第29話:ゼルロイド監視システム
“悪の魔法少女出現!? 魔法少女 対 魔法少女!”
“謎のヒーロー登場!? 翼と機械の重武装!”
“ゼルロイド早期警報システムが運用開始されました アプリはこちらから”
「先輩やったじゃないですか!とうとうニュースに載りましたよ!」
「ああ、これでウチのゼルロイド警報アプリの知名度は急上昇するだろうな」
「え!? そっちなの!?」
「冗談だよ……」
侵生対での合宿後。と言っても結局1泊してすぐ帰ったのだが…。
蒼が提出した情報を元に、宮野が官邸や関係各省庁へ働きかけを行ったことで、対ゼルロイド情報の取り扱いに関する規制事項が再検討され、結果、蒼の存在が初めて公的なメディアに姿を現した。
これまでは、蒼やカライン等、謎の存在に関する情報は、国民の不安をいたずらに煽り、マイナスエネルギーの発生を助長する恐れがある。ということで統制がかかっていたらしい。
カライン、及びカラノイドの存在に関しては、不安を無暗に煽らない程度にボカシて発表されていたが、蒼に関しては顔こそ写っていないものの、戦闘画像がガッツリと公開されていた。
「ゼルロイドを両断するブレード、強固なシールド、魔法少女に劣らない機動力、一撃必殺のエネルギーキャノンねぇ……。なんか随分過大評価されてんな」
ネットのニュース記事に書かれた自身の評価を、照れ交じりに読み上げる蒼。
「そんなことないですよ。先輩の武器滅茶滅茶強いじゃないですか」
「うーん……。まだ欲しい戦闘力の域には達せてないんだよね」
「アンタ何目指してるのよ……。ま、ちょっとオーバーなくらい頼もしく書かれてた方が皆の希望の的になれるじゃない」
「でも負けたら皆のショックデカいぞ? 侵生対の予算の件といい、最近責任感というか、重圧感じてるんだよね~」
そう言いながら、蒼はキーボードをカタカタと叩く。
画面には、対ゼルロイド監視システム改良案が映し出されていた。
「しかし、予算240億って……。何すれば使い切れるんだよ……」
等と、愚痴を零しながら、着々と新型監視装置の設計図を作り上げていく蒼。
彼曰く、省スペースで最大限の効果を生み出す高コストパフォーマンスな方式らしい。
一つで街一つくらいならカバーできるので、40億もあれば主要な市町村に設置が出来てしまう、恐るべきコスパである。
「先輩!地球防衛チームみたいな手持ち武器作りましょうよ! もしくはロボ!」
詩織が目を輝かせながら蒼の肩をパンパンと叩く。
「手持ち武器はまだ設計段階だけど、こんな感じの作ってるよ」
「一般武装」と書かれたフォルダを開くと、無数の設計図が出てきた。
その中から、「地上戦小型武器」というファイルを開く蒼。
「わあオシャレ! 短剣とレーザー銃に変形させて使えるって、ホントに特撮モノの武器みたいじゃないですか!」
「だろ? 収納モードは手帳サイズでスッキリだ」
興が乗ってきた蒼は、そのままいくつかのファイルを詩織に見せていく。
エナジーキャノンを携行火器に改造した単装砲。同じく、サイドバルカンや、アームブレードを手持ち武器化したもの。
そしてそれらを合体させて完成する、小型迫撃砲……もとい特撮モノの合体バズーカ。
「アンタこれちょっとふざけたでしょ……」
「まあ合体武器はちょっとね……。あ、でもこれはかなり真面目に作ってるぞ。乗用車のルーフキャリアーに装着する中型エナジーキャノン。」
そう言って開いた設計図には、御崎の車のルーフに、ブレイブウィングのそれを倍ほどのサイズに大型化したエナジーキャノンが搭載されていた。
緊急用のシールド、バルカン砲も装備されており、荷台には大型のエネルギー増幅器が積まれている。
「まだエネルギーの問題が解決してないから、実用化はまだしばらくかかるけどね。まあ、こういう妄想を巡らせてる時が一番楽しいよね~」
「そうですよね! 先輩! 次は何ですか!? ロボですか! ロボなんですか!?」
続々と登場する特撮じみたメカ達に、詩織の期待はいよいよピークに達し、ロボの登場を今か今かと待っている。
「いや、期待されてもロボはないよ!? 予算が10倍はかかるし、巨大ロボが必要なサイズのゼルロイドとか現状想定してないからな」
詩織はがっくりと肩を落とした。
少女の夢を少し傷つけた代償か、その日の詩織の基礎トレーニングは、いつになく厳しいものだった。
■ ■ ■ ■ ■
「センサー8枚にカメラ1台……。こんな安くてシンプルな設計で街一つもカバーできるものなの?」
大城市で最も高い電波塔に、蒼の対ゼルロイド監視装置試作機が設置される。
その真下で、「ゼルロイド対策課」の腕章をつけ、婦警のコスチュームを纏った御崎が、工事に付き添っている。
『大丈夫です。マイナスエネルギーの感知制度を極限まで高めてますんで、これ一基で、大城市の平野部を全てカバーできます。』
御崎の付けたインカムから、蒼が話しかける。
新型ゼルロイド監視システムの試運転ということで、マスコミを呼び、お披露目会を開催したのだが、如何せん、忙しい御崎のこと、蒼の渡した説明資料を読み込む時間が取れなかったため、彼がカンペ替わりを務めることとなったのだ。
一応、装置の説明自体は滞りなく進み、マスコミ各社は一通り装置と、御崎のツーショットを撮影した後、各々思い思いの写真を撮影している。
「監視装置の設置、完了しました」
高所作業専門の施工業者が塔の上部から降りてくると、装置のスイッチをカチカチと入れていく。
装置の起動を示す赤いランプが点滅し、その後、正常動作を示す緑色の点灯に変化した。
「対ゼルロイド監視 システム」のパネルを抱え、運用開始宣言のため、御崎が報道陣の前に出ていく。
各社のカメラが準備できたことを確認すると、大城警察署ゼルロイド対策課の名物婦警としての営業スマイル全開で、大きく息を吸い込んだ。
「それでは! 本日より、ゼルロイド監視システム運用……」
直後、その場にいる全員のスマートフォンから警報が鳴り、画面にゼルロイド出現を示すサインが激しく点滅し始めた。
『御崎先生!! その鉄塔の近辺にゼルロイドが出現しました!! 俺と笠原で出ますんで、早急に退避してください!!』
新監視システムはの有効性は、運用開始数秒で立証されたのだった。





