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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第三章

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第16話:帰還! 装翼勇者




「悪い! 最後の最後で迷っちゃって!!」



 絶体絶命の二人の前に現れたのは、たった今帰還した蒼であった。

 美しく透き通ったエネルギー障壁が、二人目がけて放たれた漆黒の雷撃を完全に遮断している。



「そ……蒼……?」



 その背に、おずおずと手を伸ばす響。



「ああ! 今戻った!」


「バカ……野郎!! おせーよ! この……バカ!」


「な……泣くなよ!」


「泣いてねーよ……! このバカぁ!」



 両膝をついてへたり込み、顔を両手で塞いだまま悪態をつく響とは対照的に、香子の反応は穏やかなものだった。

 フラフラと立ち上がると、その瞳を見据えて微笑み、ただ「おかえり」と一言。

 蒼もその様子を見て微笑み、「ただいま」と返した。



「さぁーて! まずはこの窮地を脱させてもらおうか!! エナジーストーム!!」



 ブレイブウィングから放たれた2連の竜巻が、襲い来る雷を打ち消し、辺りを包むカオススモッグを吹き飛ばしていく。

 これにより、孤立して戦っていた魔法少女達のエネルギー場がそこかしこで展開し始めた。


 それだけではない。

 エネルギー切れで性能低下ないし動作停止していたサポートバード達が、まるで主の帰還を喜ぶかのように、活き活きと動作を始めたのだ。


 大気中に噴射されたXクリスタルエネルギーをその翼で吸収しながら、ブレードホークが周囲に生成された網を次々と斬り破り、苦戦する魔法少女やAZOTに道を作っていく。


 パワードディアトリマは乱立する子実体の森を蹴散らしながら、窮地の魔法少女を襲う小型ゼルロイド達を踏みつぶし、噛み殺す。


 レイズイーグルは上空からエナジーバスターの掃射を行い、網の起点となる子実体を的確に爆砕していく。



 瞬く間に、絶望的な戦況が好転を始める。

 未だ健在だった魔法少女達が、巨大子実体に反撃を開始した。

しかし、並みの火力では、カオスゼルロイドの表皮を貫通するに至らない。

 その巨体はカオススモッグ払われて尚、強固であった。


 蒼もエナジーキャノンで加勢するが、巨大な子実体は、一部を分解されても瞬く間に再生してしまう。

 地下に潜む菌糸体を破壊しなければならないのだ。

 しかし、その菌糸体は、巨大な子実体の下に位置しており、先にそれを焼き払わねばならない。



『高瀬くん!? 高瀬くんなの!?』



 蒼が次の一手を思考している時、彼のインカムに御崎の叫ぶような声が飛んできた。

 その大音量に思わず顔をしかめながら、蒼は「ただいま戻りました」と報告を済ませた。

 インカムの向こうですすり泣くような声が聞こえた後、『よく戻ってきてくれたわ!!ありがとう!』という、嬉しそうな声が返ってくる。


 それとほぼ同時に、『我々から高瀬くん達へプレゼントがあります!!』という、宮野の声が、またしても大音量で飛んできた。

 再び顔をしかめる蒼。



『ちょっと待って! 宮野くんまさかSB4を出すつもり!?』


『ええ! 既にカタパルトにセットされています!』


『まだテスト起動もしてないのよ!? 無茶だわ!』


『大丈夫です! 高瀬くんなら現地で何とか出来るでしょう!』



 などと、インカム内で言い争う御崎と宮野。



「SB4とは?」


『そのままサポートバード4号機という意味です! 我々が高瀬くんのサポートメカとして開発した最新型です!』


『君の企画ノートに入ってた機体を私たちなりにアレンジさせてもらったのよ! 君の望む性能でないかも知れないけど、今の君達には大きな助けになるはずよ!』


『もう既に君たちの上空まで達しつつあります! 炉心へのエネルギー注入と初回起動をお願いします!』



 暗雲の向こうから、キイイイイイ!という高音が接近する。

 ジェットエンジンを思わせる、他の翼とは異なる飛行音だ。

 やがて、雲を裂き、大型の翼が姿を現した。

 先端のドリルと、左右に大きく広がった三角形の翼、そして、猛禽類を思わせる5基の尾翼が特徴的なサポートバードである。

そのサイズはパワードディアトリマに迫る。


 補助ブースターが切り離されたSB4は、静かに滑空し、蒼達の元へと降り立った。

 すぐさま蒼は、ブレイブウィングと連結し、炉心へのエネルギー注入と、AIの初回起動を実施する。



『君から見たら不細工なプログラムかもしれませんが、ベストは尽くしたつもりです!』


「いえ……全くもって必要十分です! 使わせていただきます!」



 ブレイブウィングによるリプログラミングが完了すると同時に、蒼の身体に組み付いていくSB-4。

 エネルギーラインに白い光線が流れ、ドリルが激しく回転する。

 蒼の脳裏に、この機鳥の名が流れ込んだ。



『初回起動をお願いします!』


「了解! サポートバード4-ドリルコンドル! アクティブ!」


挿絵(By みてみん)



 ドリルコンドルの全機能がアクティブとなり、炉心のエネルギー圧が上がっていく。

 データマニュアルを脳内でサッと読破した蒼が、腕のデバイスに起動コマンドを入力する。



「ドリルコンドル・バズーカフォーメーション!」



 蒼の声に呼応し、ドリルコンドルが背中から分離し、変形を始めた。

 ブレードホーク、レイズイーグル、パワードディアトリマも、そのコマンドに従い、蒼の元へと集結する。



「何だ何だ!?」



 一連の動きをただ眺めているだけだった響が、奇異の声を上げた。



「ドリルコンドルは、俺がほぼロマンだけで描いた青写真だった。まさかこれが実装されてるとは思わなかったぜ!」



 いつになくテンションが高い蒼。

 そんな蒼の目の前で、変形した4機のサポートバードが、巨大なバズーカ砲へと姿を変えていく。



「もしかしてコレ……。蒼が前に言ってた合体バズーカ武器!?」


「ああ! 俺と香子と響と新里のエネルギーを結合させて放つ一撃必殺のバズーカ砲だ!」


「に……新里さんは!?」


「あ!!」



 物事が立て続けに起きたために、もう一人の行方不明者が完全に意識の外に追いやられてしまっていた。

 ただ、幸運なことに、これは即座に解決することとなる。

「はべぇ!」という奇声と共に、詩織が落下してきたのだ。



「新里! 良かった! お前も帰ってこれたか!」


「ハッ!! せ……先輩……香子先輩!! うわああああああん!! 良かった! 良かったですぅぅぅぅぅ!!」



 蒼と香子に抱き着き、二人の再会を執拗に祝いだす詩織。

 そのあまりの能天気さに、



「おい! オメーら盛り上がってるのは良いが、さっさと片付けねぇとやべえぞ!!」



 と、響が叫ぶ。

 慌てて合体バズーカにスタンバイする3人。

 敵も危険を察知したのか、蒼達目がけて複数の雷が放たれたが、響がシールドユニットでガードした。



「敵の攻撃はウチが全部止めてやる! 一発で仕留めてやろうぜ!」


「ああ! よろしく頼む!」


「帰還一発目でこんな共同作業なんて……! 私なんかめっちゃ胸熱です!」


「私も同じ気持ちよ! 魔法少女部の最強パワーをぶつけてやりましょ!」


「照準調整完了、エネルギー偏向角計算完了! いつでも撃てるぞ!」



 4人の想いと力が、ドリルコンドルの中枢部、マジック×ウィングエネルギー融合ミキサーで結合し、猛烈なエネルギーとなって装填される。



「「「「クァドラブルブラスター!! シュート!!」」」」



 蒼が引き金を引いた瞬間、4つのエネルギーがドリルのように逆巻く光の奔流と化し、爆発的な破壊力をもって放たれた。



「ぐぬぬぬぬぬ……うおおおおおお!!」



 4本のアンカーを以てしても耐えきれない衝撃を、響が力づくで抑えこむ。

 彼女の奮闘により、発射された極太のドリル光線は、キヌガサタケカオスゼルロイドの超巨大子実体を一撃のもとに粉砕し。地下に潜む菌糸体の菌床を露にした。



「トドメは任せろ! ドリルコンドル! ハイパードリルフォーメーション!!」



 一瞬にして蒼と合体したドリルコンドルの翼と尾翼が蒼を包むように変形し、巨大なドリルとなる。

 そのまま蒼は菌床目がけて突っ込み。地下深くへと潜行していく。



「見えた!! アレが本体だな!!」



 地下50m付近で、ひと際激しくカオススモッグを吐き出す菌糸体の塊を発見し、勢いよく突進する蒼。

 彼を捕えようと、未熟な子実体が触手のように彼に絡みつくが、高速回転するドリルの鎧の前には、何の意味も持たない。



「ハイパードリルトルネード・アターーック!!」



 あらゆる障害物を粉砕しながら、蒼はキヌガサタケカオスゼルロイドの本体を一撃で貫き、同時に、溢れ出るエネルギーの旋風で跡形もなく焼き尽くす。

 やがて、街を覆っていたカオススモッグが晴れ、網も、街中に生えていた子実体も、小型カオスゼルロイドの群れも、サラサラと分解されていった。



「ミッション! 完……了……!」



 皆が待つバイパスへと降り立った蒼の身体がぐらりと傾いた。

 慌てて支えに入った詩織もまた、目を虚ろにして倒れ伏せる。

 二人を持ち上げようとした響も、彼女を手伝おうと腰をかがめた香子も、全員がその場へぐったりと倒れた。


 あまりにもギリギリの大決戦は、こうして幕を下ろしたのである。


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