第15話:市街の決戦! 魔法少女 対 第3の眷属
「アハハハハ!! カラインなんて呼ばれてたんだこの子! 変な名前!! それより、本当に覚えてないの!? この声も、この技もさぁ!!」
「くっ!! 何なんだテメェ!! ウチはテメェと面識なんざねぇ!!」
「あっそう!! せっかくこっちは楽しみにしてきたのに!!」
カライン最後の姿、黒の魔法少女そっくりな少女が、響に飛びかかり、重い拳を打ち付ける。
カオススモッグに力を奪われながらも、響はそれを受け止めた。
「オピスもヴルペースも倒したみたいだから、どれだけ強い奴なんだって期待してたけどさぁ!! 結局この程度なんだねキミは!!」
「あぐぁ!!」
少女のカオススモッグを帯びた蹴りが響の脇腹に叩き込まれ、悶える響。
その軽い一撃でさえ、彼女の腰のコスチュームが一瞬分解しかけた。
「はぁ……はぁ……訳の分からねぇこと抜かしやがって……。こっちはテメェに構ってる暇なんかねぇんだ!!」
「はぁあああああ!? そんな小脇に置けるような存在だと思ってんの!? 何回ボクの足の下で無様に泣き喚いたと思ってんのキミ!!」
「だから知らねぇって言ってんだろうが!!」
今度は響が先手を打って出た。
足裏に小爆発を起こし、瞬間的に加速して、敵の懐に飛び込んでいく。
敵が胸元で拳をガードするような体勢を取ったのを見計らい、四肢を小爆発で制御してローキックに瞬間シフトする。
響の剛脚が、無防備な敵の太腿に叩き込まれた。
「オラァ!!」
「うっ!!……なんちゃって♪」
「な!? うああああああ!!」
一瞬苦しむような素振りを見せた敵だが、次の瞬間には響の足を掴み、そのまま片腕で彼女を振り回しにかかる。
響の身体を地面に、鉄柱に、石壁にと、まるでぬいぐるみを乱暴に、弄ぶかのように、激しく振り回し、打ち付けていく。
「ぐあ!! だぁ!! ぐはぁ!!」
その度に、響の苦し気な声がロータリーに響き渡る。
助けに入ったパワードディアトリマを難なく蹴り飛ばし、敵は猛攻を続けた。
「ほーら! これで思い出してくれるかな!!」
「がはっ!!」
アスファルトに顔面を叩きつけられた響。
その顔に、敵の足が勢いよく叩きつけられた。
「ほら! ほらほら!! 何回ボクに挑んでも勝てなくて、最後にはカレを泣きながら呼ぶのがお決まりだったよねぇ!! ほらほら!!」
「うっ……うぁあ……!!」
かつてない怪力を前に、成すすべなく踏みしだかれる響。
何とか腕でその足を止めようとするが、掴もうとする力を余裕で振り切って、敵はストンピングを続けてくる。
激しい衝撃に、響の意識はゆっくりと霞んでいく。
やがて、抵抗を試みていた手足がビクビクと痙攣し、ぐったりとアスファルトに投げ出された時、ようやく敵の猛攻は止んだ。
「マジで覚えてないとか……。めっちゃ腹立つ……!! オラ!! 起きろよ!!おい!!」
敵はそれまでの余裕ある態度から一変。
今度は激高し、動かない響の身体を蹴り飛ばす。
だが、何度蹴り飛ばされても、響は痙攣するだけで嗚咽さえ発しない。
「ボクのこと思い出すまでは死ねると思うなよ!! やれ!」
敵の瞳が赤く光り、周囲のカオススモッグが活性化する。
同時に地面が激しく揺れ、菌糸体が怪しい輝きを発し始めた。
アスファルトを割って出現した無数の子実体が、響の身体を巻き込みながら伸び上がり、やがて、彼女の手足を引き伸ばしながら拘束する。
そして、響の身体を覆うように網が出現し、彼女の身体を脱出不能に固めていく。
助けようと飛来するサポートバード達もまた、無数に張り巡らされた網の中で立ち往生している。
「ほら! お目覚め~!!」
「ぐああああああああああ!!」
子実体の全身にどす黒いオーラが走り、響を襲う。
そのあまりの苦痛に、彼女の意識は無理やり覚醒させられる。
「ほら! ほらほら!! ボクの名前~!」
「あああああああ!!」
マイナスエネルギーとカオススモッグが混合した電撃。
響のコスチュームが裂け飛び、彼女の身体に黒いエネルギーが流れ込む。
葉脈のように流れるそれは、彼女のエネルギーを内外から破壊していく。
そのエネルギー流が下腹部の宝玉まで達した時、響の悲鳴がひと際大きくなった。
「ひぎゃああああああ!!」
「ほらほら~! 早く言わないともっと苦しいよ~? 初めの文字は“ベ”だよ!!」
電撃の照射が止まり、荒い息をしながら項垂れる響。
その髪を荒々しく掴み、敵は響に問う。
「し……知らねぇ……な……。ぐああああああ!!」
望む答えを返さないことも、これだけの苦痛を与えて尚反抗的な目を止めないことも気に食わない敵は、さらに激しい電撃を響に浴びせかけた。
子実体は傘からカオススモッグの胞子をまき散らし、響の体内をも侵しにかかる。
「ああああああああああ!!」
最早響の耳に、敵の声など届いてはいない。
圧倒的な苦痛を前に、手足を必死で動かして逃れようとするが、彼女の力をもってしても、その拘束は微動だにしない。
「ほらほら~? “ベ”の次は“ヒ”だよ~? 答え次第楽にしてあげるからさぁ~? おら!! さっさと言えよ!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
響の宝玉に手をかけ、ミシミシと握りながら、さらに語気を強めて命令する敵。
もう響のコスチュームはほとんど残っていない。
残された宝玉も、敵の剛腕で引きちぎられる寸前だ。
立ち向かう勇気も、希望も、流し込まれる黒色電流によって引き裂かれ、響の心は砕ける寸前だ。
獣の断末魔のような悲鳴を上げ、泡を吹いて苦しむ響の脳裏に、こちらへ向かって手を伸ばす蒼の姿がよぎった。
(蒼……! 助……け……て……!!)
「があああああ!!」
突然、叫び声と共に電撃が止み、響は体が大きく傾くのを感じた。
「ああ……ウチ……死んじまったのか……?」と、自らの最期を覚悟した彼女の耳に、聞きなれた声が飛び込んでくる。
「佐山さん!!」
(香……子……?)
全身の圧迫感が消え、拘束から解放されたことに気づいた時には、彼女の身体は香子の腕の中にいた。
「佐山さん!! ひ……ひどい怪我……。今助けるから!」
響の宝玉にカップのようなものが押し当てられ、そこに繋がるチューブから白色の光線が注がれる。
G-プラズマコアエネルギーによる応急処置キットだ。
響の全身にひび割れのように走っていた黒いエネルギー流がその光流と相殺され、徐々に引いていく。
死相の如く変色していた彼女の肌も、健康的な褐色へと戻り、コスチュームの再生が始まる。
「香……子。何で……来た……!」
「佐山さんの悲鳴が聞こえたから……よ! 親友が苦しんでるのに……見殺しになんて出来ないから……! ……うっ!!」
「香子……!」
胸の宝玉を押さえて片膝をつく香子。
変身の維持さえ困難な今の香子に、このカオススモッグ内での戦いは厳しすぎたのだ。
だが、自分の危機を前に、死力を尽くして駆け付けてくれた香子に、響の胸は熱く高鳴った。
「ありがとう……! ありがとう香子……!」
思わず香子に抱き着き、頬を濡らす響。
香子はそんな響の頭をそっと抱き、
「ううん。私こそありがとう……。佐山さんが支えてくれたから、私はここまで辿り着けた」
と、同じく涙を流して応えた。
「あーあー!! 気っっっ色悪ぃ友情ごっこ見せやがってさー!!」
崩れ落ちた拘束子実体の下から這い出てくる敵。
響の蹴りをもノーガードで耐えていた彼女だが、香子の放った光線は、その下半身を消し飛ばし、確実なダメージを与えていた。
「クソがぁ……!! ヴルペースの身体壊しやがって……!! これが無かったら面倒だろうが!!」
「知らないわよ!! よくも私の仲間に酷いことしてくれたわね!!」
「何が仲間だ気色悪ぃ!! 二人纏めて死ね!! 死んじまえよ!!」
敵の目が再び光り、菌糸体が再び激しく発光する。
今度はロータリーのど真ん中、即ち菌床そのものから、巨大な子実体が伸び上がっていく。
子実体の網は駅とロータリーを丸ごと包み込み、二人を閉じ込める巨大な檻となった。
「危ねぇ香子!!」
子実体から放たれた電撃を、響が背中で受け止めた。
「ぐああああああ!! 負け……るかああああ!!」
分解されていく傍から、コスチュームを再生させ、香子の盾となる響。
先ほどまで死にかけていたとは思えない雄姿だ。
魔法少女の力は正の感情。
熱い愛情と友情に支えられ、彼女は再び立ち上がる。
「佐山さん!!」
「香子!! ウチが盾になってる間に……! アレを焼き尽くせ……!!」
「分かった……!! レイズイーグルユナイト!! ラクナルク・ポリアミトゥル!!」
網を突破してきたレイズイーグルを身に纏った香子が、猛烈な掃射を開始する。
辺りを包む網を消し飛ばし、乱立する子実体を次々になぎ倒し、ロータリーから突き出た最大級の子実体をも、その光線の奔流をもって焼き尽くす。
倒れていたカライン型の敵にも、その光線が襲い掛かる。
「そのまま全部焼いちまえ!!」
「ええ!! はああああああ!!」
さらに出力を上げ、ロータリーに潜むキヌガサタケカオスゼルロイドの菌糸体を破壊しにかかる香子。
レイズイーグルの内部炉心がエネルギーの減少を知らせるが、構わず掃射を続ける香子。
ふらつき始めた彼女に代わり、響が焼けた砲身を掴んで支える。
やがて、レイズイーグルに赤いランプが点灯し、エネルギーの放出が停止した。
白い綿上の菌糸体に覆われていたロータリー中心部は、赤く燃えるマグマのように融解し、ゼルロイドの姿は残っていない。
カラインに酷似したあの敵も、姿を消していた。
「やった……! 倒した……ぜ……!」
「良かっ……た……!」
力なく倒れる二人。
全エネルギーを吐き出したレイズイーグルが、力無く地面へ落下する。
『佐山さん!! 無事!?』
御崎の通信が、響の腕時計デバイスに入ってきた。
市内のカオススモッグが薄くなり、通信が回復したらしい。
「ああ……何とか敵の本体、倒したぜ。ウチと香子でな」
『笠原さん!? 大丈夫なの!?』
「はい。何とか。でも私達動けそうにないので……。迎えに来てほしいです……」
『了解したわ! すぐにバスタークロスで向かうから、二人とも安静にしててちょうだい!』
「了解。早めに頼むぜ……。今の姿はあんまり見られたくねえんでな」
『分かったわ。任せなさい! ザーーーーー 何!? ザーーーーー』
その言葉を最後に、通信が途絶えた。
まるで、カオススモッグに通信を阻害されたかのように……。
「アハハハハ……ボクをほったらかして二人で随分盛り上がってたみたいだけどさぁ……。そう簡単に君たちの思い通りにはならないんだよねぇ!!」
声のした方へ二人が振り向くと、体を完全に再生させた敵が悠然と立っていた。
「今のはマジで焦ったけどさぁ……! あんな下等生物のついでで倒されるボクじゃないんだぁ!!」
「がっ!?」
「くっ!」
敵は力なく座り込んでいた香子と響の首を掴み、ロータリーの上層を走るバイパスの上へと二人を連行する。
荒っぽく投げ捨てられ、香子と響は小さな悲鳴を上げた。
「ほら! 見てごらん! もう一本生えちゃった!! 君達頑張ってたみたいだけど、アレは本体じゃなかったんだ!!」
二人の見つめる先には、駅の裏手の大通りから再び巨大な子実体を伸ばし、周囲へ網を張り巡らせ始めた巨大なキヌガサタケカオスゼルロイド。
その大きさは、たった今二人が死力を尽くして焼き払ったものの数倍に達している。
「あ……あぁ……!!」
「ひっ……!」
絶句する響と香子。
「アハハハハハハ!! そう! そんな顔が見たかったんだよ!! ほら! もっとよく見せろよ!! なぁ!!」
響の顎を蹴り飛ばし、再び足蹴にしようと迫っていたその敵だったが、ガクッと片膝をついて姿勢を崩した。
「チクショウが……!! 体にガタが来てやがるか!」
敵はそう漏らすと、宙に黒い空間を開け、そこへ入っていく。
そこから強烈な冷気とカオススモッグが溢れ出し、香子と響は吹き飛ばされる。
「ボクの名はベヒモス。次はもう聞かないからね。ま、次があればの話だけどさぁ!! アハハハハハハ!!」
絶句する二人を残し、ベヒモスは闇の空間へと消えていった。
そして、後に残ったのは天を突かんばかりのサイズまで巨大化した子実体。
「あんなの……無理だよ……!」
香子の口から、弱々しい声が吐き出された。
既に二人は新たに作り出された網の中。
最早逃げる力も残されていない。
網の中に閉じ込められた魔法少女達、そしてAZOTの部隊へ、傘から狙いすましたような雷が走る。
響の視界の隅に、黒紅の魔法少女がその直撃を受け、一瞬にしてコスチュームが消し飛ぶ様が映った。
逃げようとする彼女の身体は網に覆われ、そこにイノシシ型のカオスゼルロイドが群がっていく。
それだけではない。
巨大なカオスゼルロイドに挑んだ魔法少女たちが、次々に吹き飛ばされていく。
無論、その技の軌跡、色、光芒で、響は犠牲者が誰か、手に取るように分かる。
「ああ……ああああああ……!!」
響は慟哭した。
迂闊さに。
無力さに。
この大惨事を前に、最早体は動かない。
絶望が彼女の心を蝕んでいく。
やがて、彼女達の周囲にも、新たな子実体が迫ってきた。
子実体に探知された二人目がけ、黒い雷が放たれた。
響は咄嗟に香子を庇うように抱きしめ、「ごめん……蒼……!」と叫んだ。
「超電磁レーザーシールド!!」
二人の眼前に迫った黒い破滅に、見慣れたV字の翼が立ちはだかった。





