第41話:タイ編7 ブレイブブースター
少年の叫びに応え、空から白銀に輝くマシンが飛来した。
そのマシンの名はブレイブブースター。
「はっ!!」
飛来したブレイブブースターをルトナがキャッチする。
その大きさはちょうど魔法少女が5人で担ぐ程度だ。
「さあ! いくよみんな!」
ルトナが音頭を取り、近所の魔法少女達と共にブレイブブースターを担ぎ上げた。
「お姉ちゃんも!」
パムに背中を押され、よく分からない状況ながらもハンドルを掴むクラ。
X型のクリスタルを持つ5人が揃った瞬間、ブレイブブースターの中心に据えられたエナジーコンバーターが激しく回転を始めた。
ハンドルを介して5色のエネルギーがコンバーターへ流れ込んでいく。
その様子を見守っていたパムの腕で、マジウォッチがデータの集積・解析を始めた。
小型ながら、破滅世界のオーバーテクノロジーによって製造された簡易量子マイクロチップを備えるそれは膨大な情報を瞬く間に処理し、一つの答えを導き出す。
画面を確認し、パムはウォッチをバンドから取り外し、構えて叫んだ。
「テラーコア粉砕弾頭! ガルダ!!」
彼がブレイブブースターの尾部に据えられたアタッチメント装着部へマジウォッチを嵌め込んだ瞬間、コンバーターがひと際大きく唸りを上げた。
「いくよ!! ブレイブ!! ボンバー!!」
威勢のいい掛け声と共にルトナがトリガーを引く。
ドン!!という衝撃音と共に眩く輝く砲弾が放たれた。
その光の砲弾はみるみるうちに姿を鳥のように変え、やがてその鳥型のシルエットは上半身が人型の神鳥、ガルダの姿となり、リュウキと組み合っているキングナーガの頭上、禍々しいオーラを発しているテラーコア目がけて一直線に飛翔し、激突した。
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テラーコアは人々が共通して抱いている特定のモノへの恐怖がカオスゼルロイドの核と融合することで生まれる。
恐怖には細かな周波位相帯が存在し、異なる周波位相による干渉を受け付けない。
蟾蜍精テラーゼルロイドのテラーコアに対して魔法少女部メンバー4人によるクァドラブルブラスターの攻撃の効果が薄かったのはこの特性の為だ。
ではどうするか?
理論上は簡単なことだ。
真逆の波形をもつ周波位相のエネルギーをぶつけて干渉し、破壊すればいい。
その波形をもつエネルギーとは、恐怖を共有する者の勇気である。
恐怖により生じたエネルギーを中和することが出来るのは勇気のエネルギーだけである。
しかし、蟾蜍精テラーゼルロイド戦では、サポートバード達の機関が破損するほどのエネルギーを現地の魔法少女達の勇気と共に浴びせて、ようやくテラーコアの破壊に至った。
毎回そんな高エネルギーを照射できる保証はない。
魔法少女部のような特異な個を要さず、現地の魔法少女達のエネルギーのみで破壊できなければ、同時多発的に出現された際に打つ手がなくなってしまうだろう。
その問題を解決するカギこそがブレイブブースターだ。
周波位相を極限まで類似させ、ガッチリハマる逆波形にしてぶつければ、テラーコア破壊に要するエネルギーは最小化する。
ブレイブブースターはマジウォッチによる敵の形状、特性からその周波位相分析データを入力されることで、その敵を的確に討ち滅ぼす周波位相エネルギー弾を生成し、発射するのだ。
その際、エネルギー弾は敵の苦手とする存在の形態へ変化し、テラーコアへ襲い掛かるのだ。
ガルダ。
それはタイ王国で恐れ、畏れられる蛇龍ナーガを打ち倒すとされる神鳥であった。
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「ギシャアアアアアアアアン!!」
テラーコアはガルダの一撃で爆発四散、光の粒子となって消滅した。
咆哮するキングナーガ。
残存するカオスフィールドのエネルギーを吸収し、最後の力を振り絞りファイナルフェーズに移行する。
こうなればもう再生はできない。
ただし、生半可なエネルギーでは傷一つ与えられなくなってしまう。
ファイナルフェーズのテラーゼルロイドには、圧倒的なエネルギー質量での攻撃だけが有効だ。
それは例えば、超龍機動戦闘巨神・リュウキのような。
「テラーゼルロイドファイナルフェーズ突入確認! いくぜぇ!!」
響が叫んだ。
人類は学び、改め、前へ進む。
あれほど苦戦したテラーゼルロイドに対し、早くもこれほどシステム化された対処が可能になっていることに、響の胸は熱く高鳴る。
その勢いのまま、彼女はリュウキのパワースロットルを全開にし、大きく踏み込んだ。
「グラビティクロー・クロスドラゴンスマッシャー!!」
リュウキの輝く剛爪がキングナーガの双頭に叩き込まれる……ことは叶わず、敵は一瞬で身を屈め、水中に逃れた。
「あっ!! オイコラ逃げんな!!」と響が叫んだ直後、リュウキの足元で激しい爆発が起き、その姿勢を大きく崩させる。
「うわぁ!」
「きゃあっ!」
蒼と香子が激しい衝撃に振り回されて声を上げた。
水しぶきを上げて倒れたリュウキを尻目に、キングナーガは空高く飛び上がっていく。
「アイツ逃げる気ですよ!!」
「やったわね! ドラゴンキャノン!」
逃げようとする敵へ香子がすかさず対応するが、キングナーガはそれをうねるように躱し、悠々と逃げていく。
誰もが唇を噛んだ瞬間、雲間から出現した黄色い閃光が蛇龍に突き立った。
「間に合ったな!」
頭部を激しくスパークさせながら、キングナーガがその巨体を揺すって落ちていく。
「あれは……鳥!?」
誰より優れた動体視力を持つ詩織が、高速で飛ぶその閃光のシルエットを捉えた。
白とオレンジを基調としたそれは、鋭利な翼剣を広げ、尾羽代わりに巨大なブースターを備えた鳥型マシンだった。
そのカラーパターンはまるで……。
「先輩!!」
詩織が目を輝かせて蒼に詰め寄る。
蒼は口角をニッと上げ、頷いた。
「よっしゃー! 行ってきます!!」
詩織はそう言うとリュウキの出入り口を勢いよく開け、飛び出して行った。
詩織は目にも止まらぬ速度で機鳥のコクピットに飛び込み、まるでバイクに乗るような姿勢でハンドルを握った。
エネルギーラインが詩織と機鳥を繋げ、その一瞬で彼女の脳に操作マニュアルと文字列が流れ込む。
詩織のエネルギーによって炉心が点火し、SXエネルギーが機鳥のブースターから噴き出した。
瞬く間に超音速まで加速しながら、詩織は叫んだ。
「行くよ! ライトニングアエロー!!」





