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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第8話:魔法少女部のサマーキャンプ <上>




 平和な日常。

 あまりに平和な日常。

 カラインは既に撃破され、カラノイドも2週間前に撃破された個体を最後に目撃例なし。

 ゼルロイド早期警戒システムのおかげで大方成長、増殖前に街の魔法少女が撃破できるようになり、ごく稀に出現するウボーム魔獣も自衛隊が対処可能。

 実際、先週出現したウボーム魔獣“妖牙獣ウルファオス”も、さしたる被害を出さぬままに空対地ミサイルの餌食となったし、それに呼応して出現したリザリオスも、居合わせた警察の拳銃で撃退されるなど、以前のように魔法少女部が走り回る必要性がかなり薄くなっている。


 少し視点を広げるとゼルロイドの跳梁でサウジアラビア、モンゴルが国土の一部破棄を宣言したり、メキシコ湾に押し寄せた巨大カブトガニ型ゼルロイドの群れに米軍が小型核ミサイルを使用する等の穏やかではない事態が発生していたが、少なくとも日本、そしてこの大城市は平和な日常を享受していた。


 平和なことは決して悪ではない。むしろ望むところである。

 しかし、平和ボケは宜しくない。

 実際ゼルロイドへの恐怖心が薄らいだ一部の人間が魔法少女とゼルロイドの戦闘を間近で見物に現れ、SSTがそれを補導する羽目になる等の面倒な案件も発生している。

 世界的には、いや、日本国内でもまだまだゼルロイドの脅威は収まっておらず、むしろ拡大しているくらいなのに、大城市のゼルロイドに対する認識は魔法少女ショーの敵役程度に成り下がっていた。

 蒼とSSTの尽力で最先端の防衛機器が最速で配備されることや、あくまでも緩くではあるが、カライン事件を通じてSSTと繋がりを持つ魔法少女が格段に増えたことがその平和ボケの要因と言えるだろう。


 SSTもこの事態には頭を痛めている。

 本来人々を早急に避難させ、魔法少女に敵の位置を知らせるためのシステムなのだが、かえって危険を増大させては意味がない。

 近いうちに蒼と話し合い、何らかの対策を取るべく検討中である。




■ ■ ■ ■ ■




 それはさておき。


「海行きましょう海!」

「アタシは海より川の方が好きかな~」

「水辺もいいけど山登りも楽しいと思うぜ!」

「合宿に向いたキャンプ場とかってあんのかな?」

「ああ……平和って素晴らしいことですね……」


 蒼も、魔法少女達も、ティナも、久々の平和を満喫する気満々であった。

 詩織と響の提案で夏の合宿キャンプに行こうという運びとなり、今まさにガイドブックを広げつつ、部内会議中である。

 今のところ、様々な方面から誘われるがままに体験入部を繰り返しているティナも、部員候補ということで誘い、総勢5人での旅となった。

 季節は初夏から盛夏へと移り変わり、気温は既に高いが、風が吹けばある程度は涼しい。

 まさにキャンプにもってこいの時期と言えよう。


「となると……。テント大小2つか。それと寝袋も買い足さないとな」


 タブレットでネットショップを開き、コスパの良さそうなものを探す蒼。

 以前買った合宿セットがやっと日の目を見そうである。


「アタシはこの辺から電車で行ける範囲のキャンプ場探すわ。海川山全部考慮に入れてね」

「ウチは……。まあ前日の買い出しと当日の荷物運びでもするよ。蒼と香子だけで準備終わりそうだしな」

「じゃあ私は御崎先生に合宿報告出してきますね」


 着々と進む合宿準備。

 慌ただしく活動してきたためか、部員の行動力はやたら高くなっているようだ。

 結局、大城市の外れの山間部を流れる川辺に作られたキャンプ場に決まり、日時は今週の土日。準備期間2日という強行軍となった。

 夏休みまで2週間を切っているが、いつゼルロイドやウボーム魔獣、または新手が現れるか分からない以上、思い立ったが吉日、吉週が鉄則なのだ。


「リベンジできるといいな……前の」

「カラインは倒したけど……。また何か変なの現れたしね……」


 また敵の襲撃が起きないことを祈りつつ、5人は週末を待ったのだった。




■ ■ ■ ■ ■




 当日。

 幸運にも大型ゼルロイドやウボーム魔獣は現れず、街は平穏を保っていた。

 小型ゼルロイドは出現したが、これは詩織や街の魔法少女達があっさりと駆除してしまった。


「晴れて良かったですね」

「あとは合宿中に厄介な敵が来ないのを祈るだけね」


 いち早く集合場所の大城駅前にやって来た詩織と香子。

 続いて蒼が寝袋が入った大きなリュックを背負って現れ、続いて響がさらに大きなリュックと食材などが詰まったクーラーボックスを両手に下げてやって来た。

 テント2つとタープテントが入っているそうだが、クーラーと合わせて60kg近いそれを軽々持ち運ぶとは流石の怪力である。


「あれ? ティナ来ないな」


 集合時間になったが、ティナが現れる気配がない。

 連絡手段もないので、今どこにいるかも、何があったかも分からない。

 途方に暮れていると、白いミニバンがロータリーをぐるりと回り、蒼達の目の前で停車した。

 窓がシャーっと下がり、満面の笑みの御崎が手を振っている。


「お待たせ~」


 後部座席のドアが開くと、中でティナが同じく手を振っていた。


「もう! 生徒だけでなんてズル……いえ、危険じゃない! 私が引率するわ! みんな乗り込みなさい!」


 平和を謳歌したいのは蒼達だけではなかったようだ。




「いや~もう暇で暇で参っちゃうわよ~。せっかくオペレーションルームとか作って、対ゼルロイド用小型火器や攻撃車両も試作段階に入ったのに、ゼルロイドは雑魚しか出なくなるし、鳴り物入りで出てきたウボーム魔獣も雑魚だしで私たちの立場がないじゃないの」


 いつになくよく喋る御崎。

 相当鬱憤が溜まっていたのだろう。

 聞かされている側はゲンナリだが……。


「おっ! ここのインター降りたらもうすぐよ!」


 ミニバンは山間部のインターを抜け、田舎道ながらも綺麗に整備された道路へと入っていく。

 大城市は財政的に豊かなため、このような市の隅にある道路まで整備が行き届いているのだ。

 近年では都市部からすぐのところにある自然豊かなエリアへの投資に力を注いでおり、アクセスのいい小綺麗なキャンプ場、ハイキングコースの整備にも熱心である。


「あっ! 先生! あそこの道の駅寄ってください! 美味しい焼き饅頭があるんです!」

「テナガエビのビスクなんかも売ってるらしいわね」

「あとこの先のソフトクリーム屋も旨いらしいぞ」

「いいわねぇ! 寄ろ寄ろ!」


 おかげで道沿いには観光客向けの施設が並び、魔法少女達の寄り道も大いに捗る。

 蒼はキャンプ場への入場時間が遅れることを懸念したが、逆らっても無駄だと思ったので、流れに身を任せつつ、名物の焼き高菜饅頭をもしゃもしゃと頬張っていた。




 奥大城キャンプ場は、山間部を流れる清流を見下ろす小高い丘の上にあった。

 先客が何人かテントを立てているが、混雑しているわけではない。

 車の乗り入れも可能なようで、御崎は設営所傍まで車を横付けし、駐車する。

 御崎は受付で入場を済ませ、車両止めゴムを借りてくると、ミニバンの前後輪にそれを嵌め込んだ。

 強風などで車が動き、テントに衝突するのを避けるためらしい。


「よし! それじゃあテント立てるぞ! ウチの指示に従ってくれ」


 キャンプ経験のある響、詩織を中心に、宿泊地を作っていく。

 インドア派の香子は随分苦労していたが、持ち前の器用さを発揮し、五角形の大ぶりなテント、魔法少女棟は10分程度で完成した。

 蒼の個人用テントはワンタッチなので、傘のような基部を広げ、ペグを打つだけで簡単に出来上がる。


「へ~。ほんとにすぐ建つもんなんだね……」


 技術好きの蒼はその構造にすっかり感心していた。


「それじゃあ泳ぎましょー!!」


 詩織が出来上がったばかりの魔法少女棟に駆け込み、瞬く間に着替えて飛び出してくる。

 白地に柑橘類の輪切り模様が入った、何ともフルーティーな水着だ。

 少し子供っぽくも見えるが、活発な彼女には丁度いい。


 香子のそれは逆に随分大人びている。

 藍色のクロスバンドタイプの上下に、落ち着いた色のリーフ柄のパレオを巻き、可愛らしいというよりはセクシーな雰囲気を受ける。



 響はなんというか……。

 俗に言う“モノキニ”というヤツだろうか。

 炎のような模様が描かれ、彼女のいいガタイと相成って、女子プロレスラーのようだ。


「高瀬くぅん。鼻の下伸ばしてるんじゃないの~?」


 後ろから随分機嫌のいい声が聞こえたので振り返ると、御崎まで水着になっていた。


「何よ~。私は泳ぐなって言うの~? ヒック」


 ギョッとする蒼の肩に手を回し、ゴンゴンと頭突きをかましてくる。


「ず……随分大胆な水着をお持ちで……」


 マイクロ……とまではいかないものの、随分と布面積の小さいビキニを着用している。

 色も黒にピンクのフリル付きと随分攻めたデザインだ。


「ていうか……呑みました?」


 ニヤニヤと笑う彼女から漂うアルコール臭。


「呑んだわよ~! 久々のオフだもーん!!」


 そう叫ぶと、川の浅瀬で戯れる魔法少女達に向かって全力疾走していき、フライングボディープレスをお見舞いしていた。

 本当に色々溜まっていたようだ。


「あ……あの……」


 響に迎え撃たれ、クロスチョップで撃墜される御崎を見ながら苦笑いしていると、ティナがミニバンから降りてきた。

 彼女はリボンビキニタイプの、これまた随分布面積の小さな水着を着用していた。

 おそらく御崎のお下がりだろう。

 御崎とティナは身長がかなり違うのだが、ウェストはピッタリ合っており、バストがキツキツになっているあたり、ティナがよほど恵まれた身体をしていることがよく分かる。


「これ……すごく肌が見えて落ち着かないんですが……。胸もなんだかきついし……」


 もともと肌の露出が少ない独特の戦巫女装束だった彼女からすれば、ほぼ裸のような感覚だろう。

 あまりエロスに対してガツガツしていない蒼だが、小さな体にぶら下がったデカメロンには流石に驚愕を覚えた。


「うわ! デカ!!」


 そしてそれを平然と口にするのが蒼スタイル。


「すごいでひょー! ティナちゃんめっちゃ巨乳なの!ロリ巨乳ロリ巨乳!!」


 蒼の大声に反応した御崎が川辺から叫んでくる。


「ちょっと先生声が大きい!」

「なんで付いて数分で泥酔してるんですか!」

「頭冷やせ頭!」


 そして3人に大慌てで取り押さえられ、そのまま川に沈められている。


「きっ……着替えてきます!」


 集まる周囲の視線に耐えかね、ティナは大慌てでミニバンに引っ込んでいった。

 川辺では窒息仕掛けた御崎がギャグマンガのように口からピューっと水を吹いていた。




「ねえ高瀬くぅん……。君は泳がないの?」

「今、夜の準備してるんで……これ終わったら泳ごうかなと」

「夜の準備れすって! なんか卑猥!エッチ!」

(鬱陶しい……)


 無事救護された御崎はテント横のタープまで引っ込み、積んできたベンチベッドで体を焼きながらチューハイをグビグビ飲んでいる。

 そして、夜のバーベキュー用に石を積んだり、グリルを設置している蒼に絡みまくる。

 ティナは響が余分に持って来ていたオフショルダータイプの水着を借り、周囲の視線に怯えながらも川遊びを楽しんでおり、御崎の相手をするのが蒼一人という状況だ。


 学校の教師や大城警察のゼルロイド対策課、最近ではSSTの発足でも前面に出ていたので、満足に休みを取れていなかったそうだ。

 公務員がそんなに掛け持ちできるのかと疑問に思うが、侵生対の頃からやたら大きな権限を持っていたので、気にするのも野暮だろう。

 しかし、それを差し引いてもひどい絡み酒である。


(ていうか引率だから職務中だよねこの人……)


 チューハイに飽きたのか、今度はウィスキーのボトルを取り出し、ハイボールハイボールと鼻歌を歌いながらレモンを絞っている。

 もはや気にするまい……。


「ねぇ~香子ちゃんとはどこまで行ったの~? ABCで教えて~」

「戦ってる時にぃ……コスチューム破れたあの子達にエロス感じることあるの~?」

「あの中では誰が一番の彼女候補なの~?」

「どう? 私も結構セクシーじゃない? ムラっと来ちゃう?」


 とりあえず無視を決め込んだが、構わず話しかけてくる御崎。

 しかもセクハラの連撃。

 蒼はそういうものに耐性がないわけでもないし、一応年相応にエロいことを考えたりもするが、年も10歳以上離れた顧問の教師から猥談を振られたり、セクシーポーズを見せつけられるのは勘弁願いたいところである。

 まあ……スタイルも外見も悪くは無いので、見て損した気にはならないが……。


「はい設営完了! んじゃ俺も泳いできますんで~」


 とりあえず蒼はさっさと野外キッチンの設営を終え、川に向かうことにした。

 背後から「高瀬くんに見捨てられた~!」という叫び声が聞こえたあと、馬鹿でかいイビキが聞こえてきたので、蒼はひとまず安堵した。


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