第66話:突入! セルフュリア大聖堂!
ウボーム本拠地、落下まで残り24時間。
大城市中心部、及びその周辺の住民の避難は無事に完了した。
蒼、詩織、香子、響、ティナの5人が、大城市中心街で最も高いタワーマンションの屋上でスタンバイしている。
魔法少女達はコンバータースーツを着用し、サポートバードを装着合体していた。
サポートバード達の余剰パーツは無理やり合体させ、救助用のカーゴに仕立て上げている。
蒼もまた、開発されたばかりの彼専用バトルスーツに身を包んでいた。
御崎を始めとするSST技術陣の、いくら再生能力があるとはいえ、高校生を生身で戦わせるのは忍びないという想いの結晶だ。
ブレイブウィングのシステムと連動し、様々な追加機能を発揮するらしいが、試験がされていないため、全てぶっつけ本番である。
ティナは相変わらずの戦巫女装束だが、その腕には蒼達のそれと似たデバイスが装着されている。
中には蒼のエネルギーを模した代替エネルギー「G-プラズマコア」のカートリッジが内蔵されており、これを使うことで一時的に戦闘フォームになることができるのだ。
本来ならもう少し安静にしておくべきなのだが、蒼達だけで異次元探索をする危険性や、故郷の最期を看取りたいという強い希望を受け、SST、魔法少女部は彼女の同行を認めたのだった。
「皆さん……私の為に……無茶をしていただき……申し訳ありません!」
ペタリと頭を地面につけ、土下座するティナ。
そこへ響が「あーもう!」と近づき、その肩を掴んで持ち上げ、無理やり立ち上がらせ、顔をズイと近づけて言った。
「いいかティナ! よく聞け! ウチらは仲間だ! 誰かが助けを求めたら助けるのは当たり前だろ! ウチも、香子も詩織も蒼も、お前が困ってるなら何だってする! なぁお前ら!」
響の声に同調し、笑顔で頷く3人。
「だから、謝るな。当然のことなんだから」と、響の手がティナの頬を優しく撫でる。
呆気に取られていたティナの顔が、安堵の表情に代わり、そして……決壊した。
「うぁぁーーん!! ありがとう……! ありがとうございますぅぅ!!」
抱き着いてきたティナの角に刺されまくる響。
だが、彼女の肉体はその程度ではビクともしないようだ。
ティナの頭をワシワシと摩りつつ、「そうそう! 一言感謝してくれりゃ、それで全部お互い様ってもんだ!」と笑っていた。
『あー。あー。通信テストー』
丁度その時、御崎の声がインカムに入り、一同に緊張が走った。
『みんな、準備はいい? 思い残すことはない?』
「縁起でも無いこと言うなよ!」
不謹慎すぎる洒落を言い出した御崎に、響がすかさずツッコミを入れる。
『うん。その様子なら大丈夫そうね。みんな段取りは頭に入ってる?』
「ボーダーブレイカーでこじ開けた次元の隙間に突入して、ウボームの本拠地を強襲。捕えられた人たちを3時間以内に救助して脱出ですよね?」
『OK! 新里さんが覚えてるなら大丈夫ね!』
「それどういう意味っすか!?」
この3時間というのは、蒼達の速度を元に、敵本拠地まで片道で2~3時間かかるものとして計算した上で出されたギリギリの数字である。
突入から9時間後、救助活動を終えた蒼達がこの次元へ脱出したと同時に攻撃を始め、ミサイル、ビームキャノンなどを用いて、約12時間。
それがウボーム本拠地の破壊に要する時間だ。
攻撃開始がそれよりも遅れると、「破片」が大城市に到達を始めてしまう。
「破片」と言っても、そのサイズはタワービル一棟分程度はあり、建造物、インフラをズタズタに破壊しうるので、異次元空間内で破壊し尽くす必要があるのだ。
「余裕があるように思えて、実はギリギリってわけね」
香子が緊張した面持ちで大城市を見降ろす。
幼少期から比べればすっかり様変わりしたが、彼女と蒼が共に過ごした思い出の詰まった街である。
それだけではない。
魔法少女部で買い物に行ったショッピングモールも、下校途中に立ち寄ったファミレスも、カラオケ店も……どれも大切な場所だ。
「絶対……絶対守ろう!」
彼女の言葉にもまた、魔法少女部の皆が頷き、言葉を返す。
ティナの仲間たちも、大城市も、魔法少女部の働きにかかっている。
かつてない重大な責任を背負いながら、5人はマンション屋上に敷設された簡易耐熱飛行甲板の上に並んだ。
『それじゃあ……これからボーダーブレイカーを上空へ照射するわ! 全員生きて帰ってくるのよ!!』
「「「「「了解!」」」」」
『作戦開始! ボーダーブレイカー照射!』
大城市の空目がけ、3本の白い光が放たれ、それらが交差する先に三角形の穴が展開された。
その穴目がけ、飛び立っていく5つの光。
魔法少女部の姿がこの次元から消えると同時に、ボーダーブレイカーの照射は一時停止され、9時間後に備えて待機に入った。
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「……見えた!!」
「あぁ……あれです……わたしがもと居た世界の……残骸……」
進んでいるのか、押し戻されているのか、上昇しているのか、降下しているのかも分からない、気味の悪い超次元飛行の果てにあったのは、瓦礫に塗れた城跡だった。
城壁は所々が崩落している一方で、異様なまでに綺麗な状態の箇所もある。
また、所々に民家が生え、さらに、木や草原が縦横無尽に付着している。
だまし絵か、キュビズムか、繋がるはずのない通路が繋がり合い、見えるはずのない角度の壁面が当然のように見える。
次元崩壊した世界の末路であった。
「ティナちゃん。要救助者の反応は見れるかい?」
「はっ……はい! やってみます!」
ティナの角が激しく発光する。
彼女が本来いるべき世界のためか、その光はこれまでよりもずっと強い。
「います……全員が、城の中央……大聖堂に集まっています……総勢は11人……全員戦巫女です……!」
これまでにない速さで、存在を探知するティナ。
同時に、敵の位置の捕捉も開始する。
「同じ場所に強い反応が三つ……恐らくザルドとデュー、バーザです……。デューは剣術、バーザは魔術に優れた幹部です。ザルドは……ごめんなさい……“無敵にして堂々たる武人”という噂しか私は知りません……」
「つまりみんなすごく強いってことですね!」
「罠かもしれないわ……慎重にいきましょう」
「慎重もクソも、そいつらぶっ倒さねぇとティナの仲間助けられないってことだろ! やってやろうぜ!」
「よし、サポートバードカーゴは城の外縁で一時待機。3人は突入と同時にコンバータースーツから魔法少女に変身してくれ。そのままティナの指示に従って3人の敵を攻撃する。バーザ、ザルド、デューの順で各個撃破を目指そう。ティナ、それでいいか?」
「はい! 真っ当な攻撃順だと思います」
「OK……魔法少女部……突入開始!」
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「そんな!?」
ティナが驚愕と、絶望を含めた悲鳴を上げた。
響が蹴破った大扉の先で待っていたのは、見上げる程の大男と、その体に埋め込まれた11人の戦乙女たちだった。
そして、目に見えて疲弊した老人と、ケタケタと笑う妖艶な女。
「ティナ! ザルドはどいつだ!?」
呆気に取られているティナに、響が怒鳴るように問いかけた。
「ザルド……ワレ……」
「あぁ!? うおっ!?」
ティナの返事を待たず、大男がその拳を響目がけて振り下ろした。
自分の身体よりも巨大な拳を、あっさりと避ける響。
「あぁ……あ……」
がっくりと膝をつき、震えるティナ。
「ほ……ほほほ……せ……成功のようじゃな……ほほほ……」
そんなティナの様子を嘲笑うかのように、やせ細った老人が笑う。
「どうじゃ……戦巫女は自律を保ったままザルド様の肉体と融合した……この意味が……」
「エナジーキャノン!!」
「ぐあああああああ!!」
作戦の前提が崩れたことを悟った蒼が、とりあえず隙がある奴を……とばかりに放った光線がバーザを撃ち抜き、跡形もなく消し飛ばした。
「アッハッハッハ!! 凄い凄い!! 今回の貴方は超大胆なのね!」
妖艶な女、オピスの高笑いが大聖堂に響き渡る。
その間、ザルドと名乗った大男はグラグラと揺らぎ、まともな行動を取ろうとしない。
蒼はティナの傍に駆け寄り叫んだ。
「助けるにはどうすればいい!?」





