第18話:ネオ・シャイニングフィールド
『ドリルグレネードレーザー!!』
モニターの中でドリルコンドルと合体した蒼が叫び、その両腕からドリル状のレーザー弾が放たれた。
蒼白色の輝きを帯びた光弾は、繁華街のど真ん中に鎮座するイソギンチャク型カオスゼルロイドの触手を次々と吹き飛ばし、捕縛された黒紅の魔法少女、西藤 雫が投げ出される。
蒼はサイドスラスターを噴射させ、彼女を素早く受け止めた。
彼女のコスチュームは手酷く損傷しているが、意識は保っているようだ。
『ありがとう……また助けられちゃったわね……』
『ああ、何度でも助けに来るさ。動ける?』
『ええ……。まだ十分戦える……』
蒼にX-プラズマコアエネルギーの供給を受けた雫のコスチュームが瞬く間に修復されていく。
手足に残っていた触手の絞め痕も消滅し、雫は蒼の腕の中からゆっくりと起き上がった。
一方、触手を切断され、液状化して後退していたカオスゼルロイドも、再び形状を整えて蒼達に迫る。
蒼は雫と視線を交わし、コクンと頷き合うと、彼専用のマジフォンを素早く操作した。
『ネオ・シャイニングフィールド! 展開!!』
直後、街の空に4つの光線が走り、光のドームが出現する。
それは輝きを増しながら蒼と雫、そしてカオスゼルロイドを包み込み、やがて、外部からも、SST本部のモニターからも3者の姿は全く見えなくなった。
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蒼が破滅世界から持ち帰った高瀬博士のデータは、ゼルロイド、カオスゼルロイドとの戦いに著しい革新をもたらした。
それは蒼と魔法少女共通の新・人工エネルギー「X-プラズマコアエネルギー」であったり、より強力なシールド、火器、レーダーなどである。
ただ、そんな如何なる強力な火器よりも有益だったのが、次元位相を制御する技術であった。
蒼や詩織を元の世界へと送り返すことに用いられたあの装置も、その技術の一部である。
そして、その技術を応用して生み出されたもの、それこそが「ネオ・シャイニングフィールド」なのだ。
我々の住む世界は無数の次元位相レイヤーで形成されていることは既に広く知られている。
ネオ・シャイニングフィールドはその位相レイヤーの上にもう一つの仮想次元位相を作り出し、光とXプラズマコアエネルギーに満ちた魔法少女絶対有利の戦闘用異次元空間を形成するのだ。
蒼がウボームのダークフィールドを上書きする形でしか展開できなかったシャイニングフィールドとは異なり、SSTの展開装置が届く範囲であれば街のどこにでも形成できるのが最大の進化だろう。
また、異次元空間での戦いになるため、街に損害を残さないのも非常に大きなポイントだ。
「何度見ても、この全然見えなくなるのは慣れねぇな。戻ってくるのか不安になっちまう」
「観戦し甲斐もないですしねぇ……」
「うう……蒼……! 雫さんにもあんなカッコいいこと言っちゃうのね……!!」
SST本部では、響と詩織、香子がラウンジに据えられたモニター前に噛り付いていた。
3人とも今日は所謂非番である。
彼女達以外にも、ラウンジを利用している魔法少女達は皆多かれ少なかれ、戦いの様子が気になるようで、真っ白のモニターをチラチラと気にしている。
そんな期待と緊張入り混じるラウンジに、カツカツと軽快な足音をさせながら、御崎が現れた。
彼女はモニターを見つめる皆の視線を満足そうに見回した後、パンパンと手を叩き、声を上げた。
「みんなに朗報よ! あんまり要望が多いから、異次元位相をモニタリングする新技術を投入したわ!」
少女達の視線が一瞬にして御崎に集中し、歓声が上がる。
御崎はそんな黄色い声に右手をスッと持ち上げて応じ、「それじゃあ、SB-X1 リサーチパロットの視界をご覧あれ!」と叫んでモニターを指さした。
途端に、『ドリルレーザー!』という蒼の凄まじい大声がラウンジに響き渡り、モニターの間近に居た赤青黄がビクンとひっくり返る。
すぐにマイク感度の自動調節が行われ、映像が回復した。
キーンとなる耳を押さえつつ、3人が見上げたモニターの中では、クリスタルのように輝く半透明の街並みの中で、巨大なイソギンチャクカオスゼルロイドを見る見るうちに追い詰めていく蒼と雫の雄姿が映し出されている。
液状化した途端に消滅してしまうほど濃密なX-プラズマコアエネルギーの中では、カオスゼルロイドは疑生物形態でしか存在することが出来ない。
無論、穿たれた肉体の再生も、カオススモッグの噴射も不能である。
一方、蒼と魔法少女達のエネルギーは数倍に増幅され、受けた傷も瞬く間に治癒されていく。
『西藤さん!』
『まかせて……! グラビティー……スクリーム……!!』
最後の足掻きとばかりに放たれた腐食液噴射を、蒼が超電磁レーザーシールドで防ぎ、その背後から飛び上がった雫が重力波の光弾をカオスゼルロイド目がけて撃ち出した。
黒紅と白い光が入り混じった光弾は、露出したカオスゼルロイドのコア部分に違わず命中する。
露出したコアに数十tにも及ぶ超重力が襲い掛かり、赤く発光していたそれは見る見るうちに内部崩壊を起こし、ギイイイイイイイン!という悲鳴のような音と共に崩れ去った。
『ミッションオーバー! ネオ・シャイニングフィールド解除!』
蒼がマジフォンを操作すると、白く輝く世界が泡のように溶け始め、やがて、見慣れた大城市の繁華街へと姿を変えた。
モニターの前で歓声が上がり、響と詩織、香子はハイタッチを交わす。
だが、喜んだのも束の間、今度は別のエリアにカオスゼルロイド警報が発令された。
すぐさま映像が切り替わり、大城市郊外の再開発地域が映し出される。
そこには逃げ惑う作業関係者と、彼らを避難誘導するAZOTチーム、そして、カメレオン型カオスゼルロイド相手に苦戦する濃緑の魔法少女が映っていた。
再びラウンジに緊張が走るが、天色の魔法少女、氷華が駆け付け、ネオ・シャイニングフィールドが展開されると戦局はたちまち好転、カオスゼルロイドは氷華の振るう氷刀に両断されて果てた。
ほんの少し前までは、魔法少女とAZOTによる連携があって初めてギリギリ戦えるような、絶望的な消耗戦だったのが、今となってはこの圧倒的優位だ。
ネオ・シャイニングフィールドシステムは首都圏や大都市圏、そしてエネルギープラント、食料生産プラントを有する地域へ優先的に配備され、各地でSSTや魔法少女の戦いを強力にサポートしている。
国土の生存圏縮小計画など既に記憶の彼方である。
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「お疲れ、カッコよかったよ」
「お、サンキュー」
戻ってきた蒼に、香子がスポーツドリンクを手渡す。
蒼はそれをグイっと飲み干し、肩にかけたタオルで軽く汗を拭いた。
最早あの程度のカオスゼルロイドの相手は、軽い運動である。
ネオ・シャイニングフィールドもさることながら、蒼の戦闘力は既に並みの魔法少女を超えるレベルに達しつつあった。
ブレイブウィングのソフト面、ハード面両方のアップデートや、補助炉心をG-プラズマコアからX-プラズマコアに変更したこともあるが、最新最強のサポートバード、ドリルコンドルの登場こそが、最大の要因だろう。
蒼の戦闘力を大幅に向上させただけでなく、単独での戦闘も可能で、巨大な敵をも容易に粉砕するバズーカになったり、ネオ・シャイニングフィールドを展開するジェネレーターになったりと、汎用性にも優れている。
蒼の青写真をベースに、SST研究部が増えに増えた予算を惜しげもなくつぎ込んで開発した、ある意味、蒼とSSTの共同作だ。
異能の天才と対ゼルロイドにおける最高峰の頭脳達が生み出したのなら、この高性能も頷けるというものである。
「いやぁ~ お見事お見事! 我々としても鼻が高い限りです!」
今日の戦闘について雑談していた魔法少女部と御崎の元に、今度は宮野が現れた。
全国に展開したSST支部の活動が円滑に回るようになり、万年寝不足状態から解放されたおかげか、目の下の隈も消え、肌艶も随分と良い。
「ドリルコンドルの調子はどうですか?」とか、「X-プラズマコア駆動のサポートバードは異常ないですか?」とか、ニコニコしながら魔法少女部の面々に話題を振る。
「なんですか? なんか随分無茶振りしてきそうな顔してますけど」
異変……とまではいかないだろうが、えらくご機嫌な宮野の様子に、詩織が経験則からものを言う。
宮野は何か厄介ごとをゴリ押しする時、大体にこやかな笑顔なのだ。
「あ、分かっちゃいます?」
宮野は「実は今国のお偉方との会議帰りなんですがね……」と、言いながらバッグから何かを取り出した。
彼が取り出したのは、旅行のパンフレット数枚。
それも、全て海外旅行のものだ。
海外旅行でもプレゼントしてくれるのか、いや、今は国外への渡航は実質禁止のはず……。
などと、怪訝そうな顔でそれらを見つめる4人。
宮野はそんな魔法少女部の面々をしばらくの間見つめた後、唐突に口を開いた。
「ちょっと世界グルっと回って、南極の調査をしていただきたいんですよね」





