第34話:赤の大牢獄
赤い、ただひたすらに赤い空間。
「ハァ!! アハハ……アハハハハハ!! 美味しくない人殺せた!」
腹に刺さったアームブレードを無理やり引き抜き、歓喜の雄叫びを上げるカライン。
放り棄てられたブレードが赤い地面に、まるで墓標のように突き立っている。
その墓標のちょうど正面。赤い壁に埋め込まれた二つの透明な球体カプセルの中に、詩織と香子が捕らえられていた。
「先輩……私……また……! ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「よくも!! よくも蒼を!!」
カラインと初めて遭遇した時と同じく、蒼を助けることが出来なかった自分を責め続ける詩織。
友を目の前で遊ぶように殺されたことへの怒りを露にし、カプセルを内側から力の限り叩き続ける香子。
カラインはそんな二人の様子を満足そうに眺めると、香子を閉じ込めてあるカプセルの前まで、滑るように移動してきた。
「アハハハハ…… あなたのお友達殺してしまったわ。残念ね」
「ふざけるな!! 殺す! 殺してやる!!」
香子は手に血が滲むのも構わず、怒りに身を任せ、カプセルを幾度も殴る。
「アハハハハ! あなたはいいご飯になりそうね」
「何ですって!?」
「はい! やっちゃって!」
カラインが指を鳴らすと、香子のカプセル内に赤いガスが噴出した。
「うああああ!!」
コンバータースーツが激しくスパークし、バチバチと音を立てながら分解していく。
その全身が焼けるような痛みに悶絶する香子。
(苦しい……! 体が……溶かされてる……!?)
「アハハハハ! 始まったわ!」
香子の全身から、赤黒い、血のようなものが滲み出たかと思うと、赤いガスと共にカプセルの上に付いた穴から吸い出されていった。
「くっ……! はぁ……はぁ……! アタシに……何をしたの!?」
「何って? ご飯よ。この子の。そしてこれからは私のご飯」
そう言いながら、カラインは香子のカプセルに手を当てる。
「何をするつもり……!!」
「だから、私のご飯よ」
「ひっ……! い、嫌っ!!」
カプセル内に、今度は黒いガスが充満したかと思うと、香子の青いエネルギーが、カラインの掌に吸い上げられ始めた。
「きゃああああ!!」
再び、カプセルの中がバチバチとスパークし、香子の悲鳴が響き渡った。
詩織はその様を、震えながら見ていることしか出来なかった。
■ ■ ■ ■ ■
「先輩! 先輩!!」
「蒼……助けて……蒼……」
カラインによる「ご飯」が終わる頃には、香子のコンバータースーツは殆どが分解し、彼女は足腰立たない程衰弱していた。
カラインは香子のエネルギーを吸った後、満足げにどこかへ去った。
その隙に何とか脱出の策を練ろうと思ったが、香子は意識が朦朧としているのか、虚ろな目で蒼に助けを求めるのみとなってしまっている。
幸いにも、宝玉は破壊されていないようだが、再び香子が満足に戦える状態になるまで、どれほどかかるか分かったものではない。
(ここが……カラインの巣……)
香子の他にも、助けを求める声、苦しそうなうめき声が、微かではあるが聞こえてくる。
天井や、壁、地面から生えたカプセルに、自分たちと同じ、魔法少女が閉じ込められているのだ。
詩織はその誰かに協力を求めようとしたが、自分より体力の残っている者がいるようにも思えない。
(餌場……いえ、まるで牧場か養鶏場……。酷い……)
この空間では、変身も、能力の使用も出来ず、捕えられた魔法少女は、彼女や、この空間の餌として、エネルギーを奪われ続けるのだ。
マジックコンバータースーツの機能は僅かに使え、ライトニングナイフは恐らく使用可能だ。
しかし、それでカプセルを破壊できたとして、現状では脱出は困難。敵に見つかれば、すぐに力を吸われ、逃れる術は永遠に失われてしまうだろう。
「おい……。そこのお前……」
ふと、頭上から誰かの声が聞こえた。
■ ■ ■ ■ ■
『蒼……助けて……助けて……』
地下水路に横たわる、全身が抉れ、潰された蒼の肉体。
その腕に付けられたデバイスから、香子の助けを呼ぶ声が聞こえる。
閉鎖された地下空間。その声は水音に混じり、幾重にも反響した。
その反響に、風を切る音が混じったかと思うと、その音はやがて大気を震わせる轟音に代わり、やがて銀色の輝きとなって蒼の下へ飛来した。
「エナジーシャワー」
蒼のデバイスから発せられた機械的な音声に呼応し、ブレイブウィングからエナジーシャワーが照射される。
その眩い輝きの中で、捻じれた胴体が、手足が、首が、粉砕された骨、内臓も、見る見るうちに再生されていく。
「く……おぉ……」
体内で発生した白い再生エネルギーを口から漏らしながら、蒼は目を覚ます。
「死ぬかと思った……!」
奇跡か、それとも彼の特異な性質が生んだ必然か、蒼はよろけながらも再び立ち上がった。
香子からの通信が、彼の意識を完全に覚醒させる。
彼女からの悲痛な声に混じり、詩織の声も聞こえる。詩織はまだ無事なようだが、いつ彼女が敵の手にかかるか分かったものではない。
「笠原……! 新里! 絶対助ける! ウィング合体!」
ブレイブウィングと合体し、蒼は地上へと飛び上がった。





