第24話:台湾編4 妖狐巫女の魔法少女 王紅琳!
「お! 意識が戻ったみたいだ!」
「う……うぁ……。はっ!? こ……これは!?」
意識を取り戻した妖狐巫女の魔法少女が真っ先に目にしたのは、自分を包む半透明の膜のようなもの。
そして、その向こうから覗くメガネの青年。
「やめろ! 私をどうする気だ! さては魔法少女を利用する悪の科学者だな!?」
「ふっふっふ……バレてしまっては仕方があるまい」
「ふっふっふ……君は私達の従順な下僕に……あ痛!!」
「こんな状況でふざけてんじゃねぇ!」
「ごめんなさい! この2人ちょっと悪ノリが過ぎるの!」
ツインテールの少女が出てきたかと思うと、青年と一緒に張り倒され、今度は話が通じそうな長髪の少女が現れて謝罪してくる。
訳が分からない状況ではあったが、以前遊んだゲームに出てきたような、変身ヒロインを捕らえ、悪堕ち洗脳調教してくる悪の組織の類ではなさそうだ。
冷静になって状況を再確認してみると、敵に撃ちぬかれた両肩の傷が消え、へし折られた右足も元通りになっている。
それらの情報を頭の中で整理した結果、妖狐巫女の魔法少女はある結論に行きついた。
「私を……助けてくれたのですか……?」
「そうよ。あなたが今入っているそれは、魔法少女用の緊急回復カプセルよ。治療が終わったら勝手に開くから、もう少し安静にしていてね」
「は……はい……」
彼女を包んでいるのは、香子が言った通り、蒼が開発した新型携行型回復カプセルだ。
車両での運搬を必要とした前モデルと異なり、手乗りサイズの圧縮ボンベに収納できるため、誰もが持ち運び、必要に応じて即座に展開、使用が出来るのがメリットだ。
蒼のブレイブウィングV3に増設されたポッドキャリアには、これが常時8本格納されている。
妖狐巫女の魔法少女が、そのカプセルによって与えられる温かく、心地のよい感覚に身を任せていると、「ピピピッ」という音が鳴り、彼女を包んでいたカプセル状の膜がパリンと割れた。
同時に、彼女の変身が解除され、黒髪ショートの少女の姿が現れた。
「大丈夫かい? 君の戦いに少々助太刀させてもらったが」
「あ……貴方達は一体……?」
彼女からの問いに、蒼は顎に手を置いて一瞬目を逸らし、詩織に視線を送った。
詩織はしばし考えた後、「フッ……」と鼻を鳴らし、前に出る。
そしてポーズを取り……「魔法少女戦た……」。
「日本から来た旅人だ。訳あって世界旅行中なのさ」
「驚かせてごめんなさい。私達も魔法少女なの。あなたのことは誰にも話さないから安心してね」
響と香子が詩織たちの前に出て、少女の手を握り、起き上がらせた。
少女は「日本の……魔法……少女?」と、呟きながら、4人の顔をまじまじと見つめる。
そして、叫んだ。
「凄い!! 本物ですか!? 魔法少女の本場の人と会えるなんて光栄です!!!」
目を輝かせながら、響と香子の手をガッチリと握り、上下に激しく振る少女。
「ほ……本場って……」
「そんな言われるとなんか照れちまうな……」
と、頬を赤くする二人。
「やっぱり本場は違いますか!? リョジョクチョウキョウとか! センノウアクオチとか!」
「「は!?」」
彼女の口から飛び出してきた下品な言葉に、今度は二人が目を丸くする。
「凄いんですよね!? 悪の組織とかのショクシュゼメとかニクカベとか!」
少女は唖然として固まる二人から目を離し、今度は詩織に目を向ける。
「凄いんですか!? セキカとか! バイヨウカプセルとか! 皆さん経験されてるんですよね!?」
「い……いや……そういうのはゲームとかアダルト小説の話だと……」
地味にそういう知識がある詩織ですら、大っぴらに口にする彼女の姿勢に引き気味だ。
そして少女は蒼に目を向け、息を荒らげながら言った。
「やっぱり……ティーエスですか? メスオチなんですか?」
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「そんな……日本の魔法少女のスケベゲームやスケベピクチャーがフィクションだったなんて……」
地面を叩きながら、慟哭する妖狐巫女の魔法少女:王 紅琳
日本の魔法少女に抱いていたロマンは完全に粉砕されたらしい。
蒼に至っては「男子はティーエス変身するって最近やったゲームで見ました! 本当なんですよね!?」と、どこまでも食い下がられていた。
無論、蒼にそんな能力はない。
それを知った時の彼女の絶望顔たるや、カオスゼルロイド戦で足を折られた時よりも重度だった。
「な……なんか悪いね……? お詫びと言っちゃアレだけど、何か困ってることがあったら手助けさせてくれるかい? 俺達ちょっと暇な時間が出来ちゃってさ」
蒼の問いかけにも、彼女の慟哭は止まらない。
どうにも話が進まないので、「仕掛け」だけを施してホテルに帰ろうかと思った蒼が、その胸に手を当てた時、「居た!! 紅琳!!」という大声が、廃墟の路地に木魂した。
蒼達が声の方に目を向けると、先ほど瓦礫の下から救出したあの少女が、息を切らして立っている。
少女はハァハァと咳き込みながら、紅琳の元に歩いてくると、「また……犠牲者が出たの……!」と嗚咽交じりに言った。
それを聞いた紅琳は、泣き叫ぶのを止め、涙で腫れた目を見開きながら蒼に詰め寄る。
「ティーエスはしなくて構いません! ちょっと私達に手を貸してくれませんか!?」
蒼は一瞬面食らったが、すぐに笑顔になり、「ああ、もちろん」と言って手を差し出した。
紅琳の表情がパッと明るくなり、蒼の差し出した手を握り返す。
直後。
蒼の胸から発された光線が、紅琳の胸を貫いた。





