第32話:消える魔法少女たち
「謎の赤玉ゼルロイドに謎の巨大ウネウネゼルロイド!? 黄緑の魔法少女が負けて連れ去られた!?」
翌日。魔法少女部部室に馬鹿でかい声が響き渡った。
声を出した本人は、そのまま立ち眩みを起こし、座り込んでしまったが。
「ほら! 病み上がりなんだから大声出さない! もう……」
座り込んだ蒼をソファに寝かせる香子。
「うー……。そういう大事があったらすぐに俺に言えよ……。と、言いたいところだけど、言えない状況にしたのは俺だよなぁ……」
「いえ、これは私の判断が駄目でした。まさかこんな事態になっているとは……」
詩織が苦闘の末、巨大触手から命からがら逃れた後。大城市の幾つかのエリアで赤玉ゼルロイドが出現し、魔法少女がそれらを追い散らす様が監視カメラに映っていた。
大城市の監視システム、監視カメラが捉えたのはそこまでだったのだが、隣の貝良市との市境で、黄緑色の魔法少女が赤い巨大触手に敗北し、マンホールの下へ引きずり込まれていくさまが目撃されたのだ。
「黄緑の子だけじゃないわ!」
「うわっ! びっくりした! うぅぅ……」
突然、魔法少女部顧問、御崎が蒼の部長席の下からヌッと現れた。
驚いた蒼が、再び眩暈襲われている。
「他にも街の各地で空いたままのマンホールが確認されてて、赤玉ゼルロイドを追いかけていった魔法少女全員が消息不明な状況よ……。もちろん、身を隠して戦う魔法少女も多いから、全員が負けたとは思わないけど、犠牲が何人か出たかもしれないわ」
「それ……とんでもない事件じゃないですか……。俺がこんなことになってる間に……。くっ……! 情けない!」
蒼が拳を強く握り、悔しさを露にする。
「一応、目撃者は全員確保して、今は記憶抹消作業中よ。マスコミ各社にも、この件は他言無用って指示出しておいたわ」
「えっ……何それ怖い」
悪の秘密組織の如き所業に、香子がドン引きしている。
「悪ではないけど、一応秘密組織だもの。目撃情報の握りつぶしくらいはするわよ。コレが一般に明かされたらまたゼルロイド大発生よ?」
忘れがちだが、侵生対は対ゼルロイド防衛について、強大な権限を持つ組織。
魔法少女が次々負け、敵に連れ去られた。こんな情報が巷に流れれば、ゼルロイドの発生、増殖、活性化に繋がるという名目で、情報封鎖を実施したのだった。
「まあでも正直、情報止められるのは1週間が限界ね。このご時世。情報なんてあっさり洩れ広がるから」
「となると、この件の解決は急がないとな。敵があまりにも異形すぎるし、明らかに魔法少女狙ってて不気味な事件だ」
「やっぱり、カライン関係ですかね?」
「十中八九それだろうな……。ゼルロイドがこんな組織的な行動を取るのは、カライン以外では考えられん。どこからかは知らんが、糸を引いてるのは確かだ」
■ ■ ■ ■ ■
“大城市で謎の連続マンホール解放事件! けが人も”
“ガス? いたずら? それともゼルロイド?”
世のメディアは面白おかしく書くが、内情は到底笑えるものではない。
まあ、侵生対が情報封鎖を行っているので、この件について書けるものはそれくらいしかないとも言えるが……。
「マンホールが外れていたのは計12か所。これが全部巨大触手の仕業と仮定して、共通点を探ろう」
御崎が取り寄せた大城市のマップを囲む魔法少女部一行。
「一応、水道局から情報もらってきたけど、コレ全部暗渠の蓋なのよね」
「おお! 流石御崎先生! 有益すぎる情報ありがとうございます。ということは、全部地下に結構なサイズの空間があるんだな……」
「となると、敵は相当なサイズかもしれませんね」
「暗渠ってことは川が流れてるのよね? その川がどう流れてるかの情報どっかで見れない?」
「こんなこともあろうかと、取り寄せてあるわよ! 流域マップ!」
香子の提案に、待ってましたとクリアシートを持ち出す御崎。
大城市の地図に、そのシートをかけると、川の流れが青い線となって浮き上がった。
「なるほど……。このマンホールの地下を流れる川は、元を辿れば一本の川に行き着くのか」
「他にも分岐点や、合流地点もある。ここも探ってみるべきね」
「この元の川……前に藍色の子がカラインとカラノイドに襲われた旧道トンネルの下通ってますよ。あの敵もこの源流域か、街の地下に潜伏してるってことですかね?」
「源流域は渓谷や洞窟なんかもあるから、身を隠すにはもってこいでしょうね」
議論の末、街の暗渠内をゼルロイド/カラインスキャナでサーチし、監視システムを付けた上で、暗渠の川の源流方向へ調査に向かう。という索敵計画がまとまり、作戦開始は明日の早朝となった。
「しかし、先生のおかげであまりにとんとん拍子に進みましたけど、この事件について予め目星付いてたんじゃないですか?」
確かに、御崎の情報はやけに的確で、まるで誘導されるように今回の索敵作戦が決まった。
香子が怪訝そうな目で御崎を見る。
「あ……あら? バレ……じゃなかった! 私疑われてる?」
「そりゃもう」
見れば、蒼も詩織もどことなく疑うような目で御崎をジーっと見ている。
しばしの沈黙。
「はぁ……。察しのいい子達……」
観念したように、御崎はため息をついた。
「私たち侵生対は政府の組織でしょ? その組織が高校生使ってゼルロイドと戦わせてた。とか世間にバレたら大事じゃない? だから、あなた達の判断でやったって形にしようと思ったのよ」
「黒い……黒いよ侵生対! ていうかあんた!」
流石の蒼もドン引きだ。
「まあ、サポートは万全に行うし、予算の使い道も任せてるんだから、そのくらいはご愛敬で!」
そう言ってペロッと舌を出して見せると、御崎は持ってきた機材を手早く片付け、部室の隅にいつの間にか置かれていたロッカーに放り込んだ。
「それじゃあ私は諸々の準備してくるわね! 今日は皆、早く帰って明日に備えるのよ!」
そう言うと、御崎は部長席の下に潜り込み、姿を消した。
香子が覗いてみたが、何の変哲もない床があるだけだった。
まさか、と思い、ロッカーも開けてみたが、何も入っていなかった。
「あの人も大概部室改造してるわね……」
いつまでこの部室で活動することになるかは分からないが、自分たちが卒業する時、原状回復が出来るものなのか気がかりな香子であった。





