第12話:爆誕! パワードディアトリマ
商店街の中心に鎮座する“岩”。
その岩は、高さが2mほど。
綺麗な富士山型で、ぱっと見商店街のオブジェにも見える。
だが、アーケードに開いた巨大な穴が、その岩が空から降ってきたものであるということを示していた。
そして、その周りにリザリオスがうろついていることから、ウボーム絡みであることも分かる。
「何だありゃ……?」
「岩型キメラゼルロイド……ですかね?」
「何と何を組み合わせたら岩が出来上がるのよ……」
ゼルロイド警報で皆が逃げ出した商店街に駆け付けた魔法少女3人。
リザリオス達の動きに注意を払い、物陰から様子を伺う。
蒼にもゼルロイド出現は知らされているはずだが、何度通話を試みても出ない。
集中モードに入ってしまった蒼は、ちょっとやそっとの音、衝撃では見向きもしないのだ。
『あんなウボーム魔獣見たこともないです……。ごめんなさい……わたし力になれそうにありません……』
SSTオペレーション室のティナも、その姿には困惑を隠せない。
御崎も「慎重に戦うべき」以上の指示を出せず、魔法少女達に現場判断を任せる構えだ。
「このまま待ってても何も始まらねぇ! 雑魚掃討すんぞ!」
「私も行きます!」
「あっ! ちょっと二人とも!」
「変身!」
「装着!」
香子の制止を聞かず、突撃をかける詩織&響。
「もう……蒼も何やってんのよ! メタモルフォーゼ・ユナイト!」
雑魚掃討に強い詩織が変身し、残る二人はコンバータースーツを装着。
香子はレイズイーグルと合体する。
「ライトニングミラージュ!」
「オラー!! ジャイアントスイーング!!」
「ザイテ・バルカン!」
「ナ! ナンダキサマラ!」
不意を突いて突撃してきた魔法少女達の猛攻に、リザリオス軍団は総崩れだ。
詩織の光刃が敵を次々と切り裂き。
響はプロレス技でちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
香子のバルカン光弾が敵をハチの巣にする。
「ハ……ハヤクウゴケ!」
生き残ったリザリオス達が岩の後ろへと逃げていく。
「逃がさない! ライトニングスラッシュ!」
詩織が高速でそこへ回り込み、光の短剣で次々と切り倒す。
それでも尚、岩の周りをちょこまかと動き、何とか逃げようとするリザリオス達、
「何だてめぇら情けねぇな!」
響がそのうちの一体に飛びかかり、スープレックスを仕掛ける。
「ちょ……ちょっと二人とも!! その岩にあんまり近づいたら駄目!」
この期に及び、その岩がゼルロイドだと意識していたのは香子だけだった。
だが、すぐにでも敵を全滅させようと逸る二人には、その声は届かなかった。
岩がムクリと動いた。
詩織は一瞬、目の前の景色がドロリと溶けていくような錯覚を覚えた。
そしてその直後、全身を凄まじい力で包み込まれた。
「新里さん!!」
体はピクリとも動かず、視線が上へスライドしていく。
下の方で、香子が自分を見上げて叫んでいた。
(え……私……どうなって……)
詩織が自身の置かれた状況を把握するより早く、激しい遠心力と、体が潰れるような激しい衝撃が彼女を襲った。
『あれは……! 剛力獣ゴリガリラ!!』
岩が姿を変えて現れたのは、ゴリラのようなウボーム魔獣だった。
彼女たちが岩と見まごうた表皮は、トコブシ型ゼルロイドの貝殻成分だったのだ。
ゴリガリラ×トコブシのキメラゼルロイド。
ブシガリラとも呼ぶべきか。
詩織はその剛腕に掴まれた衝撃で脳が揺れ、抵抗する間も無く投げ飛ばされてしまったのだ。
そのあまりのパワーに、彼女は商店街の端を越えて吹き飛び、突き当りの建物の外壁に叩きつけられ、意識を失った。
同時に、彼女の変身が解け、黄色いエネルギー場の粒子が消えていく。
「やべぇ! 変身!」
響が慌てて変身し、辺りを赤い粒子に包み込んだ。
その隙にブシガリラは素早く飛び上がり、呆気に取られている香子の目の前に立ちはだかった。
「ひっ! ぐはぁ!!」
香子は突然の出来事に対応できず、その剛腕を胸に受け、血反吐を吐いて意識を失う。
「ホッホウ!!」
ブシガリラは雄たけびを上げ、倒れ伏した香子を何度も踏みつけ、思い切り上へ投げ飛ばした。
アーケードの天蓋を砕き、宙へ舞い上がった香子は、勢いよく落下、天蓋に叩きつけられ、人型の窪みを作った。
「きょ……香子!! この野郎!」
響は怒りと闘志を燃やし、ブシガリラに殴りかかった。
「ホウッ!!」
ブシガリラは、その巨体からは想像もつかない速度で反応し、片腕で燃える拳を受け止めて見せた。
「くっ……。 ぐああああ!!」
それだけではない、腕に開いたトコブシの殻の穴から、弾丸が放たれた。
それは彼女の全身でパン!パン!と軽快な音と激しい衝撃波を生み、響を弾き飛ばす。
「こいつ……クソかてぇ上に変な技もってやがる……!」
「ウホホホホホホホ!!」
「ぐっ……! このっ!! だぁ!」
今度はこっちだとばかりに、ブシガリラが次々と拳を放つ。
一撃一撃が必殺の威力を秘める剛撃。
響はそれを拳で迎撃する。
力と力がぶつかり合い、周辺の空気が揺れ、商店街のアーチがバラバラと崩れ始める。
「ぐああ……!」
先に根を上げたのは響だった。
敵の全身を覆った殻は恐るべき固さで、響の拳は既に血まみれだ。
「ッホウ!!」
片膝をついた響に、容赦のないアッパーが撃ち込まれる。
響はアーケードの天蓋に激しく激突し、そのまま地面に叩きつけられた。
「くそっ! まだ負けねぇぞ!」
だが、パワーとタフネス自慢の響はこの程度でやられはしない。
揺るがない闘志に呼応するように、拳が赤い炎を纏っていく。
大地を強く踏みしめ、勢いよく突撃をかける。
「うおおおおお!!フレイムナックル!!」
燃える双拳を振りかざし、ブシガリラ目がけて振り下ろす。
「ウホッ!!」
異様な力を感じ取ったのか、ブシガリラは両腕の殻を結合させ、防御の姿勢をとる。
「おりゃああああああ!!」
拳に込められた超高密度のプラスエネルギーが激しい爆発を生み、固い殻をバキバキと破壊していく。
「ゴホオオオ!!」
悲鳴のような咆哮をあげるブシガリラ。
その右腕が捥げ飛び、上半身を覆っていた殻がバキバキに砕け飛んだ。
衝撃で倒れ、のたうち回って苦しんでいる。
「どうだ!? ウチのパンチはすげーだろ!」
再び両腕に力を込め、クロスさせる。
「はああああああ!!」
先ほどのそれに数倍するエネルギーが拳を覆っていく。
「これでトドメだ! ……なにっ!?」
必殺の拳を叩き込むべく、踏み込もうとした彼女に異変が起きた。
「足が……動かねぇ!」
先ほどまで力強く動いていた両足がピクリとも動かないのである。
慌てて自分の下半身に目を向けた響は目を疑った。
自分の足が殻のようなものに覆いつくされているのである。
そしてそれは足だけに飽き足らず、彼女の腰へ、胸へと徐々にせり上がってきた。
「こいつは……! 貝のチビ!? まさかあの時!?」
トコブシの貝殻の穴はエラ呼吸のみに使われるものではない。
排せつや産卵にも用いられるのだ。
響が食らった弾丸、それはトコブシゼルロイドの稚貝だったのである。
急速に成長した稚貝は、響の肉体に張り付き、甲殻を連結させて一繋ぎの鎧と化し、彼女の自由を奪ったのだ。
「ホホ……ホホウ……」
ここぞとばかりに立ち上がり、左腕を掲げて迫って来るブシガリラ。
香子を覆う貝は、いよいよ腕の関節にまで達し、防御すら封じられた彼女は、それを黙って見ていることしか出来ない。
「ホウ!」
「ぐああ!!」
巨大な拳に殴打され、吹き飛ばされる響。
防御はおろか、受け身すら取れぬまま、柱に叩きつけられる。
「ホッ! ホホウ! ホホホホホホホホ!!」
倒れた響に覆いかぶさり、左腕を叩き込み続けるブシガリラ。
「ごほっ!! ぐはぁ!! おごっ!!」
無防備な全身に打ち込まれる剛腕。
詩織や香子に一撃で致命傷を与えるほどの殴打を連続で受け、泡を吹きながら悶絶する響。
「ウホホホホホホ!!」
一際大きい咆哮を上げると同時に、思い切り飛び上がったブシガリラの拳が振り下ろされるのを見て、響は死を覚悟した。
『させるか!!』
だが、商店街の路地を粉砕しながら飛び込んできた巨大な鳥によって、その一撃は遮られた。
「ウホホウ!!」
見えない壁。いわゆるシールドに拳を遮られたブシガリラが飛び退き、威嚇の咆哮をあげた。
『悪い! 待たせた!』
その鳥から聞こえてきた蒼の声。
響はキョトンとして、その巨鳥を見上げる。
それはよく見ると、無数の機械部品で形作られた、鳥型のメカであった。
『完成したぞ! 響のためのサポートバード! パワードディアトリマだ!』
「パワードディアトリマ……。で……でけぇな!?」
響が自身のパートナーに抱いた最初の感想は「デカい」だった。
無理もない。
なにせその全高は2.5m。目の前のゴリラよりデカいのだ。
『俺はそれを組み上げた筋肉痛で動けん! とりあえず合体してくれ!』
「お……おう……。合体!」
パワードディアトリマの全身が武器に変形しながらバラけていく。
やがてそれは、巨大な拳となって響の両腕に組みついた。
『使い方は簡単だ! 力を込めて殴れ!』
「そりゃありがてぇ!! うおおおおお!!」
単純明快な用法に従い、思い切りエネルギーを込める。
激しすぎるエネルギーの振動が、彼女に取りついた稚貝たちをバキバキと粉砕していく。
彼女の攻撃の意志に呼応し、背中に組みついたサポートブースターが勢いよく噴流を吐き出す。
「おりゃあああああ!! インフェルノブレイカー!!」
恐るべき熱量を纏った二つの拳が振り下ろされる。
ガードの姿勢をとったブシガリラは一瞬にして肉片と化し、瞬く間に燃え尽きた。
爆炎と衝撃波が辺り一面に吹き荒れ、あちこちが破損していたアーケードの天蓋を根元から吹き飛ばし、引っかかっていた香子が落ちてくる。
「おっとあぶねぇ!」
間一髪で響がそれをキャッチした。
「うっわあ……。これ修理代とか大丈夫なのかしら……」
強化架装中の攻撃車両をまたも無理やり持ち出して駆け付けた御崎が、その破壊力に唖然としていた。





