第38話:決着! 腐れ縁コンビ 対 ウメボシイソギンチャクゼルロイド
「意識のない子はこっちの車に! 体力がある子はあっちの車に乗せてあげて!」
ウメボシイソギンチャクゼルロイドの体内から脱出し、固い岩盤を貫いた掘削マシンは、大城市郊外の河川管理センター敷地内にその姿を現した。
侵生対医務班が駆け付け、御崎の指示を受けながら、傷ついた魔法少女達を救急搬送していく。
新たに設立された戦闘班も来てはいるが、対ゼルロイド装備もなく、戦闘訓練も為されていない現状では、医務班を手伝うことしか出来ない。
「センサーに巨大な反応! 放水路跡地直下! 上昇中です!」
だが、そんな中で唯一役に立った装備があった。
侵生対の軽バンに装備された新型のゼルロイドセンサーである。
蒼が提供したゼルロイドセンサーをベースに、地中含む360度を索敵できるよう新たに設計された高性能センサーである。
これには蒼のエネルギーも魔法少女由来のエネルギーも不要なため、いち早く試作することが出来たのだ。
「ゼルロイド出現! 全高40m、全幅50m、上部に大型触手群有り! 」
とうとうその全容を現したウメボシイソギンチャクゼルロイド。
山のようなサイズ。血のように赤い体色、恐ろしく長い触手。
可愛らしい名前とは裏腹に、あまりにも異形で、おぞましい姿であった。
激しい雨が降った際、街が川の氾濫に見舞われぬように、地下に流れる水の量を調節するために作られた“大城市地下放水路”。
今は地下用水路と流量管理システムの発達により、ほとんど使われることのなかった地下空間。そこに巣食い、恐るべき巨体に成長した個体。
それが今回の魔法少女連続敗北、誘拐事件の実行犯であった。
カラインが体内に魔法少女の檻を作り、彼女たちのエネルギーを長く味わうために、極めて少量のエネルギーしか捕食できていなかったゼルロイドは、ここぞとばかりに獲物を求め、地表へと現れたのである。
しかし、その動きは怠慢で、触手もフワフワと動かしているだけだ。
「頭脳がいなくなったからなのか……? 明らかに挙動が鈍いな」
「お腹に穴開けられたからかもしれませんけどね……」
鈍いとはいえ、稀にみる巨体。
その捕食能力、捕食量共に侮れない敵だ。
早急に退治しなければ、大城市民に多大な被害が出ることは想像に難くない。
「イソギンチャクは心臓を持たない生き物だ。急所がない以上、大火力で全て焼き尽くすしかない」
テリトリアルモードから、ウィングモードへと換装した蒼が、香子の肩を叩く。
「いいわよ、良いとこ見せるわ。メタモルフォーゼ!!」
コンバータースーツが光となって分解し、香子の青いコスチュームへと変化してく。
マイナスエネルギーに溢れる空間で持てるエネルギーを破壊され、吸収された後とは思えない程に濃いエネルギー粒子が辺りを包み込んだ。
「魔法少女アクエリアス! 推参……。何か調子狂うわね」
いつもの癖で変身ポーズを決めて見せたが、侵生対の生真面目な職員達の冷静な視線に晒され、イマイチ気分が乗りきらなかったようだ。
「気分とかどうでもいいから行くぞ! レイズイーグル合体!」
「分かったわよ!」
遥か上空まで飛び上がった二人は、空中で前後に並ぶ。
「俺とお前の力を合わせた最大火力で跡形もなく焼き尽くす! 準備は良いか?」
「うん! いつでもいけるよ!」
香子は蒼の背に装着されたエナジーバスターの背面。彼女が使用する際のエネルギー入力路に腕を入れ、思い切りエネルギーを込める。
背中越しに、蒼の息遣いを感じ、香子は彼が生きていたことへの喜びを噛みしめる。
「蒼」
「ん? 何だよ」
「呼んでみただけ」
「なんか最近お前おかしくない!?」
このやり取りをデバイスの通信機能を通じて地上から聞いていた詩織は、いろんな意味でもだえ苦しんでいた。
ブレイブウィング、レイズイーグルの翼が、周囲のエネルギー粒子を激しく吸収し、青い光を纏う。
そこから伝わるエネルギー流が、蒼の体内のエネルギーと結合し、エナジーバスターに込められていく。
蒼と香子のエネルギーがバスターのチャージシステム内で激しく膨張し、余剰エネルギーが翼の根元から噴き出し始めた。
強大なプラスエネルギーの流れに、本能的な恐怖を感じたのか、ゼルロイドは長大な触手で二人を攻撃しようとするが、プラスエネルギー場の中では、その動きはますます鈍重になり、蒼のサイドバルカンによって次々と破壊されていった。
「エネルギー充填、圧縮完了だ! 合わせろ!」
「うん!」
「「デュアルエナジーバニッシャー!!」」
耳をつんざくような轟音と共に、青いエネルギー流。いや、エネルギーの洪水とも言うべき光線が放たれた。
ゼルロイドは触手を丸め、防御の姿勢を取ったように見えたが、光線はそれを容易く貫き、ゼルロイドの巨体を文字通り崩していく。
「ほら! 広報班! 二人とゼルロイド撮るのよ! これがニュースになったら凄い希望になるわ!」
美しくも激しい光景に、思わず御崎も見とれていたが、ハッと冷静になり、連れてきていた広報班の者に声をかけ、写真を撮らせている。
固い内壁組織も、柔らかくショックを吸収する触手も、圧倒的なプラスエネルギー洪水の前では、無力に溶け、崩壊していく。
やがて、ゼルロイドの巨体は、青い光の中へ消え去った。
「よし! 完全勝利だ!」
「そう……ね……」
「笠原!?」
香子はガクリと傾くと、真っ逆さまに地上へと落下していく。
慌てて蒼が後を追い、何とか空中でキャッチすることに成功した。ちょうどお姫様抱っこの格好で。
「お疲れさん」
腕の中で寝息を立てる香子に、優しく声をかけた。
「ほら! 広報部の人! あの二人撮ってください!!」
地上では一人、詩織が荒ぶっていた。





