第28話:失われた藍色
「アギャアアアア!!」
獣のような絶叫と共に、崩れ落ちる黒の魔法少女。
同時に、魔法陣が消滅し、拘束されていた藍色の魔法少女がドサッと倒れ込む。
「大丈夫ですか!?」
詩織が急いで駆け寄り、トンネルの外へ彼女を運んでいく。
緑の魔法少女がそれを追撃しようとするが、蒼が立ち塞がった。
「お前カラノイドだな……。厄介な種は増殖前に根絶させてもらう!」
両肩のスライサーキャノンが火を噴き、刃の弾丸が放たれる。
「アハハハハハ!」
緑の剣を閃かせ、それを次々切り払うカラノイド。
「げげ……マジか。それならこっちも剣で!」
アームブレードV2を展開し、緑の剣と真っ向から切り合いにかかる蒼。
3つの刃が交差し、エネルギー粒子の火花が散る。
「あなたは……許さない!」
両腕を失った黒の魔法少女が闇の中から立ち上がり、赤く濁った両眼で蒼を睨み据えた。
「オアアアアアアア!! 殺す!殺す!」
絶叫。そして殺意。トンネル内を覆う黒い粒子が、藍色の粒子を完全に飲み込み、辺りは漆黒の闇に包まれた。
その闇の中、赤い双眼が妖しく光ったかと思うと、黒い魔弾、拘束魔法陣が次々展開し、蒼に襲い掛かった。
「おっと!」
足元に生じた魔法陣を、ブースターの瞬間噴射で回避し、飛来する黒い鎖を、ブレードで次々切り刻んでいく。
同時に、飛来する魔弾は、シールドのピンポイント展開で的確に防御する。
「アハハハハハ!」
その黒の猛攻に加え、主の怒りに呼応するように猛り狂ったカラノイドが襲い掛かってきた。
その斬撃を、アームブレードで受け止め、エナジーストームで弾き飛ばす。
「スライサーキャノン!!」
その隙に、蒼は黒の魔法少女に刃弾を放つ。
彼女はそれを漆黒のエネルギー弾で迎撃する。
魔法少女二人を相手に、蒼は互角以上の戦闘を展開していた。
しかし、エネルギー場を展開しているのは黒の魔法少女。地の利は彼女達にあり、徐々に後ずさりさせられていく蒼。
「くそ……。使えるエネルギー量が違いすぎるな……」
「アハハハハハ! 捕まえるわ!」
蒼の動きが徐々に鈍くなってきた隙を突き、黒の魔法少女の、再生した腕から放たれた黒い鎖が蒼の左腕を捕えた。
「くっ……」
ブースターの噴射で彼女ごと引き倒そうとした蒼だったが、四方から伸びてきた鎖に動きを封じられ、それは叶わない。
「アハハハハハ! 死んじゃいなさい!」
「アハハハハ!」
黒の魔法少女が魔弾をチャージし、カラノイドが笑い声を上げながら剣をぎらつかせて迫る。
「先輩!剣ください!!」
突如、蒼の肩にドスンという衝撃が走り、コンバータースーツに身を包んだ詩織が蒼の頭上を走った。
肩を踏み台にされた。その事実に気付く前に、蒼は本能的に装備を射出していた。
「ブレードラッシュ!」
両腕のブレードを高速で振り回しながら、敵二人に切りかかる詩織。
「アハハハハアアアア!!!」
咄嗟の出来事に、主を庇おうと飛び出したカラノイドだが、蒼のエネルギーを含んだ斬撃に切り刻まれ、悲鳴のような叫び声をあげ、黒い粒子となって消滅した。
「あなたも……何回も私の邪魔を! 殺す! 死になさい!」
僕を殺された黒の魔法少女は、赤い瞳をますます怒りに染め、チャージしていた魔弾を詩織目がけて放った。
「きゃあああ!!」
回避しようとした詩織だが、強大なエネルギーを込められた魔弾は激しく爆発し、その衝撃でトンネルの側壁に叩きつけられてしまった。
「大丈夫か!」
「はい……。大丈夫です!」
そう言いながら、詩織はすぐに持ち直し、蒼を縛る鎖を次々切断する。
拘束から脱した蒼が、再び戦う構えを取った時、黒いエネルギー粒子が、まるで潮が引くように去っていき、やがて、トンネル内に元の薄暗さが戻ってきた。
「くそっ! また逃げられた!」
「追いましょう! まだそんなに遠くには行ってないはずです!」
「いや、今回はあの子の保護が先決だ。応急手当をして、本部に連れて帰ろう」
傷つき、瀕死の魔法少女を放置してはおけない。
二人は元来た方へ急いだ。
■ ■ ■ ■ ■
「気分はどう? 体は大丈夫?」
「はい……。大丈夫です……」
侵生対本部の医療処置室。医療カプセルで緊急治療を受けた藍色の魔法少女は、無事意識を取り戻し、魔法少女部と御崎による面談を受けていた。
彼女の名は高尾 瑞希。近隣の高校の生徒だった。
彼女が語った、黒の魔法少女の罠、自分のエネルギー場に割り込んで来た黒いエネルギー場、マイナスエネルギーの塊を口移しで飲まされ、体内からエネルギーを破壊されたこと、そして、ブローチからエネルギーを吸収されたこと等は、黒の魔法少女が明確に魔法少女の力と、亡骸を欲していることの裏付けとなった。
そして、もう一つ発覚したこと。
「そんな……変身が……」
藍色の魔法少女の変身能力が失われていたのだ。
いや、厳密に言うと変身自体は可能なのだが、衣装は真っ白になり、ブローチに付けられた宝玉は無色透明で、ひび割れたままであり、エネルギー場も、弓矢も出現しなくなっていたのである。
実質、彼女の魔法少女としての力は失われたと言っても過言ではないだろう。
「やっぱりあの時……。くっ……!」
敗北と、自身の無力感に悔し涙を流す瑞希。
「後はウチのカウンセリングチームに任せて、あなた達は休むといいわ。あの子は侵生対が責任をもって保護するから」
魔法少女部の三人は、どんな声をかけていいのか分からないまま、御崎に促され、部屋を出た。
■ ■ ■ ■ ■
「なんで!?……なんで……?」
香子が行き場のない怒りを壁にぶつけている。
拳に血が滲むが、お構いなしに壁を打ち据える。
「笠原先輩……。すみません。私が遅かったばかりに……」
「……新里さんは悪くないわ。悪いのはあの黒の魔法少女よ……! 許さない! どれだけ私達を愚弄すれば気が済むのよ!?」
激昂する香子と、憂鬱に沈む詩織。
「黒の魔法少女……カラインは一体何を企んでるんでしょう……?」
「魔法少女の能力を奪う、死体からコピー体を作って悪の魔法少女に仕立て上げる……。悪の魔法少女軍団でも作る気なのか?」
「そんなこと絶対にさせない……!! 蒼!新里さん! 今度あいつに会うときは絶対仕留めましょう! もうこれ以上犠牲者を増やさないためにも!!」
悔し涙を流し、声を荒らげる香子に気おされながらではあるが、蒼と詩織も決意を新たにした。





