閑話:SST本部 AM3:00
「お疲れ様です」
SST研究室に、宮野の落ち着いた声が響く。
声をかけられた御崎は、突っ伏していた机から顔を上げ、宮野の差し出したホットコーヒーを受け取る。
「宮野くんこそお疲れ。どう? 対策会議は進んでる?」
「進んでたらこんな時間まで居ませんって……。このままですと、四国と九州に退去勧告出さないといけなくなりますよ……。人もお金も有限ですから……。御崎さんこそ、新装備の開発はいかがです?」
「なかなか進まないわ……高瀬くんが遺してくれた武器の青写真をベースに進めてるんだけど、彼の思い描いた性能には到底至らなくて……」
御崎のモニターには、蒼が描いた装備のイメージイラストが多数表示されていた。
設計図もあれば、ただの落書きまで多岐にわたる。
人はそんな落書きに価値があるのかと思うかもしれないが、AZOTの標準火器であるG-トリニティランチャーはそんな落書きの中から生まれた装備なのだ。
「まさに天才の所業よね。殴り書きかと思ったら配線系やエネルギー伝達路まで詳細に書かれてたりするんだもの……。解析だけで一苦労よ」
「彼の有難みが身に沁みますね……。戦闘面でも、開発面でも。早く見つかると良いんですが」
そう言って、自分のぶんのコーヒーをクイと飲む宮野。
その言葉に、御崎は目を伏せた。
「宮野くんは……高瀬くんと新里さんが帰ってくるって……本当に思ってる?」
「もちろんですよ」
「そう……。私は正直、帰ってこないんじゃないかって思ってるわ」
「僕もそう思ってますよ?」
「は!?」
二言の内に矛盾する宮野に、御崎は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「彼は仕事のやりすぎと睡眠不足で脳をやられてしまったのか……」とさえ考えただろう。
「僕は彼が佐山さんとの約束を反故にするような人間とは思いません。きっと帰ってくるでしょう。しかし、我々は彼一人に希望をかけて動くわけにはいきません。彼が帰ってこなくとも、SSTは日本、そして世界の安寧と、彼の理想が実現されるように動かなくてはいけないと思うんです」
「……そうね」
SSTは魔法少女部とは違う、今や対ゼルロイド防衛を担う最前線だ。
高校生一人二人のために、その活動が変化してはならない。
「どのみち我々の立場上、彼らの帰還を前提として動くことは出来ません。ですから……」
宮野は御崎の座る席の目の前に回り込むと、彼女の顔を見据えてこう続けた。
「僕たち個人としては、彼らの帰還を願いましょう。願いの力はなかなか侮れないものだとティナさんやドロシア巫女長も仰っていましたし」
「ふふっ……宮野くんもそんなスピリチュアルなこと言うのね。そうよね! 仮にも顧問が彼らの生還を諦めたら駄目よね!」
ここのところ、魔法少女の死に目に立ち会ったり、遅々として進まない新装備の開発で気が滅入っていた御崎だが、少し元気を取り戻したように見えた。
「さーて! もうひと頑張りしますか!」と、蒼の青写真のうちの一つ「MGコンバーター」の解解析作業に取り掛かった。
宮野は、そんな御崎の姿をしばらく見つめていたが、やがて残ったコーヒーを飲み干し、「僕も明日の会議書類の詰めに入りますよ! 御崎さんはちゃんと寝てくださいね?」と言って、研究室を後にした。
御崎が籠っている研究室以外にも、まだ多数の所員が残って、それぞれの役割と格闘している。
緊急対応室など、3交代で常時フル稼働状態だ。
宮野はそんな所員一人一人に声をかけ、差し入れをしたり、寝ている職員に毛布を掛けたりしつつ、自身の執務室へと戻っていく。
「頑張りましょう 彼らが帰る未来を守るために……」
誰もいない執務室で、宮野は自分に言い聞かせるように、静かに呟いた。
その後は空調の低音と、カタカタというキーボードの音だけが小さな個室に響いていた。





