第18話:マジックコンバータースーツ
「いました笠原先輩! 高架下にクラゲ型のゼルロイドと……カラインです!!」
詩織が左腕の腕時計型デバイスを確認し、ゼルロイドとカラインの出現を香子に告げる。
「新里さん! 変身お願い! アタシがフォローする!」
「はい! 変身!」
表通りから走ってきた香子が詩織に指示を飛ばし、詩織もすぐさまそれに従う。
詩織が黄色の光に包まれ、可憐な魔法少女の姿に変わっていく。
周囲にエネルギー場が展開されたのを確認すると、香子は左腕の腕時計型デバイスのダイヤルをカチカチと回転させ、「WING」に合わせた。
「メタモルフォーゼ! アクエリアス!」
香子も同じく、魔法少女への変身を行う、しかし、様子が普段とは異なっていた。
香子の青いエネルギーが腕のデバイスへ集まっていき、そこから再度放出されたエネルギーが彼女の全身を覆っていく。
やがてそれは黒いタイツスーツと姿を変え、青いエネルギーラインが体のラインに沿って走り、黒と青で構成された精悍なコスチュームとなって香子を包んだ。
そしてデバイスに呼び出されたレイズイーグルが高速で飛来し、火器パーツを香子へ射出する。
「ユナイト! アクエリアス・フルーゲル!」
放たれた連装砲、サイドバルカン、アームレーザーが香子の身体の各部に合体し、ウィングパーツが背中に装着される。
本来展開される香子のエネルギー場は展開されず、ピッチリとしたスーツに身を包んだ新たな魔法少女が高架下に降り立った。
「アハハハハ! フタリいた! もらう!」
カラインの姿は金髪の女性だった。
ダボダボとした部屋着のような服装である。年は18~20くらいだろうか。
カラインの声に従うようにゼルロイドが回転しながら詩織に突進してきた。
「ライトニング・スラッシュ!」
透明な円盤と化して突っ込んで来るゼルロイドを易々と躱し、すれ違いざまにエネルギーの短刀で切りつける。
回転に沿って繰り出されたそれは、まるでリンゴの皮を剥くかのようにゼルロイドの身体をそぎ落とし、一瞬にして戦闘力を奪い去った。
「シュヴェルト・ゲヴィアー!!」
動かなくなったゼルロイドに、すかさず連装砲の連撃を放つ香子。青いエネルギー弾が次々と着弾し、ゼルロイドを跡形もなく焼き尽くした。
「アハハハハ!! もっと来る!!」
カラインの呼びかけに応じて路肩の水路の蓋が次々と吹き飛び、中から小型のクラゲ型ゼルロイドが複数体出現した。
「なっ!! うあああああああ!!」
次々と香子に覆いかぶさるゼルロイド。電撃を発し、香子に浴びせかける。
「ライトニング・ミラージュ!」
飛び上がった詩織が発した無数の光の刃が、ゼルロイドを的確に貫き、捕えられた香子を支援する。
「アルム・レイザー!」
自由を取り戻した香子のアームレーザーが光り、纏わりつくゼルロイドを次々と焼き切っていく。
「ザイテ・バルカン!」
続いて腰のサイドバルカンが青い火を噴き、辺りを漂っていたゼルロイド達を叩き落していった。
ありがと!と上空の詩織にウィンクを飛ばして見せる香子。それにサムズアップで応える詩織。
その香子の瞳に、高架の柱を蹴り上がりながら詩織に迫るカラインの影が映った。
「新里さん危ない!!」
「アハハハハハ! おマエもらう!!」
香子や、辺りを漂うゼルロイドに意識を取られていた詩織に、カラインが襲い掛かった。
どこかヤンキーを思わせる外観に違わず、鋭い喧嘩キックを詩織に叩き込むカライン。
詩織の脇腹に深々と踵がめり込み、さらにオレンジ色の爆発が発生した。
「う!!」と苦悶の声を上げ、高架下の壁に叩きつけられる詩織。
カラインは高架の柱を蹴り、再び詩織に飛び蹴りを叩き込もうとする。今度は両足がオレンジ色の光を纏っている。
「させない! シュヴェルト・ゲヴィアー!」
狙われていることを悟ったカラインは空中で防御の姿勢を取ったが、青いエネルギー弾が次々命中し、頭を守っていた腕を吹き飛ばされ、バランスを崩したまま勢いよく高架下に墜落する。
「ライトニング・アンカー!!」
すかさず追撃する詩織の刃に、カラインは慌てて自身の頭部を捩じ切り、マンホールの下へ逃げていった。
■ ■ ■ ■ ■
「くっ……! 逃げられた!」
マンホールを覗き込み、悔しがる香子。
その中は人が入れるようなものではなく、直系40㎝程度の水路があるタイプだったのだ。
下に降りると広い下水道に通じているようなマンホールは案外少ないのである。
「二人とも大丈夫か? 人が集まってきてる。すぐ戻ってきてくれ」
二人のデバイスから蒼の声が聞こえ、帰投を促す。
なにせ殺され、カラインに乗っ取られていたとはいえ、体は人間のそれである。詩織と香子が連続頭部捩じ切り犯と誤解されてはたまったものではない。
既に警察は遺体に付着した細胞から、人間ではない謎の生物の仕業と発表してはいるが、魔法少女を疑っている人も決してゼロではないのだ。
二人は蒼の誘導に従い、監視カメラの死角を走り、変身を解いて光風高校へ急いだ。
■ ■ ■ ■ ■
「ただいま……。今回も倒しきれなかったよ」
「先輩……そんな気を落とさないでください。 今度は倒しましょう!」
カライン化した桃色の魔法少女と戦った日から早3ヶ月。ゼルロイドと戦いながら、カラインを追っていた魔法少女部だが、未だ仕留めることが出来ずにいた。
既に緑、オレンジ、黒、水色の4人の魔法少女が犠牲となり、他にも7人の一般市民が頭部を捩じ切られた遺体となって発見された。
カラインによって使役されたゼルロイドの犠牲者となるとさらに増えるだろう。
紫の魔法少女が繁華街の裏手でカラインに使役されたと思しき複数のトカゲ型ゼルロイドの襲撃を受け、逃走する映像が監視カメラによって記録され、市民に恐怖と絶望を与えるなど、これまで優勢だった魔法少女達の苦戦を思わせる情報が増えてきたのも、対ゼルロイドという観点では好ましくない。
「カラインの存在も段々認知され始めたし……。ここ最近明らかにゼルロイドの出現頻度が上がってるしで良くない傾向だな……。何かカラインも喋る言語が安定してきた感じするし、知能が上がってきてるのかもしれん」
蒼も神妙な顔でモニターを睨んでいる。
カラインの早期発見、早期撃退のために蒼が導入したのは、街のパスワードロックがかかっていない監視カメラを自動確認するシステムだった。
ゼルロイドと思しき巨大生物、カラインと思しき頭部や、巨大な眼孔を持つ生物、または魔法少女。それらを認識すると3人のスマートフォンや腕時計型のデバイスに位置情報が飛ぶようになっている。
その効果は覿面で、これまでの見回りに比べ、圧倒的高効率でゼルロイドの撃破が可能になったのである。
警察や市が市民の安全確保のため、各所に監視カメラを増設し、公開したというのも大きいが、蒼が収集したゼルロイドデータベースと連動した認識AIも一役買っている。
一刻も早いカラインの撃破を目指し、その認識AIシステムの更新に追われているため、最近の蒼は部室に籠りがちになってしまっている。
その穴を埋めるのが、先ほど香子が装着していた新装備「マジックコンバータースーツ」なのだ。
「笠原は5回目の使用かな? 今のところ使い心地はどうだ?」
「なかなか良好……。だけどやっぱり武器が重いわね。アタシのエネルギー場でアンタから渡されたときはこんなに重く感じなかったんだけど……。」
「なるほどね。スーツに筋力サポート用のエネルギー線通してみるか……」
蒼が香子のデバイスをパソコンに繋ぎ、ソフトの更新を行う。
「最近は二人に任せがちでなんか……。悪いな」
蒼がキーボードを叩きながらふと呟いた。
魔法少女と共に戦う。その願望をウィングにし、数々の武装でゼルロイドと戦ってきた蒼だが、ここの所戦闘は二人に任せきりになってしまっていた。
そのためか、最近の蒼はどこか寂しそうな様子だ。
「何言ってんの! 一人でこんなシステム組んでくれて、しかもこんな新装備まで作ってくれて、アンタは立派に戦ってるわよ!」
香子がすかさずフォローを入れる。
「そうですよ! 現状私たちだけで何とか出来てますし、このスーツ凄いですよ!」
「そう言ってくれると嬉しいんだが……。でも二人で大概何とかできちゃってるっていうのも俺の存在意義無くなったみたいで寂しいな……。ブレイブウィングが泣くぞ」
香子と詩織は内心「こいつメンドクセー」と思ったが、とりあえず「今度はみんなで戦おう」と言って蒼を励ましておいた。
装備解説のコーナー
・マジックコンバータースーツ
魔法少女は通常、変身時にエネルギー場を展開する。
そのエネルギー場は魔法少女によって異なり、反発しあう性質があるため、魔法少女は共闘することが出来ない。
それを解消すべく蒼が作成した装備がマジックコンバータースーツである。
変身に用いるエネルギーを、一度腕時計型デバイスを介し、内部で書き換えを行うことでエネルギー場の展開をキャンセルすることに成功した。
蒼のエネルギーとスペースチタニウム配合ゴムを合わせた特殊スーツをコスチュームに併せて出力、そこに魔法少女の体内のエネルギーを循環させることで強度と柔軟性を確保し、また、身体能力の向上にも成功した。
また、機動力と攻撃力を確保するため、サポートバードと合体し、その火器や剣を用いてエネルギーの補助を行う設計になっている。
本来は模様等はなかったのだが、香子、詩織に装着させたところ、それぞれに独自のエネルギーのラインが浮かび上がった。
攻撃力、身体能力は純粋な魔法少女状態に比べると劣るが、防御力は何ら遜色がない。





