第46話:走れイカロス
「シャイニングゲート!オープン!」
蒼の左腕のコンドルキャリバーから光のリングが射出される。
それに呼応して、大城市山中にあるSST基地のシステムが勝手に稼働し、超小型のシャイニングゲートが開いた。
大城市への直通回廊だ。
例によって、こんなシステムなど御崎は承知していない。
「しゃあ! いっちょブチかましてやるか!」
響がそう言うと、瞬く間に魔法少女に姿を変えゲートに飛び込もうとした。
しかし、ガゴン!という音と共にゲートに弾き飛ばされてしまう。
「なんだよこれ!?」
響が顔面を押さえながら叫ぶ。
「ごめん、国を跨ぐ長さのマイクロシャイニングゲートはまだ俺以外は使えないようロックしてあるんだ。迷子になった時帰ってこれなくなる可能性があるからさ」
「先に言えや!」
「じゃあ蒼一人でテラーゼルロイドに挑むの!? 無茶よ!」
『笠原さん! 高瀬くんは私達が支援するよ!』
香子の声に、画面の向こうから食い気味音割れ気味の声が応えた。
見れば、由梨花は既に魔法少女の姿になっている。
そのコスチュームはただのX化とは少し異なり、かといってSXほど劇的なパワーアップを感じさせるほどではない。
現在彼女にのみ発現している独特な形態だ。
「大丈夫? 強いわよ? テラーゼルロイド」
『大丈夫。私も貴方達ほどじゃないけど、高瀬くんのおかげで皆より少しだけ強くなれたから』
「……」
『……』
「もー!! 先輩達やめてくださいよぉ!! あと高瀬先輩もう行っちゃいましたよ!」
詩織が指さす方を見ると、ドリルコンドルを纏った蒼は既に豆粒のような大きさになり、ゲートの彼方に飛び去っていた。
『みんな! 行くよ!』
由梨花に引き連れられ、バーに隠されたSST基地直通路に駆けこんでいく大城市の魔法少女達。
最後に店をサッと片づけた後、カナタは『悪いけど彼ピ借りてくで!』と、ウィンクをしつつ、通路の扉をバタンと閉めた。
「ぐぬぬぬぬ……」と、照れと独占欲に唸る香子に、台湾勢の画面から『ネトラレデスか!ドロドロデスか!?ヌレヌレデスか!?』という興奮しきった声が飛んできた。
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「高瀬くん! 待ってたよ! 行こう!」
蒼がSSTのドラゴンライナー用プラットフォームに降り立つと、既に魔法少女達はスタンバイしていた。
X化した魔法少女はエネルギー場が共通のものとなり、同一の空間に立ち入ることが出来る。
カラフルな魔法少女が無機質で巨大な駅に並んでいる様子は、ややシュールな光景だ。
「高瀬くん。まだドラゴンライナーは修理中ですが……。まあ、恐らくここに来るんですね? 件のメカが……」
目の下のクマを増大させた宮野が駅の末端、ドラゴンライナー格納庫の方から歩いてきた。
見れば、格納庫の方では無数の溶接火花が散っているのが見え、相当大規模な修理が進行中と見える。
「しかし……このプラットフォームは現在どの線路とも接続していませんが」
「大丈夫です! 既に繋いでますから。」
蒼が何かを察知したかのように駅の壁面を見つめる。
「来ましたよ。勇気を運ぶ特急が」
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
轟音と共にプラットフォームの壁面の岩盤が開き、トンネルと線路が出現した。
線路の分岐ポイントが接続され、トンネルの闇の向こうから、二つの光点が現れる。
そして、轟音と共に巨大な列車が現れ、けたたましいブレーキ音を響かせながら停止した。
紺色と青を基調とした、ドラゴンライナーに勝るとも劣らない勇壮たる姿だ。
「これは……。輸送列車……?」
もはや基地が勝手に改造されていることには驚かず、機体の装備をまじまじと見つめる宮野。
巨大なバルカン砲塔2基がグイングインと稼働し、試運転をしている様子だ。
その中央部には、コクピットを挟んで2か所の大型輸送ラックが装備されていて、コンテナを思わせる積載物が4機積まれている。
「これこそが、超次元輸送特急イカロスライナーです。さあ! 行きましょう! 会長たちはあそこのコンテナに乗ってください!」
蒼は車体中心部にある操縦席へ走る。
由梨花たちは誘導光が光っている、扉のあるコンテナへ走った。
「イカロスライナー! 発進!」
蒼は各種車体ステータスに目を通した後、イカロスライナーの発進ボタンをタッチした。
初めはゆっくりと、そして力強く加速していくイカロスライナー。
長いSST秘密基地のトンネルを抜け、夕闇迫る街中の高架に接続する。
大城市の全ての駅のモニターが「臨時運行 超次元輸送特急イカロスライナー」に切り替わり『超次元輸送特急イカロスライナーが通過致します。白線の内側までお下がりください』という、アナウンスまで流れている。
「これは……えらいけったいな……」
「公共機関のシステム勝手に弄っていいんですかね……?」
あまりの用意周到ぶりに、コンテナから外を見ていた魔法少女達は軽く引いている。
驚きの表情が並ぶ駅を3駅過ぎたところで、イカロスライナーはふわりと空中に浮いた。
『飛行システムが未調整なので多分揺れます! しっかり掴まっていてください!』
蒼の声と共に、早速激しい揺れが襲って来た。
魔法少女達は各々掴めるところを掴み、衝撃に備える。
驚愕の表情で人々が見上げる茜色の空に、長大な列車のシルエットが北東の空へ飛び去って行った。
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『着陸します!つかまって!』
蒼のアナウンスとほぼ同時に、激しい振動が伝わる。
「これはひどい……」
窓の外を見ていた氷華が呟く。
出現の報から1時間と経っていないが、多数の火の手が上がり、逃げ惑う人々や緊急車両、自衛隊の戦闘車両が走り回っている。
街は大混乱の様相だ。
『イカロススプリンクラー!』
イカロスライナー上部の砲塔が回転し、街に特殊消火液を噴霧する。
瞬く間に、車両周辺の火の手が弱まっていく。
同時に、異常な被害状況が明らかになった。
建物や車両が捻じれるようにひしゃげ、燃え上がっていたのだ。
『コンテナマシンを発進させます! 降りてください!』
蒼からのアナウンスに、コンテナから飛び出す魔法少女達。
見れば、積載されていた4機のコンテナのうち3機がジェット噴射で飛び上がり、変形を始めている。
1機はモグラのようなメカ「グランドモグラー」に、1機は消防車を思わせる小型のロボット「ファイヤーガーダー」に、もう1機はコウモリ型のメカ「バリバット」に変形した。
そして、由梨花たちが乗っていたコンテナは、壁面がせり出して4本の足が伸び、亀を思わせるメディカルセンター「メディカルトータス」となる。
『イカロスライナーを敵予測位置まで前進させます! 会長は随伴してください! 皆さんは散会して小型の敵の撃破と、怪我人、魔法少女の救助を行ってください! 重傷者はメディカルトータスへ搬入をお願いします!』
「よっしゃ任された!」
『会長、行きますよ』
「うん……!」
由梨花がイカロスライナーのコクピット上に着地したことを確認すると、蒼はイカロススプリンクラーを噴射しながら、ゆっくりとイカロスライナーを前進させる。
同時に、グランドモグラーは地中へ潜行し、バリバットはメディカルトータスのいる一角にXエネルギーの防御力場を発生させ、ファイヤーガーダーは燃え盛る街の中へ走っていった。
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「あぐっ……あ……!」
一関市の魔法少女、星川 真姫は空中に持ち上げられ、凄まじい力で体を捻じり上げられていた。
彼女以外にも、複数の魔法少女が謎の力に囚われている。
「どう……して……」
霞む視界の向こうに、美しい模様の着物を纏った蝶のような巨体が舞っている。
その身体からは純白の糸が振りまかれ、振れたものをバキバキと捻じり、破壊している。
「バイオレットプラズマシューター!! 」
由梨花の放った紫色のレーザー光線が敵の巨体を貫き、激しく炎上させる。
同時に、空中に囚われていた魔法少女達が解放され、次々に落下してきた。
『キャッチャーネット!』
イカロスライナーの砲塔が旋回して蜘蛛の巣状のネットが放たれると、魔法少女達を受け止めた。
「大丈夫!? 今治療するから!」
由梨花が胸から放つXエネルギーで、魔法少女達を治療する。
皆体が180度近く捻じられ、体中の骨や内臓に大きなダメージを負っていたが、命を落としていない限り、Xクリスタルからのエネルギー供給で回復が可能だ。
回復に合わせ、彼女達の胸のクリスタルもX型になっていく。
先ほどまで死に瀕していた真姫も持ち直した。
「ありがとう……貴方達は……」
「私は魔法少女由梨花。そしてこれはイカロスライナー。この街に希望を、勝利を届けに来たの」
そう言って見上げる空に、テラーコアが出現し、テラーゼルロイドが再生を始める。
「あれは一体何なの……? あんな物の怪知らない……」
困惑する由梨花に、真姫が立ち上がりながら応える。
「あれは……恐らくオシラサマよ……。でも……守り神のはずなのに……どうして……」
「オシラサマ……」
首をかしげる由梨花のマジフォンに、オシラサマに関するデータが飛んできた。
オシラサマとは、東北地方を中心に祀られる守り神の一つで、養蚕や農業を司るとされている。
蚕の餌である桑の木に馬、もしくは女性の顔を刻み、美しい和紋の布を被せたものを御神体としている。
守り神であるが、同時に呪い、祟りの伝説もあり、禁忌を犯した者は大病を患ったり、顔が曲がったりするという。
『伝承と敵の姿や能力に一定の合致があるな……テラーオシラサマとでも言うべきか……。それなら……会長! お願いします!』
「了解! ブレイブブースター!!」
由梨花がマジウォッチに叫ぶと、空から白銀のマシンが飛来する。
「みんな! 協力お願い!」
由梨花はブレイブブースターをキャッチすると、助け出した魔法少女達にそれを担ぎ上げるよう促す。
「皆の勇気をぶつけるのよ! それが恐ろしい怪物の姿でも、神聖な守り神の姿でも、私達の命を、暮らしを脅かすのなら、立ち向かうしかないわ! データインポート!!」
由梨花がマジウォッチを掲げると、高速でオシラサマに関するデータが集積、分析されていく。
由梨花の口上に勇気づけられた魔法少女達のエネルギーがブレイブブースターに注入されていく。
「テラーコア粉砕弾頭! 腐った卵!! ブレイブ!! ボンバー!!」
由梨花がブレイブブースターにマジウォッチを嵌め込み、トリガーを引く。
すると砲身から5色のエネルギー光線が放たれ、それはみるみるうちに卵の形になり、テラーオシラサマのテラーコアに命中し、猛烈な刺激臭を放ちながら大爆発した。
刹那、「ヒヒィィィィィィンン!!」という絶叫と共に、敵はのたうち回りながらエネルギーを集中し、ファイナルフェーズに移行した。
猛烈な勢いで噴射される呪いの生糸。
由梨花たちに迫る霧のような糸の群れを、イカロスライナーのイカロスバルカンが焼き尽くした。
『ここからは俺の出番です! イカロスライナー! ライズアップ!!』
長大なイカロスライナーが二つ折りのように立ち上がり、巨体から想像もつかないほどの高速で変形していく。
やがてそれは、巨大な人型ロボットとなった。
『カーゴイカロス! 戦闘開始!!』
蒼はレバーを勢いよく倒し、両腕のイカロスバルカンの斉射を開始した。





