第25話:台湾編5 未来への礎
『え!? 国営都市N-13棟の中で怪死事件が多発してる!?』
蒼のデバイスのスピーカーから、御崎の緊迫した声が聞こえる。
紅琳達に怪事件解決への協力を頼まれた蒼達は、一先ず御崎に状況を報告し、SSTに助力を要請することにしたのだ。
国営都市内は限られた人間しか出入りできない。
それ故に、都市内の住民ではない紅琳は、都市内住民である品麗から情報を受け取りながら間接的にしか事件に関わることが出来ず、指を咥えて事態を静観することしか出来なかったのである。
だがSSTから交渉をしてもらえれば、都市内に魔法少女部が立ち入ることは出来るはずだ。
その交渉を御崎に頼もうとしたのだが、彼女からは思わぬ返事が返ってきた。
『私今……そのN-13棟の視察中なんだけど……』
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「参ったわね……」
通話を終えた御崎が、小さく呟いた。
蒼からの要請を受けたが、現状、即座の対応は困難な状況だ。
今の彼女は、政府機関SSTの代表。
視察中に「教え子を連れて来たい」などと言いだせば、組織のコンプライアンスに関わるだろう。
それならば、と、蒼から都市の設計図やインフラ網の配置データの入手、あわよくば怪死事件の原因を調査・報告してほしいという依頼を引き受けはしたものの、仮に怪死事件がカオスゼルロイドによるものなら、御崎自身も今この瞬間、危機に晒されているのだ。
御崎はとりあえず都市管理局の治安維持担当者にそれとなく怪死事件について聞いてみたが、明確な答えは返ってこなかった。
そもそも、都市内では未来に絶望して自殺を図る者や、諍いからの死傷事件がたびたび発生しており、どこからどこまでが「怪死」に当たるか、検証は行われていない様子だ。
(この様子じゃ……アレも大部分がダミーみたいね……)
御崎が見上げた天井には多数の監視カメラが光っているが、それらが全て万全に機能していれば、死因不明の事件など発生しないだろう。
視線を階下に向けると、清掃ロボや輸送ロボが忙しなく動き回っているが、収容している人数に対して、管理側の頭数が明らかに足りていないのがよく分かる。
今御崎を案内している管理局員も、目の下に大きな隈が出来ていた。
ただ、これは概ね御崎の目算通りだ。
この現状に対して最適なソリューションを提供し、世界へSSTの実力を示さなくてはならない。
「……っていうのに……、仕事が増えちゃったわね……」
御崎は小さく呟き、メモを取る手に力を込めた。
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「んんんん~♡ 美味しいです~! エビがもうプリップリで!」
一方、詩織は念願のエビ小籠包を頬張っていた。
モッチリと蒸しあげられた皮を破ると、海老殻の風味が香ばしい海鮮スープが滴る。
口に含めば、そのモッチリ皮と、適度な大きさに刻まれたエビの身のプリプリプチプチとした食感と、エビ味噌のクリーミーな味が一体となって味覚を楽しませてくれる。
詩織は「熱ちち……」と舌を火傷しながらも、満面の笑みだ。
御崎からの続報が入るまで一時待機と相成ったので、魔法少女部は宿泊地である外来客用エリアに向かい、台湾料理で腹ごしらえ中である。
「しかしよぉ……お前これからもアレやる気なら、やめといた方がいいと思うぜ?」
「そんなマズかったか?」
「当たり前だろ! 何処の世界にいきなり胸撃ち抜いてくる奴がいんだよ! あいつ……紅琳だったか? ビビり倒してたろ」
「ビビり倒してた……とは違くないですか……?」
響が肉そぼろ麺を啜りながら蒼の肩を小突く。
凶行とも思える不意打ちビームに、紅琳は「インモン!? インモン刻みましたか今!? センノウチョウキョウアクオチさせるつもりですね!?」と叫びながら、ダンスでもしているのかという動きで全身をくまなく見回していた。
「まあ怖がってたとは違うと思うけど……ちゃんと説明してからやった方がいいと思うよ? X化だけならデメリットは無いとはいえ……」
「そうそう、魔法少女ってのはその姿にアイデンティティ持ってんだ。一部とはいえよく分からん男に作り替えられたらビックリしちまうだろうがよ」
「……確かにそこは無遠慮が過ぎたかも。次会った時謝っとくよ」
春雨スープの湯気で眼鏡を曇らせながら、肩をすぼめる蒼。
彼女の、ひいては人類のためとはいえ、説明不足は不信感の元だ。
SSTが現地政府との信頼関係を結んだとして、現地の魔法少女達がそれに応えてくれなければ、魔法少女部を率いてのワールドツアーの意味が無いというもの。
まだギャグで済む紅琳が最初の一人で良かったと言えよう。
「でも、これであのエリアはカオスゼルロイド被害抑えられますね!」
「だと良いけどよぉ。大城市は魔法少女とSSTの支援がシステム的にも、心理的にもガッチリハマってこそだからなぁ」
「国が違えば人も価値観も違うから、何もかも同じにはならないでしょうね」
「ま、その嚙み合わせはその国、地域の人たちが擦り合わせていくことさ。今の俺達がすべきは、その土台の一つに石を敷くことだな」
デザートの愛玉子入りドリンクを飲みながら蒼が言うと、3人は微笑みながら頷いた。
「さて、それじゃあ行くか」
「二軒目ですね!」
「ちげぇだろ!」
「まあ、情報収集を兼ねてならいいじゃない」
「やったー!!」
などと言いながら、4人は土台に石を敷き詰めるべく、再び国営都市群エリアへと足を踏み入れていった。





