第9話:3人目の部員
「それでは!魔法少女部3人目の入部を記念して!」
「「カンパーイ!」」
「か…かんぱーい…」
放課後、おなじみの魔法少女部部室で新部員の歓迎会が開かれていた。
「いや~しかしお前が魔法少女だったなんてなぁ!」
「意外と校内にいるものなんですね!これからよろしくお願いします!」
「いや……アタシまだ入ると決めたわけじゃないんだけど……」
新たな仲間にテンションが上がりっぱなしの蒼と詩織と、一方どうにもテンションの低い香子。
奇人変人扱いされたくないがためにこの部を忌避してきたのだから当然と言えば当然だろう。
優等生として教師、生徒共に評判の高い香子が、校内一変な部活として悪い方向に有名な魔法少女部に入ったという噂が早くも拡散し、肩身が狭いことこの上ない。
今日も友人たちに何事かと心配されてしまった。一応「蒼に頼み込まれたから部活見学するだけ」と言って体裁を保ったが。
「はぁ…… で、何でアンタ私の正体分かったの?」
「何で……と言われてもな。顔見りゃ分かるだろ」
香子曰く、魔法少女のエネルギー場には魔法少女の正体を暈す効果があり、その中で顔を見られたり、写真や動画を撮られても、見る人にはそれが誰か認識出来なくなるらしい。
あれだけ街中で戦っていても魔法少女の正体がバレないのはこのためで、詩織のエネルギー場と同調している蒼もまたその恩恵を被っていたのだろう。
「クラスの連中にバレなかったのはそのおかげだったか……。プライバシー保護までしてくれるなんて気の利いたエネルギーだな」
研究ノートに書きこんでいく蒼。
「それはそうとして…。問題はアンタがどうしてその干渉を受けないのか…よ」
「それは俺に言われても分からんなぁ……」
魔法少女でもないのにエネルギー攻撃を放ったり、体を穴だらけにされても再生したりと既に常人離れした身体特性を持っている蒼だが、エネルギー場の認識干渉も無効化する特異な体質も持っているようである。
「先輩……絶対ただの人間じゃないですって……」
「そ……そうかな?」
流石に蒼も自分の体質に疑問を抱き始めたようだ。
「しかし……よくもまあ部室ここまで改造したわね。バレたら大目玉よこれ」
部室棟半地下にある倉庫が魔法少女部の部室なのだが、蒼の手で大改造され、魔法少女スキャナーカプセルやウィング格納庫、ウィング射出カタパルト等が設置されている。
壁や床も元々はコンクリートむき出しだったのだが、壁には小綺麗な壁紙が貼られ、床は床暖房付きフローリングが敷かれている。
「一応顧問の御崎先生には部が解散する時、元に戻すって説明してるから大丈夫だと思うよ。カプセルとか格納庫は壁に収納出来るから年末の部室検査もスルーできるし」
御崎先生はカプセルやカタパルトのことまで知らされていないだろう…と半ば呆れる香子。
しかし、薄汚い印象のある部室棟にあって、これだけ綺麗で過ごしやすい環境を作り上げた蒼に少なからず感心していた。
きっと魔法少女が入部してきたとき、快適に活動できるようにと蒼なりに気を使って改造したのだろう。
「これが活動報告な。この部の表向きの活動は“この街における魔法少女の活動の記録”と、“ゼルロイドが出没しやすいエリアの発見、警戒マップの制作”の二つがメインだよ」
部のPCには蒼が1年かけて記録した魔法少女の戦闘の写真や映像が地域や日時と共に納められ、学校周辺のマップにはゼルロイドの出現場所や形態、被害程度等の情報が記録されていた。
マップデータはネット上で一般公開されており、日に日にアクセス数が増加しているらしい。
「最近は見回りに行くたびにゼルロイドと戦っててあんまり更新できてないんですけどね……」
「ウィングが完成して新里のデータ取り込むまでは全然戦えなかったから、こういう情報で魔法少女や町の人らを支援してたんだけど、いざ戦えるようになったら情報更新が出来なくなっちゃって…。戦えなくても戦えても歯がゆいことはあるもんなんだなぁ~」
「アンタ……結構まともな活動してたのね……」
香子は彼が魔法少女部を立ち上げた頃に散々腐したことを少し後悔した。
「魔法少女と共に戦う」というぶっ飛んだ蒼の発言のために頭のおかしい部活扱いされてしまっているが、その活動は間違いなく魔法少女と共に街の平和を守るものであったのだ。
思えば蒼は昔から変なところは多々あったが、根は真面目で正義感の強い男だった。
例え周囲から奇異の目で見られようとも、彼なりに必死に戦っていたのだ。
あの強敵、ビネガロンゼルロイドとの戦いで半身を溶かされながら戦っていた彼の姿を思い出し、香子は胸が苦しくなるのを感じた。
蒼との腐れ縁と周囲からの評判を秤にかけ、部活見学だけしてお茶を濁そうと考えていた香子だったが、今となってはすっかり蒼に感化され、周囲の評判などどうでもいいことに思えた。
「ねえ、蒼」
「ん?」
「アタシ入るよ……魔法少女部!」
「笠原ならそう言ってくれると思ってたよ。これからよろしく!」
手を差し出す蒼。香子もまた手を差し出し、ガッチリと握手を交わした。
「それじゃあ早速!」
蒼がどこから取り出したのか、魔法少女スキャナーのスイッチを押した。
■ ■ ■ ■ ■
「う……うう……」
魔法少女スキャナーにかけられ、フラフラでカプセルから出てくる香子。
「大丈夫ですか? お茶飲みます?」
「あ……ありがと」
詩織の持ってきた緑茶をグイっと飲み、ソファに横になる香子。相当気分が悪いようだ。
「なんか今すごい複雑な気分……。あいつは?」
「高瀬先輩は笠原先輩の入部届を提出しに行きましたよ」
「はぁ……相変わらず強引な奴……」
香子は溜息をつき、詩織に目線を向ける。
「新里さんだっけ? あなたもこんな具合で入部させられたの?」
「ま……まあ似たような感じです。私はこの部に入るつもりで来ましたけど」
苦笑いを浮かべ、応える詩織と目を点にする香子。
詩織はこの部に入るためにこの高校に来たこと、魔法少女が集まる部だと勘違いして入部したことを洗いざらい香子に話し、香子は詩織に心から同情した。
小一時間が経っただろうか。香子はだいぶ回復し、ソファから身を起こして蒼のまとめた魔法少女関連の書籍をパラパラと眺めている。
「笠原先輩は高瀬先輩とどういう関係なんですか?」
香子の容態が良くなったのを見計らって、詩織が少し悪戯っぽい表情で質問を投げかける。
「んー……腐れ縁かなぁ。多分新里さんが思ってるような関係じゃないわよ」
素っ気ない返事。
「小学校2年生からアタシがこの街に引っ越してきてからずっと同じ学校、同じクラスでね。それ以上でも以下でもない感じかな」
「でも高瀬先輩は友情とかどうのこうの言ってましたよ? 何か友情エピソードとかあるんじゃないですか?」
ニヤニヤしながら距離を詰める詩織。どうやら人の友情愛情に纏わる話が好物なようだ。
「う……うーん……」
読んでいた本を閉じ、考え込む香子。
「とっ……特に無いわねぇ。小さいころからずっと仲良くしてきたくらいかな? 高校入ってからはちょっと疎遠気味だったけど」
ガクッと肩を落とす詩織。香子は「悪いけど」と笑って見せた。





