第23話:台湾編3 ネオ・ガンスプリンター出撃!
『高瀬くん! まさか今台中のカオスゼルロイド出現地域に居たりしないわよね!?』
「まさに今その眼前にいます! ついでに負傷した魔法少女も保護中です」
『まさかと思ったけどやっぱり……! 今そっちに特殊戦闘車両を回送中よ!』
「車両って……ブレイブウィングは出せないんですか」
『先にあなた達が大活躍したらSSTと台湾の技術協力のデモにならないでしょ! まあ大人の都合だけど! ここは一つ!』
「……。了解……。 防御に徹します。」
戦いはあまりにも一方的だった。
カオスゼルロイドにとって、だ。
巫女妖狐の魔法少女はほんの一太刀こそ入れたものの、猿型カオスゼルロイドに散々痛めつけられ、響の腕の中でグッタリとしている。
「オイ蒼! この状況でも戦うなってか!」
響が見やる先には、ついに大破炎上した装甲車と、後退を始めた中華民国軍の対ゼルロイド部隊。
巫女妖狐の魔法少女と、対ゼルロイドバルカンによって肩に深い傷を受けた猿型カオスゼルロイドは激昂し、燃えるようなオーラを放ちながら、落花生弾を超高速で連射し始めたのだ。
さしもの装甲車もこれには耐えられず、一両、二両と損害が増えていく。
だが響が……いや、魔法少女部の誰かでも変身できれば、決して強い相手ではない。
詩織も蒼を睨むような目で見つめてくる。
無論その感情は蒼も同じ。
しかし、蒼は今この場においては、自らの感情よりもSSTの作戦を優先すべきと判断した。
「新里! 香子! 損傷した装甲車からの負傷者救助支援をする! 戦闘は今回送中のSST戦闘車両に任せる!」
「オイ蒼!」
「分かってる。だけど何でもかんでも俺達が解決すればいいものじゃない。ゼルロイドと人類の全面戦争でも、ここを守り、戦うのはこの地に住む者しかいないんだ。今回は……俺達はその力添えに徹しよう!」
「……。分かりました! そういうことなら私も裏方に徹します!」
「いつもスーパーヒーローが解決! じゃ居なくなった後困るものね」
「響はその子を安全な場所に避難させてあげてくれ!」と言って、燃える装甲車の方へ走っていく蒼と2人。
響は少し腑に落ちない様子ではあったが、腕の中で荒い息をする魔法少女に目を落とし、「致し方ねぇか……!」と呟くと、彼女を抱えて戦闘区域から離脱していった。
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「超電磁レーザーシールドっ!!」
敵の猛攻に耐えている装甲車の前に蒼が立ちはだかった。
蒼の右腕から展開されたシールドが敵のカオス落花生マシンガンを受け止める。
いかに強力なカオスエネルギー弾とはいえ、超電磁Xエナジー障壁を突破することは出来ない。
その隙に、詩織と香子は、大破した装甲車から辛うじて脱出し、倒れ伏せる隊員たちに救護活動を行う。
「あ……あなた達は一体……どこの部隊の……」と、若い隊員が問うと、香子は「日本のSST技術協力部隊の者です。もうじきSST特殊戦闘車両の増援が来ます」と答えた。
その声に呼応するかのように、甲高いエンジン音が灰色のビル群に木霊する。
「先輩! あれは!」
詩織が指さす先から、ヘッドライトの光芒を放ちつつ現れる銀色の車体。
その背に背負うは、中型の対ゼルロイドエナジーキャノン。
「ガンスプリンター! ……。違う! 一回り小さい!」
コンパクトスポーツカーを使用していたガンスプリンターとは異なり、こちらへ走ってくるそれは、軽スポーツカーである。
『間に合ったみたいね! これが最新の特殊戦闘車両、“ネオ・ガンスプリンター”よ! それじゃあシャイニング部隊の皆! お願い!』
御崎の声が蒼のヘッドセットに響く。
同時に、空に3条の光線が走ったかと思うと、周囲に白い粒子が降り注ぎ始めた。
「これは……ネオ・シャイニングフィールド! いつの間に設備を!?」
『それはまた後で! 運転中の電話は犯罪になっちゃうからね! 切るわよ!』
通話が切れると、ネオ・ガンスプリンターは凄まじく荒々しいドリフト走行を始めた。
どうも御崎が乗っているらしい。
突然、自身の展開したカオススモッグが吹き払われ、猛毒の世界に放り込まれた猿型カオスゼルロイドは、ますます激昂し、ネオ・ガンスプリンター目がけて猛烈なカオス落花生の連射を始めるが、御崎はそれを軽々と回避していく。
避けきれなかった弾丸も、ピンポイント展開した電磁レーザーシールドが叩き落とす。
「すごい……」
詩織が声を漏らした。
非力な64馬力の660ccターボエンジンでありながら、その挙動の軽快性はガンスプリンターのそれを大幅に上回っている。
なぜか?
それは、積載物の違いである。
ガンスプリンターは後部座席からトランクまでのスペースに、G-プラズマコアジェネレーター、G-プラズマコア反応用の液体燃料、マジックエナジーコンバーター、そして、シールドジェネレーターという重量物をみっちりと搭載していた。
しかし、このネオ・ガンスプリンターの後部座席には、運転手用の携行武器が固定搭載されているだけ。
トランクもほぼ空である。
ネオ・ガンスプリンターの屋根に取り付けられた新型ユニット「X-シャイニングチャージャー」は、ネオ・シャイニングフィールドからエネルギー供給を受け、それを無変換で武器や防御システムに使用できるので、エネルギーを精製する機関や、燃料、複雑なエネルギー変換機構を必要としないのである。
結果、より小さな車両にも搭載できることとなり、一両当たりの調達コストの低減と、より小回りの利く運用が可能となったのだ。
白銀の車体に据えられた2対4丁の銃身が、ネオ・シャイニングフィールドの光を受けて輝いている。
『スプリンターキャノン! ファイヤ!』
車体に備え付けられたスピーカーから御崎の声が響く。
白色のエネルギー弾が連射され、炎のように赤く光るカオスゼルロイドの肉体へ次々と着弾。
瞬間的に体を結晶化して防御を試みる敵だが、そんなものは無力だ。
炸裂するX-プラズマコアエネルギーがその結晶を易々と粉砕し、一瞬にして分解する。
「ギエエエエエエ!!」という絶叫を上げながら、逃げに転ずるカオスゼルロイド。
だが、ネオ・ガンスプリンターはその頭を押さえるように回り込み、即座に攻撃を再開する。
今度は一連射で敵の脚部を吹き飛ばし、その動きを封じた。
苦し紛れのカオス落花生マシンガンを放つカオスゼルロイド。
無論、その連撃も超電磁レーザーシールドによって弾かれ、お返しに強烈なX-プラズマコアエネルギーを叩き込まれた敵は、やがてグズリと崩れ、露出したコアを狙撃され、跡形もなく消滅した。
『オッケー! 一丁上がり!』
御崎が華麗なドリフト停車を決め、ゆっくりと消滅するネオ・シャイニングフィールドをバックに車から降りてくる。
同時に軍部の広報と思われる一団が走ってきて、パシャパシャと写真をシャッターを切った。
御崎の下へ現地部隊の司令官が歩いてくると、右手を差し出す。
それに握手で応じる御崎。
カメラのフラッシュが一層激しくなった。
蒼達はその騒ぎに乗じて、先に離脱した響の後を追い、現場を離れたのだった。





