第69話:終結! 大城市 対 ウボーム
「脱出だ! 早くしないと超次元ミサイルとエナジーバスターの掃射が始まる!」
「時間ちょっとオーバーしてるわよ! あのデカいのに時間取られ過ぎたわ」
「みなさんこれに乗ってください! 安全な次元へお連れします!」
他のサポートバードや、ブレイブウィングの予備パーツを無理やり合体させた、昔のホビープラモ改造例のような姿のパワードディアトリマ・カーゴに乗せられる戦巫女たち。
「私はこの次元と運命を共に致します……。最後に、貴方様にお教えしなければならないことがあります……」などと蒼に言ってきた巫女長は、蒼の催眠針で昏睡させられ、響に担ぎ込まれた。
相変わらず手段を選ばない男である。
「これで全員です! 他に誰の反応もありません!」
「よし! パワードディアトリマ・カーゴ発進!」
次元の内外を超高速で探知してきた詩織が戻ってくると、パワードディアトリマ・カーゴは軽やかに離陸し、蒼達の次元へと舵を取った。
およそ2~3時間のフライト予定である。
「あの……ありがとうございます!!」
戦巫女たちの中で、巫女長の次に年長の少女が、蒼達にぺこりと頭を下げた。
それに続き、平伏して感謝の言葉を述べる10人の少女達。
「いや! そんなに頭下げなくていいよ! 俺達の次元を心配して、ティナを送り込んでくれたんだろ? おかげで俺たちも、敵の存在と正体に気付けた」
「ははっ! ありがたき……ありがたきお言葉!!」
「なんか調子狂う……」
彼女達の言葉を借りるなら、蒼は神の後継、詩織達は天使。
聞いているだけでむず痒くなる肩書だが、香子はまんざらでもないようだ。
「蒼は神の力を秘めた世界のロード……。私はそれを守護する最後の砦……ふふっ……」などとニヤついている。
「まあ、確かに神自称する情報エネルギー生命体には何度か遭ったが……。俺がそんな大それた存在とか言ってなかったぞ」
「いや、神自称する存在に何度も会える時点でおかしいと思うぜ……」
そんな蒼と響の会話を聞いた戦巫女たちは「やはり覚醒がまだ……」「この世界はもしや囮の……」などとひそひそ話を始めた。
「あ! 超次元トンネルの出口が見えましたよ!」
ずっと前を見ていた詩織が叫ぶ。
遥か先ではあるが、トンネルの先にゆっくりと穴が開き、大城市の街がぼんやり見える。
時刻通りに、SSTがボーダーブレイカーの照射を始めたのだ。
攻撃の開始は近い。
『聞こえる!? 高瀬くん!』
御崎の声が蒼のインカムに入ってきた。
通信可能な次元距離まで近づいているらしい。
「高瀬です。全員無事で、ウボームの司令部を全滅させました。救助対象も全員保護できています」
『よかった……!! そのまま早急に帰投してちょうだい。もう攻撃秒読み段階よ』
「了解!」
「先輩!!」
蒼が御崎へ返事を返した直後、詩織が蒼の胸に飛び込んできた。
「い……いきなりどうした……!?」と、言おうとした蒼の視界に、黒い何かが映る。
「絶対に生きて帰さないわああああああ!!!」
ドロドロに溶けた、怨霊のような姿のオピスが、彼の目の前に迫っていた。
「ひぎっ!」
詩織の悲鳴が上がり、鮮血が飛ぶ。
オピスの口から放たれた黒い触手のような物体が、詩織の胸を指し貫いたのだ。
「逃がさない! 逃がさないいいい!!」
そう言い残し、超次元トンネルの壁に消えるオピス。
一堂に緊張が走った。
「新里! 新里ぉ!」
倒れた詩織に、蒼がエネルギーを流し込む。
傷は見る見るうちに修復されていくが、意識が戻らない。
『高瀬くん急いで!! 次元流が凄い勢いで逆流してるわ!』
立て続けに、インカムに飛び込んできた御崎の悲鳴のような声。
「次元流が逆流」の意味を尋ねる間も無く、蒼はものすごい力で体が引っ張られるのを感じた。
咄嗟に機体にしがみ付く蒼。
「きゃあ!」
「うおっ!? なんだ……一気に進みがノロく……!」
パワードディアトリマ・カーゴの飛行速度が大幅に下がり、ジワジワとしか前進できなくなる。
次元流の逆流……。
つまり、彼らをセルフュリア王国跡の次元へ引き戻そうとするエネルギーが働いているのだ。
それも、恐ろしいパワーで。
「大丈夫だ……! ゆっくりではあるが……進んでる! みんなしっかり掴まれ! 戦巫女はリーダーを絶対放すな!」
機首で方向制御を行っている響が叫んだ。
その言葉に、蒼はハッとして振り返る。
彼の目に映ったのは、ふわりと浮き上がる詩織……。
「新里!!」
「蒼! 新里さん!!」
「ばっ……お前ら!!」
「危ない!!」
飛び上がって詩織をキャッチした蒼。
その足にしがみ付いた香子。
そして、香子の足を響とティナが掴み、機体に足を引っかけて引き留めた。
間一髪である。
「蒼! 絶対放しちゃ駄目よ!」
「分かってる!!」
「お前ら……ウチがいなかったらどうする気だったんだ!!」
一直線に繋がり、次元の逆流に抗う魔法少女部。
ザルドに力を吸われ続けていた戦巫女たちは、自分の身体が飛ばされないようにしがみついているのがやっとだ。
次元の出口は確実に近づいている。
あと5分……いや、あと3分でも持ちこたえれば……!
誰もがそう思った時、再びあのおぞましい声が聞こえてきた。
「逃がさないわあああああ!!」
その顔は、香子の真下に出現し、再び黒い一撃を……。
「くあぁ!!」
香子の胸を、漆黒の触手が深々と貫いた。
同時に、彼女の両腕から力が抜け……。
「蒼……」
香子の目に映ったのは、次元の流れに巻き込まれ、遥か異次元へと消えていく蒼と詩織の姿。
「蒼―――!! 詩織―――!!」
咄嗟に飛び出そうとした響だったが、それは叶わなかった。
響が叫ぶと同時に、パワードディアトリマ・カーゴは超次元トンネルを脱出する。
そして、大城市へ落下を始めていたセルフュリア王国の次元の反応が急速に減退し、やがて、エネルギートンネル諸共、超次元レーダーのサイトから消滅。
『攻撃……中止です。大城市防衛作戦を……終了します』
宮野の唖然とした声が、響のインカムに聞こえていた。





