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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第一章:魔法少女部 対 カライン 編
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プロローグ:魔法少女 対 怪しい眼鏡

挿絵(By みてみん)






 見上げた空に浮かぶ、気味の悪い巨大な影。

 空を覆い、太陽を隠し、世界を闇に包み込む。

 光すら通さない黒い霧の向こう、気味の悪い、何か動物の頭蓋骨のようなものがじっとこちらを覗き込んでいる。

 足元に散らばるのは、少女達の亡骸。

 漆黒の靄が漂う荒れ果てた大地に転がる、無数の人、人、人。

 他に動くものの何一つない世界で、俺は立ち尽くしていた

 突然、上空で白い光が瞬いたかと思うと、大地が裂け、世界がガラガラと崩れ始めた。




× × × × × ×




「なんつー夢見てんだ俺……」



 目覚ましのアラームを止めつつ、少年は軽く伸びをする。

 彼、「高瀬 蒼(たかせ そう)」はかつてないほど気分の悪い朝を迎えた。

 コーヒーとトースト、茹で卵だけの簡単な食事を頬張りつつ、朝のニュース番組を流し見する。



「ほへ~……。西表島が立ち入り禁止かぁ……」



 ゼルロイドの増殖、そしてそれに対処できる人間の不在から、かつての人気リゾート地はあっけない終焉を迎えたらしい。

 人々の絶望に反応して発生、増殖し、やがて巨大な怪物と化して人々を襲い、食らう。正体不明の生命体、「ゼルロイド」。

 もはやニュースで見ない日が無いほど、その被害は日本各地、世界各国で顕在化していた。

 なにせ、銃や刀剣、その他あらゆる武器をほぼ無力化する特殊な性質故、警察や軍隊では対処できないのだから厄介だ。

 蒼の住む街、大城市でも、その被害は年々増加傾向である。

 加えて困ったことに、この街のゼルロイドの出現率は世界有数らしく、一週間も暮らせば「~にゼルロイドが出た」「~で~が襲われた」「~で~人ケガ人が出た、死人が出た」等の緊急速報を最低3回は聞くことになると言われている。

 まあ、それに比例して、目撃される魔法少女の数もかなり多いので、住民達にはさほど危機感がなく、むしろ市が「ゼルロイドに襲われても大体魔法少女が助けに来てくれる街」として移住キャンペーンまで打っている始末だ。



「アレを早く完成させねぇとなぁ……」



 ローカルチャンネルで毎朝お馴染みとなった行方不明者リストの画面上に表示される、「大城山林公園でバッタ型ゼルロイド目撃情報、捜索中」という速報の文字列を眺めながら、蒼はぽつりと呟いた。

 時計を見ると、もうそろそろ出発するべき時間になっている。

 食器を流しに沈めると、通学カバンを携え、柔らかな春風の吹く街へ繰り出していった。




■ ■ ■ ■ ■




川沿いの通学路はすっかり桜色に染まっている。

桜の並木道特有の甘く心地よい香りが漂い、蒼も自然と気分が浮かれてくる。



(今日は会えそうな気がするな! 新入生の中にいると御の字なんだけどなぁ)



 始まりの季節、出会いの季節と言われる春。

 今日は蒼が高校2年に進級し、後輩達が進学してくる日、始業式。

 彼は新たな出会い、新たな始まりに胸を躍らせ、学校への道を早足で歩いていく。

 そんな彼の目に、気がかりなものが映った。



(あれ……? あっちって……)



 自転車に乗った女の子二人……小学生くらいだろうか。

 子供たちが仲良く、笑い合いながら小道へ入っていくのが見えた。



「おいおいおい! そっちは危ないぞ!!」



 大声で叫んでみたが、彼女らは気が付かず、細い坂道を下っていってしまった。

 彼らが曲がっていった先は、よりによって今朝ゼルロイドの目撃情報があった、大城山林公園に続く林道への入り口だった。

 蒼は大慌てでその二人の後を追う。

 だが、相手が子供とはいえ、自転車と足では速度が違いすぎる。

 下り坂となると尚更だ。



「そこの二人! 止まるんだ!」



 「こんな時に親は何やってんだよ!?」と悪態をつきながら、息を切らして追いかける蒼。

 不運なことに、林道には二人と蒼以外の誰もおらず、警察による立ち入り禁止テープも貼られていなかった。

 全力を尽くしても、彼我の差はグングンと離れていく。



「待って……そっち……危ないから……」



 早くも蒼はへとへとだ。

 蒼自身元々体力のある方ではない上に、朝一で全力疾走は彼でなくともキツい。

 息切れで霞む彼の視界の先に、巨大な緑色の物体が見えた。



「キャ――――――!!」



 女の子の叫び声。

 続いて、ガッシャーンという金属音。

 鮮やかな緑の細長い体、三角形の頭、長く広がった足。

 ショウリョウバッタ型の中型ゼルロイドが、のっそのっそと子供たちに迫っていた。

 蒼が息を大きく吐き、思い切り吸い、再び両足に最大限の力を込めて走り出す。

 彼の胸に白い光が灯り、そこから右足に光の筋が伸びていく。



「やめろおおおお!!」



 力いっぱい地面をけり上げ、その勢いで3メートルはあろうかという巨大バッタにドロップキックをしかける蒼。

 下り坂でつけた加速そのままに、彼はゼルロイドの顔面を思い切り蹴りつけた。

 蹴りが撃ち込まれた部位に「パンッ!」と閃光が走り、緑色の破片が宙に舞った。

 バッタ型ゼルロイドは「ジジジジジ……」と鳴き声のような、羽が擦れるような音を上げて体勢を崩し、後方へジャンプで後退する。



「痛ててて……。ちびっ子たち! 早く逃げろ!」



 蒼もまた体制を崩し、地面で腰を強打しつつも、子供たちに指示する。

 彼らは一瞬ためらうようなそぶりを見せたが、倒れた自転車を起こし、泣きながら逃げ去っていった。



「ぐはぁ!!」



 その背中を見送る蒼を、強烈な衝撃が襲った。

 敵がバッタの跳躍力をもって体当たりを仕掛けてきたのだ。

 一撃で蒼を弾き飛ばし、今度は子供たちを襲おうと、足をグググ……と畳み始めるゼルロイド。



「させるか……!」



 痛む体を引き起こし、ゼルロイドの後ろ脚にしがみ付く。

 「ジジジジジジ!」と威嚇音を発し、蒼諸共足を振り回すゼルロイド。

 所詮生身の蒼は、巨大昆虫の力に敵わず、振り落とされ、地面に叩きつけられてしまう。



「ぐ……はぁ……!」



 肺が激しく圧迫され、その苦しみに目を白黒させてのたうち回る蒼。

 子供二人を見失ったゼルロイドは蒼に狙いを定め、ゆっくりと迫って来た。

 はっきり言って、ゼルロイドの中ではかなり間抜けで、弱い個体だ。



「へへっ……。丁度いい実戦テスト相手になりそうだな」



 匍匐でゼルロイドから距離を取りながら、左手の腕時計のダイヤルを回す。



「ウィングユニット……発……」

「ライトニング・ミラージュ!!」



 突然、辺り一面が黄色い光に包まれた。

 光の刃が空中から降り注ぎ、ゼルロイドの体を、足を切り刻んでいく。



「ジジジ……」



 瞬く間に達磨状態にされたバッタ型ゼルロイドが苦し気な音を発して崩れ落ちた。



「ライトニング・アンカー!」



 倒れるゼルロイドに突き立つ光のナイフ。

 突き刺さった部位が花火のようにバン!バン!と炸裂し、バラバラに破壊されたゼルロイドの体は、黒い粒子になって霧散していった。



「黄色の……魔法少女……!」


挿絵(By みてみん)


 空を見上げ、呟く蒼。

 学生服のようなコスチューム、可愛らしい胸のリボン、ミニスカート、そしてそれに不釣り合いとも思える刃の髪飾り。

 蒼の危機を救ったのはこの街を守る魔法少女の一人、通称「黄色の魔法少女」であった。



「大丈夫ですか!?」



 舞い降りてきた魔法少女が蒼を抱き起す。



「ああ……大丈夫だ。ありがとう。君……名前は……?」


「えへへ……秘密です♪ それでは!」



 蒼の傷が大したものではないと確認すると、魔法少女は空に舞い上がり、目にも止まらない速さで飛び去って行った。

 蒼はしばらく、彼女が飛び去った空を眺めていたが、自分が通学中だったことを思い出し、立ち上がって砂を払った。



「ん? 何だこれ?」



 ふと、足元に何かが落ちていることに気がついた。



「ほう……」



 それを拾い上げた蒼の眼鏡が怪しく光った。




■ ■ ■ ■ ■




「ちょっと蒼! 新学年早々傷だらけで遅刻だなんて何してんのよ!? ていうかアンタ何があったの!?」



 新学年から同じクラスになった蒼の幼馴染、「笠原 香子(かさはら きょうこ)」が彼に食って掛かる。

 始業式会場に土と血に汚れた制服で現れたら、それは誰でも何事かと思うだろう。

 クラスメイト達も無関心を装いつつ、蒼の動向に目が離せない状態だ。

 だが、入学当初から奇行が目立ち、所謂奇人、変人の異名を持つ蒼に直接話しかけたがる者は誰もいない。

 香子を除いて、だが。



「いや~ ちょっと寄り道してたらゼルロイドに襲われちゃってさ……」


「ゼルロイド!? 大丈夫だったの!?」


「それがさ、黄色の魔法少女に助けてもらったんだよ。いや~儲けた気分!」


「バカ! 何が儲けた気分よ! 一歩間違えたら死んでたところよ! ていうかアンタ……あの妙な部活の活動のつもりで危ないとこ行ったんじゃないでしょうね!?」


「妙な部活って言うなよ! まあ危ないとこに行ったのは事実だけどさ……」


「アンタは本当に……!」



 香子の怒りのボルテージが頂点に達しかけた時、チャイムが鳴り、教師が入ってきた。

 流石にこの状況で怒号を発する気にはなれず、香子は大人しく自分の席に戻っていった。




 新学年の始業式特有の短縮時間割で、午前中に終わる学校。

 香子は蒼に先ほどの説教の続きをすべく、彼の席を振り返ったが、蒼は早くも姿を消していた。

 香子は少し寂しげな、不安そうな表情を浮かべ、自身の名を呼ぶ友人たちの方へ向かって行った。




■ ■ ■ ■ ■




「あれ~? おっかしいなぁ……」



 それとほぼ同時刻、新入生、「新里 詩織(にいざと しおり)」はバッグの中をゴソゴソと漁っていた。

 確かに入れたはずの生徒カードがない。

 アレがないと1階の購買を利用できないのだ。

 それだけではなく、今後の学校生活に色々支障が出る。

 光風高校は学校の各施設の利用に、生徒カードを必要とするのである。

 そして何より、この後控えているある重要なイベントにも必須なのだ。



「やっぱり家に置き忘れちゃったかなぁ?」



 甘いものでも買いたかったのだが、今回は仕方がないと諦め、トボトボと下駄箱に向かう詩織。



「うーん……登録は出来ないけど、とりあえず顔出しだけでもしに行こうかな……」



 入学式の後のイベントといえば、部活勧誘だ。

 詩織はある部活に入部することを決めている。

 というより、その部に入りたくて、無理をしてでもこの高校を受験したのだ。



「ん?」



 靴を取り出そうと、下駄箱を開けると、一通の封筒が入っていた。

 それも、ハート形のシールで閉じてある。



「ふぇ!?」



 素っ頓狂な声を上げてしまい、慌てて辺りを見回す。

 幸運にも、周りには誰もおらず、外から聞こえる部活勧誘の雑踏にかき消され、彼女の声を聞いた者はだれもいないようだった。



「これって……やっぱりアレだよね……」



 ラブレター。

 もはや死んだ文化と思われがちだが、奇をてらうのが好きな一部学生の間では未だ人気の告白方法である。



「誰……誰かな?」



 詩織は恐る恐る封筒を開け、中に入った紙を取り出す。

 二つに折りたたまれたそれを、ゆっくりと開く。



「!?」



 詩織は絶句した。

 そこに書かれていたのは愛の言葉ではなく、

「この教室に来てください」

 とプリントされた文字列と、詩織の生徒カードのコピーだった。




■ ■ ■ ■ ■




「ここ……魔法少女部……!」



 詩織が呼び出された先は、彼女が想い焦がれていた部の部室であった。



「仲間に……会えるの……?」



 この街に自分以外の魔法少女がいるのは知っている。

 だが、魔法少女は共闘できない。

 纏うエネルギーの力場が反発し合い、互いに近寄ることが出来ないのだ。

 しかし、仮に変身前の姿で出会い、集まることが出来るなら……?

 孤独に戦い続けた日々が、今日、終わるということになる。

 自分の生徒カードを質に取られているということを忘れ、彼女はその戸を叩いた。

 ガン……ガン……。と、鉄の扉特有の重厚感ある音が響く。

 中から反応は無い。



「し……失礼しまーす……」



 期待と緊張に声を震わせながら、ゆっくりと重い鉄の扉を開ける。

 中には意外と広い空間が広がっていた。

 ロッカー、本棚、給湯器、流し台、コーヒーメーカー、部屋の隅には謎の巨大ガラス管…

 置かれた備品の少なさも、部屋の広さを強調している。

 綺麗に整えられてはいるが、少女の集まる空間とするには多少殺風景にも思えた。

 「ガチャ…」というドアの閉まる音が響く。



「ようこそ魔法少女部へ」


(男の人!?)



 予想外の出来事に、詩織は固まってしまった。



「君が黄色の魔法少女、新里詩織さんだね」



 クルリと部長椅子が回り、見覚えのある眼鏡が現れた。



「ああっ!? 今朝の!?」


「なるほどなるほど……。確かに今朝俺を助けてくれた魔法少女と同じ顔してるね」



 そう言いながら、蒼は詩織の生徒カードを持って彼女に迫る。


挿絵(By みてみん)


(まさかこの人……! この情報で私を脅して……。あんなことやこんなことを……!?)



 今朝は気付かなかったが、小柄な詩織から見ると、蒼は見上げる程の背丈だ。

 不敵に笑う口元、怪しく光る眼鏡、その威圧感に、詩織は壁際へ後退していく。


挿絵(By みてみん)


(子供のために命をかけて戦う正義感の強い人だって思ったのに! 酷い!)



 謎の被害妄想を膨らませていく詩織。



「どうか……どうかエッチなことだけはやめてください……!」


「へ? いや、早く受け取ってよ」


挿絵(By みてみん)


 拍子抜けしたような声を上げ、カードを差し出す蒼。



「え……あ、はい」



 それに素直に従う詩織。



「あの……これで私の正体をバラすぞって脅して、エッチなこととかしないんですか?」


「しないわ!! まあ、でも、こういうことはするけどね!!」



 蒼の眼鏡が再び怪しく光ったと同時に、部屋の隅にあった巨大ガラス管が開き、中から無数のロボットアームが詩織に向かって伸び、彼女を捕縛した。

 アームの凄まじい力の前に詩織は成すすべなく、ガラス管の中に引き込まれてしまう。



「な…!!なにこれ!?」



 両手両足をアームにがっちりと固定され、詩織はガラス管の中で身動き一つとることが出来ない。



「スキャン開始!!」

「きゃああああああああああ!!」



 熱いような、痺れるような、冷たいような、わけの分からない、ひたすらに不快な感覚が詩織の全身に流れ込む。

 何が何かも分からないまま、詩織は自分の迂闊さを悔やみながら意識を失った。


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