第3話:滅亡世界の魔法少女
変身が解除され、ぐったりした桃色の魔法少女を二人で支えつつ、商業施設の地下を走る蒼と詩織。
後ろからは、巨大なヒトガタの怪物が群れを成してウネウネと身体を揺すってついてくる。
「くっ……振り切れない……!」
詩織が歯痒そうに呟いた。
普段の彼女をもってすれば余裕で振り切ることができただろう。
しかし、暗黒エネルギーに包まれたこの世界においては、そのフルパワーを長く使うことは出来ない。
「私を……置いて行ってください……お二人までやられてしまいます……」
二人の間で、少女が苦しげな声を上げた。
無論、蒼と詩織はそんな選択肢など持ち合わせていない。
二人は道の先を見据えて一瞬顔を見合わせると、軽く頷き合った。
蒼が少女を担ぐ腕を放し、詩織が彼女を一人で背負う。
「先輩! 後で必ず!」
「ああ! その人を頼む!」
二股に分かれた道で詩織を先に行かせ、蒼は一人、ヒトガタ達の前に立ちはだかる。
「お前らの相手は俺だ! エナジーショット!」
蒼のバトルスーツの右腕に装着された小口径の連装マルチエネルギーチャージャーから光弾が放たれる。
その破壊力はブレイブウィングのエナジーキャノンには遠く及ばない。
しかし、圧縮され、加速されたエネルギーはヒトガタの柔らかい肉体を確実に貫き、内部で炸裂。
瞬く間に先頭を走っていた個体の半身が吹き飛び、ベチャリと音を立てて地に沈んだ。
ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ! と吹き矢のような音を立てて、次々放たれるエナジーショット。
直撃を受けたヒトガタ達が折り重なるように倒れていく。
ブヨブヨと蠢く残骸を乗り越えて、尚も迫ってくるヒトガタ達。
彼らと一定の距離を取りながら、エナジーショットを連射する蒼。
蒼は既に彼らの行動パターンや攻撃を熟知していた。
行動は極めて単純で、エネルギーに引き寄せられ、それをただ食らうだけ。
まさに原初の生物的欲求にのみ従って動いているようだ。
攻撃は、軟質な肉体からは想像できないほど重厚な打撃。
取り込んでからの消化攻撃。
そして、一部の限られた個体だけが使える細い鞭状の触手を使った切断攻撃の3つだ。
前者二つは、近接しなければ決して食らうことはない。
これまで蒼の手足を2度3度と切断した厄介な鞭触手も、10mが伸ばせる限界のようだ。
弱点はプラスエネルギーで、魔法少女が展開するエネルギー場程度のエネルギー圧があれば、瞬く間に消滅する。
ゼルロイドに比べれば、遥かに弱い敵性生物と言えよう。
しかし、厄介な点が二つある。
1つはその数だ。
一度戦闘となれば10体くらいは序の口、多ければ数百体の規模で襲ってくることもあるのだ。
今、蒼を狙って追ってきている敵の数だけで、少なくとも50体はいるだろう。
ピピー!
蒼のヘッドセットに、エネミーサーチャーの警報が響く。
彼はすかさず振り返り、背後目がけてエナジーショットを連射した。
その眼前に、鞭触手の閃きが迫り、間一髪のところで消滅する。
そう、もう一つの厄介さは、その神出鬼没性だ。
巨体ながら柔らかい肉体を持つ彼らは、思いもよらない隙間から出現したりする。
普段はバトルスーツ備え付けのエネミーサーチャーで発見することができるが、乱戦中は敵の反応が入り乱れるため、発見がどうしても遅れてしまう。
今回もそのパターンで、蒼は狭い地下通路の中、敵の集団に挟撃される形となってしまった。
不意を突いて迫っていた背後の一群が、次々に鞭触手を放つ。
「レーザーシールド!」
腹部に備えられたシールドジェネレーターが発光し、シールドを展開して、その鞭を弾く。
蒼は背後から現れた新手がごく少数であることを確認すると、エナジーショットを放ちながら一気に間合いを詰め、これを殲滅。
崩れたヒトガタを踏み越えて駆け込んだ先は、丁度通路の袋小路となっていた。
追い込んだ獲物を求め、ゆっくりと迫るヒトガタの怪物たち。
その残数はざっと30体。
絶体絶命に思えたが、蒼は口元に笑みを浮かべていた。
「Xクリスタル、G-プラズマコア、ハイブリッドドライブ!」
蒼の声に呼応して、胸のXクリスタルが輝きを放ち始める。
それに連結するG-プラズマコアコンバーターが、蒼の体内に宿る複合エネルギーを、プラスエネルギーへと変換し、クリスタルへ集中させていく。
やがてXクリスタルは直視できないほどに眩く光り、プラスエネルギーが周囲の暗黒エネルギーを消滅させていく。
凄まじいエネルギーを前に、ヒトガタ達はその手を伸ばしながら、尚も蒼へ迫る。
「X-Gインパルス!! シュート!!」
蒼の胸から放たれたX字の光芒が、通路に入り込んだヒトガタ達を一瞬にして焼き払う。
闇に包まれていた地下通路に一瞬明かりが灯り、在りし日の姿を照らし出した。
蒼はその光景に少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐもと来た道を取って返し、詩織達の元へ急いだ。
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「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」
ようやく見つけた安全な場所、廃ホテルのベッドに寝かされた桃色の魔法少女、唐磯 凛 は、絞り出すようなか細い声で二人に感謝を伝える。
幸い、ホテルには備蓄水があったので、それを拝借して水分と食料を補給した。
聞けば、生存者の捜索をしていたところをヒトガタの集団に襲われ、道を見失い、そのまま一人で彷徨っていたらしい。
「ということは、もしかしてこの放送を流してる場所から来たのかい?」
蒼が腕のデバイスを操作して、ラジオ放送を流す。
「そうです。 その“タカセベース”で私たちはレジスタンスの活動をしているんです ……意味があるのかは分かりませんけどね……」
「タカセ……ベース……?」
「はい。高瀬 功博士が遺してくれた人類最後の砦です」
「うぇえ!?」
高瀬 功 その名に蒼は素っ頓狂な声を上げた。
「ちょ……! 先輩声が大きいっす! アイツら来ちゃいますよ!」
「いや、高瀬 功って……俺の父親……かも」





