抱きかかえ、横跳びで回避する蒼。

 その腕を鈍い痛みが襲った。


「ぐっ!! 何だ!?」

「蒼! 痛い!目が……目が見えない!!」


 半ばパニックになりながら、香子が必死でしがみついてくる。


「笠原! 大丈夫か! うおっ!!」


 再び飛来した敵を避け、一旦距離を取るべく、建物の隙間を縫って飛行する蒼。

 だが、この判断は誤りであった。

 高い障害物の少ない場所へ退避すべく、廃ビル横を通過した蒼は、突然、全身を見えない何かに激しくうちつけてしまったのだ。


「うあああ!! 何だこりゃ!?」

「きゃあ!」


 蒼の体が空中に縫い付けられたように停止する。

 抱きかかえられた香子も同じく、宙で固定されてしまう。


「これは……! 蜘蛛の巣!!」


 2人を捕らえた目に見えない壁。それは、タランチュラゼルロイドとドブネズミ型ウボーム魔獣「ラットラス」のキメラ。「タラントラス」の張った蜘蛛の巣トラップであった。


「ぐっ……ぐおお!!」

「嫌……嫌あああああ!!」


 その糸は恐ろしく固く、2人の力ではビクともしない。

 やがて、その糸の振動を感知したタラントスがヒタヒタと音を立てながら、蜘蛛の巣を渡って来る。


「あの痛みはタランチュラの刺激毛か……! でもタランチュラってこんな巣張らねぇだろ!」

「蒼! 助けて!蒼!!」


 置かれた状況に対して冷静すぎる蒼と、半狂乱の香子。

 タラントスは暴れまわる香子を獲物と定め、鋭い牙に毒液を滴らせながら、彼女に迫る。


「やめろ! エナジーキャノン!」


 遮二無二、エナジーキャノンを乱射するが、タラントスは気に留める様子もなく、香子の右腕に牙を突き刺した。


「きゃああああああ!!」


 香子の絶叫が木魂する。

 その牙から流し込まれるのは、タランチュラの猛毒と、マイナスエネルギー、そして、ダークフィールドから取り込んだ恐怖と嘆きのエネルギー。


「いやあああああ!! 助けて! 蒼! 助けてえええ!!」


 全身をバラバラにされるが如き痛みと、心を粉々にすり下ろされるほどの恐怖を撃ち込まれ、泣き叫ぶ香子。


「笠原!! くそっ! ブレードイジェクト!! エナジーストーム!!」


 ありったけの武装を放つが、蜘蛛の巣に絡め取られていては狙いもままならず、たとえ命中しても殆ど効果がない。

 頼みの綱のサポートバードも、通信が通じなければ呼び出すことも出来ない。

 万事休すか……。

 蒼が次の一手を何とか捻り出そうと、必死で考えを巡らせていたとき。

 背後で何者かの咆哮が聞こえた。


「ヴォオオオオオオ!!」


 それは、眼前のネズミのそれとは全く異なる、野太く、いかにも逞しい生物を思わせるものであった。


「新手か!? こんな時に!?」


 ただでさえ危機的状況にも拘らず、さらに、いかにも強そうな敵の来襲。

 楽観的な蒼でさえ、自らの命の危機を感じ始めた。


「ヴォオオオオオオオ!!」


 その雄叫びは急速に接近し、蒼のすぐ背中越しに、激しい吐息が聞こえてくる程の距離まで近づいていた。


「ギュオオオオオオ!!」


 香子を散々に痛めつけていたタラントスが不意に振り返り、蒼目がけて吼えた。


(これはかなりヤバい状況じゃねぇの!?)


「ギュオオオオオ!!」


 そのまま、蒼に飛びかかって来るタラントス。

 その光景がスローモーションのように見え、「ああ、これが走馬灯なのか……」と、蒼が自らに迫る死と、死にまつわる不思議な現象に納得した瞬間、横合いから飛んできた巨大な緑色の腕と、そこから生える鋭い爪が、タラントスをズタズタに引き裂いた。

 死を覚悟し、感覚が研ぎ澄まされていたためか、その光景もまた、ゆっくりに見えていた。

 そんな中、蒼はふと、ティナに聞いた話を思い出す。


「わたしも翠玉の飛竜と融合し、マナや聖の力を強化しています」


 まさか、とは思いながらも、動かせる範囲で顔を後ろに向け、その爪の主を探す。

 その持ち主が視界に入る前に、ブチブチという音とともに、全身を縛る糸が切断され、体がふわりと宙に浮いた。

 落下する蒼と香子をがっしりと掴んだ腕の持ち主は、巨大で、美しい翠玉色の表皮と、オーロラのような透き通るヒレを全身に備えた、“翠玉の飛竜”であった。


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