第30話:台湾編9 毒沼の死闘
「はっ!! 狐火ファイアービーム!!」
紅琳の口から放たれた赤色の光線が大ガマに直撃する。
激しくスパークする二つのエネルギー。
だが、Xクリスタルエネルギーを得た魔法少女の力を以てしても、巨体を覆うオーラ状の障壁を突破することは叶わない。
思わぬ増援に面食らっていた御崎だが、即座に状況を判断し、オペレーションチームへ援護射撃の指示を飛ばす。
だが、的確に応じられたのはSST直属メンバーのトリニティランチャー2丁のみ。
国営都市の戦闘要員たちは魔法少女の援護と言われてもピンとこないのだ。
普段率いている精鋭チームAZOTとの勝手の違いに、御崎は歯がゆさを覚えつつ、彼女専用の小型エナジーキャノン銃で紅琳を援護する。
初めて受ける援護射撃に勇気づけられた紅琳が攻撃を加速させ、赤色の光線が次々と敵に命中する。
やがて、トリニティランチャーのコンバットシステムによる戦闘支援を受けた国営都市戦闘要員も紅琳への援護射撃を開始した。
大ガマを覆うオーラの揺らぎが大きくなり、ついに紅琳の火炎がそのグロテスクな表皮を焦がした。
敵は一瞬大きくのけ反ったが、威嚇するような低音で鳴き声をあげ、再びその腹を大きく膨らませる。
攻撃の合図だ。
「皆さん! 私の後ろに!」
紅琳は攻撃を中断してオペレーションチームの前に降り立ってバリアを展開した。
間髪を入れず、汚泥の濁流がバリアに降り注ぎ、エネルギーがスパークする。
X化により強化された紅琳のバリアは、それを苦も無く弾き、再び彼女は攻撃に転ずる。
かに思えた。
「あうっ!?」
前に踏み込もうとした矢先、紅琳の視界が一瞬ブラックアウトし、直後、激しい衝撃に脳が揺さぶられる。
突如として地中を割って出現した長大な舌が紅琳の首に巻き付き、彼女をそのまま激しく地面へ叩きつけたのだ。
汚泥の飛沫が上がり、彼女の全身が毒沼に飲み込まれる
「ぎゃあああああああああ!!」
紅琳の悲鳴が上がった。
たった一瞬で、彼女のコスチュームの大部分が溶解し、その四肢が黒や紫のシミに浸食されている。
複合した無数の毒が、酸が、病が彼女の身体に襲い掛かったのだ。
腐蝕していく彼女の肉体が二度、三度と地面に打ち付けられ、ついに彼女の両腕が千切れ飛んだ。
「―――――――――――!!!」
声にならない叫びをあげてのたうつ紅琳。
大ガマはその舌を収縮させ、彼女を口内へと誘っていく。
「いけない!!」
激しく飛び散る毒酸を必死で掻い潜りつつ、御崎が援護射撃を再開した。
彼女を捕える舌にX-プラズマコアエネルギーの閃光が命中するが、舌すらも強固なオーラに守られており、紅琳を助けることが出来ない。
蒼達に助けを呼ぶため、御崎がマジフォンのエマージェンシーボタンを押そうとした刹那、一陣の風が中庭に吹き込んだ。
「超神龍風暴脚!! はああああああ!!」
大ガマの横合いに突如出現した空間の穴から激しい竜巻が噴き出し、巨体がもんどりうって倒れる。
その衝撃で紅琳を捕らえる舌が解け、彼女の体が宙に投げ出された。
御崎はとっさに小型エナジーキャノンからキャッチネットを発射し、その彼女が毒沼に再び落下するのを防いだ。
訓練されたSST直属メンバーが毒沼をかわしつつ駆け寄り、トリニティランチャーから回復光線を照射して彼女を治療する。
X化した魔法少女は戦闘能力が上昇する他、回復力がとりわけ大幅に強化されている。
シャイニングフィールドとトリニティランチャーからXクリスタルエネルギー供給を受け、紅琳の千切れ飛んだ両腕や腐蝕した肉体が瞬く間に再生していく。
「全く……初めての共同戦闘にしては敵が強力すぎるんじゃない……のっ!!」
穴から飛び出してきた淡い青髪の魔法少女が中庭を駆け抜け、大ガマに飛び蹴りを見舞う。
オーラで妨げられはしたものの、その打撃の重さに、敵は巨体を再びぐらつかせた。
「高瀬くんじゃない……!? あの子は一体……!?」
蒼の加勢かと思った御崎が困惑しつつ、乱入してきた魔法少女を見つめる。
その横合いを、緑色の電撃が通り過ぎた。
「でも! 強い敵だからこそ協力しがいがあるもんね!」
魔女のような恰好をして杖を構えた緑色の魔法少女が、電撃を発射し、毒沼のカオスエネルギー毒酸を分解していく。
続いて、紫の光線が、金色の火炎が、桃色の弾丸が大ガマの巨体に殺到する。
そのたびに、新手の魔法少女が胸にX字のクリスタルを輝かせながら降り立つ。
矢継ぎ早に放たれる大技に、ついに大ガマを覆っていたオーラが一部剥がれ、魔法少女の攻撃が敵に確実なダメージを与え始めた。
その光景を前に、コスチューム半壊状態で立ち上がった紅琳が御崎に告げる。
「やらせてください……! 私達に……!」
御崎はその鬼気迫る表情に気圧されたが、自身が蒼に言った言葉を思い出し、深く頷いて見せた。
呼応するように、御崎のマジフォンへ蒼からデータが送付されてくる。
インカムを通じて彼女に接続されたコンバットシステムへ直接流し込まれたそれは、状況を好転させるに足る情報であった。
「動けるメンバーは魔法少女を援護して! 水色の子と緑色の子が近接戦、赤の子とピンクの子は遠距離戦主体よ! 動けない者は右手を上げて橙の子に癒してもらって! 援護方法が分からないなら、オートコンバットシステムをオンにして身を任せて!」
蒼から送られてきた、魔法少女と共闘するうえで欠かせない、彼女らの戦闘スタイル、戦闘スペックの一覧データ、そして敵の行動データをもとに御崎はメンバーへ指示とデータを飛ばした。
国営都市の戦闘メンバーは一瞬懐疑的な表情を浮かべたが、右手を上げた負傷者の元へ、橙色の妖精のようなコスチュームを纏った魔法少女が駆け付け、迅速な治療を行ったことを確認すると、御崎の指示通りに魔法少女の援護を開始した。
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「人々の中にある恐怖の対象の姿を持って顕現するゼルロイド……テラーゼルロイドとも言うべきか。カオススモッグが強固なオーラに進化してる。これは相当に厄介だな」
「今は名前なんざどうだっていい! どいつもこいつも無茶しやがって……!」
「気持ちは分からなくもないけど……。やっぱり無茶よね……」
「でも、ゼルロイドが進化を続ける限り、私達が出てって倒して解決とはなりませんよね……紅琳ちゃんも言ってましたけど」
国営都市を見下ろす廃ビルの屋上に並び立つ魔法少女部4人。
彼らは紅琳らの「自分たちの故郷は自分たちで守る」という願いを受け、状況を静観しているのだ。
蒼はすぐにでも援護に向かいたい感情を押し殺し、送信されてくるデータの解析と、コンバットシステムのアップデートに集中する。
今回の彼らの役割は敵を打ち倒すことではない。
この地の魔法少女に、より強力な敵と戦う力を託すことだ。
破滅した世界の父の言葉を、そして明音の言葉を反芻しながら、蒼は送信されてくる全てのデータを処理し続けた。





