第6話:モルモットの魔法少女
「くっ……!! ああっ!!」
詩織は合金製の椅子に拘束され、妖しく光るバイザーとヘッドギアを装着され、苦し気な声を上げていた。
「こんな形での聴取をする羽目になって申し訳ない。通常のヒアリングでは脳の深層に隠された情報まで読み取ることはできないんだ」
「あっ!! いぎぃ!! せんぱ……す……けて……!!」
頭をハンマーで叩き割られるような感覚に見舞われながら、詩織は蒼に助けを求める。
だが、完全に閉鎖された地下の密室とあって、その声は室内に虚しく木魂するだけだ。
(先輩のお父さん……!! どうしてこんなことを……!?)
「君たちの世界がある次元座標へのアクセスルートを探すためさ。同時に君たちの世界の魔法少女というシステムの成り立ちや、異世界の蒼が持つ力との関連性を調べている」
当然のように思考を読み取り、返事をしてくるタカセ博士AI。
「ぐっ……くぅ……!! もっと……穏便に……出来ないんですか……!?」
「本当に申し訳ない。穏便にやっていたら一日では済まないだろう。もう2~3日後にはカオス骸体がやって来てしまうのでね。一刻も早い究明が必要なんだ。少し強制的に変身してもらうよ。辛いかもしれないが、少し我慢してほしい」
「きゃああああああ!!」
激しい電撃が詩織を襲い、同時に、コンバータースーツが魔法少女コスチュームに変化する。
強制変身は自らの意志で行うそれとは全く異なり、力のコントロールが効かないため、溢れ出るプラスエネルギーの反動が詩織の華奢な肉体に降りかかる。
「ひぐっ……!! もう……無理……!! 先輩……! 助け……助けて!! 助けて―――!!」
このままでは体が弾け跳び、脳が焼き切られてしまう。
それほどの苦痛に、詩織はタカセ博士の言っていることを半分は肯定的に捉えつつも、一刻も早い解放を望み、蒼の名を叫び続けた。
「新里!!」
分厚い鋼鉄の扉が焼き切られ、蒼が飛び込んできた。
音は完全に遮断されていたが、詩織の助けを呼ぶ声は10m以上上のフロアにいた蒼の脳へ確実に届いていたのだ。
「おっと! キズナリンクのテレパシー効果が思ったより早く発動したようだね。 異世界のわが子よ! 今しばらく待ってもらえるかい?」
「これが大人しく待ってられる場合か!」
蒼はアームブレードV2を閃かせ、詩織を拘束する椅子に切りかかる。
しかし突然、その刃の輝きが失われ、手枷に「カツン」と音を立てて止まった。
そして、ブレイブウィングの全システムがダウンし、全てのユニットが蒼の背中や腕からバラバラと分離していく。
「なっ!?」
蒼はバックステップで一旦距離を取ろうとしたが、四方から伸びてきたマニュピレーターに四肢を捕縛されてしまう。
「同時処理は電力を食うのであまりやりたくなかったんだが……。この際致し方ないな……」
タカセ博士が呆れたような声を発すると、蒼の身体は手術台に押し付けられ、そのまま全身を枷で拘束されてしまった。
詩織はバイザーの隙間から、捕獲された蒼の姿を目にする。
「せ……先輩……!!」
「新里!! くっ……! タカセ博士! アンタ一体何がしたいんだ!?」
「口頭で説明すると齟齬が生じるので、後で直接脳内へデータを送ろう」
「何が……うっ!!」
脱出しようともがく蒼だが、コンバットスーツのシステムまでもダウンさせられ、パワーアシストさえ動作しない。
大の字磔にされた蒼の全身に鋭利な針が突き刺され、血液が抜かれ、体内のエネルギーを吸引され、同時に様々な色の薬剤が流し込まれる。
胸部から腹部へはメスが殺到し、見るに堪えない流血沙汰だ。
手術台から伸びた電極からは、圧の異なる電流が次々に流れ、蒼の身体が激しく痙攣し始めた。
「うぐっ……! くあああああ!!」
「せん……ぱい……!!」
詩織は動きを封じられた手首を蒼の声がする方へと向け、何とか自分のエネルギーを送り込もうとするが、変身の権限をAIに握られているために、力を全く使うことができない。
それどころか、彼女の意志とは全く無関係に、胸の宝玉からキズナリンクのエネルギーが抽出され始めた。
蒼も詩織と同じことを考えていたが、彼もまた、Xクリスタルから迸るエネルギー流を、パラボラアンテナ型のエナジードレンに吸収されてしまう。
二人はそのまま電気椅子に据えられた死刑囚のような、はたまた拷問を受ける虜囚のような姿勢で、狂気の人体実験を数時間にわたって受け続けた。
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「はっ!?」
蒼が目を覚ますと、そこは彼に割り当てられた個室のベッドの上だった。
凄まじい拷問を受けていた気がするが、体は異様に軽く、疲れは全くない。
念のため、腕時計デバイスで体のスキャンをしてみたが、麻薬の類は一切検出されなかった。
ブレイブウィングも万全の姿で壁にかかっており、デバイスを介して起動すると、何のエラーもなく動作した。
コンバットスーツにも異常はない。
「夢……? だったのか?」
蒼は時折妙な夢を見る。
それが今だったのかもしれない。
部屋に据えられたアナログ時計が指す時間は朝の7時。
悩んでいる暇も無いので、蒼は一先ず歯を磨いて朝食をとることにした。
「先輩! 先輩―――!!」
そこに大慌てで詩織が入ってきた。
昨日、自分と共に凄惨な目に遭っていた彼女もまた、疲れている様子ではない。
むしろ普段より元気なくらいである。
「先輩! 私達昨日人体実験されませんでした!?」
「あ、やっぱ新里もそう思う?」
「あ、じゃないですよ!! もしそうだったら、一刻も早くここから逃げないと! 先輩昨日横目に見えてるだけでも結構体バラバラでしたよ!?」
「しかし逃げるって言ってもな……どこに?」
「そ……そうですけど……」
昨日のことで疑心暗鬼になりながら、無言になってしまう二人。
これはタカセ博士のAIに直接聞いてみようかと、蒼が切り出したところへ、スピーカーから疑惑の張本人の声が聞こえてきた。
『昨日のことは実際に起きたことだよ』
「ほ……ほらー! 先輩! 早く逃げましょうよ! やっぱりこの子にしてあの親ありですよ!! 私達モルモットにされちゃいますよ!」
「ちょっと待てそれどういう意味だ!?」
『別に実験し尽くして殺したりはしないさ。むしろ、昨日一通りの分析は済んでいるから、もうあんなレベルの実験は不要さ。あとはせいぜい人工体外授精、培養実験くらいか……』
「絶対嫌―――!!」
詩織が悲鳴を上げると、タカセ博士は電子音でカラカラと笑った。
「大丈夫さ、もうそんなことを出来る時間もないからね」と言う。
その言葉には蒼もドン引きだ。
「とにかく! 君たちの分析の結果、君たちのいた世界の次元座標は完全に把握した。後は君たちが電気を届けてくれるだけで、生存者は助かるし、君たちも元の世界に戻れる。どうだい? 協力するしかないだろう?」
「押しつけがましいな!」
「先輩も人のことあんまり言えないですけどね……」
ただ、元の世界に戻る方法は現状それしかないし、蒼もこの世界の香子を死なせたくない。
結局、二人は腑に落ちない部分を感じながらも、改めてタカセ博士の提案に乗ったのだった。





