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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第三章

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第44話:タイ編10 恐怖と祈りと




「おお~!まるでお城みたいです!」


 詩織がそびえ立つ仏閣を見上げて叫んだ。

 一行が訪れたのはワット・アルン。

 チャオプラヤー川に浮かぶ島に建つ美しい寺院で、その独特な形の巨大な仏塔が特徴的だ。

 日中の強い陽射しに照らされながらも、どこか荘厳な空気が漂っている。


「ここは『暁の寺』とも言われていて、朝日が昇る頃にこの白い大塔が川面に映り込み、本当に美しいんです。今日は時間が遅いですが……」


 クラは少し残念そうに言う。

 渡し船で川を渡った一行は、タイ古式の装いに身を包んでいる。

 ちょうど途中にあった土産物屋で詩織が「せっかくですから現地のコスチュームで挑みましょうよぉ!」とゴネたのだ。

 タイの民族衣装であるシワーライを身に着けた詩織は「なんだか気分上がるぅ!」とキャッキャしていたが、響は「何も全員着替えなくたって…」とぼやいている。

 ただ、クラ曰く詩織と響の服装は寺院巡りにしては露出度が高すぎて顰蹙を買う可能性があったとのことで、ある意味丁度良かったのかもしれない。


「まずは仏塔を見ていきましょう」


 クラに導かれ、一行はとりわけ特徴的な大仏塔へ向かう。

 白地に色鮮やかな加飾が施された大仏塔には、神々や神獣のモチーフが散りばめられている。


「ほら! アレがガルーダですよ!」


「なんか改めて見ると結構強烈なデザインだな。ウチの感性かもしれねぇが、ぱっと見で正義の味方とは思えねぇかも」


「確かにインパクトのある見た目ですが、悪だくみを挫く神話に基づいた正義と美徳の神獣なんですよ~。ほら! この国の国旗にも描かれてるんです!」


マジフォンの画面に投影したタイ国旗を見せながら、「カドゥルーとヴィナターという姉妹の神様がですね……」と、語り出してしまったクラと、それに捕まった響を尻目に、蒼は立ち並ぶ装飾の神々を見つめる。


「ふふっ」


「な……何だよ……」


「蒼が神仏に見惚れるなんて珍しいなと思って。アンタ神仏嫌ってそうじゃん」


「いやそりゃあんな未来見たら超常存在に祈る気にはならないけどさ……俺だって家族の墓前で手合わせることはするぞ? 最近はサポートバードのハカマイリフェザントに任せてるが、道徳意識や倫理観を醸成するものとしての神仏、宗教の類は決して否定するようなことじゃないさ。何より、美しいものは美しい」


「そこのとこどう思いますか高瀬さん?」



 香子と並んで仏塔の写真などを撮影していた蒼に、ガルーダの神話を一通り話し終えたクラが話を振ってきた。

 蒼が「ああ、すみません。ちょっと仏塔に見惚れてて聞いてなかったです」と返すと、クラは「いえ、見惚れていただく分にはいいんですが……」と前置きをしたうえで、本堂に蒼達を案内しつつ続ける。



「テラーゼルロイドとして暴れ回っていたナーガも、神話で悪役を務めることこそあれ、修行中のお釈迦様を守ったり、天気を操る豊穣の神様という側面もあるんですよ。今そんな恐怖の対象として見られているとは思えないんです……」


「ふむ……なるほど……」



 思えば確かに妙ではある。

 実際、詩織が散々見せてきた観光ガイドにも、守り神として祀られ、また、巨大なモニュメントとして目を楽しませているナーガの姿が印象的だった。

 恐れられている存在の姿を模して出現すると思われているテラーゼルロイドだが、出現例はまだ2個体。まだ謎は多い。

 蒼はしばらく考えた後「すみません。確証をもって答えられません。ただ、いずれは何らかの答えをお伝えします」と応えた。

 クラは「お願いします。悪役要素を持ったナーガならまだしも、ガルーダ型やお釈迦様型なんて出てこられたら……私達は咄嗟に戦えないかもしれません……」と、不安そうな表情を浮かべる。



「なんてお話をしているうちに、到着しましたね。ここが本堂です!」



 シリアスなトーンから急に観光ガイドのトーンに変ったクラに拍子抜けしつつ、蒼は周囲を見た。

金色に光る仏像に向かい、手を合わせる人々。

 子どもから老人まで、老若男女が静かに祈りを捧げている。

 ゼルロイド、カオスゼルロイド、そしてテラーゼルロイドと、次々に強力な脅威が人類を襲い来るこの世においては、皆明日の命、そして平穏な生活への切実な思いが込められているはずだ。

 戦うことのできない人々にとってそれは唯一の支えともいえるだろう。



「最近参拝される方が随分増えちゃいましてねぇ。私がやられてしまう前よりも増えてますよ。仏様の教えを大切にするのはいいことですが……なんか現金な感じですよね」



 そう言って苦笑するクラ。



「恐れ……信仰……祈り……」



 蒼は何か、掴めそうで掴めない核心を指でなぞっているような、得も言われぬモヤモヤとした感覚に襲われながら、本堂を後にしたのだった。

 その後、何枚か記念写真を撮影していると、突如蒼の左腕のデバイス、そして魔法少女達のマジフォンが激しく振動した。



「来たか……!」



 蒼が小さく呟きデバイスに目をやる。

 するとそこには「今夜魔法少女国際懇談会やるわよ!」という、御崎からの拍子抜けするようなメッセージが届いていた。


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