第33話:台湾編12 新たな戦いの始まり
テラーゼルロイド。
恐怖や絶望など、負のエネルギーを取り込んで自身を強化する特性を持つゼルロイドがさらなる強化を遂げた新種と思われる。
既存の生物に似た姿で出現したが、伝承される架空の生物の姿を持って出現する可能性がある。
マイナス位相に身を潜め、対ゼルロイド、カオスゼルロイドレーダーで捕捉できなかった。
また、戦闘力はカオスゼルロイドを遥かに凌駕しており、魔法少女複数人とSSTの戦闘チームの共闘を以てようやく致命傷を与え得た。
致命傷を受けた個体は謎のエネルギー球体を呼び出し巨大化、強力な戦闘スペックを持った魔法少女と交戦し、複数回消滅したが、その度に頑強になって再生したことが確認されている。
エネルギー球体をSST所属の魔法少女が攻撃したところ、全く損傷を与えられず、地域の魔法少女のエネルギーを混合して攻撃を加えたところ、容易に破壊することが出来た。
エネルギー球体破壊後、とりわけ強力な戦闘スペックで再生した個体に対しては、SSTの巨大戦力「超龍機動戦闘巨神 リュウキ」が攻撃を加え、撃破、消滅せしめた。
今後はSSTから提供を受けた情報、武装の活用、及び魔法少女との協力をもってカオスゼルロイドの対応に当たり、テラーゼルロイド出現の際には必要に応じてSSTに支援を要請、SST所属の魔法少女とリュウキにより対処する。
「ですって。一応お偉方とのお話はまとまった……んでしょうかね?」
エーテルネストの魔法少女部ルームで椅子をギィギィと揺らしながらスマホ片手に呟く詩織。
彼女の手元では、御崎と何やら書類を持って握手を交わす台湾のお偉方の写真が載ったネット記事が光っていた。
当初はカオスゼルロイド用のソリューションの売り込みだったはずが、それを超える強敵の出現と謎の巨大ロボの投入で段取りが吹き飛んでしまったため、協力体制構築の協議に支障をきたしたのではないかと心配していたが、どうやら丸く収まったらしい。
事実と記事の間には色々と恣意的に伏せられた情報が見受けられるが、そこはSSTと台湾政府が検討の上取捨選択をしてくれたのだろう。
「ていうかあのロボは何なんだよロボは……」
「普通に受け入れて乗っちゃったけど、今まで影も形も無かったわよねあのロボ」
超龍機動装甲列車ドラゴンライナー、そして超龍機動戦闘巨神リュウキ。
巨大な敵の出現に際して巨大戦力が投入されるのは至極当然という刷り込みがあるが、普通に考えれば突拍子もない装備の登場である。
巨大テラーゼルロイドを撃破した後、リュウキは列車形態に変形し、完成したての台中シャイニングゲートをくぐって日本へと帰っていった。
「先生は知ってたみたいだけど、戦闘どころか起動もままならない状態だったらしい。何らかの技術的なブレイクスルーが直近数日であったのかもしれないな……。しかしあんな規模のメカを極秘裏に製造していたとは……。成程、列車形態を備えることでシャイニングゲートを通過できる全高全幅になれるのか……。これなら巨大な敵との格闘性と世界中へ即座に移動できる機動性を兼ね備えることが出来る合理的な設計だ。列車形態は既存の鉄道車両の制御システムを拡張して使用、巨神形態では巨大な竜型の身体を動かすことに慣れているティナを生体ユニットとして使用することで、巨体を生体のように高速で動かすことを可能としている。一見突拍子もないメカのように見えて、既存の技術と研究の蓄積があの機械の龍を動かしているんだ。リュウキの戦闘やシャイニングゲートへの帰還映像がネット上にガッツリ残っているってことは……宮野さん世界中に向けて仕掛けてるな……。」
「仕掛ける? ですか?」
蒼の呟きの大部分を聞き流していた詩織が、最後の一文だけに反応した。
「ああ。俺たちの映像はガッツリ検閲、削除処理されてる半面、リュウキの飛来から帰還まではほぼ全部見ることが出来るだろ? これはつまり、世界中の人々へのメッセージなんだよ。より強力な敵が出現したことと、その攻略のキーをSSTだけが持っていることのね」
「それで更なる協力を引き出そうってかい。相変わらずなんかセコイっつーか……。もっとド直球に出来んもんかねぇ」
響が腕立て伏せしながら言う。
蒼は「まあ、それくらいしないと世界は靡かないと踏んだんだろう」と笑いながら応えた。
そんなことを話していると、エーテルネストのXプラズマコアブースターが唸りを上げ、機体がゆっくりと動き始めた。
シャイニングゲートの設置、試運転が完了し、彼らの滞在期間が終了したのである。
「さあみんな。次なる目的地へひとっ飛びよ!。離陸に備えてね!」
御崎の機内放送が入り、魔法少女部の面々はそれぞれの座席に着座する。
するとエーテルネストは滑らかに加速し、ふわりと宙に浮いた。
名残惜しそうに眼下を見つめる詩織の視界に、白く輝くネオ・シャイニングフィールドが現れた。
「みんな……頑張れ……」
蒼達の滞在は終わったが、ゼルロイドと人類の戦いは終わっていない。
戦いを続ける友たちに、詩織はそっとエールを送った。





