第40話:タイ編6 龍 対 蛇龍! 奇跡を呼ぶクロス・チャージ
ヴルペースが瞬く間に葬り去られた直後、激しい地鳴りが大気を揺らす。
「テラーゼルロイド出現! 解析班! 顕現形態特定作業開始!」
タイ王国ゼルロイド対策チーム「TAZTF」対策室に若き司令の声が響く。
指令を受けた特定班は自動で展開した複数のドローン及びSSTの新型機「コマンドバード・スカウトオウル」が捉えた映像を解析にかける。
そのシルエットはコブラに類似しているが、頭部が途中で二つに分かれ、赤と青の鋭い一本角がそれぞれ長く伸びていた。
それらの情報を流し込まれたAIが、出現した巨大テラーゼルロイドの正体を探る。
「顕現形態推測値出ました! 蛇龍ナーガ70%、キングコブラ30%! 双頭蛇龍型テラーゼルロイド、呼称案・キングナーガ!」
「了解! 巨大テラーゼルロイドを今後キングナーガと呼称! 戦闘チーム攻撃開始! 魔法少女出現の場合は戦闘を支援! 以降の指揮権は戦闘チームB2-A指揮官に委譲します」
『了解、戦闘チームB2、攻撃を開始します』
映像の向こう側でネオ・シャイニングフィールドが照射され、テラーゼルロイドが発生させようとするカオスフィールドを中和する。
結果、バンコクの空にオーロラのような光が浮かぶ異様な光景が展開された。
次元位相の混濁により生じた特殊な波動により様々な機械がダウンしていく中、次元位相対策を施されたX-トリニティランチャーやネオ・ガンスプリンターを始めとするSST提供武器だけが正常に稼働し、巨大な蛇龍へ激しい砲火を浴びせかける。
着々と進んでいく対テラーゼルロイド戦闘。
御崎はそれを横目に見ながら、蒼達の戦いを気にかけていた。
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キングナーガが暴れ狂う街の中、少年の悲痛な叫び声が響いている。
「お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!」
パムが縋りついているのは、ヴルペースの支配から解放され、安らかな表情で眠るクラ。
詩織によって叩き切られた両腕は既に再生していたが、脈も呼吸も止まったままだ。
ただ一つ、その胸のクリスタルは、Xの輝きを湛えていた。
「ねえ、これは……どういう状況?」
パムをここまで運んできた魔法少女、ルトナが不安そうに蒼に尋ねる。
蒼は「大丈夫。彼女にはまだ生きる力も意思もある」と応え、空を仰いだ。
つられて空を見たルトナの視界いっぱいに、こちらを見下ろす青い角の蛇龍が映る。
彼女が「ひっ……!」と小さく悲鳴を上げながらロッドを構えた瞬間、赤い光が蛇龍の顔面で激しく爆発した。
「しゃあ!! ようやくウチの出番っつーわけだ!! 」
光の中から現れた響が雄たけびを上げる。
爆発的なエネルギーを込めたアッパーの一撃で、100メートルを超える長大なテラーゼルロイドが宙を舞った。
「ちょっくらリング外で待ってな!!」
響はそう叫ぶと、宙に浮いたキングナーガの尾を掴みジャイアントスイング。
投げ飛ばされた巨体はチャオプラヤ川に叩きつけられ、激しい水柱を上げた。
だが、即座に体勢を立て直し、身体をくねらせて都市部へ再上陸をかけるキングナーガ。
その眼前に、エーテルネストが飛来した。
キングナーガは突然の乱入者に一瞬怯んだが、即座に青角の頭部から青い火炎、赤角の頭部から赤い火炎を吐き、攻撃する。
エーテルネストはその攻撃をかわし、蛇龍からやや離れた直線上に着陸して陣取ると、翼を上方向に回転させた。
V字に展開した翼の間にアーチ状の光が走る。
これ幸いとキングナーガはエーテルネスト目がけて突進する。
その頭部めがけ、まるでクロスカウンターの如く強烈な打撃が叩きつけられた。
「ヴオオオオオオオオオオオ!!!」
熱い大気を揺るがす龍の咆哮。
エーテルネストの上部に展開されたシャイニングゲートから、ドラゴンライナーが飛び出したのだ。
ドラゴンライナーはキングナーガの頭部に食らいつき、そのままチャオプラヤ川へ勢いよくダイブする。
ほどなくして、ドラゴンライナーとキングナーガの長大な対決が幕を開けた。
ドラゴンライナーのドリルテールが蛇龍の胴体へ叩き込まれると、その疑似皮膚細胞が爆ぜるように砕け、漆黒の粒子になって崩壊した。
だが今度は二つの火炎がドラゴンライナーを襲う。
ドラゴンライナーは身を捻ってそれを交わし、川に潜ったかと思うと、キングナーガの背後から赤角の頭部に食らいついた。
激しいスパークが生じ、コブラの襟を思わせる器官が捥げ飛ぶ。
そんな一進一退の攻防の最中、ドラゴンライナーから緑色の光が飛び立ったかと思うと、蒼達の居るビルの屋上へ舞い降りた。
それに続き、赤い光、青い光も降り立つ。
「蒼さん! その方ですね!」
「本当に大丈夫なの…? ちょっと心配だけど」
「ま、無理ならその子に土下座して詫びるこった」
ティナ、香子、響がクラを見下ろし、腕を彼女の上へ突き出す。
詩織と蒼も同じように腕を突き出し、5人の掌がクラのクリスタルの上で重なり合った。
「昨日の不可能が、今日の可能になればいい。誰も助けられなかったあの日から、歩を進めよう」
蒼はそう言いながら、胸のクリスタルから溢れた光をその掌へ流し込んでいく。
詩織も、香子も、響も、ティナも、同じようにエネルギーを重ねた掌に集めていく。
その輝きがひと際大きくなった瞬間、5人は叫んだ。
「クロス・チャージ!!」
重なった掌から放たれた光がクラのXクリスタルへ注ぎ込まれていく。
クラに縋りついていたパムは、握った手がそっと握り返されるのを感じ、顔を上げた。
クラのXクリスタルから溢れた光が、クラの全身へ血液のように巡っていく。
そして、その光の流れが収まった時、彼女の目がそっと開かれた。
「パ…ム……?」
クラは泣きじゃくる弟の姿をしばらく見つめた後、ハッとして彼を抱き寄せた。
「ごめんね……心配……かけたね……!」と、クラ自身も涙を流しながら、パムを強く抱きしめる。
「うわああああ!! 良かった! 良かったねぇ少年!!」と、ルトナは当事者よりも大声を上げながら感動の涙を流していた。
「皆さん!! 感動のところ申し訳ないんですが! そろそろドラゴンライナーがまずいです!!」
ティナが指さした先では、内蔵エネルギーをほぼ使い果たしてオートパイロットが切れ、キングナーガの尾で叩かれ放題になっているドラゴンライナーの姿があった。
「おっと! これはまずい! パム! 後はデバイスのマニュアルに沿ってよろしく!」
蒼はそう言うと、魔法少女部を引き連れてドラゴンライナーへと飛んでいった。
行き掛けの駄賃とばかりに、香子の光線がキングナーガを焼き尽くす。
「ドラゴンライナー! ライズアップ! 超龍機動戦闘巨神リュウキ! 戦闘開始!!」
天に浮かぶテラーコアからエネルギー供給を受け、キングナーガが瞬く間に再生した。
そこへ間髪入れず、リュウキが組み付く。
体が焼失した僅かな時間の間に、相対する敵の姿が変わっていることに警戒の色を見せた蛇龍だが、すぐ持ち直してリュウキに巻き付き、締め上げながら火炎を噴射する。
香子が、詩織が、ドラゴンキャノンとゲキリンバズソーで応戦してキングナーガを焼き、切り刻むが、瞬く間に再生していく。
両者は一度離れた後、再び正面からガッツリと組み合った。
一進一体の攻防を見つめながら、パムはデバイスを操作して付近にいる魔法少女3人を呼び寄せた。
クラ、ルトナ、そして3人の魔法少女たちを見回すと、パムは一瞬不安そうな表情を浮かべたが、すぐにキッと空を見上げ、デバイス目がけて叫んだ。
「ブレイブブースター!!」





