第10話:キメラゼルロイド
「ゼルロイド反応あり! 大城市南西部、旧工場地区です!」
「サーチカメラ向けます!」
本格的に夏が始まり、高温警報が毎日のように出始めた頃。
SSTのオペレーションルームがにわかに騒がしくなった。
「容姿がウボーム魔獣のそれによく似てるわね……」
御崎の目の前のモニターには、ドルドラスを思わせる西洋竜型の獣が映し出されていた。
自衛隊のF-4EJの部隊が攻撃に向かったという連絡が矢継ぎ早に入って来る。
外観から、ウボーム魔獣と判断し、スクランブル発進をかけたようだ。
「いつものウボーム魔獣ならこれで撃破できるけど……」
ゼルロイドの反応が出ているのがどうにも気がかりだ。
この巨大獣に反応が出ているかもしれないし、周辺にいる小型ゼルロイドに反応が出ている可能性もある。
モニターの中の巨大獣を注視する御崎。
攻撃開始の報と共に、その巨体で激しい爆発が起きた。
「自衛隊の空対地ミサイル全弾命中!」
続いて攻撃成功の報が入る。
黒煙と砂埃が辺りを包み、巨大獣の姿を覆い隠す。
「どうかしら……?」
御崎の額を緊張の汗が伝った。
激しい爆炎の中から、無傷の巨大獣が現れた時、御崎の懸念は確信に変わった。
「ゼルロイドとウボーム魔獣の複合生物が出現! 大城市全域に避難命令!」
オペレーションルームに素早く指示を出し、市内へ素早く情報を流させる。
そしてマイクを引っ掴み、本部全体に緊急放送を行う。
「試作車両使える!? 私が現場に向かうわ!」
これがキメラゼルロイドと名付けられた強敵との、苛烈な戦いの始まりであった。
■ ■ ■ ■ ■
「ゼルロイドとウボーム魔獣の合体生物!? そんなんクソ厄介じゃんか!」
御崎の車で現場に急行する響、詩織、ティナ。
蒼と香子は変身、合体して先に向かっている。
「あのサイズでゼルロイドとなると、高瀬先輩と笠原先輩のコンビじゃないと倒せませんよね……?」
「倒せたらまだいいけど、仮に二人の攻撃が通じなかったらまずいわ。一応特殊攻撃車両の試作車は持ってきたのだけど……。どこまで有効か……」
御崎の車についてくる、御崎のそれと同型のSUV。その屋根には、以前蒼が描いていた設計図によく似たエナジーキャノン砲塔が搭載されていた。
流石に専用設計の装甲車や戦車を作るには、SSTの予算は少なすぎるが、既存の車両に搭載する砲と増幅器なら、年間3台程度は十分製造が出来る。
そのうちの攻撃用車両を、無理やり持ってきたというのだ。
まだ砲塔は未塗装で、SSTマークも右側ドアにしか貼られていない。
「炉心は高瀬くんに借りたけど、増幅装置のテストがまだ出来てないの。万全の火力が出せるかは分からないわ」
この車両は後部座席と荷台にぎっちりと詰まった増幅装置で、蒼のエネルギーを増幅し、エネルギー場の粒子と結合させて発射する構造。
増幅器が万全に動かなければ、炉心から出る蒼のエネルギーのみをチビチビと発射することしか出来ない、劣化レイズイーグルになってしまうのだ。
「先生それ大丈夫なんですか!?」
「分からない……。でも、現状無いよりはましでしょ?」
不安からか、御崎の語尾には疑問符がついていた。
「先生! 前から敵が来ます!」
これまで神妙な面持ちで俯いていたティナが突然顔を振り上げ、叫んだ。
直後、前方の茂みから、長さ1mはあろうかという剣が飛んできた。
「うわああああ!!」
ハンドルを右に切り、何とかそれを回避する。
後方を走る攻撃車両も同様に、回避に成功したようだ。
「先生! 私外に出ます!」
詩織はそう言うと窓を開け、車外に飛び出していく。
そのまま変身し、車の横にピタリと付いて飛行する。
「はぁ!」
再び飛来した剣を、ライトニングダガーで叩き落す。
「キサマ……ヤルデハナイカ……」
詩織がハッと振り向くと、車の前方の茂みを高速で走る影が目に入った。
「リザリオス!!」
彼女が叫ぶと同時に、四方の茂みからリザリオスの集団が飛びかかるように現れた。
急停止する車。
敵とあらばこのまま轢き殺したいところだが、戦車などと違い、乗用車は大きな衝撃を受けると走行不能になってしまう恐れがあるのだ。
「ココカラサキヘハイカセンゾ……シネ!」
リーダーらしき、赤い鉢巻をつけた個体の声を合図に、総勢20体ものリザリオスが、詩織と、SSTの車両に襲い掛かってきた。
■ ■ ■ ■ ■
「エナジーバスター!」
「シュトライフリヒト!」
一方、先行して向かった蒼と香子も既に戦闘に突入していた。
蒼と香子の光線がゼルロイドに次々と命中し、鱗の表皮を消し飛ばし、皮膚を焼き、抉る。
だが、その生命力は恐ろしいものがあり、なかなか致命傷には至らない。
「おっと! 危ねぇ!」
時折噴き出す灼熱の火炎は、直撃を受ければ消し炭にされかねない威力を持ち、長いチャージを要する大技を迂闊に使うことが出来ない。
「こいつ前に出たドルドラスに似てるな……ノロいけど再生してら」
「参ったわね……。動きはノロいけど、あの火が厄介だわ……」
「あいつらが来たら一気に畳みかけよう。それまでは時間稼ぎだ」
「オッケー」
二人は一旦ゼルロイドから距離を取ると、正面を避けながらアームレーザーや小威力の光線で敵を錯乱する。
鈍重な敵はその動きについて行けず、あらぬ方向に腕を振り、火を噴き、着実に体力を失っていく。
■ ■ ■ ■ ■
「魔導士バーザよ……。これでは今までと変わらぬではないか!」
異次元空間を漂うウボーム軍前線基地。
転送陣に映るキメラゼルロイドの苦戦にいら立ちを募らせるザルド。
失態続きの参謀長デューを更迭し、起用した魔導士バーザ。
彼の提唱したアマトの地に蔓延る脅威「ゼルロイド」と魔獣との融合は、先ほど示された通り、敵軍の攻撃を完璧に防いで見せた。
だが、今度は魔法少女と呼ばれる者と、見たことのない妙なもので飛行する輩の猛攻に遭い、既にかなりのダメージを負わされている。
「ザルド様、今しばらくのお待ちを……。ドルドラスゼルロイドの融合は今に馴染むでしょう。さすれば彼の者たちもひとたまりもないはずですぞ」
深くかぶったフードの中で、怪しげに笑うバーザ。
それに応えるように、転送陣の中のゼルロイドの体が徐々に変態を始めた。
■ ■ ■ ■ ■
「何だ!?」
目の前のドルドラス型ゼルロイドの背がバキバキと割れ、赤い背びれがニョキニョキと生えてきたではないか。
それだけではない、体の至る所がバキバキとひび割れ、赤い突起が次々と生えて始めたのである。
「蒼! 新里さんたちがリザリオスの群れと交戦中よ! キツイって……どうしよう!」
同時に舞い込んで来る仲間たちの苦戦の情報。
響に変身をバトンタッチし、コンバータースーツの詩織、ティナ、そして御崎も拳銃で奮闘しているが、如何せん数が多く、車両を守りながらなので、苦戦を強いられているようだ。
今すぐ助けに向かいたいが、謎の変態を終えたゼルロイドが進行を再開しており、この場を離れるわけにもいかない。
「蒼! 行ってあげて! ここはアタシが時間を稼ぐから!」
蒼の悩みを読み取ったかのように、香子が諭す。
「アタシの能力だと小型の敵とはうまく戦えないわ。雑魚一掃はアンタのバルカンが向いてるでしょ!」
「分かった! すぐ戻る! くれぐれも無理はするなよ!」
蒼は香子に背を向け、急いで詩織たちの元へ飛んだ。
■ ■ ■ ■ ■
幸運にも彼女たちの居場所はすぐに分かった。
響の赤いエネルギー場が覆っている地点が、ものの数キロ先に見えたのだ。
連結した複数のブースターの推力で一気に加速する。
内部に突入すると、ちょうどエネルギー場の中心あたりで赤い光弾が炸裂する様が見えた。
響がリザリオスと殴り合っているのだ。
時折見える黄色い線は、詩織の攻撃だろう。
リザリオスはおよそ10体。
当所の数の半分ということは、彼女たちは相当奮戦したようである。
「サイドバルカン!」
響のエネルギー場の中なので、威力はかなり落ちるが、それでも非ゼルロイドを撃破するには十分だ。
突然上空から降り注いだ光の豪雨に晒され、次々と倒れていくリザリオス。
その中には赤い鉢巻をつけたリーダー格が混ざっており、彼らは一気に総崩れとなった。
「フレイムナックル!!」
「ライトニングスラッシュ!」
彼らが怯んだ隙を突き、響の拳が、詩織の剣が残る敵を打ち倒し、切り刻んだ。
「先輩! ナイス助っ人です!」
「おしゃべりは一旦抜き! まだ敵が潜んでるかもしれないから、あのデカい奴のとこまで俺も一緒に行く。ほら急ぐ!」
リザリオスの襲撃を警戒しながら、再び車列は動き始めた。
■ ■ ■ ■ ■
「きゃっ!」
香子の周囲を次々と走り抜ける赤い閃光。
敵が変態と共に、全身の赤い突起や触手から光線を放つようになったのだ。
決して躱せない速度ではないが、とにかく同時に放たれる数が多い。
先ほどまでとは逆に、今度は香子が敵に翻弄されていた。
しかし、敵の注意は都市部ではなく香子に向いている。
このまま回避に徹すれば、蒼や他の皆の到着まで十分時間は稼げるだろう。
敵の射線を躱し、急降下して雑木林の上スレスレを飛行。蒼達が背後を付けるように、敵の進行方向をコントロールしようとしたその時。
突然、雑木林から複数の赤い触手が伸び、香子の足に絡みついた。
「うわっ! 何!?」
掌から放つ光線で触手を焼き切り、上空に逃れようとするが、今度は敵の左足から伸びてきた触手に両腕を絡め取られ、勢いよく地面に叩きつけられてしまう。
「ぐはぁっ!!」
受け身を取ることも出来ず、思い切り全身を打ちつけてしまい、血と胃液が香子の口腔から噴き出した。
呼吸が乱れ、意識が朦朧としている間に、再び触手が彼女の体を吊り上げ、今度はゼルロイドの背に勢いよく打ち付けた。
「うっ!!」
ごつごつとした岩のような皮膚が香子の柔肌にめり込み、彼女は声にならない悲鳴を上げる。
そして、香子が叩きつけられた部分の皮膚がバキバキと割れたかと思うと、赤いブヨブヨとした肉が姿を現し、グネグネと変形しながら香子の四肢を飲み込んでいった。
「こっ……これは……。ひっ!!」
四肢を拘束された香子の周りを、固い、ドルドラス本来の皮膚組織が覆い始めたのだ。
やがて、それは割れた部位を完全に覆い、香子の肌にまでせり上がってきた。
「なっ……何!? アタシ……取り込まれてる!?」
必死に体を揺すり、逃れようとするが、その皮膚組織に覆われた場所は、まるで岩のように固くなり、全く動かすことが出来ない。
それはやがて彼女の太腿、二の腕を飲み込み、胴体へと迫って来る。
「嫌っ! いやあああああ!! 助けて! 蒼助けて!!」
徐々に動かなくなっていく全身を懸命に揺すり、もがく香子。
しかし無慈悲にも、彼女を包み込もうとする皮膚の流れが緩まることは無かった。
■ ■ ■ ■ ■
香子の悲鳴が転送陣を通して、前線基地内に響く。
バーザはその様子を満足そうに眺め、ザルドに報告する。
「ご覧いただけましたかな? あれこそがアマトの地のイソギンチャク型ゼルロイドと、我らがドルドラスを融合させた、キメラドルドラスの力でございます。あのように触手をもってティナ捕獲。ドルドラスの再生力を応用し、奴を固い皮膚の中に捕らえ、この世界に生かしたまま連れ帰るという寸法でございまする」
「ふむ……。しかし、今捕えたものはティナではないぞ。魔法少女とやらはもう足りておる。その者は始末し、早急にティナの捕獲に専念させよ」
「はっ!」
素早く向き直ったバーザは、手に持った杖に念じる。
すると、転送陣の中に映るキメラドルドラスの動きが止まった。
「そやつを焼き殺せ」
■ ■ ■ ■ ■
頭を除く全身を皮膚組織に包まれ、身動き一つ出来なくなった香子。
彼女を捕らえ、包む敵の温度が、凄まじい勢いで上昇を始める。
(熱い……熱い!)
キメラドルドラスが、火炎の熱を体内に巡らせ、表皮の温度を上げているのだ。
既に香子を覆う皮膚の内部は100℃を優に超えている。
変身していなければ、既に絶命しているレベルの高温だ。
(早く……蒼……みんな……)
彼女に出来ることは、助けを待つことのみ。
だが、祈っている間にも敵の温度はぐんぐんと上がっていく。
頭についているコスチュームが燃えはじめ、エネルギー場の密度が薄くなっていく。
変身が解けかかっているのだ。
(こんな状況で変身が解けたら……アタシ死んじゃう……嫌……)
頬を伝う涙さえ、蒸発するほどに加熱され、香子の意識が朦朧とし始める。
だが、薄れゆく意識の中にあって、彼女は見た。
白いを纏って突っ込んで来る、無数の刃を。
「ブレードトルネード!!」
ブレードフォーメーションの蒼は上空から急降下し、両手両足、そして背中の刃を突き出しながら、高速回転をかける。
高温で靭性の下がった敵の皮膚は、その刃の乱撃の為すがままに砕け散っていった。
「エナジーシャワー!!」
香子の全身を冷たく、激しい風が包み、燃え上がったコスチュームが修復していく。
激しい熱責めで遠のいた意識が徐々に戻り、ズドッという衝撃と同時に、体が軽くなったのを感じた。
「おい笠原大丈夫か! お前最近よく捕まるよな!」
そして、デリカシーの無い声をかけられ、香子の意識がはっきりと覚醒する。
「余計なお世話よ!」
サイコロステーキのように切り離された敵の肉からずぶりと手足を引き抜き、脱出する香子。
『高瀬くん!手を貸して!増幅器の不足分のエネルギーを頂戴!』
敵に目がけて照準を定めたSST特殊攻撃車両から、蒼に無線が入る。
「了解! ブレードホークイジェクト! 新里あとはよろしく!」
蒼はそのまま香子を背負い、車両傍まで降下していく。
入れ替わりに詩織がコンバータースーツを纏い、蒼からパスされたブレードホークと合体。敵の注意を引きつけて飛び回る。
熱エネルギーの体内放射を行ったためか、敵の動きは激しく鈍り、火炎も放ってこない。
攻撃にはもってこいな展開だ。
ブレイブウィングから伸びたエネルギーケーブルを攻撃車両の増幅器に繋げ、蒼の体内エネルギーと車両の炉心のエネルギー、そしてウィングが取り込んだ青いエネルギー粒子を増幅、圧縮していく。
「アタシもやる。蒸し殺されかけたのに反撃せずって悔しいから!」
香子の気合に呼応したのだろうか、周囲のエネルギー場が激しく活性化し、粒子の密度が濃くなっていく。
それに乗じるかのように、レイズイーグルが香子に合体し。現在における魔法少女部とSSTの最大砲撃戦力が並び立った。
「行くわよ二人とも! エナジーブラスター……シュート!!」
「ラクナルク・ポリアミトゥル!!」
御崎が車両の発砲ボタンを押し込み、香子が全身全霊でエネルギー砲を放った。
その二つの砲口から、双頭の龍のごときエネルギー流が放たれ、激しい衝撃波と共にキメラゼルロイドにぶち当たった。
「はあああああああ!!」
青い龍は勢いと奔流を拡大し、20mを超える敵の肉体を跡形もなく食らいつくしていった。
胸の透く様な大勝利だったが、これから始まる激戦、苦戦を予感し、誰もが真剣な面持ちで敵の燃え尽きた跡を見ていた。
「よっしゃー!! 今日も科学の勝利だ!」
蒼一人を除いては、だが。





