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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第三章

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第29話:台湾編8 激突! SST 対 黒死の大ガマ 




「高瀬くん。あったわ。イカニモな感じのやつが」



 御崎がインカムに呟いた。

 国営都市の中庭。

 管理されないまま生い茂った藪の奥に“それ”は鎮座していた。



『やっぱり……。それにまつわる謂れはどうでした?』


「ううん。何の変哲もないただの井戸。ただ……変な噂は出回っていたわね」


『というと?』


「最近この井戸を見かけた青少年たちの間で、井戸にまつわる怖い話が流行っていたそうよ」


『……。了解しました。その場はお願いします。SSTメンバーのみでの対処が困難と判断した場合には増援に駆け付けますね』


「よろしく頼むわ。でも、ギリギリまでは頑張らせて頂戴」


『了解しました。何しろ未知の相手かもしれません、くれぐれも無理はしないようにお願いしますよ、先生』



 蒼の通信が切れたことを確認すると、御崎はSSTと支援班によるオペレーションチームに指示を出し、周辺区画の住民の避難を急がせた。

 同時に、「頼むわよぉ」と言いながら、彼女はリサーチパロットの威力偵察モデルにスピニングプラズマ球弾を充填していく。

 この球弾は品麗の危機を救ったものと同一で、着弾地点で高速回転しながらX-プラズマコア粒子の旋風を発生させる。

 これによりカオススモッグを分解、消滅させるほか、カオスゼルロイドに対する軽度の攻撃、及び威嚇としても機能するのだ。

 SST新潟支部のテストでは、建設中のビルの地下に潜んでいたオケラ型カオスゼルロイドの炙り出しに成功し、SST北海道支部では、港に接近していた体長3m級のラッコ型カオスゼルロイドを追い払う実績を残している。

 これを井戸の中に飛ばし、中に潜む蟾蜍精カオスゼルロイドを炙り出そうという作戦だ。


 その実戦デモンストレーションにはまたとない機会と相成ったわけだが、妙な個体が相手という点について、御崎は若干の緊張を覚えている。

 リサーチパロットに球弾をはめ込むのに手間取るのは、自身の手の震えによるものと彼女が認識したのは、最後の1つを充填し終えた時だった。

 視線の先にある井戸には、人を即死させ得るガスを振りまく妖怪ガマが潜んでいるかもしれない。

 蒼が自信なく「未知」と言うからには、相当に危険度は高いだろう。

 思えば、御崎が全く未知の敵を相手取り、戦闘の前面に立つのはこれが初めてだった。



「先生、ね……」



 御崎は小さく呟き、詩織や香子、響、そして同じく光風高校の生徒である由梨花やカレンの顔を想起した。

 防衛省から宮野の手引きでSSTの前身である侵生対に異動となり、魔法少女の調査として光風高校に潜入した当初は、魔法少女という存在に対してどこか得体の知れない不気味さを覚えていた彼女だが、今は違う。

 普通の高校生と何ら変わることのない少女たちが、人類のためその命と青春を削りながら戦う姿を間近で見てきた。

 彼女たちと共に戦おうと立ち上がった少年も……。

 子供たちがその使命を全うすることを「普通」にしてはならない。



「よしっ……! 先生頑張っちゃうからね……!」



 御崎は腹に力を入れて立ち上がると、リサーチパロットを起動する。

 ほぼ同時に、周辺区画の住民の退避が完了したという連絡が入った。



「SST特殊オペレーション“妖怪大ガマ退治”始動! リサーチパロット発進!」



 御崎が命名した作戦の火ぶたが切って落とされた。


 リサーチパロットは井戸の中に降下し、内部の映像を御崎の手元にあるモニターに表示する。

 内部は想像以上に深く、広かった。

 そして、そのライトが照らす先には、骨、骨、骨……。

 複数の人骨がゴロゴロと転がっており、明らかに何者かがここで食害を行っていることを伺わせる。



「いる……!!」



 ライトの光芒の先、赤色に発行する二つの球体が見えた。

 まず、赤外線カメラと、他次元レーダーソナーが、闇に紛れるそのシルエットを捉える。

 赤い球体から下に広がる山型のボディ。

その姿は蜃気楼のように揺らめいていた。

 しかし、観測されるカオスエネルギー圧は0を示している。

 高輝度ライトがその地点を照らすものの、通常のカメラには敵の姿はない。


 御崎は一瞬驚愕したが、未知の敵ならばそれもまた妥当であると認識を切り替える。

 これまでゼルロイドは異常な事態、異常な特性を遺憾なく見せつけてきた。

 異常事態に一々たじろいではいられない。



「スピニングプラズマ……発射!!」



 御崎の操作に合わせ、リサーチパロットの翼下から、4つの球体が放たれた。

 それは敵の周辺に着弾し、激しい光の旋風を生じさせる。

 直後、他次元レーダーソナーが捉えていた敵のシルエットの揺らぎが崩れた。

 崩れた揺らぎの中から大ガマがカメラの眼前に姿を現したかと思うと、口から放つ液体を噴射し、スピニングプラズマの旋風を一つ吹き飛ばす。

大ガマが暴れ出したのと同時にカオスエネルギーの反応が急激に上昇し、稀に見る強大なエネルギー圧が観測された。

 強力なカオスゼルロイドでありながら、実体を別移送に置くことで、人の目を搔い潜っていたのだ。



 「出たわね! 黒死の大ガマ、蟾蜍精カオスゼルロイド!!」



 御崎は強敵の出現に冷や汗を流しながら、リサーチパロットに指示を送る。

 威力偵察モデルには、スピニングプラズマ球弾6機と、照明弾2発、対カオスゼルロイド炸裂弾が2発搭載されている。

 これらを打ち込みながら、大ガマを井戸の外へあぶり出していく。



「来るわよみんな! ミニシャイニングフィールド展開用意! X-トリニティランチャー斉射用意!!」



 御崎の指示が早いか否か、地響きを立てて井戸が周辺の土ごと盛り上がり、巨大ゼルロイドが跳び出てきた。

 その姿はカエルのようではあるが、膨れ上がった腹部や、手足の形状がカエルのそれとは異なっている。

 絵巻物などに登場する妖怪大蝦蟇と一定の類似性が見受けられた。

 その頑強な体と跳躍力により、中庭を囲むコンクリートの壁の一面が崩れ落ちる。



「フィールド展開! 斉射開始!!」



 ミニサイズのシャイニングフィールドが都市の区画を覆って展開し、X-トリニティランチャーの斉射が開始された。

 8条の光線がその巨体に命中し、カオスエネルギーとXプラズマコアエネルギーの相殺反応により、激しい火花が飛ぶ。



「効果が薄い! みんな!後退しながら斉射を継続!」



 敵の頭上に滞空して観測を継続しているリサーチパロットから送信されてくる攻撃の効果は芳しくない数値を示している。

 御崎は即座に後退を指示する。

 その判断は的確だった。

 興奮した大ガマは汚泥のような液体を吐き出し、先ほどまでオペレーションチームが布陣していた地点を含む広範囲を猛毒と酸の沼に変えてしまったのだ。

 リサーチパロットがスピニングプラズマ球弾2機を投下し、チームと大ガマの間に防御壁を作って、沼から噴き出す毒ガスを食い止める。


 オペレーションチームは後退しながら、ネオ・ガンスプリンターが待機している搬出口へ敵の誘導を試みる。

 しかし、X-トリニティランチャーによる斉射は続いているが、シャイニングフィールドとの相乗効果を以てしても、敵の体表を覆うオーラのような強固なカオスエネルギー障壁を破壊することが出来ない。

 敵も御崎達の脅威の程度を認識したのか、攻撃に対しての反応が鈍くなってきている。

 御崎は迷った。

 今ここで蒼を呼ぶべきか、それとも、もうひと踏ん張りするべきか。

 普段の、大城市での戦闘であれば迷わず蒼を呼んだだろう。

 だが、他国支援の指揮官としての立場が、その判断を遅らせた。


 しかし、敵に迷いはなかった。

 自分を驚かせて叩き起こし、不快な空間に放り込んでくれた連中が目の前にいる、しかも大した痛手は与えてこないとなれば、選択肢は一つだった。



「グェェェェェェェ!!!」



 敵の咆哮と共に、御崎達の眼前へ凄まじい量の汚泥とペストガスが土石流のように押し寄せてきた。

 その一瞬、オペレーションチームの誰もが死を覚悟したことだろう。

 御崎の脳裏を蒼や魔法少女たち、そして宮野との思い出が走馬灯のように駆け巡った。



「魔法妖術・セイントバリヤー!!」



 突如、御崎達の前に六角形の魔法陣が出現し、迫りくる汚泥の波を弾き返した。

 赤いエネルギーフィールドがシャイニングフィールドと混ざり合い、その輝きを増す。



「妖狐の巫女・紅X! ただいま参上!!」



 胸にX字のクリスタルを輝かせた紅琳が、御崎の目の前に降り立った。


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