第21話:台湾編1 解放! シャイニングゲート
オオグンカンドリゼルロイドの襲撃を苦も無く退けたエーテルネストは、台湾の青々とした島影を眼下に眺めつつ、台中の軍事空港へ着陸した。
新造されたこの空港は、対ゼルロイドに特化した軍事基地であり、台湾全土へ速やかに攻撃戦力を派遣することが可能となっている。
その主戦力はゼルロイド用に改造された攻撃ヘリだ。
対戦車ガトリング砲の砲身を大幅に延長し、ゼルロイドの強固なマイナスエネルギー組織を貫通、断裂しうる威力を持たせることに成功した「対ゼルロイドガトリング砲」が主装備である。
最大の仮想敵国たる中華人民共和国が、党内の動乱によって内部崩壊し、地方軍閥による分割統治と内紛状態に陥ったことを幸いと、対ゼルロイドであまり有用ではない海軍戦力を大幅に削減し、上述のヘリを始めとする対ゼルロイド用装備の拡充に予算を大きく割り振ったこの国は、同規模の国々と比較してゼルロイド被害を最小限に留めることに成功していた。
だが、通常兵器の効果が極めて薄く、装甲車やヘリ、戦闘機にも痛打を与え得るカオスゼルロイドの出現によって状況は一変する。
戦闘ごとの損害が日に日に激しくなり、カオスゼルロイドの初出現から3ヶ月後には台北及び桃園市、台中、台南、高雄などの大規模な経済圏を抱える都市を優先して守るため、小規模な町村への戦力派遣が禁止されてしまう。
なんと大城市よりも先に実現された、政府謹製アプリでの通報によって発動される「ゼルロイド出現警報システム」も、宝の持ち腐れとなっている。
「んで、SSTにお呼びがかかったわけ」
エーテルネストのコクピットで、御崎が台湾の現状を軽く解説した。
元々台湾は迅速な対応で、魔法少女という不確定要素に頼らない戦略を確立したと、各国から注目されていた国だ。
その上で現状の切迫度、そして魔法少女の支援を中心に据えるという真逆の対応で注目されているSSTとの初技術提携国となる点において、一層の注目を浴びているらしい。
「SSTにお呼びが……って言っても、このエーテルネストに積まれた物資と技術者さん達じゃ、台湾全土を守るのは無理じゃないですか?」
蒼がエーテルネストの積載物リストを眺めながら言う。
積まれていた対ゼルロイド物資は、ブレイブウィングウィングV3、そしてサポートバード4機+試作のリサーチパロット、SST特殊戦闘車両のガンスプリンターが1台、移動用のミニバンが一台、そしてそれらのメンテナンスパーツくらいのものであった。
搭乗している技術班も、それらの整備を主任務としているチームである。
これでは台湾にも、この先立ち寄る国々にも総合的な対ゼルロイドソリューションを提供することは到底できない。
「大丈夫大丈夫。これから届くんだから」
「これから? 別機体で輸送してるんですか?」
「いいえ? ここへ直に送られてくるのよ。まあ、皆の目で確かめてちょうだい」
御崎はそう言うと、コクピット後部に配置されていたパネルを操作した。
パネル内のモニターには、機の形状を記すマークが点灯していたが、それが変形を始めている。
「ウィーン」というモーター音と共に、翼が大きく下へ傾斜し、その翼面が白く発光しているのが、コクピットの窓から確認できた。
「なんか凄い感じですよ! ビームか何か出すんじゃないですか!?」
「いや、こんなとこでぶっ放したらあぶねぇだろ!」
などと、詩織と響が窓を奪い合いながら、その光景を眺めている。
御崎はそんな光景を満足げに見つめつつ、パネルのレバーを「展開」にスライドさせた。
すると、翼の輝きが増し、機体の腹部に白い幕のようなエネルギーゾーンが出現する。
「シャイニングフィールドの展開を確認。X-プラズマエネルギー値、高域で安定。SST本部よりのエネルギー伝達を確認。シャイニングゲート……解放!!」
御崎がいくつかの計器を指さしで確認した後、レバーを「展開」から「解放」へとスライドさせた。
直後、パネルのモニターに車型のシルエットが複数個出現する。
やがて、機体の下から、多数のエンジン音が聞こえてきた。
「シャイニングゲートって……もしかして!」
窓の外を見ていた蒼が、目を輝かせながら御崎の方へ振り返る。
「その“もしかして”よ」と御崎が自慢げに行ったが早いか、エーテルネストの機体下から、大小のトラックが続々と現れた。
シャイニングゲート。
それは、蒼が破滅世界の父より受け取ったデータをもとにアイデアノートに書き記した、次元位相制御技術を用いた長距離輸送技術である。
我々の生きるこの世界は、無数の次元位相レイヤーの中にある。
その上に仮想レイヤーを生み出し、魔法少女用の戦闘空間を作り出すのが、ネオ・シャイニングフィールドだが、これはその応用と言える。
シャイニングゲートは、極めて高い指向性を持つ、細く、長い仮想レイヤーを出現させることで、ネオ・シャイニングフィールドの「道」を作るテクノロジーだ。
これが民間での実用段階に入れば、ここ数年で滞りに滞った国家間、地域間のヒト、モノ、ひいてはカネの流れを安全に復旧することが可能となる。
まさしく夢の技術と言えよう。
だが、そんな夢には現実問題が付きまとってきた。
「道」への「入口」はSST本部に建造されたものの、「出口」が現在、世界の何処にもないのだ。
技術を公開し、世界中でゲートを製造してもらえばいいのではないか、と思うかもしれないが、事はそう簡単に運ばない。
他国の、それもポッと出の怪しい研究機関と直通で繋がるゲート。
しかもそのゲートの技術はブラックボックス。
それも誰とも知れない、ある少年が制御権限を握っているという。
そんなものを自国に配置したいとは、普通思わないだろう。
何をしでかすか分からない、怪しい秘密結社が「お宅の部屋にウチと繋がる異次元ゲートを置かせてください」などと売り込みに来たら、誰もが「お帰り下さい」とドアを閉めるに違いない。
逆もまたしかりで、門を繋げる側としても、敵か味方か分からない人の家に、自室と繋がるゲートを配置したくはないというものだ。
そこで、SSTと日本政府は南極での異変を利用し、策を打った。
簡単に言えば、「SSTの南極調査に“協力”してくれた国には、現在著しい効果を上げている、SSTの対ゼルロイドソリューションを割安で提供する」という体で、世界へ問うたのだ。
様々な反応があった。
喜んで受け入れる国。
交換条件を持ち出す国。
敵対国への配置をしないことを条件に、承諾する国……等々。
SSTと政府はあらゆる面でそれらを「吟味」し、一本の「道」を地図上へ描いたのだった。
そして、その道をなぞるのが、移動式の「出口」となるエーテルネストというわけだ。
エーテルネストには簡素とはいえ、シャイニングゲートの展開装置が付いており、腹部のハッチにゲートを出現させることが可能となっている。
これにより、物資や技術者をSST本部より協力国へ直送するのだ。
蒼が窓から外を見れば、赤い絨毯の上で、スーツ姿の人物が二人、並んだカメラの前で握手をしていた。
どうやら、技術協力に関するセレモニーらしい。
「全く……あの人たちもどこまで知ってるのか分からないけど、立役者スルーして盛り上がっちゃって……」
蒼の隣に腰かける香子が、不満げに呟いた。
蒼達の同行は、あくまでもトップシークレットである。
政治の場には、蒼達は一切関与することは無いのだ。
「まあ、そっちの方が気楽でいいよ。腹の探り合いや騙し合いは専門外だからな……。ほう……。俺の方式にこうやって省電力化改良加えたのか……。上手いな……。」
蒼は煌びやかなセレモニーの方ではなく、エーテルネストのシャイニングゲートシステムの説明書に夢中であった。
「そうそう。めんどくさい世界は私達に任せて、皆は部活の海外遠征を楽しんでくれればいいの」
御崎はそう言って蒼達に台湾ドル紙幣と、チャージ式のプリペイドカードを手渡した。
「そういえば、どれくらい駐機するんですか? 観光してお昼と夕飯くらいは食べれます?」
詩織の問いに、御崎は一瞬キョトンとした後、こともなげに言った。
「あら? 各国大体一週間の滞在って宮野くんから聞かなかった?」
予想外の長期遠征と今更知り、固まる4人を尻目に、御崎は「はいはい! 台湾の政府や軍のお偉方がエーテルネストの視察に来るから、皆早く乗って乗って! ホテルまで送ったら高瀬くん主導で自由行動よ!」と、4人をミニバンに押し込み、台湾用の臨時ナンバーを装着すると、リアハッチから勢いよく車を発進させた。





