第23話:新たな敵の検証
「う……うう……。はっ!! ここは!?」
詩織が目を覚ますと、白い天井と、眩しい手術用ライトが見えた。
「なっ!? 動けない!」
手足は鉄製の枷で台にがっちりと拘束されており、さらに、ベルトで胸、腰、太ももを固定され、「バンザイ」の姿勢のまま身動きが出来ない。
さらに、頭にも何かメットのようなものが被せられ、体中に電極が取り付けられていた。
「まさか……! 私を洗脳して、改造して、組織の手駒にでもするつもりですか!!」
何とか拘束を振りほどこうと、身を捩る詩織だが、やはり、拘束具はビクともしない。
やがて、拘束台がグイイ……という音と共にせり上がり、横倒しのカプセルのような器具へと近づいていく。
「くっ! この機械で私に改造を施すつもりですね!? でも私は絶対に洗脳なんてされませんよ!!」
『何訳の分からないこと言ってんだ……』
詩織が洗脳改造に抗う覚悟を決めた時、天井から蒼の声が聞こえてきた。
「えっ! 先輩!? まさか先輩も怪しい組織の一員で……」
『違うわ! お前が突然倒れたから、ここの治療カプセル貸してもらったんだよ!』
「え……。そうだったんですか……。すみません……」
台を揺するのをやめ、大人しくカプセルの中に収納される詩織。
思えば、黒の魔法少女に拷問じみた締め付け攻撃をされ、魔法少女保管庫では6体の敵に滅多打ちにされ、ダメージが蓄積していたのだろう。
確かに、保管庫で蒼の下へ駆けつけた後から記憶がない。
『今からお前の傷の治療と、体内にあの敵の体組織が残ってないかのスキャンを行うからな』
「はい、お願いします」
ゆっくりと目を閉じ、全身の力を抜いてリラックスする詩織。
しかし、ふと妙なことに気が付いた。
「あれ? ところで、何故こんなに厳重に縛られてるんですか? 身動きできないんですけど」
『ああ、ちょっと敵の体組織スキャン機能付けるためにプログラム弄ったんだけど、なんか“魔法少女スキャナと同等の不快感が生じる危険性有り”って出たんで、お前が暴れないように』
「嫌ああああああ!! 出してください! 出してえええええ!!」
『無駄無駄、その拘束リングはスペースチタニウム製だから絶対壊れないよ。あと、気持ち悪いかもしれないけど、治療速度は抜群だから安心してくれ。ではよい回復タイムを』
グイイインと機械が音を立てて起動し、トラウマと化したあの感覚が詩織の足元からゾクゾクと押し寄せてきた。
「きゃああああああああ!!」
治療は小一時間続いたが、その間、カプセルからは悲鳴と、暴れる音が響き続けた。
■ ■ ■ ■ ■
「そんなことが……。ごめんなさい……。私のせいで厄介な敵と戦わせてしまったわね」
侵略的特殊生物対策委員会本部。略して侵生対本部の医務室。
白い医療用ベッドでよこになり、点滴を受ける御崎。
あの後、御崎は保管庫のすぐ外で意識を失って倒れているところを発見され、あの治療カプセルで、治療とスキャンを受けた。
随分不快そうな、悪夢にうなされているような表情でカプセルから出された御崎は、無事意識を取り戻し、宮野から自信の身に起きたことや、保管庫であったことの詳細な説明を受けた。
「先生が謝ることじゃないですよ。完全に新しいタイプの敵でしたから」
「そうそう。あんな訳の分からない敵が相手じゃ、先手を打って対策なんて取りようがないもの」
一応、戦闘でダメージを受けた蒼と香子も横になり、ビタミン点滴を受けている。
治療カプセルで“治療”を受けた詩織もその隣のベッドでグロッキーだ。
秘密組織の秘密基地にしては随分本格的な医療設備があるもんだと、蒼は感心する。
「しかし困ったな。黒の魔法少女が襲って来たと思えば、カラインとゼルロイドの合いの子みたいなのも出て来るし、魔法少女みたいな能力使うしで、状況がますます混沌としてきた」
「アタシたちに有利な状況ではないことは確かだけどね」
蒼の呟きに香子がうんざりした様子で応える。
魔法少女の尊厳云々に強い拘りを持っていた香子のことである。ここ数時間に間に冒涜的なことが起きすぎて、不快感がカンスト状態のようだ。
「あの黒い敵、切っても切っても再生してきましたよ。相当タフな敵ですね」
魂の抜けたような声で詩織が喋り出した。
「え? バルカン砲で簡単に倒せたわよ? 2対1だったからちょっとキツかったけど」
詩織の言葉に、キョトンとした様子で応える香子。
見栄でもなく、事実、香子はザイテ・バルカンのみで1体を葬っている。
「俺も2対1で背後突かれて危なかったけど、相手が特別耐久力があるとは思わなかったな。エナジーシャワーで溶けたし、4枚おろしにしたら普通に死んだし」
「ええっ! 先輩たち2体だったんですか!? 私6体に襲われてかなりヤバかったんですけど!」
「今回も謎の多い……。めんどくさそうな敵だなぁ……」
その後、侵生対本部の被害も大きいということで、一旦お開きとなり、翌週の休日に再度出直すことと相成った。
念のため、蒼が本部の各所に簡易レーザーシールド、簡易エナジーレーザー銃を配置し、気休め程度ではあるが、対ゼルロイド防衛力を向上させておいた。
■ ■ ■ ■ ■
翌日、魔法少女部部室。モニターを囲んで座る3人。
蒼のアイポイントカメラの映像を元に、新しい敵との戦闘を分析しているのだ。
「俺の一発目の斬撃……。御崎先生型の敵を真っ二つに切り落とした時は、分離して再生してるんだよな。その後、エナジーシャワーを浴びせた個体は消滅、4枚おろしにした方も消滅……」
「アタシの方は再生するそぶりはなかったわね。片方はアタシのバルカン、もう一方はレイズイーグルのキャノンであっさり死んだわ。体組織をどれだけ破壊できたかの違いじゃないかしら?」
「私が戦った奴らは結構な頻度で再生してきましたよ。しかもライトニングミラージュで細切れにしたにも関わらず、です」
蒼がホワイトボードにデータを次々書き込んでいく。
俗に言うブレインストーミングというやつだ。
「あ、でもブレードホークが切り倒した敵は再生しませんでしたね……」
「お! いい情報じゃないのそれ!」
嬉々として書き込む蒼。
自分の作った装備が敵を倒したことにご満悦のようだ。
「やっぱり、あの敵アンタのエネルギーが特効なんじゃない?」
ホワイトボードと睨めっこしながら、香子が口を開いた。
「サポートバード単独では、炉心に使ってるアンタのエネルギー使った攻撃しかできないでしょ? それにマジックコンバータースーツとサポートバードが合体した時は、アンタのエネルギーとアタシ達のエネルギーを混合して攻撃に使う。」
興に乗ってきたのか、立ち上がり、ホワイトボードに赤丸をつけていく香子。
丸と丸を線で結び、そこに共通する事柄を羅列して見せる。
「新里さんと戦った敵が再生したのは、魔法少女の能力で倒した時。サポートバードと合体して攻撃した時は再生しなかった。もうこれだけでも確定的だと思うんだけど」
「やっぱりお前もそう思う?」
蒼が満足げに応える。
「何ワクワクしてんのよ……」
「だって俺がいないと倒せない敵出現って初めてじゃない!? 今度は俺が君らを助けたり、守ったりできるってことじゃん!」
香子と香子は、蒼の能天気さにやや呆れつつ、「もうとっくに助けたり守ったりしてくれてる」と、言ってやろうかと思ったが、調子に乗りそうなのでやめた。
蒼は満面の笑みで、「よーし!ブレイブウィングとサポートバード全面改良だ!」と息巻いていた。





