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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第三章

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第20話:台湾沖の高速戦




「先輩! このお店美味しそうですよ!」


「お、小籠包が名物なのか。いいねぇ」



 東シナ海上空を飛行するエーテルネストの魔法少女部ルームで、詩織と蒼が台湾旅行のパンフレットを見漁っている。

 二人はすっかり観光気分だ。

 一方、響と香子は窓の外をしきりに眺め、どこか落ちつかない雰囲気である。



「なあ、海の上空が一番危ねえんだろ?」


「うん、旅客機の失踪事故の7割は海上を飛行中に起きてる。未だ発見されていない未知のゼルロイドが外洋に生息している可能性は高いみたい……」



 近年、国家間の移動が著しく制限されている理由。

 それこそが、恐るべき戦闘力を備えた海棲ゼルロイド群である。

 「太平洋はゼルロイドの領域」と言われて久しいが、今では大西洋、インド洋でさえゼルロイドの被害が急増中だ。


 海洋、特に深海はマイナスエネルギーを強力に分解する太陽光が届かない。

 加えて、暗く、深い場所へ流れていく性質を持つマイナスエネルギーが、地上の数千~数万倍の濃度で存在するとされている。

 マイナスエネルギーが高濃度であればあるほど、巨大で強力な力を持つゼルロイドの性質を鑑みれば、海洋が彼らにとっていかに好条件かが分かるだろう。


 太平洋に落下した隕石痕の調査に向かったアメリカの海洋調査船「シーライオン」が最後に行った生配信では、数千メートルはあろうかという巨大なタコの触腕が海面から伸びる様子が流れ、世界中へ恐怖を振りまいたのは記憶に新しい。


 それこそ、大城市を襲った巨大イソギンチャク型、及びキヌガサタケ型すら軽く凌ぐような、魔法少女や軍、SSTの最新装備を持ってしても到底敵わないような規模のゼルロイドが多数生息しているのだ。


 幸いにも、彼ら超巨大種は一定以上のマイナスエネルギー濃度が無ければ体を保つことができない。

 それ故、その被害はこれまで太平洋の大深度エリアに限られていたのだが、ここ数年、被害エリアは拡大傾向にある。

 無論、その情報はあらゆるメディアで報道されており、響と香子の落ち着きのなさも至極当然の話である。



「大丈夫、大丈夫。東シナ海はユーラシア大陸の大陸棚上で浅いから、危険度はかなり低いよ。実際この辺で漁船沈没事故は多数あるけど、官民の航空機ともにゼルロイド由来と思しき遭難事故は起きてなかったはずだ」



 二人の会話を横耳で聞いていた蒼が、旅行パンフレットを捲りながら応えた。



「ていうか、今回の移動経路見たら、所謂“魔の海域”を大きく迂回するルートになってたよ」


「あー……。それでこんな経路になってんのか……。南極行くってのに、一回エジプトまで回ってヨーロッパからグリーンランド経由してアメリカに飛ぶ意味が分からなかったんだよ」


「でもこれ多分……ある程度政治的な思惑もあるんじゃないかな……?」



 香子が経由地の点を見ながら言う。

 事実として、この“ゼルロイド大災厄後”を見通すことができているのは現状、蒼と滅亡世界の技術を入手できた日本くらいのもので、多くの国々が未だ絶望的な戦いを強いられている。

 そんな中で巡るこのワールドツアーだが、経由地は現在各地域における強いイニシアチブを持っている国家。

 即ち、“災厄後”のリーダーとなるであろう、“恩を売っておきたい国々”だ。

 明らかに何らかの意図が働いている。



「ま、その辺はSSTやらお偉方に任せとけばいいさ。俺達が今すべきことは魔法少女の支援とゼルロイドの駆除だよ」



 蒼が特に興味なさげに言った。

 相変わらずの、知能を魔法少女にしか使わないやべー奴である。


 そんな蒼と詩織の落ち着き払った姿に、少しの不安を覚えながらも、響と香子は窓から離れ、パンフレットに付箋とチェックを付ける作業に加わる。

 その直後、『ゼルロイド接近! ゼルロイド接近!』というけたたましいアラームと共に機体が大きく傾いた。



「おいおいおい!! やっぱゼルロイド来たじゃねーか!!」



 90度近く傾いた部屋の隅でパンフレットに埋もれた響が怒号を上げる。

当の蒼は「おっと……マジか。ちょっと想定外」と、ひっくり返りながらも落ち着いていた。



『ブレイブウィングV3、ドリルコンドル、発進スタンバイ! 高瀬くんと新里さんは後部カタパルトへ!!』



 機内アナウンスに従い、蒼と詩織は目線を一瞬合わせて頷くと、即座に部屋の隅に据えられたスライダーを滑り降りていった。



「アイツら帰って来てからちょっと風格出たよな……」



 響が崩れたパンフレットを纏めながらポツリと呟く。



「でもそんな蒼もカッコいいよね……」


「お……おう……」



「さあ、私達も何か手伝いに行くわよ!」


「だな!」



 二人は散らかった書類を壁のホルダーに押し込むと、コクピットに続く回廊へ駆けて行った。



////////////////////



「装着合体!!」


「変身!!」



 蒼と詩織が白と黄色の光の帯を引いて後部カタパルトから飛び立っていく。

 そのヘッドギアに『高瀬くん! 新里さん! 敵は機体左舷から接近中よ! 反応はカオスゼルロイド! サイズ15m 数3!』という声が聞こえてくる。


 蒼の眼鏡に、レーダーサイトが表示され、やがてその目に、黒い点が3つ映る。

 マッハ1・2のスーパークルーズが可能なエーテルネストに追い縋る高速飛行型ゼルロイド。



「オオグンカンドリ型か……」



 蒼のエネミースキャナーが敵のモデルを割り出す。

 そのカオスゼルロイドが模倣した生物は、生身で時速400kmもの高速飛行能力を備えるとされる海鳥、オオグンカンドリであった。

 カオススモッグを噴射しながら接近する一群は、肉眼で見ると黒い雲のように見える。



「さぁ! この魔法少女詩織・シャイニングエクストリームの力を見せますよぉ!!」


挿絵(By みてみん)



 そう言って詩織が胸のX型クリスタルを輝かせ、黒い雲へと切り込んでいく。

 黄白色のエネルギー旋風と紫黒のカオススモッグが激突し、衝撃波と共に双方が弾き飛ばされる。

 流石に絶対的なエネルギー量が少ない詩織では、3羽分の高密度カオススモッグを破砕することは出来ない。

 だが、遥かに優速な敵の襲撃を受け、エーテルネストへと直進していた一群は急激にコースを逸れて海面へと急降下していく。



「どんなもんですか! これでエーテルネストの危機は脱しましたよ!」


「ナイスだ新里! 後はシャイニングフィールドに閉じ込めて倒すぞ!」


「了解です! 追い込みます!」



 蒼がドリルコンドルのエネルギーウィングを開き、目視出来ないシャイニングフィールドの入口、シャイニングトラップを展開する。

 急上昇してくるゼルロイド達の頭を抑えるように追い縋った詩織が、攻撃を加えながら蒼の構える罠へと追い込みをかけていく。


 あと少しで有利なフィールドに引きずり込める……。

 2人が作戦の成功を確信した時、思わぬ横槍が入ることとなる。



『高瀬くん! 一旦シャイニングトラップを解除して! 中華民国空軍のF16 2機が接近中よ!!』


「え! 台湾の空軍ってゼルロイド相手に戦闘機出してるんですか!? ていうか無線で帰投するように言えないんですか!?」


『いいから! 早くトラップを解いて! 位相対策が施されてない戦闘機がトラップに突っ込んだら戻って来れなくなるわ!』


「了解!」



 シャイニングトラップを解除した蒼の真横を掠めて交差するゼルロイド。

 その後を空対空ミサイルが追尾し、激しい炸裂が起きた。

 カオススモッグが爆風で吹き飛び、中に潜んでいた3羽のカオスゼルロイドが姿を現す。


 しかし、既に彼らは流体へ形状を変え、その爆発を苦も無く受け流した。

 そして即座に模倣生命体に変形し、攻撃を加えてきた敵、即ちF16へと翼を翻す。

 1羽、喉元が赤く膨らんだ個体を中心に、続く2羽が尾羽根からカオススモッグを噴射しながら2機のF16を包囲しにかかる。


 カオススモッグの輪に囲まれた2機は、降下して離脱を試みる。

 その逃げ道を塞ぐように飛来した喉元の赤い個体が、その喉を大きく膨らませた。

 直後、ゼルロイドの口から赤熱した光線が放たれる。

 その閃光がF16を捉え……!



「はあああああああああ!! シャイニングスラーッシュ!!」



 刹那、F16の間をすり抜けた詩織が、その喉元に斬りかかった。

 喉袋に深い裂創が走り、光線のエネルギーが溢れ出る。

 もだえ苦しみながら大きくのけ反ったゼルロイドの両脇をF16が通過し、離脱していった。



「シャイニングブレードストーム!!」



 内部で炸裂する高圧のエネルギーで自壊し、体勢を崩して落下していくゼルロイド目がけ、詩織が渾身の大技を放った。

 白と黄色の粒子を纏った光刃が竜巻のように乱れ飛び、それに巻き込まれたゼルロイドの体が見る見るうちに細切れになっていく。

 やがて、無数の断片となった敵は、詩織のエネルギー場に分解され、消滅した。



 一方、蒼は2羽のゼルロイドに包囲されていた。

 彼の飛行速度では、音速を越えて飛ぶ敵に追いつくことができないのだ。

 だが、蒼のコンバットシステムはその飛行軌道を完全に追尾している。


 高速で旋回する敵が起こす旋風の刃が蒼に襲い掛かるが、パッシブシールドがそれをピンポイントでガードしていく。

 そして蒼は、敵の挙動の隙を捉えた。



「ドリルグレネード……レーザー!!」



 左右に広げられた蒼の両腕から放たれたドリル状レーザーが、超音速で飛ぶ敵の軌道の先へと撃ち込まれた。

 「グギャアアアアン!」という断末魔と共に、2羽のゼルロイドは腹部に大穴を穿たれ、動きを停止する。



「ハイパーエナジーキャノン!!」



 蒼の両肩から放たれた超高出力光線が、敵を焼き払った。



「お疲れ様です!」


「新里こそ!」



 と、ハイタッチを交わし、エーテルネストへ帰投しようとすると、その姿が見えない。

 無線で戦闘終了を告げると、空がグニャリと歪み、機体が現れた。

 『どう? エーテルネストは単独でシャイニングフィールド位相を作り出してそこに潜伏できるのよ!』とか、『やること全然なかったわ……』とかいう自慢やボヤキを聞きながら、蒼と詩織は尾部飛行甲板へと着艦する。


 機体の進行方向には、台湾の島影がくっきりと見えていた。


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