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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第三章

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第38話:タイ編4 棍撃の魔法少女ルトナ




「てやああああああ!! たぁ!」



 逃げ惑う人々の流れを遡った先、甲高い雄叫びと共に、ガキンガキンという金属音が響き渡っていた。

 薄橙色の光の中、オレンジと黒で引き締まったコスチュームを纏う魔法少女が、輝く球体を両端に備えた長棍を振り回し、グロテスクな虫型カオスゼルロイドを滅多打ちにしている。


挿絵(By みてみん)



「うわ……何ですかあの敵、かなり見た目エグイですよ」



 クモやサソリにも怯まない詩織が思わず引いてしまうその見た目。

 タイに生息する世界三大奇虫「ウデムシ」型のカオスゼルロイドだ。

 ウデムシは棘が付いた巨大な腕を備えたいかにも狂暴な容姿をしているが、視力は貧弱で捕食時以外は触角の感覚を頼りにノロノロと洞窟を這いまわる生態をしている。

 だが、ウデムシカオスゼルロイドは違う。

 体表に浮き出た眼球「カオスアイ」による人類並みの視力と、強固かつ柔軟な体を生かして獲物たる人々を激しく追い回している。



「せいーーーーーやっ!!」



 だが、相対する魔法少女はなかなかの熟達者と見える。

 人々を追いかけようとするカオスゼルロイドの大腕の動きを常に見張り、それでいて大腕の死角から長棍による打撃を加えていく。

 長棍の両端に備わる球体を打ち込むたびに小さな爆発が発生し、いかにも頑丈そうな外殻を打ち砕く。

 カオススモッグを噴出させていた部位は再生する傍から叩き潰し、優位な状況を作ることも許さない。



「すごい……。あんなに強い魔法少女のお姉さんに……僕なんかが力になれるんでしょうか……?」



 蒼の後ろで縮こまり、戦いの行方を見守るパム。

 蒼はコクリと頷き、彼の目線の高さまで身を屈めて戦いを見つめ続ける。

 パムもまた蒼に倣い、目線を魔法少女に移した。


 その僅かな時間で、戦いの趨勢は変わっていた。

 一方的に攻め立てていた魔法少女の動きが精彩を欠き始めたのだ。

 カオスゼルロイドはその一瞬の隙を逃さなかった。

 それまでフヨフヨと人畜無害な動きを見せていた触角が鞭のようにしなり、魔法少女の首に巻き付いたのだ。

 その細さからは想像もつかないほどの強力な締め付けに目を白黒させる魔法少女。

 同時にその体が高くつるし上げられた。

 長棍がカランと音を立てて地面に転がる。


 視点が否応なしに高くなったことで、物陰に隠れていた蒼達3人の姿が魔法少女の瞳に映った。

 「に…逃げて!!」と、魔法少女が叫ぶと同時に、カオスゼルロイドもまた蒼達に気付き、ここぞとばかりに大腕を広げて彼らめがけ突進を開始する。

 魔法少女は何とか触角の拘束を振り払おうとするが、敵の体表に流れるカオスエネルギーによって力を奪われ、脱出は叶わない。



「う……うわああああああ!!」



 パムが腰を抜かして絶叫した。

 蒼はゆっくりと立ち上がり、左腕を小さく持ち上げる。

 「逃げてええええ!!」身悶えしながら魔法少女が叫んだ瞬間、パムの身体が跳ねるように起き上がり、右手を左腕のマジウォッチにかざしたかと思うと、輝く光弾を敵めがけて投げつけた。

 その光弾はカオスゼルロイドの頭部に違わず命中し、敵の全身を激しくスパークさせる。

 激しく全身を光らせながら前のめりに倒れるカオスゼルロイド。

 キョトンとするパムをよそに、彼の身体は再び意志とは無関係に動き、二撃目を敵へ放った。

 今度は魔法少女を拘束する触手の根元に命中し、「パン!」という快音とともにそれを破断させた。

 白い火花を散らして捥げとんだ触角から、魔法少女が這う這うの体で脱出する。



「あ……ありがとう……でも……駄目じゃないこんなところにいたら……!」



 倒れそうになる魔法少女の肩を蒼が支えた。

 詩織は変わらず敵に睨みを効かせている。



「心配無用だ。俺達は魔法少女部、世界中の魔法少女を結びつける旅をしている」



 蒼はそう言うと、唖然としているパムの左腕をとり、魔法少女の胸に輝く宝玉に押し当てた。

 瞬間、マジウォッチから白い光が走り、宝玉へと流れ込んだ。

 魔法少女はビクンと体を震わせたが、すぐに「なるほどね…」と呟き、パムの手に自身の手を重ねた。

 突然の出来事の連続に、何も言えないパムをよそに、マジウォッチから流れ出る光の量は増し、魔法少女の宝玉を力強く光り輝かせていく。



「先輩、来ます」



 詩織が呟いた僅か後、倒れていたカオスゼルロイドが起き上がり、大腕を振り上げた。

 「わっ……わあああ!!」と再びパムが叫ぶが、その大腕は蒼が放ったドリルグレネードレーザーで一瞬にして粉砕される。

 想定外の反撃に、勢いよく後退していく敵。



「よしっ!いい感じ! 感謝するよ少年っ!」



 そう言って立ち上がった薄橙と黒の魔法少女。

 その胸にはX型の宝玉が輝いていた。



「ルトナカーン!」



 魔法少女の叫びに応えるように、飛来する長棍。

 彼女がそれを掴んだ瞬間、形状が変化した。



乙女戦士(ナクロピンサゥ)…ルトナ!!エックス!」



 Xの意匠が加わった長棍を振り回し、名乗りを上げる魔法少女ルトナ。

 激しく損傷した大腕をバチバチとスパークさせながら、カオスゼルロイドがフラフラと立ち上がった。

 ルトナはすかさず飛び上がり、その頭部目がけ強烈な長棍の打撃を加える。

 薄橙と白の閃光が炸裂し、敵の頭部を吹き飛ばした。



「てやああああああ! あいっ!!」



 返す勢いでルトナは長棍を敵頭部の破口にねじ込み、宙へ投げ飛ばす。



「ああいっ!!」



 落下してきた敵の腹部に長棍の先端がめり込んだ瞬間、ひと際激しい爆発が起き、ウデムシの特徴的なシルエットを跡形もなく爆破粉砕した。

 カオスゼルロイドを構築していたカオス粒子がXクリスタルエネルギー粒子によって分解され、サラサラと光になって消えていった。



「君のお姉さんはきっと救い出して見せる。よろしく頼んだぞ、パム」



 蒼の声にパムが振り返った時、そこには蒼と詩織の姿はなく、代わりにマジフォンがドサッと入ったエコバッグが置かれていた。


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