第22話:台湾編2 灰色の観光旅行
「さあ観光!……って雰囲気じゃないですねこれは……」
詩織が目に見えて肩を落とす。
台中駅に辿り着いた4人を待っていたのは、ガイドブックの写真とは似ても似つかぬほどのっぺりとした都市であった。
徹底的な生存圏の集中と、それを可能とするための都市再建計画に基づき、台中公園を中心に並ぶ工業団地のようなビル群。
内部は居住区画、生産区画、工業区画等からなる複数の区画に分かれており、一棟でそこの住民全員を養うことが出来るとされている。
時折出入りするのは、軍人や巨大な装甲車両ばかりだ。
中での生活の安全は国が全力で保証するが、代わりに一歩でも外へ出れば、ゼルロイド、及びそれと交戦する軍による損害を被っても全て自己責任という規定が為されているらしい。
だが、もちろん全国民をその建物の中に収めることなど土台無理な話。
あらゆる面での選別を経た者たちが、その中での生活を許されているのだ。
あぶれた者たちは、その建物群の建設から取り残された旧市街に身を寄せ、バラック街を形成していた。
かつて観光の名所として栄えた第二市場など、形こそそのままだが、中身は在りし日のものとは全く異なっていた。
今では賑やかさも、煌びやかさもなく、憔悴しきった人々がなけなしの日銭で腹を満たす、灰色の飲食街へ変貌している。
「ひどい話ですね……」
「その判断が正しいか否かは、今判断できることじゃないさ……」
覚悟していたことではあるが、いざ厳しい現実を目にすると、やはり気落ちするものである。
灰色の街を横目に見ながら、トボトボと歩いていく魔法少女部。
流石に歴史的建造物たる宝覚寺や孔廟などは取り壊されることなく残っていたが、ゼルロイドとの戦闘によるものか、所々損壊が見られ、人影はない。
名物の金色に光る弥勒大仏は今なお柔らかな笑みを湛えていたが、それがかえって物寂しさを強調している。
仕方がないので、一度ホテルへ戻るかと4人が相談を始めた時、誰かの悲鳴と、激しいブザーの音が辺りに響いた。
そして、それに連動するように、空襲警報を思わせるサイレンがけたたましくなり始める
一斉に身構える4人。
その眼前で、様々な場所に格納されていた軍用車や装甲車が、次々に緊急発進していく。
迅速なゼルロイド対応だ。
「先輩! 私達も行きましょう!」
「待って! ここはあくまでも外国よ! 現地組織の対応の邪魔しちゃだめだからね!」
「そんなこと言いながらオメーも走ってんじゃねーかよ!」
「全員コンバータースーツ起動! 対ゼルロイド戦闘は軍ないし現地の魔法少女に任せて、俺達は人命保護に専念するぞ!」
「「「了解!」」」
新型へ更新され、より洗練されたスーツを身に纏い、4人は立ち並ぶ巨大ビル群の谷間へと走っていった。
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対ゼルロイドに最適化されたと言われる中華民国軍の戦闘は、極めてシステマチックだ。
強固なビル街という地形を利用し、攻撃ポイントまでゼルロイドを誘導。
そして、そのポイントに重点配備された超砲身バルカン砲、火炎放射器等の集中砲火でその強固な防御を貫き、再生する間を与えず焼き尽くすのだ。
無論、ゼルロイドと対峙する部隊もそれに対応した訓練を積んでおり、隊員は車両から降りることなく、安全に敵を殲滅できるという。
現に今、蒼達の真横では、そのマニュアル通りの戦闘が展開されている。
だが、敵はカオスゼルロイド。
激しい威嚇射撃を流体や結晶体で凌ぎ、猿型の模倣生命体に変化して装甲車への反撃を行っている。
猿型カオスゼルロイドが口から放つ、暗黒エネルギーで構成された落花生弾は装甲車の外板装甲を陥没させるほどの破壊力を持っているのだ。
敵と軍の戦闘は、一進一退を続けていた。
そしてそんな光景を横目に見ながら、蒼達は瓦礫をどける作業を行っている。
「お兄さん……逃げて……外出した私が悪いの……」
「それは助けない理由にはならないな」
「うっ! しゃあ!! 上がったぞ! 引っ張れ!」
「了解です!」
「せーのっ!」
大小の瓦礫を響がどかし、その下に閉じ込められていた少女が助け出される。
すかさず蒼がメディカルスキャンを行い、身体への重大なダメージの有無を確認した。
幸運にも、彼女は軽い擦り傷程度のようだ。
「あ……ありがとうございます……! じゃ……じゃあ私これで……!」
「あ! ちょっと待って! 今動くのは危ない!!」
蒼による制止を振り切り、少女はふらつきながらも旧市街の方へ駆けていく。
追いかけようとした4人の近くにバルカン砲の流れ弾が着弾し、激しい砂煙が辺りを包む。
視界が戻った時、既に少女の姿はどこにもなかった。
しかし、それと同時に、周囲の大気が激しく煌めき始める。
その色は、鮮やかな赤。
響のそれとは異なるエネルギー場に包まれて現れたのは、ミニスカ巫女服とチャイナドレスを掛け合わせ、狐耳と羽衣とフリルを付けたような、不思議なコスチュームを纏った魔法少女であった。





