第12話:二つの機鳥
土曜日の朝。
魔法少女部室の一角。
精密工作機がスペースチタニウムをゴリゴリと削っている。
それとモニターを交互に見つめてはカタカタとキーボードを打つ蒼。
「おはよ。 アンタ何やってんの?」
登校してきた香子が問いかけるも、返事はない。
「おーい……。聞いてんの~?」
「んー」
そっけない一言。というより一文字。
昔からこいつは何かにのめり込むとこんな感じだったな……。
と、ため息をつき、コーヒーメーカーのスイッチを入れる香子。
ゴポゴポと抽出されるコーヒーの香りが心地よい。
「あ、笠原先輩おはようございまーす。」
香子が朝のコーヒーを楽しみながら蒼の作業をのんびり見つめていると、体操服姿の詩織が汗を拭きながら部室に入ってきた。
あっ……ごめんなさい汗臭いですよね。
と言いながらバスタオルを取り出し、部室から出ていこうとする詩織。
「別にそんな気にしないわよ。新里さんは朝練?」
「はい! 効果があるかは分かりませんけど……。先輩も一緒にどうですか?」
「遠慮しとく。ところでアイツ朝から何やってんの?」
「なんかブレイブウィングの新装備と新武器作ってるらしいですよ。詳細は秘密って言ってました」
「それじゃあ私はシャワー浴びてきますんで」と言い残し、詩織は走って出ていった。
かと思いきや、着替えを忘れたと慌てて戻ってきた。
香子はメーカーに残っていたコーヒーを全て自らのカップに移すと、3人分の豆を補充し、のんびりと雑誌を読み始めた。
■ ■ ■ ■ ■
「高瀬先輩……。全然終わりませんね……」
もう昼前になるが、蒼の作業は全く終わる気配がない。
一応香子が置いたコーヒーをチビチビと飲んではいるが、完全に一人の世界に入り込んでしまっている。
精密工作機からはブレイブウィングのそれよりふた回りほど小さな翼と、同じく小柄な砲のようなパーツ、その他複数の金属部品が次々と出力されており、蒼はそれをカチャカチャと無言で組み立てている。
「見た感じまだまだかかるんじゃないの? あの数の部品組んでいくんでしょ?」
魔法少女部が運営するサイトのゼルロイド/魔法少女マップデータの更新をちゃっちゃと済ませた香子はすっかり暇を持て余し、ソファーでごろりと横になりながらカメラ雑誌を流し読みしている。
「今日は午前で活動終了って申請してるんで、もうそろそろ帰らないと怒られますよ~」
詩織も向かい合ったソファーに寝転がり、大あくび。
時計も11時半を回り、のんびりすることにも飽きた二人が今日の昼食をどこで食べるか話し合いだしたころ、カチャカチャという音が不意に止んだ。そして。
「無理! 今日は完成させられない!」
蒼は情けないセリフを気合十分に言い放った。
■ ■ ■ ■ ■
「アンタ朝からずっとカチャカチャやってたけどさ、新武器ってどんなの作ってるのよ。今のアレで十分なんじゃないの?」
「そうですよ。凄い剣に、凄いキャノン砲に、すごい扇風機にバリアまで付いてるじゃないですか」
近所のカラオケ店。
ポテトを摘まみながら文句交じりの疑問を口にする二人。
せっかくの休日の午前中を暇なまま浪費させられたのだから当然と言えば当然だ。
「いや、君らは知らんから無理もないんだけどさ。同調してるエネルギー場によってブレイブウィングの武装の性能が変わるっぽいのよ」
テナガゼルロイドとの戦いで露呈した思わぬ特性。
起動力が低下し、重甲殻をバターのように切り裂くアームブレードがペラペラの甲殻に歯が立たないほど鈍り、思わぬ大苦戦を強いられてしまった。
一方、大型ゼルロイドに対しては足止めする程度の威力しかなかったエナジーストームが、途轍もない破壊力になり、敵をバラバラに粉砕した。
「新里のエネルギー場だと、機動力とブレードの切れ味が上昇して、エナジーストームの威力が低下。笠原のだと、エナジーストームの威力が増して、機動力とブレードの切れ味がダウン。こういう法則が今のところ見えるわけだよ」
シールドの強度に変化なし、エナジーキャノンは不明、ということを付け加え、蒼は説明を続ける。
「あくまで仮説なんだけど、エネルギー場は君らそれぞれの戦闘スタイルに合わせて最適化されたエネルギーを供給してるから、そこから外れた能力には補強効果が出ないんじゃないかな?」
二人を交互に見ながら説明するが、二人はあまりピンと来ていないようだ。
自分のエネルギー場以外で戦ったことがないので当たり前の話である。
「……ちょっとこれ見てくれる?」
自分の話がイマイチ伝わっていないと感づき、蒼はタブレットPCで自身のアイポイントカメラからの戦闘映像を見せ、説明を補完する。
詩織×蒼 対 カニ型ゼルロイドとの戦闘。
香子×蒼 対 テナガエビ型ゼルロイドとの戦闘。
「へぇ……あのヘッポコ剣ってこんなにスパスパ甲殻切れるのね」
「すごいじゃないですか!! あんな大きさの敵を粉々にするなんて!!」
蒼の視点から見る自分以外の魔法少女の戦いが新鮮なのか、食い入るように見つめる二人。
ヘッポコ剣て……と蒼は少し傷ついたが、「まあそれはさておき」と、話を続けた。
「俺はどんな魔法少女と組んでも、近、遠、両方で十分に戦えるようにウィングユニットや、後継のブレイブウィングの装備を作ったんだけど、組む相手によって俺まで能力変わるとなったら、死に装備が出てくるわけじゃん?」
「まあ、そうですよね」
「結局長所も短所もアタシ達寄りになっちゃうもんね」
「だからさ、パーツセットを作って、パートナーや敵に合わせて武器を換装できるようにしようと思ってさ」
蒼がタブレットの画面を切り替え、二人に見せる。
そこには鳥のような2体のメカのポリゴンが表示されていた。
「サポートバード……ですか?」
「その通り! こっちがレイズイーグルで、こっちがブレードホーク」
蒼が画面の「分離」ボタンを押すと、鳥型だったものがバラバラと、銃器や剣、ブースター等のパーツに分かれた。
「レイズイーグルは大小の銃火器を多数備えた砲撃特化タイプの武器セット。こっちは基本的に笠原と戦うとき用だな」
装備を一つ一つ指さし、拡大しながら解説する蒼。
「ブレードホークは腕、翼、足にブレード備えた接近戦型のセットだな。こっちは新里と一緒に戦うときに使う予定」
装備をタップし、装着イメージを表示して見せる蒼。
「すごい! カッコいいです! 全身ブレードだらけじゃないですか!」
詩織が目を輝かせて食いついてきた。
一方、つれない表情の香子。
「あれ……? 気に入らなかった?」
相当の熱量をもって解説していただけに、香子の反応には流石のサイコも動揺を隠せなかったようだ。
「いや、なんていうかさ……名前ダサくない? カノーナ・フォーゲルとかのが良くない?」
町の守護者、魔法少女アクエリアスは今、そういうセンスが好きな時期が来ているようだった。
蒼はその提案をとりあえず保留ということにし、付け加えた。
「この装備は君らも使えるようにする予定だから、お楽しみにね」
詩織はますます目を輝かし、香子は「カノーナ・フォーゲル……シュトラーレン・アードラー……」と考え込んでいたが、蒼は聞こえないふりをした。
武装解説のコーナー
レイズイーグル
アームレーザー、サイドバルカン、レッグアンカー、バックブースター、マルチチャージャーファン、2連装バスターキャノンで構成されたサポートバード。
・アームレーザー
牽制や小型ゼルロイド用の小型火器。両手首に二門ずつ装着している。
・サイドバルカン
小~中型ゼルロイド一掃用の連射火器。腰付近に装着。
・二連装バスターキャノン
エネルギー増幅器を備えることでエナジーキャノンに比べ、威力が120~160%に向上。
収束率を変えることで貫通力を上げたり、攻撃範囲を広げることができる。
ウィングのキャノンマウントに装着し、両肩の上あたりに砲身が二門ずつ並ぶ。
・マルチチャージャーファン
エナジーストームを放つ他、酸や消火液を混入させて発射することも可能。
・レッグアンカー、バックブースター
バスターキャノンやエナジーストームを最大出力で放つ際に衝撃を緩和するための装備。
ブレードホーク
アームブレードV2、レッグブレード、ブレードウィング、ウィングスラスター、旋回ブースター、ブースターファン、スライサーキャノン、シールド増幅機からなる接近戦用武器セットのサポートバード。
・アームブレードV2
エネルギーのみで構成される通常のアームブレードと異なり、スペースチタニウム製の刃を備え、そこにエネルギーを纏わせ、表面で超高速振動を発生させている。
切れ味が大幅に増した他、使用するエネルギー量が大幅に減少したため、蒼のみでも完全な性能で使用できる。
・レッグブレード
足に装着するエネルギーブレード。
刀身は20センチほどだが、切れ味はアームブレードV2と同等。
・ブレードウィング
ブレイブウィングの翼に装着する2mにも及ぶ巨大な刃。
すれ違いざまに敵を切りつける。
・ウィングスラスター、旋回ブースター、ブースターファン
前後左右へ自在に噴射できるブースターのセット。
機動力を大幅に上げる他、姿勢を素早く立て直す効果が期待できる。
ブースターファンはエナジーストームも発射可能。
・スライサーキャノン
ブレイブウィングのキャノンマウントに装着するエネルギー刀発射機。
射程は短めで、破壊力も低いが、ある程度までの装甲なら切断可能。
・シールド増幅機
接近戦に備え、シールドの出力を向上させる。





